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楠富 つかさ

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ファイル06 最安値物件も確認しよう 4月8日金曜日

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 昨日に引き続き市内の物件を確認しに外出した社長と私。最安値物件は市内西部にあるらしいが、こちらは昔ながらのアパートやマンション、民家も多く道中であの物件もうちで扱ってるとか、あの空き家が気になるとか、ちょっとした寄り道もはさみつつ、やってきたのは平屋建ての借家が何棟か並んだ広い土地だった。

「ここが土井借家。貸主の土井さんは梨農家さんで、他にもマンションとかアパートを持ってる大きな地主さんだよ。空の宮は農協に不動産部門が無いから、土井さんは自分で私ら業者に客付け依頼に来るんだぁ」
「おぉ、マメったい人ですね」
「ん? なんて? まめ?」
「あれ、マメったいって方言だったかな。まめに働くというか、真面目というか」
「まめに働くとかは聞いたことあるけど、なになにったいの部分が方言っぽいように感じたかな」

 そんな話をしつつ、建物の周囲をぐるっと回る。木造で屋根はスレートという平べったいセメント素材らしい。
 七棟ある借家のうち、三棟が空き家らしい。

「この七棟どうやって呼び分けてるんですか?」
「土井さんはアルファベットで呼んでるよ。一番北西がA棟で一番南東がH棟」

 社長にそう説明されて、私はふとAからHまでを指折り数えてみた。おかしい、そうすると八棟あるべきなのだ。

「D棟が昔火事で焼けちゃったらしいよ。まぁ、築年数も三十年近い私たちより年上の建物だからね、なにかとあったんでしょう」

 そんなことを言いつつ、社長は一番近くの玄関をさも当然かのように開けた。

「いつでも見せられるようにこのE号棟は鍵を開けっぱなしにしてるんだって。作りは他の棟と一緒だよ」

 案内されたのは間取りで言えば1Kの室内。水回りはお世辞にも新しいとは言えないが、安い物件と考えれば十分に暮らせる水準だろう。畳が日に焼けないよう新聞紙で覆われている。

「あぁ、トイレが洋式で安心しました」
「ウォシュレットではないけどね。このあたりはちゃんと土井さんが手を加えているわよ。照明だってLEDだし」

 照明とか網戸とかあと玄関の鍵とか、ちゃんと見ればきちんと新品と交換されているということが分かる。お風呂のシャワーホースも新品っぽい。

「さぁ七瀬ちゃん。ここ、いくらだと思う?」
「そうですねぇ……最安値物件って言うなら、28000円とか?」
「けっこう思い切った値段を言うね。正解は37000円だよ。まぁ土井さんなら頑張ってお願いすればその値段でも貸してくれるだろうけど」

 実際より9000円も安く見積もってしまった。とはいえ、37000円だとそこまで激安って感じでもない。お風呂とトイレが別々だからだろうか。ユニットバスだったりそもそもお風呂がないような物件ならもっと安そうだ。

「サンナナってわりと県内ではよくある価格設定で、生活保護向けって意味合いなのよね」
「……え?」

 安い物件へ意識を向けていると、社長がこの物件の値段設定の理由を説明し始めていた。
 どうやら県内の生活保護受給者へ支給される住宅補助の上限が37000円らしい。

「貸主さんの考え方は大きく分ければ二通り。生活保護受給者はトラブルになりかねないからお断りって人と、家賃が確実に入ってくるから積極的に受け入れるっていう人だね。あらかじめ言っておくと、生活保護受給者だからって断るようなオーナーとは、うち付き合いないから安心して。そういうオーナーはなにかにつけて、シングルマザーとかフリーターとか高齢者とか、嫌がって貸そうとしない面倒なオーナーだし。ただ、実際にケースワーカーさんや本人と面談して懸念のあるような人はちゃんとお断りするけどさ」

 社会的に弱い立場の人にもきちんと住処を提供するのが不動産屋さんの使命なんだよと話す社長はかっこよかった。それと同時に、不動産屋さんは借りたい人と貸したい人の中立でいなければならないっていう責任についても教わった。

「借りたい人の方が基本的に立場が弱いんだけど、だからこそオーナーさんは簡単に追い出せない。追い出す必要が全くない人をちゃんと仲介するのがうちの仕事なんだよね。さぁ、まだまだ頑張ろうね!!」

 まだまだ知らないことがいっぱいだけど、頑張るぞ!! おー!!
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