憧れの世界でもう一度

五味

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23章 ようやく少し観光を

公爵と

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「流石に、もう少しどうにかならんか。」
「これでもかなり譲歩していますが。」

先触れもなく乗り込んできたトモエに対して、それを責める事は無く。公爵はそのままトモエを彼の執務室へと案内した。そこには、オユキ宛に限ったものではないが、トモエとオユキにと山と積まれた手紙が待っていたのだ。

「オユキさんは、随分と甘いようですが。」
「その方が違うというのは、我も理解しておるのだがな。」

オユキからトモエに預けられた、一つの書類。
一応仕えているファンタズマ子爵家を優先するのではなく、自分に連なる家を優先する者達の名が書き連ねられている物。それをまずは公爵に渡したうえで、トモエの方でも控えとして作った物と照らし合わせて積まれた手紙を徹底的に分けていく。加えて、トモエはシェリアに話を振った上で特に利益にならぬと言えばいいのか、流石に名前も覚えていないのだが常の勤務態度、そこで何処かオユキを軽んじるそぶりを見せている者達の家名を聞き出して、それらも容赦なく必要が無いとして。

「さて、読むべき手紙は一先ずこのあたりですか。」
「そうですね。強いて言うのであれば、トモエ様は弾かれなかった物の中でもいくつか。」
「成程。流石に、全てをシェリア様に任せてという訳にも行きませんし、公爵様は、このあたりは流石にとそう考えておられるようですから。」

一応は、トモエとしても公爵の顔色をうかがいながらの作業ではあった。公爵にしても、オユキというよりもアルノーが手を入れてから随分とコーヒーを気に入っているようで、彼もカップに入った液体を口に運びながらトモエとシェリアの作業を見守っていたのだ。同じ穴のムジナとまではいわないが、こうして終わってから抗議をするだけしていると、実にわかりやすい振る舞いではある。実際に、トモエの言葉にただ苦笑いをしてカップを口に運べば、それで終わりなのだから。

「流石に、中は私が見ても分かりませんからね。」
「トモエ様は、公文書は。」
「流石に、私はオユキさん程多才ではありませんから。」

トモエが理解できる英語など、日常会話が最低限熟せる程度。

「ほう、そうなのかね。とすると、どうかね、学んでみる気は。」
「正直、あまり。」

公爵から、語学の習得に励んで見てはと言われる物だが、現状特別不便を感じる場は限られている。今後どうなるかはさておき、現状不足が無いのであれば、トモエとしても優先したいことはいくらでもある。
オユキの負担を減らすためには、恐らくトモエの方でも書類仕事ができるようになるのが良いには違いない。だが、正直な所トモエまでそうして動き始めればオユキを止める者がいなくなる。今は未だ、トモエが時折オユキに釘をさすことで、どうにか仕事を取り上げてとしているのだ。

「私まで色々と手を出してしまえば、オユキさんの歯止めが利かなくなりますから。」
「その方から見ても、オユキはそれほどか。」
「ええ。」

トモエの言葉に、公爵はただため息を。

「その事で、私から報告と言えばいいのでしょうか。」
「何か、あったのかね。」
「オユキさんは、風翼の門を通る時に翼人種の長ですね、その方から受けた物が。」
「治ったと、そう報告を受けた気がするのだが。」

要はオユキが観光の為にとした報告を指してだろう。

「こちらに来る前までであれば、門を通る時にそういった問題がありました。結果として、今は消耗をまたしていますから。」
「それは、門をくぐるたびにという事か。」
「間違いなく。」

オユキはどうにか隠そうとしているのだろうが、それでトモエに対してまで隠し遂せる様な物でもない。

「今後もと言えばいいのでしょうか、間違いなく通る度にオユキさんは焼かれるでしょうね。」
「それは、どうにかすることが。」
「カナリアさんも、マルコさんも気が付かない物でしたから、難しいでしょうね。」

フスカ本人か、祖である異空と流離か。そのどちらかが許せばという訳でもないが、今回のような形ではなくオユキ自身か、トモエが思い知らせれば解消してくれそうなものだが。かなり厄介ではある。オユキはとにかく相性が悪く、トモエにしても、決して良いわけでもない。それこそ、相手が有利な舞台で戦えば両者ともに抵抗すら出来ずに負ける事は想像に難くない。手も足も出ない、出しようも無いというのが実情。

「しかし、直ぐに隣国への移動が控えておるのだが。」
「それを止めるとオユキさんは言い出さないでしょうから、配慮を求める事になるでしょうね。」
「まぁ、其の方の言い分は分かった。確かに必要になるであろうな。そうであるなら、先ほどこちらを慮って加えた手紙であるな。それらも省いて構わん。」
「であれば、そのように。」

トモエの方で、流石にと判断して加えていた物を改めて除外する。この公爵は、やはり信用しても良い人物だと、そうした判断も加えて。

「それにしても、もう少し時があればとは思わざるを得んな。」
「一応、方々へ運ぶことは頼む予定ではあるのですが。」
「それなのだが、次へ向かう先については陛下からはっきりと言われておってな。もしもファンタズマ子爵が風翼の門を得る事が出来るのならば、是非にと。」
「武国、ですか。」

トモエも、オユキも。正直後に回してしまいたい場所へ。

「なに、一応既にその方らが足を運ぶ必要が無いと、そのように話は済んでおる。」
「おや、そうなのですか。」
「うむ。創造神様の神殿、その前にとの希望なのであろう。」

順番に関しても、配慮がなされるというのであればトモエとしても言う事は無い。事これに関しては、オユキもそうあれば良いと考えている事なのだ。トモエとしても、互いにそれを望んでいる以上はやはり否はない。道中を飛ばすことなくあるように配置して、次に誰かを向かわせることが出来るというのなら、それも悪くはない。この世界で暮らす者達としては、確かにそれを望むだろう。

「正直な所、隣国であるな。」
「魔国が、どうかされましたか。」

公爵に言われるがままに、シェリアが懸念を示していた手紙を改めて持ち帰る物から外していると、公爵が声を潜める様にして話す事、それに対してはトモエの方では特に心当たりが無い。

「戦力の供出を求められておる。」
「ああ、そうなりましたか。」

要は、魔国では現状どうにもならぬ事が多く、魔術以外の方法で魔物を討伐する手が欲しいという事らしい。自国の戦力ではどうにもならぬと周囲に喧伝するに等しい事ではあるのだが、魔国の主産業はそもそも魔道具の研究開発。すみわけは十分すぎる程には可能であろう。それこそ、今後の方向性として国がそれぞれの特色を色濃くしていくことにもなるであろうし、魔道具の開発を望まない者達にとっても選択肢が広がる事にはなる。

「構わないのではと、そう言いたいのですが。」
「ほう。オユキからかと思えば。」
「そうですね、オユキさんであれば私よりもよほど色々と思いつくのでしょうが、私として気になるのはあちらで武器がどうにかなるのか、その一点です。」

正直、あちらの国で功績が取れるようには見えない。あるのだとしても、何処かは未だにわかったものではない。日常生活を人々が送れている以上は、多少の用意はあるのだろうが。トモエがカナリアから聞いた話によれば、魔道具というのも基本は消耗品という事だったのだから。

「それに関しては、我が国からの持ち出しになる予定だな。」
「さて、人も物も、ですか。」
「その辺りの交渉は、正直難儀しておる。魔国が出せるものは、どうした所で魔道具だけとなっておるからな。」

技術はあれども、資源が無い。成程、過去の己が暮らしていた国、そこと同じような状況を隣国は抱えるらしい。

「先方から、人が出てくるのならばもう少しこちらの国もやりようがありそうですが。」
「生憎とな。そも、我が国からも優秀な物が隣国へと向かって、戻ってこぬ。」
「まぁ、研究の環境が良いのであれば、それはまぁ居つくでしょうね。」

研究者というのは、基本的に己の研究の奴隷だ。
そして、金が掛かる。研究費というのは、それはそれは莫大な物であり予算として計上しなければならないほどに。ミズキリが作った企業では、初期はオユキの持ち出し、オユキの両親が遺していた物を使って、またミズキリにしても何処からともなく大金を工面して。その資金を使って、初期の研究であったり社員に対して十分な物をとしていたはずだ。正直、トモエにとっては縁遠いと言えばいいのか。その頃は、道場のお金を多少計算したりはしていたのだが、その程度。

「となると、魅力的な環境というものを用意しなければならないわけですが。」
「そも、魔術師が一体何に魅力を感じるかなど。」
「銀が豊富であるなら、そちらを餌にと言いますか。」
「餌か、其の方もなかなかいう物であるな。」
「どうにも、オユキさん程言葉を飾るのが得意ではありませんから。」

オユキは少々迂遠に話すことを慣れとして行えるのだが、トモエの方はそれこそ非常に直接的な物言いになる。かつては気にしていたものだが、今となってはそれでよかったと、オユキとの役割というのが明確に分担できるため悪くはないとかつて感じていたものが、こちらではうまく働いているとそう感じられる。

「鉱山の内部では魔術も使えないでしょう。その辺りをつけば、ある程度の引き抜きは叶うかと。後は、この国にだけ現状存在しているダンジョンという奇跡ですか。」
「それしかないか。」
「他には、何もしなければアルゼオ公爵家がまた色々と行いそうなものですが。」
「ふむ。」

マリーア公爵家は、アルゼオ公爵家とトモエが見る限り悪くない関係を築いている。オユキに聞いてみた時には、何処か苦笑いといった様子ではあったのだが。

「ただし、そうですね。フォンタナ公爵。あちらに在る公爵家ですが。」
「ああ。そちらについては我の方でも報告は受けたな。」
「ファルコ君は気を許していたようですが。」
「あ奴は、つくづく経験が足らぬようでな。」

思い返してみれば、リヒャルトですら理解していたことを、理解が及んではいるのだが飲み込めぬとそうした様子は見せていた。オユキがその辺りはしっかりとフォローはしていたようだが。

「そちらの家と、ええ、私は最早とり合う気がありません。」
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