憧れの世界でもう一度

五味

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30章 豊穣祭

後夜祭という名の

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「その、気を付けてというのも杞憂なのでしょうが、家畜を得る、それが目的ですから普段と勝手の違う事もあるでしょう」

結局、昨日トモエとオユキは神殿から戻る事は叶わなかった。夏も近づくというよりも、春が終わり、夏の気配が近づいている中とはいえ、水中で長く活動したこともある。何より、騎士たちの興が乗ったのか、民たちからの視線に応えるためにと張り切ったせいか。随分と守護と軍略が長いをすることになったため、祭りに関してもしっかりと遅れが生まれ。陽が沈むよりも早く戻れると、祭りとしての式が全て終わると聞いていたのが、一体何のことだと言わんばかりに。そして、オユキが振った話の結果として、王家と公爵家が今度の祭りを後夜祭をどうするべきかと散々に話し合って。それこそ、まさに夜通しで話がなされたうえで、今朝方に通達を行うという本当に頭が痛くなるような流れを熟して。
今は、騎士たちに訓示を等と言われて、オユキが背に戦と武技、虚飾と絢爛を置いて本当にどうにか下書きが出来ましたと言わんばかりの文面を読み終えて、己の言葉として。

「さらには、通達の形もあり、参加を求める者たちもこうして参集しています。昨日の守護と軍略の神より言われた言葉、それを改めて己の胸に、盾に。そうであることを願います」

まさに虚飾と絢爛という名にふさわしく。オユキの語る言葉にしても、所詮はお題目。既に内々に決まっていることとして、この場を用意した王家に、使われる王都に対して一部は納めなければならないとそれは決まっている。しかし、それ以外に関してはそれぞれの騎士たちの出身の家が得られるのだとそうした話になっている。
家畜と言うのは、古来より変わらぬ財産だ。それが、この祭りの間では得られる可能性が上がる、それを望まぬものが居るはずもない。羊毛は、織物に、毛糸に。言ってしまえば、衣服に。取れる乳はこの国の、各領の特産と呼んでもいいチーズに変えるもよし他に使うのもいい品になる。老いて死んだ家畜、もしくは折々に肉として潰すのも可能でもある。狩猟に頼らずとも、得られる肉としても重用される。肉以外の部分は、それこそ余すことなく使おうと思えば使えるのだ。いや、活用法を考えた結果と言っても良いのか。
要は、財を得ようと考えるその心を、思考を隠すことで虚飾とし。財を得る事を求めるその心を絢爛を求めるのだとして。為政者のというよりも、集団の長に求められるものというのはまさに斯く有るべし等とオユキとしては思う、というよりも散々にミズキリに言われて身につけたことでもある。そうした裏側を知る者たちも、当然この場に多い。それこそ、万が一少量しか得られなかったときに税として徴収されて終わることを避けたいと考える者たちも、今この場にははっきりと多い。それこそ、寄子の管理を任されることになっている寄り親たちにしても昨夜からの夜通しの会議があったとはいえ、今も気が気でないと言った様子ではあるのだ。

「では、皆様、用意を」

そして、オユキからの言葉はおしまいとして、この後に掛かる負荷、後夜祭こそが本番だとでも言わんばかりに段取りが行われた以上はと、シェリアが待つ席にと足を進める。この後、この舞台に立つ者は、急造でしかなく一段高くなるだけの演説台に立つ者が開始の宣言を行う事となっている。そちらに後は任せて、オユキとしてはこの後に負荷がかかるとそれが分かっている以上は、もう早々に引っ込んでしまいたいとまで考えている。
ファンタズマ子爵家からというよりも、マリーア公爵の要請を受けてトモエが参加することは決まっている。そのトモエは、これからの狩りに向けて過剰にオユキの負担を肩代わりすることもできない。だからこそ、ここに来るまでの間に、オユキがこの場から暫くは下がることが出来ないと言われてから、不安をはっきりと前面に出していた。今にしても、オユキに対して向ける視線が、はっきりと不安の色ばかりが乗っている。昨日から、神殿に向かったためにオユキの為にと料理も作れていない。今朝も結局神殿で食事を摂って、そのあとはそのままここに。食事の時間はあるのかと思えばそれも無く。昼食をとる暇もないからと、本当に軽食として用意されたものを簡単につまんで今。
オユキの回復にも、成長にも。食事が重要だというのに、それをとる時間すらない。それをただ不安に考えるトモエに対して、オユキが実に気楽に過去にもよくあったのだと言い出したものだから、尚の事トモエの心にも澱の様に積もるものがある。

「オユキさんが認めている、それを私がいつまで良しとすると皆様は考えているのでしょうか」

オユキに、トモエの視線も、感情も間違いなく届いている。忸怩たるどころではない。今は、はっきりと、トモエとしても虚飾と絢爛に対して敵意を向けていると自覚がある。守護と軍略に対して、己の伴侶に対しての配慮を一切見せなかったあの柱に対して、不満を抱えている。
オユキが言うには、マリーア公爵が、王太子がかなり限定した結果として今があるのだと、そうあって欲しいという願いは聞いた。あとは、本人たちに対して改めて問わねばならぬだろうと、そう考えて。そして、常とは違って、あまりに過剰に力が入っている太刀を握る手に意識を向けて。周囲の騎士たちが、己に盾を向けているのも理解はできる。はっきりと、今にも激発しそうな己を自覚して、祭りの場に相応しくないとそう己を戒めようとするも、何度も失敗して。

「これで万一があれば、ええ」

そして、この結果として、あまりにもよくない形となるのであれば、最早トモエは躊躇いもしない。
守護と軍略が降りてきたこともある。そこで、大司教からと、戦と武技からも改めて宣言があったこともある。いつまでも開く様子の無い闘技大会。神の加護無くして、己の身に着けた技を競う大会はいつ開くのかと。そして、それに対する回答が無い事に、ちょうど祭りの無い時期を盛夏の頃を選んでと明確に期日が決められた。開催の方法、如何なる手段をもって参加者を選ぶのか。場所自体は前回と変わらず、王都にある戦と武技の教会で行うようにとそう申し付けて。
つまり、トモエにとっては明確に機会が得られたことになる。
オユキが、そうした形で臨むのだとそれは既に理解している。オユキは、最早こちらに残る気が無い。そして、その間に僅かでも届けとばかりに、過去にも決してトモエに孤独を感じさせないようにと。それを今も変わらず行うのだ。その結果として、今となってはトモエの選択肢が広がっていることも、過去に選ばなかったことを選ぶのだとしても。
トモエは、オユキがそうした形であれども、甘えてくれるのがうれしいのだ。だが、それに応えるトモエの在り方というのが、あまりにも明確に変わる。そして、一つ、オユキにもまだ話していないことが、何故か、あまりにも確信のある手札がトモエの手の中にあるのだ。
周囲に繰り返し伝えている、それが闘技大会の外だと考えている者たちが多い。しかし、そうでは無いのだという誰にも話す気もない手札が。

「二月後には、ええ、魔国から戻ってくるのでしょう」

柄を握りこんでいた手を、周囲の警戒を面倒だと考えて改めて鞘に納めるとともに放して。この後、相応に強力な魔物を狩らねばならないために、今から無意味に握力を消費して良い訳も無い。オユキを見ながら、トモエの持っているその鬼札、闘技大会の場でトモエがただそれを心に決めてしまえば、結果が得られるのだという事実、それをオユキに伝えようと目に想いを乗せて。
互いに、それを口に出したこと無いはずではある。だが、今オユキから戻ってくるのは常とは違って、トモエとの約束が、トモエの望みがあるのだからといった視線ではない。疲労を感じて、トモエがどうしようもないと考えるのならばと、最早それに傾いてしまっている。トモエにとっての大事は、何よりもオユキの事。オユキにとっての大事は、何よりもトモエの事。互いにそうであるからこそ、オユキがこちらでトモエの願いをかなえるためにと振る舞う事が、トモエの負担になるのならばやむを得ないと。そうした諦めが、既に僅かににじみ始めている。

「あまり猶予はありませんか」

そのトモエの言葉に、周囲の緊張に立強いての言葉だなどと考えたのだろうか。この機会に少しでも名を上げようと考えている狩猟者などが反応する。騎士たちについては、オユキの体調かと考えて、心配げな視線を送りながらも跡の事は任せろと筋違いな気配。実際に、そうした一切をトモエが理解していることも無い。ただ、そうした振る舞いが、己の零した言葉に返ってくるのだろうと、トモエが考えているのも事実。
実際の話は、一先ず決めた者たちを問い詰めて。そして、今はあまりにも明確に負担を感じて弱っているオユキが、もう少し回復した時に改めて様子を伺えば良いと決めて。

「己の振る舞いを、不足を棚に上げるのは、流石に避けねばなりませんから」

一つの事実として、トモエが料理を作ることでオユキの回復は早くなる。トモエが、オユキの為にとそう考えて動くことを、間違いなくオユキは喜んで心が軽くなる。それらを、ここまでの忙しさにかまけて行えていなかった。それ以外にあまりに時間をとられていたのだと、そう反省する機会が得られたのだと、その事実を改めてトモエは己に戒めて。
別に、誰に向けて話しているでもない。周囲にいる者たちは、何やらトモエの零す言葉に逐一反応したりなどもしているのだが、やはり今はそちらに向けて言葉を作る心算も無いのだ。ただ、言葉として零して、己にきちんと言い聞かせる。過去から変わらず存在している、トモエの癖としての振る舞い。それを、オユキが色々と汲んで動くことはままあったし、トモエとしてはそれがうれしかったのも事実ではある。
だが、やはり、過去と変わらないのだ。それを、トモエに向ける相手というのが今もオユキしかいないと、それがただ事実。
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