憧れの世界でもう一度

五味

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32章 闘技大会を控えて

願いの形

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トモエは、オユキの姿を今の姿としてしまった事に、確かに責任は感じている。だから、最低限とでもいえる部分について、それ以上の物をなるべく譲ろうと位には考えている。オユキが、トモエのわがままを望むように、トモエも望んでもいるのだから。だからこそ、オユキが最も大事たと考えていること、それに他の邪魔が入る事をやはり許せはしない。
オユキにしても、それこそ今回のトモエの決断、今後に向けた決断についても勿論理解はしている。はっきりと口にしたのは、一度だけだが、だからこそそこに向けてと今もオユキは腐心している。オユキが、年少者との戦いに価値を見出さないのは、目的として置いているのがトモエだけだから。トモエ以下の相手とどれだけ研鑽を積んでみたところで、勿論少しは足しになるのだが、それ以上にはならないとはっきりと判断を下しているから。
騎士達を相手に、騎士を相手に気を付けなければいけない部分、それがトモエと向かい合うときにまで己を削るのだと理解しているからこそ不満は口にしても対策は取らない。トモエが、選択をしろと暗に突き付けているのがオユキにはやはり分かっているから。年齢について、少々想定外の場面で気が付かされることになったのは事実だが、それが無かったとしてもトモエからオユキに伝えていたには違いない。

「無粋な話とはなりましたが、改めて」

改めて、何を話すのかといえば、トモエから出てくるのは差し当ってのオユキの目的なのだが、どうやら既に籍が分けられているらしい。確かに、トモエにしてもオユキに聞かせたい類の話であったかと言われれば、聞かれても構うまいくらいの気分であったのは事実。だが、それよりも、この席に並べられている食事に対してはっきりと苦手意識以上に不快感を覚える者たちで別に集まってと言う事らしい。トモエたちの下にはあくまで僅かに口を整えてと、少しの量が運ばれている物を主体とする者たち、その中でもオユキにきちんと量を食べる様にと改めて視線で伝えて置いて。

「改めて、何を話すのでしたか」

だが、トモエが俎上に載せようと考えていたことについては、オユキのほうで、声が届かないそこで異空と流離までも含めて話が進んでいる様子。では、こちらでこうしている者たちの間で何を話した物かと考えて、特に思いつかないのだと首をかしげて見せる。それこそ、食事に対する品評であったりを行っても良いのかもしれないのだが、それを行うためにはアルノーをはじめ、この食事を用意した者たちを呼んでとなるだろう。そんな事を考えて、首をかしげて見せたからだろうか。既に修めた殺意から、未だに脱却できない者たちでは無く、神の後ろに控えて給仕の役を全うする少女たちのほうから何やらそれはどうなのかと言いたげな視線を感じもするのだが。

「相も変わらず、話が通じるように見えるのが厄介なのよね、あなたの選ぶ者たちというのは」
「無論、会話には応じるが」
「価値観が違うんだもの。根底にあるのが、結局のところどちらがより強いか、そればかりじゃない」
「我にしても、そればかりではと思う心もあるのだがな」

信徒というよりも、これまでにあったのは教会での勤めを良しとする者たちばかりであったために、少々精神性とでもいえばいいのか、そうした物ははっきりと異なっているという自覚はトモエにもある。

「その、以前から気になっていたのですが」
「我が信徒たちのありようか。他もそうなのだが、仕える者たち、教会に必要な者達と我らがそれぞれに殊更気に入るものというのもまた異なっていてな」
「そう、ね。だからこそ、私たちにしても巫女という別の位をはじめとして、別に呼ぶべき者たちを抱えているもの。それこそ、花売りであったり、伝道者であったり。あとは、あなたが望みそうな相手でいえばリング・ボーイやフラワー・ガールになるけれど、そちらはこの子たちに頼むつもりもあるのでしょう」

華と恋の神。オユキが、この神から婚姻については手を借りられればと、トモエが少しでも喜べばとオユキが一応はトモエに隠して進めていること。既に、トモエは当然のごとく気が付いているのだが、それでも知らないふりくらいは続けている物だ。

「あの、くれぐれも」
「聞こえないようになっているわよ。あちらの声も聞こえないでしょう。匂いを、それだけになると私達だと難しいんだもの。見える様になっている、そうかもしれないけれど界を隔ててもいるから、気にすることも無いわよ」
「それは、有難い配慮とは思いますが」

さて、聞こえぬとは言われている物の、トモエのほうではオユキの言葉というのが、何やら手に取るようにわかるというものだ。そのあたりは、恐らくでは無く創造神に与えられた功績による物には違いないのだろう。トモエが興味を持ち、オユキにしてもトモエに知らせたいなどと考えていることが、どうにも知識として不思議と伝わっても来るのだから。まさか、とは考えていたのだが、どうやらオユキの話していたようにこの世界におけるオユキの知識というのも、色々と不足が多いどころではないらしい。
トモエにしても、常々疑問は感じていたのだ。オユキが語るこの国の、かつてのこの国の歴史と今があまりにも齟齬が多いのだと。さらには、アルゼオ公爵、貴族としては最高位にあるその人物の言葉ですら、トモエとオユキにはそれぞれ異なって聞こえていたのだ。
さらには、今度のことが、トモエが改めて初代マリーア公爵の姿を確認して、知識が増えたときにはじめて正しい由来と言うものが理解できたこともある。先代アルゼオ公爵が、オユキには初代のマリーア公爵は数代前の王妹であったと語ったらしい。だが、それについてはオユキも心底不思議な事だと考えていた。マリーア公爵、現マリーア公爵が第八代と名乗ったのだ。この世界の人の、少なくともそう見える相手の年齢を考えたときに、寧ろそれよりも長い物がほとんどだと考えたときに、計算が合わない。トモエに聞こえたのは、もっと前。そこから枝分かれした家だとそうとしか聞こえなかった。だが、実態はどうかと言えばゲームであったはずの時代、その頃には王城にいたのだとそういう話。さらには、その頃のオユキ、トモエの姿であったかつてのオユキを見たとそう語ったほどの人物だ。

「あなたの考えていることは分かるけれど、既に、知っているでしょうし、話もしたでしょう」
「制限がと、そういう話ですか。ですが、そのあたりは、私よりも」
「あの子にはなしてしまえば、また思い悩むわよ」
「私が聞いて、そこで考えることがあればやはりオユキさんは気が付いてしまいますから」

トモエとしては、正直そういった背景に関してはそこまで興味を持っているわけではない。歴史として、紡がれてきた物語としての流れに興味はある。だが、トモエとしてはオユキに対して過剰に負担をかけてしまうそうした物に、この世界の歴史というものに、やはり興味は無いのだ。はっきりと、嫌悪しているとすら言ってもいい。
そして、その事実が、己が流れの中にいるものだから、歴史を、伝統を誇らなければならない立場だからと、トモエを苛んで。そして、その事実が、またオユキを沈ませて。何処か、出口をと求めはするのだが、それは未だに三年は先に。オユキがそれを望まない、つまりは現状のままで進んでしまえば、結果が互いに望まぬと分かっている物に行き着いてしまう。だからこそ、トモエはその時までにと考えるのだ。
勿論、こちらの世界で改めてとトモエは望んでいるのは事実ではあるのだが。

「あなたも、あの子も。互いに互いを想うからこそ、大変ね」
「かつてはそうしたことも失われて久しい物ですから、今となっては、喜ばしくもあるので」

だが、そうした事柄、互いの間に生まれる互いにとっての大事、それはやはり嬉しい物なのだ。
葛藤がある、軽くはない選択が、重たすぎる選択がそこに存在している。選んで、行動を起こすためには、天秤の反対側に乗っている物にとにかく目が行ってしまう。
それでもと、互いにそれでも己の伴侶をとするのだから、嬉しい事には違いない。

「さて、私の見込んでいる子、貴女はここまでの決意を、想いを持つ相手に対してそれに見合うだけのものがあるのでしょう。ただ、それを通そうというのならば、この子たちは戦と武技だもの。残念だけれど、言葉ではどれだけを示したところで、遠いわよ」

そして、少しトモエの相談にも似た、常々頭の片隅に存在している悩みとでもいえばいいのだろう。それに対して、こうした場なのだからと、並ぶ肉を主体とした料理に手を付けながら、それでも何かの作用を行って。その無粋に対してと言う事でも無いのだろうが、門を神殿まで、この恋と華の神殿を持つ国にまで運べたのならば、間違いなく便宜を図るだろうとそう分かる流れは作った上で、カリンに向けて。

「それは、オユキからも散々に示されていますから」
「そうね。貴女はあの子を超えて、それでこの子にとしなければならないものね」

あちらを立てれば、こちらが立たず。そこには、本当に困った問題がある。

「老師にと望むのならば、オユキにとってはオユキを越えなければ。ですが、老師としては」

カリンが本当に手詰まりだと言わんばかりに、ため息を。

「その、オユキさんもあれでなかなか我が強い人ではありますが、尋常にと望んで、そこできちんと結果を得たときには」
「その結果を、オユキがどう考えているか、分からないはずも無いでしょう。流石に、私も嫌だもの」
「あの、仮にその程度で気後れをするというのならば、オユキさんはやはりその程度と見ますよ」

カリンがトモエに向けているらしき感情というのに、当然トモエも気が付いている。生前は同じ性別であった以上、告げられる前に断るのも流石にと考えて口にはしないのだが、答えはやはり決まっている。だが、カリンとしても分かり切った結果だとは言え、それでもと思うからこそ。
言ってしまえば、それこそがカリンの抱える未練なのだ。
かつての舞台で、何処までもかつてのオユキを探していた。そんな事を続けていれば、それもすげなくあしらわれてというのであればまだしも、気が付けば話に聞くだけになり等と言う日々を過ごせば。それは、まぁ、想いも煮詰まろうというものだ。
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