憧れの世界でもう一度

五味

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23章 ようやく少し観光を

観光の前に

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王都について、一先ず会うべき相手にはあったはず。だから、今日は観光に行くのだと、朝の内にそんな事をトモエとオユキで話していたはずなのだが、生憎とそうはならないのが、なかなか難しい所でもある。トモエの方はトモエの方で、戦と武技の教会から久しぶりに会うマルタ司教からの誘いがあり、今は教会に併設された闘技場。言うのであれば、教会が併設されてというのが正しいような気もするのだが、そこに安置されている神像に収めるべきものもあるという事で、そちらに。

「お久しぶりですね。」
「はい。何分、漂泊の身ですので。」
「相も変わらず、上手く逸らす事。」
「それも併せて、手札と言っても良いものでしょうか。」

オユキの方では、こうして王妃の襲撃を受けてそれに対応を流石にしなければならないと。一応、公爵夫人へ向けて早々に救援を要請してはいるのだが、そちらがたどり着くまでには流石に相応に時間を要する。一応は、観光の案内を買って出てくれていたため、今日の昼頃にはと、トモエとオユキは揃って久しぶりにマルタ司祭を訪ってと考えていたこともあり、そうした時間を指定したことも今となっては悪い方向に働いていると、そう言っても良いものではある。

「避けられている、その自覚程度はあります。無理難題を申し付けているとも。」
「私どもの事、それを斟酌頂けているようで何よりではありますが。」
「隣国のからの客人、そちらを経由して色々と考えるべき話を聞かされたこともあるのですよ。」

さて、魔国の王妃が交渉の手札として一体何を。オユキとしてはそれをどうした所で考えてしまうものだが、ただ、王妃は口元を隠していた扇を一度畳んだうえで、それを懐にしまって見せる。ここからは、隠すべきことでも、互いに秘めるべきでもない話とそう言う事らしいが。生憎とシェリアは相変わらずトモエに貸し出しているため、この場にいるのはナザレアだ。オユキの、というよりも王妃から借り受けている人員であるため、見事なまでに味方がいない。無体な事をするかと言われれば、それは流石に無いだろうし最悪この国であれば、この場であればと思うところもあるため己の身の安全だけは確保されるだろうと、オユキは考えてはいるのだが。

「何もそこまで警戒しなくとも宜しい。この後、マリーア公爵夫人も来るのでしょう。丁度いい機会ですから、貴女から提案のあったことを話そうと、そう言う事です。」
「その、生憎と私からはすっかりと。」

取り上げた本人が、いや、本人ではないかもしれないが少なくともそちら側の人間が、今更一体何をオユキに話をするというのだと。

「随分と胡乱な者を見る様な目をすること。ええ、生憎と式次第に貴女を関わらせる気はありませんが、衣装があるでしょう。」
「衣装、ですか。」
「何をそんなに不思議そうな顔をしているのですか。」
「いえ、それこそシェリアやナザレアに聞けばよいのではと。」

オユキの体、採寸された数字など当然のように控えているだろう。一体、何をオユキに聞こうというのかと。

「全く興味が無いと。実にわかりやすい事ですね。」
「いえ、トモエさんが喜んでくださるようにと、私としても考えてはいるのですが。」

さて、こちらで祝言を上げるとして、式を開くとして一体どのような形式になるかも分かっていない。

「そこなのですが。」

そして、それこそが問題だと言わんばかりに。

「トモエに聞かない、それが貴女の要望だとか。」
「いえ、トモエさんにも気が付かれていますし、こう、大事になってしまった以上は仕方が無い物と。」
「つまりは、今回のような物は望んでいないという事ですか。」
「正直に申し上げれば、はい。」

オユキの答えに、王妃はただため息を。
オユキとしても、そもそも神殿であったりを使ってみたいと、そうした話をした以上はどうにも小ぢんまりした物にはならないだろうなと、そうした予想があった。あやかりたい者や、政治を持ち込むものが出てくるというのは仕方が無いと言えるものではないが、気に入らないとまではいわない。しっかりと評価を下げる事になる、それは事実。それを知った上でというのであれば、オユキとしては受け入れようと。こうした機会でも無ければ、己では難しいとそう考えるものたちがいるのであれば、今となってはそれなりに家格を持つ身でもある。鷹揚に構えて見せるものでもいいだろうと。

「一応は、そのように考えているわけですが。」
「オユキとしては、納得できると。」

オユキがそうした己の考えをつらつらと話していれば、王妃としても特に言葉を差し挟むことなく聞いてくれた。目上の人間に対して、こうして時間を使わせることに対する申し訳なさというものもあるのだが、公爵夫人が来る迄の時間稼ぎも叶う以上は。ただ、こうして己の思考というのを吐き出して、王妃が理解を示してくれてはいる。ならば、色々と、そう色々とこの機会に吐き出してもとそうした誘惑に駆られる。
このあたりに、何やら軽い後押しと言えばいいのか恣意的な物を感じないかと言えばオユキも否というだろうがそれを叶える事ができる存在を考えた時に思いつくものもある。ならば、まぁ必要な事だと判断されているのだろう。若しくは、こうして王妃が何某かの奇跡をと思わないでもないが。

「納得するしかないと、そのように理解は出来るものです。後は、気になる事と言えば、その隣国の。」

そちらから、何か言われているのかと。

「そうですね。ただ、そちらに関しては少し難しいと言いましょうか。」
「難しいですか。王妃様がいらしている以上は、その。」
「何処から聞いたのかと、そう考えないでもありませんが生憎と国が変われば。」
「成程。いえ、王太子妃様の事を考えれば納得はいきますか。」

王太子妃が追い詰められていた、それを考えれば。

「そこは一先ず置いておき、となると実際に決まるのは少し先になりそうですね。」
「正直、決めてしまいたいと思いますが。」
「そこは、流石に私としては配慮がいるのではないかと。」

オユキとしては、王太子妃との兼ね合いがある。そもそも、最初に抗したことをねだった相手は王太子妃だ。そちらを無視して話を進め過ぎるのも、また違うのではないかと。

「オユキ。」
「譲れぬところがあるとすれば、やはり私は今回の事は王太子妃様を優先したい、勿論トモエさんを超える事はありませんが。」
「あの子を、随分と気にかけていますね。」
「それは、はい。」

色々と、まぁ手紙のやり取りをしていれば。
時には、流石にオユキとしても自重をして欲しいと思う文面が躍ってはいるのだが、それでもオユキを思いやる内容ではあったし、こうして取り上げるという選択に至るまでも随分とと言えばいいのか、可能な限りの配慮をとそうした部分は見えていた。恐らく、抱え込んでいるという異邦人を経由して聞いたのだろう。生前の式に近い物として、こうした流れが良いのかとそうした相談もあるにはあった。聞いた相手がどういった場所から来ているのかは分からないが、白無垢などという言葉や角隠しとは何なのかと、そういった質問すら手紙にはあった。
その辺りに関しては、生憎とオユキもうろ覚えでしかなかったため確かこのようなと簡単な図を書いて送り返しはしたはずだが。

「一体、何を考えての事かと、そう聞いても。」

王妃としては、何かそこに考えがあっての事かと。
その言葉に、オユキはああ、成程と。要はこの相手も王太子妃を守ろうと考えて、こうして警戒をすることができるだけの人物なのだと。

「率直に申し上げれば。」

既にこの席を設けるにあたって、言葉を飾る必要が無いと実にわかりやすい形で言われたこともあり、オユキとしても平素に近い言葉をこうして使っている。国母を相手に、流石に此処までの物言いはどうかと、どうにか上手く事を運ぼうなどとこの時まで考えていたのだが、相手がそうした考えを行える相手なら、過去にも散々にあったように巻き込んでしまえとばかりに。

「魔国の両陛下ですね。そちらも招いたうえで、王太子様と王太子妃様、こちらの関係を改めて示したいと。」
「それは。」
「当日はと言えばいいのでしょうか。神殿は、やはり神々に近い場であるはずです。ええ、先に王城であったように今回もまた。」
「巫女として、ですか。その場合は貴女方は。」
「構いませんとも。それこそ、正直に申し上げれば、始まりの町の教会でとしてもかまいませんから、私達は。」

王都には、別にトモエとオユキの事に参加してほしい相手などというのは基本的にいない。幾人かは、流石にこちらで関係を持った相手もいる為、トモエが神殿に興味を持っている以上は、こうした社会背景を持った世界であるのなら分かりやすく示す必要もあるからと。だから、オユキも場を選んでいる。だが、実際に何をもくろんでいるのかと言われれば、始まりの町の教会で、その後にはこちらに来たばかりの頃に世話になった、あの何処か懐かしさを感じさせる宿で。そこで気の合う者達と、何度か既に酒席を共にした相手を誘って。賑やかな会になるだろう。トモエとしても誘いたいと考えるだろう相手、教会で暮らしている子供たち。それ以外にもあの町で色々と、本当に色々と世話になっている相手。河沿いの町で今頃忙しくしているだろう、イマノルとクララにしても。

「そちらが、本音ですか。」
「王都で行う物は、私としては政治以上の意味を見出してはいません。その、何かねだってみてはと勧められて、思いついた物を頼んでは見たのですが。正直、得たいものというのは。」
「衣装目当て、それを頼んでしまえば、ならばこちらでとなる以上はという事ですか。それはさぞ気乗りしない物でしょうね、貴女にとっては。」
「トモエさんは、流石に始まりの町でと、それには気が付いていないと考えていますので。」
「分かりました。私もトモエには言わないでおきましょう。ただ、その考えがあるのなら。」

王妃が置いたはずの扇を手に持って、何やら口元を覆うように。何か考える事があると、身振りだけでなくとも実にわかりやすいものではあるし、オユキに向ける視線の色というのが、何処か好奇心と言えばいいのかなんと言えばいいのか。見知らぬ色が乗った。同時に、何やら間違えたのではないかと、そうした予感がオユキに。
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