憧れの世界でもう一度

五味

文字の大きさ
上 下
1,080 / 1,214
32章 闘技大会を控えて

使命では無く

しおりを挟む
「ただ、問題はあるのよね」

何やら、トモエから心地よい感情を感じるなと、そんな事をオユキのほうでも考えながら、アルノーが用意していたらしいフルーツグラタンに舌鼓を打っていれば異空と流離が、改めてそんな言葉を漏らす。

「問題、ですか。いえ、確かに私にも分かりやすい物はありますが」

敷き詰められた果物、その中にはしっかりと柘榴であったりも入れられているため、初めから冬と眠りを呼ぶつもりがあるのだと、それを伝えていた成果なのだろう。他にも、蜜柑であったり冬を感じさせる果物を主体として、秋に実をつけるものまでもふんだんに使っているグラタン。生地というよりも、ソースだろうか。先に出されたベシャメルソースで仕上げた物とはまたはっきりと違う、カスタードベースのソースに加えて果物単体での糖度が不足だと考えたからだろう。表面には、蜂蜜がたらされて器の中で模様を作り。さらに、上から振った砂糖を魔術だろうか、それとも必要な道具として魔道具を作ったのか、綺麗な焦げ目のつけられたものをオユキたちの側に運んできた侍女が、一度全体像として見せた上で個別に取り分けている。
ココット皿でもあれば、そんな事をオユキとしても考えるのだが、確かに、個別に用意しようと思えば中に入れる果実や木の実の種類にも制限がかかるからまた難しいのだろうなとそんなことも考えながら。

「そう、なのよね。貴女も理解しているようだけれど、私の力を主体として使うものだから」
「それは、妾たちの里に炎熱の鳥、その祖たる力を置かねばと言う事じゃろう。無論、妾とてそれを理解したうえで承諾したつもりなのじゃが」
「あなたが思うよりも、ちょっとしたことなのよ」
「今度ばかりは、私と雷と輝きも力を貸すわよ。少しでも、あなたの力の余波を抑えるために。それでも、どういえばいいのかしら。氷の乙女の里側から開こうと思えばかなりの負荷にはなるけれど。それについては、貴女達の側から開いた時に、暫く維持をすればいいだけでもあるもの」

何やら、オユキとしては聞き捨てならぬと言えばいいのだろうか。そうした内容が話されているというよりも、既定路線とされている物だが。

「開け放すだけでも、かなりの負荷がかかるわよ。確かに、その程度は支払ってもらわなければ私を下に見てというものたちが増えるだろうから、わざとという側面もあるのだけれど、ただ、ねぇ」
「そこは、新しい門を作ればいいでしょう。私も力を加えるわよ、今度ばかりは」
「あなたの力を借りるのも、私にとっては難しい、いえ、それもあって雷と輝きもあなたは巻き込むつもりなのでしょうけれど、はっきりと言うけれど、その男に関しても私との相性はとてつもなく悪いのよ」

冬と眠りが、何やら信頼しきったと分かる相手に向ける視線、それに対して異空と流離が向ける視線というのははたから見ても苦々し気だ。それもそのはず。オユキがトモエから聞いた話では、そもそもこの異空と流離の元となっている柱というのは、ほとんど同じ属性を持つ、類似の由来を持つ相手に対して容赦なく牙をむいた逸話とて残っているのだ。是非とも、そうした性質は納めてほしいなどと、トモエの視線を、トモエの熱を感じながらも何とはなしに己の舌が喜ぶ果物を選んでいるのだなとそんな客観的な評価をカスタードソースの中から、幾つか分けて拾い上げようとする特に意識していなかった行動を感じて、評価をしながら。

「幼子よ、妾としても流石に行儀が悪いと思うぞ」
「申し訳ありません、少々他に気を取られていましたので」

そして、そんなオユキの行動は種族の、一部とはいえただセツナが認める程度には濃い種族の年長としての言葉によって、改めて意識して留めながら。

「幼子らしいとでも言えば良いのか、己の好みに少々正直すぎる」
「いえ、こう、常の事であれば抑えも効くのですが」
「この場が常ではない、その程度の理解はあるようで何よりではあるのじゃが、まぁ、その方の伴侶がしっかりと見ておる。今回示した好悪に関しても、これからの食事に生かすには違いあるまいが、妾としても少々その方の思い違いを正しておかねばならぬとは考えておる」

そう、セツナがため息を一つ。
冬と眠り、雷と輝き、異空と流離、さらには知識と魔については、フスカも交えて既にオユキの耳には全く届きはしない会話を、オユキの願いでもある、氷の乙女の里とマリーア公爵領を繋ぐための門を如何にするかを話し始めている。正直な所、オユキとしては是非ともこのような席ではなくとも考えるのだが、このような席でなければ冬と眠りと異空と流離が一堂に会するはずも無いと理解もできる。

「妾の様に純血の氷の乙女であればまだしも、幼子の様に他が混じっておれば苦手意識を覚えるものにしても多少は口にしなければ、体が弱る。健やかな成長など、やはり望めぬ」

言われたオユキとしては、知っていることというよりも確かな実感のある事でもあるため、頷きは返して見せる。ただ、オユキが思うよりもしっかりとショックを受けたようで、口に運ぼうと救った匙はしっかりと止まるのだが。そして、その様子を当然セツナとトモエは見逃しなどはしない。オユキのほうでも、トモエに伝えたくないなどと考えたこともあるのだろう。何やら、トモエからの視線が一段と厳しさを増して、そして少し納得したばかりに頷きなどを作られている。
オユキとしては、甚だ不思議な事ではあるのだが、オユキの思考とでもいえばいいのだろうか。そうした物は、どうやらトモエに伝わっているらしいのだ。だが、トモエからは特にそれが行われることが無い。理由については、漠然とというよりもはっきりと想像がつくものではあるのだが、それでも少々の不満位は覚えるというものだ。互いに互いを。常々そう考えてもいるのだが、オユキとしてはこの世界における優位性とでもいえばいいのだろうか。
過去については、今も己が頼みとしている技術に関してはやはりトモエに手を引かれる立場なのだ。それ以外の部分に関しては、こちらで圧倒的に優位な立場を作れる技術である、トモエが皆伝を持つそれ以外の部分ではと、そんな不満をどうしたところで覚えてしまう。そうした、オユキの小さな自尊心とでもいえばいいのだろうか。そういった物を慮って、トモエは基本的に己の技以外を使わないのだろうと、それが分かるからこそ己のふがいなさにも目が行くというものだ。

「言葉を選ばぬことには、妾としても罪悪を覚えるのじゃがな、幼子よ、そなたの望みを、あの炎熱の気配を僅かに湛える者と共にというのであれば、流石にそのあたりは自覚する必要があるのじゃよ」
「ええと、セツナ様は」
「生憎と、素性の全てが分かるとは言えぬが、その方よりも今この場にいる者たち、神々を除けば多少はとそれくらいの自負はある」

それほどに、長く生きておるからなと、不安げにするオユキを慰めるために、そうした言葉を並べる。オユキとしては、ここまでの間、かつての世界においてもいつからか。年長として振る舞う事が多く、そして慣れもあるために気恥ずかしさも覚えるのだが。それでも、こちらの世界に来てからというもの、己よりはるかに長い時を生きた者たちがいるのだということくらいはとうに理解が及んでいる。

「その、そうした行為については改めて感謝を覚えはするのですが」
「うむ。存分にそれを示すがよかろう」
「それよりも、気になる事とでもいえばいいのでしょうか」

恐らく、それ以上の感覚として。

「セツナ様の認識とでもいえばいいのでしょうか。私たちにとっては、かつてのこの世界というのは」
「ふむ。舞台として一部が貸し出されていた時代の話か。その頃は、妾達のような一部を除けば、薄い物が、というよりも神々も含めて舞台装置といった側面が強く出ていたの、確かに。生憎と、妾たちの元へとたどり着ける者たちはおらなんだが、それがあればもう少し理解も進んだであろうな」

そして、セツナのその言葉が契機であったのだろう。

「氷の乙女の長よ、それはまだ伝えてはならぬ。異邦の者たちは、未だにその先に足を進めるに足らぬ」
「良いのではないかしら。もう、私たちの世界は独自となるとそれは決まったのでしょう」
「法と裁きがいる。あの者は、裏層に根を下ろし創造神と拮抗するほどの力を持っている。万が一というのは、十分に起こりうるのだ。いや、我の言葉にしても、問題があるな。不要な情報を与えれば、不用意に情報を与えれば、そこの異邦人は背景を知るが故に推測を、推論をあまりに募らせる」

敵意ともまた違うのだろう、あまりにも明確に邪魔だと、いらぬことを話すなとそうした視線が先ほどまで話し込んでいたはずの相手から。これまでは、気が付いた時に、そもそも人などとは比べ物にならぬほどに処理能力を持った相手だ。これまでは、ここまではっきりと致命的な情報が、オユキに齎される前に止めていたのだ。万が一、それが起こった時には、時間を奪っていたのだ。

「今度は、その余裕も無い。いえ、制限が緩んだからと、付け入る隙があると言う事ですか」
「貴女が、ここまでに積み上げた物でもあるもの。夜毎という程ではないけれど、向き合ってきた結果でもあるわ」

オユキが、トモエが稀に戦と武技に夢の中で向かい合っているように、散々に神々と、それに与えられた試練に対して向かい合ってきた結果の結実として。なんとなれば、何処か、知識と魔に対してはっきりとお前の決め事に、知識を、その伝達に制限をかける事に、既に無用な決まり事には辟易としているのだと言わんばかりの視線を向ける、異空と流離、冬と眠り、雷と輝きそして今は隔てられている、人にはそう感じられる先にいる神々にしても。この場に降りてきた中で、法と裁き、知識と魔が定めた決まりごとについて良しとしない神々が今この場にはいるのだ。集まっているのだ。見知った中で、一応は納得しているのは月と安息だけ。それと、創造神も僅かに。だからこそ、この場にはその二柱がおりていない。空には輝く月があり、壁の中、安息の守りの内にあるのだから、かの柱が降りられないはずも無いというのに。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

最推しの義兄を愛でるため、長生きします!

BL / 連載中 24h.ポイント:28,996pt お気に入り:13,178

男は歪んだ計画のままに可愛がられる

BL / 完結 24h.ポイント:213pt お気に入り:11

雪の王と雪の男

BL / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:20

文化祭

青春 / 完結 24h.ポイント:340pt お気に入り:1

二番煎じな俺を殴りたいんだが、手を貸してくれ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:404pt お気に入り:0

処理中です...