憧れの世界でもう一度

五味

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22章 祭りを終えて

鍛錬が終われば

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少年達に武器を振らせては体を触り、細かく修正を行っていけば相応に時間もたつ。
素振りを続けることには慣れが感じられるし、確かに以前に比べれば体力もついていると分かるのは嬉しいものだが、ここから先、恐らく体力面については加護が主体として支えている相手に対してどういった指導を行うべきかとトモエも手探り。体に触れた感触では、やはり筋肉はさほどついていない。勿論、他の者達、狩猟者と比べてみれば相応に鍛錬の成果は出てきているのだが、それ以上に加護というものが彼らの体を作っていることがよくわかる。
過去と比べて進捗は早い。今見ている相手の中でも、才覚の差が出始めてもいる。こうしてまとめて行えることと、それぞれに合わせてとするべきこと。

「なぁ、あんちゃん。」
「はい。何でしょうか。」
「いや、なんか悩んでるみたいだけど。」

さてどうした物かと、トモエが考えているところが表に出たのだろうか。

「いえ。」

どう説明した物かと考えること少し。

「皆さんに抗した形で教えるのは、少し考えた方が良いかと。」

纏まり切らぬ思考を、一先ず結論から先にトモエは口に出す。
それを受けて目の前にいる相手が、衝撃を受けたと言わんばかりに目を開いているのだがそちらはひとまず置いておいて、トモエはただ話を続ける。

「素振りの際、オユキさんや私が正面に立って皆さんと同じようにするでしょう。それなのですが、模倣の手本としてそれを行っているのです。」

何も師範が己の力量を誇示するために、わざわざ門下生の正面に立つわけでは無い。倣うべき手本として姿を見せる、そうした理由があってこそ。機能しない手本に、果たして意味があるのだろうかと。

「今となっては、機能するのはシグルド君とアドリアーナさん、それと。」

今もまだ両手剣を使っている、領都から来た子供たちくらい。勿論、人数だけで考えればそれも良い。それが必要な段階であるというのも、事実ではある。だが、やはりアナにしてもセシリアにしても、パウにしても。何処かトモエの動きにつられている節がある。思い返してみれば、こうした話を伝えていなかったなとトモエは僅かに反省も込めた上で。

「ティファニアさん達にしても、もうしばらくすればやはり必要ではなくなりますからね。」

彼女たちも、目指す先は騎士でありトモエでは無い。そこで手本として振舞って見せるというのも、やはり色々と違う。

「あー。」
「えっと、でもトモエさんやオユキちゃんが前で振ってくれると落ち着くって言うか。」
「そうですね。そういう効果もあるかもしれません。」

そう言ってくれるのが、確かに嬉しいのだが。

「ただ、やはり異なる武器だというのに皆さんつられてしまうのですよね。」

本当に、さじ加減が難しい。過去にオユキを相手に気軽に道場を構えて、そんな事を提案した己の言葉を恥じ入るばかり。やはりトモエにできる事というのは、己の技を伝える事になる。他が出来ないという事も無いのだが、やはり多数を同時にとなると完全に個性を無視したうえで、己の術理のみを伝えるだけになる。勿論、各々が基礎としてトモエの技を学んだうえで、独自の研鑽となれば良い。しかし、今はそれぞれが異なる武器を持つという状況になっている。

「アドリアーナさんも、弓を考えているわけですし。」

トモエとしては、思わずため息が零れる。
少し離れたところでは、メイとオユキが何やら色々と今後についての話を進めたりしているし、ファルコに向けてあれやこれやと任せようなどと話しているが、そちらはひとまず置いておき。

「まぁ、私の方でも色々と考える事があるわけです。」
「そうか。」
「えっと、でも、やっぱり助かっていますよ。」

トモエが己の考えを話せば、少年たちの方でも改めて考える事があったのだろう。

「その、私達がつられるのが良くないんですよね。」
「いえ、そのような事はありません。」

ティファニアからそうした声が上がるが、それもやはり違う。

「そもそも己が確たるものを持っているのなら、人に倣う必要などありません。自分の進む道を自分で選ぶ。見守る物はその行く先を考えて、導くというのが良いでしょうから。」

本当に、どうした物かと。トモエは実に悩ましい問題が、遂に露呈した物だと。

「まぁ、あんちゃんが色々考えてくれてんのは分かるけどさ。俺らがそれでもいいって言うなら、それでいいんじゃね。」
「いえ、正直な所それが良くないのです。」

シグルドが実に無邪気にトモエが悩んでいても、彼は今が心地よいと、倣うべき手本をトモエとして素振りをするのが楽しいのだと言いたげに言葉を作るのだが、トモエとしてはそのような物ではない。

「つられているとそう話しましたが、やはりそれが続くと変な癖が付きますから。」
「えっと。」
「例えば、そうですね。」

少年たちは、今は揃って武器を振るのをやめて訓練で使っていた己の武器を確かめている。トモエも同様に、簡単に確認などをしてこの後どういった手入れをするか考えていたのだが、改めて少年たちの前で簡単に数度武器を振って見せる。

「これが基本的な晴眼からの上段なのですが。」

まずは流派の物として。

「しかし、武器によってはそうですね両手剣としての物を使うならもう少し、このように。」

実際には、トモエとて幅広の両手剣などこちらに来る迄振り回したことなどない。こちらで見た、それこそイマノルやアベルの振る舞いで、騎士達がどのように振るのかを見た上でそれの通りに。実際には過去にも他流として研究なども行いはしていたのだが、こちらでは少々それとも異なる物が主流となっている。太刀で行う為に、トモエとしては甚だ違和感があるのだが。

「あの、違いが良く分かりません。」
「俺は、何となくわかるけど。」
「え、そうなんですか。」

さて、進捗の差から来る理解の差が出てきているのだが。

「簡単に言えば、持ち上げる位置、それと振り方がやはり違う訳です。」

騎士が想定しているのは、あくまで魔物。トモエやオユキのように、対人戦に特化しているわけでは無い。

「見習いとして騎士団に入ってから魔物を狩るからでしょうか、小型が多い、膝から下にいる相手を狙うためにより低い所に威力が来るように振るわけですね。」

そうして話しながら、少し大げさにこちらの騎士の動きというのを行って見せる。最も異なる点、トモエも勿論軽く体勢を崩すのだが、騎士はその場に腰を下げる様な動きを基本としている。
その分色々な重量も乗るし、威力は出るに違いない。ただ、それを行うのならば斬撃ではなく打撃が正解なのではなかろうかと、トモエとしてはそんな事も考えてしまう。だからこそ、この世界での武器の美徳は強度なのだろうが。

「少し大げさに行ってはいますが、騎士の剣としてはこうした動きが含まれるわけですね。」
「へー。」
「トモエさん、よく見ているんですね。」
「それは、勿論ですよ。」

仮想敵の動きは、勿論観察する。

「私たちの流派では、やはり少し違います。振出しに合わせて、前の足に重心を移すわけです。」

トモエが太刀を振るうときには、前後に開いた足、そこに置く重量配分を入れ替えるだけ。その分速度が乗る。威力としては、確かに騎士の剣と比べれば劣るだろうが、鋭さが増す、速さが増す。

「あの、すいません。あまりよく。」
「トリスタン君もそうですが、皆さんが実感するにはまだ早いですからね。」

そういってトモエがシグルド達に視線を向けるが、そちらにしても分かったような、分からないような。そんな様子なのだ。

「同じ区分の武器、それですらこうした差があるわけです。異なる武器となれば。」

それは、構えからして違うのだ。

「だったらさ、あんちゃんがこう色々武器換えてとかって。」
「もう、シグルド。」

アナがシグルドが口にした、いい事を思いついたぞと言わんばかりの言葉を直ぐに咎めようとするが、トモエにしてみれば彼の発言は実に理に適っていると思えた。確かに、こちらでは流派を名乗る場面というのがあるのだが、彼らに教えるに際して、何も弟子としているわけでは無い。ならば確かに武器を入れ替えて振っていくのも正しい事のように思えるし、現状に対する解決策としては最前のように思える。トモエがシグルドの発言を考えているうちに、アナとシグルドのやり合いは続き加熱しそうになっているが、軽く手を叩いてそれを止める。

「正直、考えてもいない事でした。確かに、それが良いでしょうね。」
「えっと、でもトモエさんはいいんですか。」
「はい、問題ありませんよ。」

シグルドがほら見ろと、自慢げにしているのがトモエからすれば微笑ましく、アナがそんな彼に対して歯噛みしたりもしているのだが、一先ずセシリアの言葉にトモエは応えておく。

「そう言えば、トモエさんは、おれがこれを振ってるのも直せるわけだが。」
「はい。一通りの武器には触れていますし、当流派ではそれが術理として組み込まれていますから。」
「えっと、オユキちゃんが使ってたこれも。」
「私だけではありませんが、私とオユキさんの共通の師、それから私が教えた物です。」

今にして思えば、彼らにそういった事すら説明していなかったのかと。

「その、トモエさん、徒手の技も覚えてますけど。」
「いい機会ですね、当流派の説明なども一度しましょうか。」

思えば、状況状況で簡単に口にするだけだったなと、そんな事を改めてトモエは反省しながら今もトモエに習う者達を揃って座らせる。トモエが口を開いて、そもそも流派を構成する術理の四つ、そこに何があるのか、更に詳細な分類はどうなっているのか。そうしたことを口にしていけば、何やら徐々に表情が抜けていき、数人は見事にひきつり残りはそこまで行かないにしてもひきつったような表情を浮かべてと。

「それを全部となると。」

ただ、唯一ひるんでいないセシリアが、ぽつりとそんな言葉を零す。

「ええ、相応に時間が要ります。」
「参考までに、一番早かったのって。」
「二十年程、でしょうか。」

その言葉に、セシリアは少し悩む様に。他の者達は、ただ揃って座っているというのに、何やら気圧されたように上体を逸らして見せた。
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