憧れの世界でもう一度

五味

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25章 次に備えて

鉱山へと向かう道

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正直、王都に関しては領都に比べるのも可笑しいぐらいには広大な都市だ。領都にしても、馬車で外周を走ろうと思えば二日はかかるというほどだったのだが、こちらでは単位が日から週に変わるほど。それも、トモエとしては生前の尺度で馬車の速度を考えていたものだが、門がなければ人が出てくるはずもない、そんな場所をどれほどの速度で移動するのかを考えればさらに広大であることには変わりない。オユキに言わせれば、街中の移動ではなく、大回りであることに違いない街の外を移動の手段として選択するのだという事実が、十分にそうしたことを示しているとそういう話ではある。

「トモエ様、お伺いさせていただきたいことが」
「オユキさんのおらぬ場で、ですか」

王都のどこにあるとも知れぬ鉱山へ向かう道すがら、シェリアが変わらず手首に着けているブレスレット型の魔道具を示して見せて。一応は、オユキとトモエの為にカナリアが用意した馬車でもあり、防諜に関しては太鼓判がされてはいるのだが内部にはやはりほかにもいくらかの使用人がいる。あとは、ついでというわけでもないのだろうが、気分転換にとついてくることを決めたアベルとアイリスが、今はオユキの寝台に腰掛けるトモエの向かいに。客人用というわけでもないが、使用人たちが控える場所ではなく、それこそ遠出の時には荷物を放り込む一室に揃っている。
トモエとしては、既に巻き込むと決めた二人であり、聞かせても構わないとそう考えている相手でもある。
オユキの不安、不慣れな王都でカレンでは人の手配もなかなか難しかろうと、そう言った部分を短時間で済ませるためにとアベルを頼った様子でもあるのだから。

「はい。それと、あちらの二人には、やはりまだ」
「一応は、前回のことに関してかなり気にされているようですし、確かにここでもとなると過剰ですか」
「トモエ様は、オユキ様と違って言葉を尽くしてくださいますので、有難いですね」
「オユキさんは、本人としては言葉を尽くしているつもりなのでしょうが」

どうにも昔からの悪い癖として、己の興味に忠実すぎる部分がある。

「例えば、仕事としての場であれば割り切るのですけれど」
「それだけ心を許していただけているのだと、侍女としてはまずそれを喜びましょうか」

そう、しばらく前からシェリアも混ざるようになっている夜の時間。そこでのんびりとお酒と肴を楽しみながら語らう時間というのが確かに持てるようになっている。だが、そこでの会話というのはやはりトモエはともかくオユキのほうは日々あれこれと考えた者のうち、形になっているものを改めて、そして形にならないものをどうにかそうしようと。そんな話の場だ。それが互いに楽しいものではあるのだが、付き合う側としては、先ほどまで話していたことが何故急に、何を契機に話が飛んだのかと疑問にも思うだろう。

「ですが、まずは聞かなければならないことが」
「流石に、これだけ側に入れば気が付くでしょう」

要は、まだ外には漏らせない話として。少なくとも、シェリアにとって明確な要因である二人にはまだ聞かせる気がない話として。

「ええ。オユキさんは、こちらに残る気はありません」
「やはり、ですか」

そう、オユキは口では、表向きの振る舞いとしては残る気があるのだと示すことはやめないだろう。それをやめてしまえば、ではとばかりにトモエも己の目的を早々に諦めて始末をつけに向かうのだと、終着点に向けて歩き出すのだとそれはもはや決まっている。そのはずではあった。
だからこそ、オユキはトモエがそれに気が付いているのだと口にすることを嫌がった。神が作ったはずの世界ですら塗り替えるほどに、心乱した。
それほどまでに恐れていること、だからこそトモエが注意したことを早速とばかりに、内心いやいやではあろうが始めて見せてはいるものの。

「ですが、オユキさんが残らぬと、そういうのであれば」

そう、トモエにとっては互いに納得のいく形というのが重要だとそう考えている。例えば、オユキが今の姿を全く持って受け入れられぬとそういうのであれば、既にトモエが選択を済ませている。だが、どうにもそうではないらしいことも、それがあったとしてもこちらに残っていたいとそう考えている風であることも理解はできる。

「ええ、私から。こちらに残りましょうと、そう誘うと決めています」

今は、疲れているからこそ。こちらに、過去オユキがさんざんに楽しんで、憧れを胸に抱いていた世界とは随分と趣が異なってしまったと。行ってしまえばこれも一つのカルチャーギャップといえばよいのだろうか。オユキ自身、己をそう評されることは甚だ不本意だというのだろうが、どちらかといえば過去を大事にする類の素性だ。かつての両親、その姿を追い求めて。そんな始まりがあればこそ、今の人格がしっかりと形成されている。トモエにしても大差ない過去ではあるのだが、だからこそと、そう思う所がある。

「なので、時が早まることは、いえ、神々のほうで何かあればわかりませんが」
「いえ、そのお言葉だけでまずは何よりです」

ただ、トモエとオユキがどう考えていたところで、正直何があるかがわからないのがこの世界。どうにも、完全な上位者として人の世のこと程度であれば、ほぼほぼ見通すことができるらしいのだが同格以上、異なる世界との関係の結果ということは十分以上にあり得る。

「トモエ様は、オユキ様を引き留めることを考えてもおられるのですね」
「どう、言えばいいのでしょうか」

そもそもオユキに負担が過ぎるというのならば、トモエが始末をつけると散々に繰り返し、態度でもそれを示している。だというのに、そんなトモエがオユキをこの世界に止めおくような、そのような選択をするとは考えていなかったのだろう。シェリアが随分と安心したように息をつく。

「選択は、やはり悔いがない形を選ばなければと」

少なくとも、トモエはそう考えている。オユキが一時の気の迷いといえばいいのだろうか。現状、己の身体能力に対して、どこまでも不満を抱えているからこそ今は心が弱っている。オユキの現状の選択というのは、それに起因しているのだ。トモエでもわかることとして、今後も間違いなくそれは変わらないとそう判断ができてしまうほどに。オユキが、かつて遊んだ世界を、あれほどまでに熱中していた世界を改めて楽しむことができるのは、間違いなく選択の時が過ぎ去ってからなのだから。

「オユキ様の望みは」
「選択の時が終わるまで、叶うことはないでしょう」
「トモエ様は、それでも」
「良い訳が無い、それくらいはご理解いただけているでしょう」

苛立ちが、どうにもならぬ感情が。八つ当たりとわかっていても、言葉の端に乗る。シェリアが、試したからとわかるのだが、それでも速やかに頭を下げるのはやはりオユキよりもわかりやすいとそうした判断の上でなのだろう。オユキは大分、トモエも僅かに気を許している相手だからこそ、いろいろと情報を集めるためにと難しい舵取りをしなければならない立場だとそれもわかる。

「本当に度し難い世界だと、私の判断はやはりそのようになっています。楽しいのも、事実ではあるのですが」

そう、オユキよりも、オユキがトモエの為にと己の身を、心を費やしているからこそトモエは楽しめている。それに対して、トモエとて思う所があるからこそ流派に拘ることは止めた。拘泥していては、やはりオユキにかかる負担を取り払えぬとそう判断したからこそ。だが、その選択は結果としてオユキの矜持を傷つけることにもなった。事前に相談すれば、良かったのかもしれないとそれくらいのことは流石に後悔としてトモエも抱えている。特に今回こうして性急に、これまで避けてきたことを一度に全てとしたのはそうしたことがあればこそ。一度、過去にも何度かあったように互いを傷つけてでも行ったほうがいいだろうと、トモエにしても追い詰められてはいるのだから。

「やはり、いけませんね。私では、こうして話をする度に、話してしまえば判断に迷いが生まれてしまいます」
「それが人のありようと、私としてはうれしく思います。オユキ様は、その」
「ええ、オユキさんはやはり酷く一途ですから」

言ってしまえば、ひどく自動的なのだオユキは。周囲の期待に、己に対して懸けられる期待に対してその通りに振る舞うべしととにかく只管に。それが悪いことかと、そう言う事もできるのだが、トモエとしてはやはりそうではない。過去があって今がある、そうした流れがあるからこそ、オユキの今はそのようになっているのだから。以前にも、ミズキリから人を通して、かつてのミズキリの妻を経由して相談を受けたこととてある。まるでよくできた人工知能のような振る舞いを見せるのだと。精巧な人形のようだと。トモエとしては、二人の時間でそうではないことを十分すぎるほどに理解はしていたためその様な事は無いと笑って返したものだが、こうしてこちらに来て改めて仕事の場で振る舞うオユキというのを見れば言いたいことも嫌でも分かる。

「かつても、人形のようだとそう評する方はいましたから」
「それは、成程。よく知らぬものが言いそうなことです」
「こちらでは、そうですね。役職によって必要な振る舞いを己に課す方が多いわけですから」
「ええ。それにしてもオユキ様は、非常にお優しいと私からはそう見えますが」

その優しさにしても、打算があってのこともあればそうでは無い事、ただただ自動的に周囲の期待に応えようと範を示そうとそう振る舞って。

「それにしても、色々と」
「そう、ですか。成程、確かにトモエ様相手にはあまり見せぬ姿であると考えると」
「ええ、そう言う事です」

つまりは、トモエとの時間、今となってはシェリアも含めての時間にだけ見せる振る舞いというのが、要はオユキの本来の姿ではある。年相応等と言う事は一切なく、今の見た目相応と呼ぶに相応しい部分が出てくる時間が。

「可愛らしいお方、確かにそうですね」
「ええ、そうでしょうとも」

外見を、見た目と言う事ではなく振る舞いをとにかく己という人格から切り分けて。だからこそ、その内側にいるオユキ自身はどこまで行っても昔のままだ。それを差して、トモエは可愛らしいと表現するし、シェリアもそうであるのなら、そばに置くことにオユキが納得しているのも頷けるというものだ。

「私たちは、よく似ているのでしょうね」
「違いありませんね」
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