憧れの世界でもう一度

五味

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31章 祭りの後は

懐かしく

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オユキの入浴が終われば、後の事は一度ナザレアに預けた上でトモエはトモエで用意の為にと動く。客人がいるのはいる。だが、なにもそちらにばかり気を使わなくてもいいだろうといった考えもあるし、何より今日の昼食にしてもどうにもといった様子ではあったのだ。アルノーの腕を疑われたわけではない。実際に、多種多様な皿が並んだことを喜んでいた。そこに興味を惹かれて、今後の取引も考えている様子ではあった。だが、集落と、部族という話では合った。そうした生活を営むのだとしたら、食事というのはやはりそれなりの人数で囲んでなのではないかと。そこまで気取ったものでなくても良いのではないかと考えて。言ってしまえば、アルノーの思う旧い家庭の味とでもいえばいいのだろうか。そのあたりを頼むこととなった。
もとより、フランス料理等と言うものの、有名な物はイタリアからの流れを汲む物であるし、小分けにして並べるコースの組み立てはもとよりあったとはいえ、よく知られている物はロシアからの逆輸入。ならば、かつて領都でよく行っていたように、皆で食卓で取り分ける、そういった形でも良いだろうと。
何やら、オユキは勘違いをしていたのだが、今日買いに行った服を、早速着て戻ってくると考えている。だが、少年たちが買い求めたときには、流石に直しなどをそこまで急ぐ事は無い。今の体にぴったりと合わせて、それをエステールも考えるだろうが、それを行ったときにはすぐに使えなくなるという問題も出てくる。これがオユキであればまだいいのだが、少年たちではそれも流石に嫌がるだろうからと考えて。オユキは、本人は心底嫌がっているのだが、なかなか背も伸びない。手足も、極僅かに伸びる程度。今後の事を考えてゆとりを作るにしても、今はそのゆとりですらごく一部を使っているだけであり、今後もまだまだ手直しが出来るように作ってある。少年たち様にとする場合は、ここまでの間に伸びた背丈、これから伸びるだろう背丈。そこまでを考えて、きちんとゆとりをもって作らなければならないのだから。

「皆さんは、買った物をその場でと言う事は無かったのですね」

そして、諸々の手配を終えて、改めてオユキと少しのんびりと過ごした後には、戻ってきた少年たちと共に客間の一室を用いて食事の時間となる。既に食卓には前菜と分かるキッシュにルガイユとピロンが並んでいる。侍女たちからは、やることが無いとそういった視線が送られているのだが、飲み物の用意位は流石に任せた上で、今はせっせとアナとアドリアーナがそれぞれに取り分けている。キッシュにしても、一皿はきちんと冷ましたうえで、それでも美味しい物を間違いなく。短い時間ではあった、かなりトモエが無理を言った。僅か数時間で、よくもまぁ。そんな感想はどうしたところで浮かぶのだが、アルノーに言わせれば用意していたものの一部を買えただけだとそうなるのだろうが。

「えっと、私たちもこれからも少し体型変わりそうだから、色々と直すにしても少し詰めたりつまんだりが増えるからって」
「ついてきた、エステールさんから、色々と助言をもらってせめて来年までは着られる様にするには、まだしばらくかかるんだって」

そうは言いながらも、少女たちのほうはそれぞれに新しい装飾が増えている。トモエが助言をした結果とでもいえばいいのだろうか。シグルドとパウにが、どうにかこうにかエステールにあれこれと言われながらもきちんと選んだのだろう。贈られたときに、多少の文句は言ってそうなものだが、トモエの眼から見てもそこまでにあっているようにも見えないのだが、それぞれがきちんと目立つ位置につけているのだから、嬉しい事には違いないのだ。少女たちのほうではまだ自覚も薄いだろうが、装飾や服飾と言った物は、私は貴女をそう見ています。私の目に映る貴女は、これが似合うとそう考えていますと、それを直接的に表現する品なのだ。少女たちにしても、改めて己がこう見えていたのかと、こんな装飾が似合うように見えていたのかと感じ入ることもあっただろう。だが、一緒に行動している時にどういった話があったかまでは想像でしかないのだが、これまでに比べても一際笑顔が明るい事から色々と察する物もある。オユキのほうは、何やら機嫌が良いなと、それくらいにしか思っていないし増えた装飾品、かなり目立つ物なのだが、気が付いてもいないだろう。気が付けば、一応褒めるくらいはするはずなのだ。かなり目立つというのに、褒めてもらおうと考えてかは分からないが、少女たちのほうで目立つようにしているというのに。

「ふむ。気を遣わせたかの」
「いえ、この子たちも一緒であれば、やはりこうした形のほうが慣れていますから」

どちらかと言えば、オユキの意識はセツナとクレドに向いていることもある。それを、まぁ、言い訳に使える状況ではあるからとトモエは見逃しているのだが、それこそ食後の時間。二人で過ごす時間では、きちんと言い含めておこうと考えて。

「それにしても、実に手が込んで居るの」
「セツナ様のほうでは、料理というとどのような物が」
「その方の良き人が気が付いたようではあるのだが、別れて集まることが多いのじゃよ。ああ、種族ごとで別れることもあれば、妾と良人に連なる形で集まったりと、それぞれではあるがの」

からからと笑いながら。そして、せっせと取り分ける様子を実に楽し気に眺めながら。

「こちらでは無い様子ではあるのじゃが、妾たちとて火を囲む習慣があっての」
「ああ、囲炉裏のようなものですか。ですが、聞いている話では炭の用意も難しそうですが」
「ほう。詳しいの。何、周囲に峻厳な霊山があると話したじゃろう。そこから、クレドたちが定期的に運んでくるのでな。それらを妾たちが炭に変えるのよ」
「炭焼きには、かなり、その」

オユキの認識では、炭焼きなどというのは火を使うしごとの筆頭。それを、オユキを幼子と評して室内を平然と氷と雪で染め上げる相手が行えるとはとても思えない。

「何、そのあたりは男衆の仕事じゃ」
「ああ。狩と、木材の伐採、交易。集落の外に出るのが、俺たちだ」
「そういった役割分担ですか。その、男衆とのことですが」
「ふむ。集落という意味では、妾たちが最も数は多いのじゃがの」

そして、そこからは少しセツナ達の暮らす集落の様子が語られる。そこで暮らす者たちはやはり数が少なく、種族も限られている。人、純粋な人という意味では、いよいよいつぞやに紛れ込んできた者たちがいるくらい。基本は人狼種に妖狐と呼ばれる種族。氷の乙女に氷精達に雪精達。さらには花精と木精が暮らしているとそんな話がされる。

「その、氷精と雪精は異なる存在なのですか」
「うむ。最も幼い時分には後者であり、長じれば前者になるのだが、やはりその間には種としての違いもある」
「ええと、セツナ様に整えて頂いた部屋の中に」
「妾たち氷の乙女は、氷精を生む。その場の環境を、妾の過ごしやすいようにと整えれば、それに応じて生まれ落ちるのじゃ。無論、実際に生んでいると言う訳では無く、既に存在している者たちが妾の振るった力を糧にして姿を改めて物質として作っておるだけではあるのじゃがの」

言われた言葉に、一先ずオユキは理解を諦めてすべてそう言うものなのだと納得しておく。この辺りは、流石に夕食の席で、それも何やら色々と話したい事上がると言わんばかりの子供たちを同席させてまで行うような物でも無い。セツナにしても、クレドにしても。イリアという身近な例を考えても分かり易いのだが、少年たちに向ける視線というのがやはりどこまでも柔らかい。
そして、オユキという名前の由来となった逸話を思い出せば、確かにこのセツナという間違いなくその伝承を強く受けているだろう相手は、子供好きであるには違いない。クレドが難色を示したものだが、シグルドがばーさんと呼ぶことに対しても、まさにそう呼ばれるだけの年を優に生きているからと実に鷹揚に。

「それにしても、料理人には気を使わせているらしいの」
「その、火の気配と言いますか」
「ふむ。その方は、そうか。その方の良人もおるせいか自覚も薄かろう」

そして、セツナが言うには、凡そ火を通した食事というのは氷の乙女という種族にとっては消化の為にかなりの力を使わなければいけない物なのだと。言ってしまえば、ただ人にとって油をそのまま飲むような、砂糖や蜜をそのまま直接飲むような行為であるらしい。少量であれば問題が無いし、程よい刺激と言えるものではあるのだが、やはり度が過ぎれば毒にしかならない。さらには、許容量というのが非常に少ないのだと。

「その、火の気配というのは」
「ふむ。見て分からぬと言う事か。こうして一度きちんと覚まして、逃がしてしまえばかなり薄れる。それでも残るのじゃがな」

そして、いくつかを示して。

「素材そのものが持っていることもある故、そのあたりは、さて、どうした物か」

今この場にある物で、それこそ素材単位で燻製肉であったり、サラダとして使われている野菜の一つであったり。そうした物を順にセツナが示していくのだが、これですべてではないし、彼女にしても見覚えの無い物も多いのだろう。

「セツナ様、そのあたりは改めて後ほどご教示いただいても」
「トモエさん」
「ふむ。まぁ、その方が望むなら良かろう。というよりも、その方にしてもそこな幼子が見える様になれば、理解ができるかとは思うのじゃが」

そこで一度言葉を切って、セツナが視線をクレドに向ける。しかし、クレドは実にあっさりと首を振る。

「お前が言う程、詳しくは分からん」
「おや、そうかえ」
「ああ。そもそも、俺が理解しているのは匂いによるものだ。視覚ばかりと言う訳では無い」

クレドの答えに、セツナが実に意外とばかりに数度瞬きをして、困ったものだと言わんばかりに唸り声をあげる。

「オユキちゃん、単純な好き嫌いじゃなかったんだ」
「その、何度も申し上げたと思うのですが、食べようとはしていたんですよ」

そして、これまで度々オユキの食事に問題があると言わんばかりの視線を送っていたアナが、種族の問題なら仕方がなかったのかとばかりに頷いて。
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