憧れの世界でもう一度

五味

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26章 魔国へ

先に来ていた者たち

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エステールに呼ばれた理由と言うのが、オユキの目の前に今はいる相手。どうやら、レモのほうに任せたはずが、随分と派手に布告でも出したのかと疑ってみたものだが。どうやら、人手不足の解消の為にと来たわけではなく、この王都に神国から来た一団が滞在しているとそのようなうわさを聞きつけての事であるらしい。今後については、既に先代アルゼオ公爵がレモのところに向かっており、反発するそぶりは見せていたが、それにしてもあの好々爺然とした人物がどうにでもする事だろう。
これまでにもあった、確かにそう聞きはしていたのだが思い返してみれば結果は聞いていなかったのだ。ならばこうしたこともあるかと、そう思いはするのだが。

「真偽のほどが、流石に私では判断しかねます」

そのオユキの言葉に、一先ず代表者をと決めて招き入れた相手はただ力なくうなだれる。

「貴方にとっては事実なのでしょう。ですが、私のあずかり知らぬところを話されたとして、やはり判断ができる物ではありません」
「神職、高位の物であれば」
「生憎と異邦よりの身の上、こちらに来てから日も浅く」

高位の神職、巫女の扱いはそうらしいというのは聞いているのだが、それでオユキがそうした振る舞いができると言う訳でもない。特に、今回の事に関しては神々から何を聞かされているわけでもなし。そして、この場に降ろすのかと言われれば、少なくとも今のオユキが信じても良いと思えるほどの何かを提供できないこの人物のためになどとはやはり思えもしない。
オユキの言葉に、二の腕の半ばから先が失われた人物が、それでもどうにかと瞳に力を込めて。それでも、オユキに対して何をすることも無いのは、今オユキの傍らに立つローレンツの圧を受けての事ではあるのだろう。古老であるその男が、オユキに対して何も言わぬ当たりこの者たちに覚えが無いとその判断の一助を担ってもいる。

「そう、ですか」
「例えば、身分証のようなものはお持ちでは」
「生憎と、失ってしまった」

身形を見れば、狩猟者には違いない。実際にこの人物の発言にしても、そうした話。ならば、狩猟者に与えられる登録証を持っていないのかと、そう尋ねてみても返ってくるのは想定通りの言葉。そもそも、初めから持っていれば、わざわざ門前で騒ぎを起こすことも無かっただろう。ならば、やはり話はここで終わる。この人物だけではない、外にいた者たちにしても、四肢を失った者たちは珍しくなく。まともに動けるだけの者たちと言うのはあまりにも少ない。その様子では、こちらで日々を生きることもかなり難儀していただろうに、聞けば先のトモエとオユキがこちらで振る舞った事、そこで色々と起きた騒ぎを聞きつけてとの事ではあるらしい。つまりは、近くにあるのかもわからないが、そこからどうにか最後の希望をもってこちらにと言う事ではあるらしいのだが。

「であれば、やはり難しいとしか言えません。身の証を立てられない方、その方の話を聞くというのは」

これが、損得勘定が働かない相手であれば、まだよかった。職務の範囲で、それを行ってくれた者たちの紹介によるものであればよかった。見極める時間が取れるのであれば、まだ良いと、そう判断もできる。
そこまでを踏まえて、やはりオユキとしては少し考えてはみるのだ。王都で借り受けた者たち、紹介を受けて、相手がそれでもかまわないと答えてくれたからこそ、あちらこちらについてきて貰っては、日々の狩猟の荷集めなどをしてもらい。そして、今では始まりの町で後進の育成も手伝ってくれている者たちのように。今後、あの町では、王都でも人口が増える以上、こちらでは加護という物があるのだから頼めば問題がないだろうというくらいは、想定ができる。ローレンツに油断がない、少なくとも彼らの言葉が正しければ狩猟者とは言えど、騎士たちの、傭兵の先導を引き受けることが出来るほどの相手と言う事になる。

「これまでの実績と言いますか、少なくともこちらに来る際に選ばれたというのならば、一門の方と言うのはわかりますが」
「腕を失った。先にも話はしたが、今はどうにか糊口をしのぐだけ」
「外の方々の面倒も含めて、それができるのであればだけなどとは言えないでしょうとも」

代表者を選んでくれ、オユキがエステールにそう告げてからここに通ってくるまでの時間を考えれば、信頼を得ているのはよく分かる。そして、見知らぬ地で、傷を抱えた者たちの中でどうやって勝ち得るのかと言えばそんなものは単純だ。彼らに必要なものを得ることが出来る人物、それ以外にない。
加えて、話を聞いて王都までと言う話であった以上は、ここまでそれなりに時間がかかっている以上は、また同じような結果を得るかもしれない、こちらで既に作り上げた基盤にしても捨てるつもりでと言い出して。結果がどうなるかもわからないというのに、彼を信じてついてきた者たちがいる。ならば、その者たちの信頼を勝ち得ている相手をないがしろにするわけにもいかないと、オユキとしてもそれくらいには考えている。

「貴方が代表として選ばれた、それはわかるのですが」
「他の者たちにしても、変わらない。あの時には、そんな余裕なんて誰も無かった」

凄惨な過去があったというのは、現状を見れば簡単に想定もできる。
思い出したくも無いというのは、こうして話をしながらもそれに触れないあたりではっきりと分かる。彼らは、狩猟者を名乗る彼は、間違いなく先導としての役割を。それこそ、夜警であったり、こまごまとした雑事を間違いなく行ったことだろう。オユキの知る騎士であれば、そうした者たちを先に逃がす、必ず神国に戻すか、与えられた職務に忠実にと振る舞ったには違いない。だというのに、こうして残されたと言う事は陸な事では無かったのだとそれくらいは。

「それでは、やはりと言うしかありません。狩猟者でなくとも、傭兵、騎士、そういった方々でもいればと思いますが」
「騎士は、いた。今は、もういない」

本当に、困ったことだ。良くない想像ばかりが膨らむ。トモエに言われて、信頼をと言われた矢先にこれかと、内心では頭を抱えるしかない。目の前の人物の言葉に、それが示す結果に、ローレンツが僅かに一度目をつむって。

「であれば、答えは変わりません」
「それは、ああ、それは分かるのだが」
「ですので、そうですね。ミリアムに任せましょう」

そして、オユキが判断はできないのだが、オユキでなくともできる者がいる。巫女を名指しした者たちだからこそ、こうしてオユキが呼ばれはしているのだが。それも正直筋違いと言うしかない。

「ミリアムさん、と言うのは」
「おや、ご存じなのですか」

オユキのだした名前に、しかし相手の反応が非常にわかりやすい。古い名前を聞いたと言わんばかりに、その名前に心当たりがあるのだとばかりに、思い出すように、懐かしむように。

「いえ、流石に同じ名前と言うだけだろうな。始まりの町、その受付からこちらにとは思えん」

その言葉に、オユキとしてもやはりおやと。

「ええ、その始まりの町の受付に居られたミリアムさんです」
「まさかとは思うのだが、本当にこちらに来たのか、あの人が」
「どうやら、親しいご様子。であれば、身の証を立てるのも容易くはありますか」

それこそ、ミリアムが覚えていればそれで終わるのだ。狩猟者ギルドで、長く取り仕切ってきた人間だ。ならば、色々とオユキの思いつかぬ方法にしても知っているには違いない。今はこちらの王城に向かってしまっているが、戻ってきたときに引き合わせて確認をしてしまえば良い。

「だが、どうだろうか」
「はて、何か問題が」
「何、流石に最後にあってから、随分と時間が経ってしまっているからな」
「それは、まぁ、そうかもしれませんが」

確かに、彼の言が確かであれば、こちらに来てもうどれほどかもわからぬ、そのような生活を送っていたのだと聞かされている。それがどの程度の期間であったのか、実際の話としてはオユキに分かる物ではないのだが。

「ローレンツ、覚えがありますか」
「最後に騎士たちが隣国に向かったのは、王妃様の輿入れがある四年程前でしたか、今からであれば九年、いや八年程ですか」
「確かに、かなりの歳月ではありますか」

それにしても、輿入れから考えれば、初めての子供までが僅か三年程。手が早いとそう言っても良いのか、それとも務めとしてとにかく割り切った関係が先に来ていたからか。それからわずか三年程、少なくともトモエとオユキが出会う頃にはあれだけの関係を築いていた以上は、互いに互いを大事にとした結果には違いない。そして、それほどの期間、顔を見ることもできなかった魔国の王妃が随分と王太子妃にかまっているようすはそういう事かと納得もいく。

「何にせよ、私で判断できることでもありませんから、まずはミリアムに見分させましょう」
「それは、有難くはあるのだが」
「ええ、それまでの間は、少なくとも今日に関しては」

そこまで言いかけて、オユキは考えなければならないことが起きたとそこで言葉に詰まる。それこそ、始まりの町や領都であればどうにでもなる。借り物であるには違いないが、ファンタズマ子爵家に与えられた屋敷である以上、裁量権を持つのはオユキ。しかし、ここでは、この場の裁量権はクレリー家に預けると決めたばかり。面倒なことを押し付けようと決めた相手、それをするだけの理由はあるにはあったのだが、それが今こうして。早まったと、確かにオユキとしてはそう思いもするのだが。

「オユキ様、僭越ではありますが」
「ローレンツ、何か案がありますか」
「幸い、我らが間借りしている場所は門にほど近く。であれば、宿の用意もあるのではないかと」
「それは、どうなのでしょうか」

これが神国であれば、それも頷ける。だが、ここは魔国。狩猟者ギルドが、既に機能していない国だ。今目の前にいる人物にしても、どうにも旅の汚れを落とせていない様子を見れば、急ぎでこうせざるを得ないだけの事があったのだとわかりもするが。

「今、借りている宿があるにはあるのだが」
「成程。であれば、頼ってきたわけです、そこの料金位は当家が持ちましょうか」
「しかし、この屋敷よりも相応に遠い」
「まぁ、ここまで来るのにかかった時間を考えれば、そうもなりますか」

まぁ、支払いが滞っていようとも、かなりの人数が居ようとも。今となってはファンタズマ子爵としてため込んでいる金銭もあるため、正直問題はない。だからと言って、こうした人物が今後現れたときに、今回のように名前を出した相手、それに対してはっきりと神国に居なければわからないようなこと、それを口にしなければ施しをすることも無いのだが。それに、オユキとしては、どうにも引っ掛かっていることがある。
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