憧れの世界でもう一度

五味

文字の大きさ
765 / 1,235
22章 祭りを終えて

今後の事を少し

しおりを挟む
「その、そう言う話は一度おいておいてですね。」

少々気恥ずかしさを覚えて、オユキから。その様子に、メイが実に楽し気に笑顔を浮かべるのだが彼女からしてみれば、それでオユキが年相応に見えたという事なのだろうか。褒められ慣れていないのだと。
確かに、感謝されることはあっても褒められる事はそこまでオユキの人生に無かった。褒めてくれたのは、それこそいつの間にか失せていた両親と、トモエの父くらい。振り返ってみればトモエに褒められたことがどれほどあっただろうかと。確かに、日々互いに感謝を伝えているし、折に触れて互いに自分の出来ぬ事が出来るのだとそういった部分を誉める事はあるのだが、そこは互いに自覚がある部分でもある。
こうして己の無自覚な部分をそうされれば、やはり多少のくすぐったさくらいは覚えるものだ。

「今後の話を、少ししましょうか。機会もなかなかありませんから。」
「なかなか無いのではなくて、貴女がそれを出来ないのでしょう。」
「はい。正直な所。」

メイにも、この町の代官にも既に妊娠した者達がいるという事は伝えている。加えて、タルヤがローレンツの承諾を得ずにやらかしたという話も添えて。

「正直な所、私も初めて知りましたわ。」
「やはり、ですか。その、町には相応に花精の方たちも暮らしているそうですが。」

事実、この町にも少ないながらに少しはいたのだ。領都、王都。そういった場所であれば、それこそ同じ比率と言った所で人口の差は歴然。

「そちらは、タルヤとは違いますもの。随分と人に交じって久しい、そういった者達ですわ。」
「そういえば、タルヤ様もそのような事を仰っていましたか。」

どうにもしっかりと風邪をひいている時に尋ねたせいか、記憶が何処かぼんやりとしている。こうして言われてみれば思い起こすことは出来るのだが。

「あら、聞いていたんですのね。」

シェリアに尋ねられる内容については、オユキとしても何とはなしに愛想笑いのような物を返すだけ。思い返してみれば、いくらか代を重ねれば人と同じようにとそのような話を聞いたようなとその程度。

「町全体では、どの程度なのでしょう。当屋敷では、マルコさんに足を運んで頂いた結果として、判明した者達ばかりなのですが。」
「仕方ありませんわ。診療所の店主に、私から町中を巡れなどとは言えませんもの。」
「それこそ、全数把握を考えるのであれば、一度マルコさんの診察を受けるというのも手だとは思いますが。」

得られる物を得られるなら、マルコという人物は受けるだろうか。そう考えてオユキはそこで一度頭を振る。恐らく彼はそれを望みはしまいと。

「いえ、忘れてください。」
「そうしましょう。貴女は自分からそれを得ますが、多くの民は過剰には求めませんから。」
「肝に銘じましょう。」

オユキが過剰に抱え込むのだと、そうメイから釘を刺される。

「ともかく、この町で暮らす者達が、翌年でしょう、そこから増える訳です。」
「有難い事ではあるのですが。」
「ええ。問題も当然。」

そして、再び視線は今も座り込んでトモエの話を聞いている者達に。

「教会だけに任せようにも、この町の教会では。」
「人手が、足りませんよね。」

子供たちを除けば、この町の教会に勤めているのは僅かに10人。
この町の正確な人口まではオユキも把握していないのだが、随分と広く、それなり以上に生産能力もある町だ。五桁に近い所までは行っている事だろう。その中で、果たしてどれほどの者達が既にと、オユキとしても考えたくない。

「そう、なのですよね。一応、経験のある物に打診をして助けを借りるといった方法もありますが。」
「それくらいでしょうね、現実として打てる手というのは。」

他の町でも、間違いなく同様の事は行われているだろう。今助けが欲しいのは、この町だけではない。

「後は、補助となる薬と、減るであろう人手に対する対策ですね。」
「ええ。」

メイの方もあくまで事前の摺り合わせと、そういった意識は持っているらしい。
一応はオユキの言葉に対して反応は示しているのだが、やはり休憩の場という意味合いが強く出ている。彼女の後ろに控えるゲラルドが何やら仕方が無いと言いたげな様子を見せているのが、その証左でもあるだろう。未だに病を引きずるオユキと、ここ暫くの激務で披露を貯めているメイ。そんな二人が、こうしてのんびりと出来る環境で、それが許される状況で。何も仕事の話ばかりをしたいと考えるはずもない。
考えるまでもなく、否が応でも対応すべき事態は襲って来る。それを如何に砂漠のかは、既にある程度の方針としてオユキは固めているし、メイの方でも色々と策は練っているだろう。彼女本人か、彼女が頼める人材かはさておいて。

「ダンジョンを使ってはとのことでしたが。」
「はい。花精の方々もこちらに来ましたから。一度協力を願ってみるのも一つかと。」
「悪くない手立てとは思いますが、難しい所ですね。」
「おや。」

オユキの案にメイはどうやら乗り気ではないらしい。
どういった問題があるのかと、恐らくオユキの知らぬ事をミズキリから聞いたのではないかと少し警戒をするのだが。

「攻略できなければ、やはり色々と問題がありますから。」
「そう言えば、そういった話でしたね。」

しかし、続く言葉はオユキも聞いたことがある物。
ダンジョンとはあまり関わらない日々が続いていたため、すっかりと思い出す事が出来なかったのだが攻略に時間をかけすぎればダンジョンから魔物があふれ出すのだ。

「その辺りは、まぁ検討をして頂くしかありませんか。」
「オユキは、どう考えていますの。」
「ここまでの流れを考えれば、こういった事態に対応するために用意されたのだとそう考えたいのですが。」

町を拡張する、それに必要な素材程度は正直な所自分たちでどうにかすればよいと、神々とてそのように考えはするだろう。不足が生まれる、今後生まれる不足に対してインスタントダンジョンが解放された。相応に期間が空いたのは、準備期間としてくれたのだとは思うのだが。

「そうですわね。元より、この世界における人口の上限が本格的に撤廃される。始まりはそれでしたものね。」
「はい。」

メイとこうして気安く話す切欠にもなった一件。そこで聞いた話だ。それも創造神直々に。

「メイ様は、今もまだお持ちですか。」
「一度は神殿に納めたのですけれど。」

そうしてメイが軽く胸元に触れる。要は表には出していないけれど、彼女もしっかりと与えられた功績を身に着けているという事なのだろう。

「私は、今運んで頂いているものを呼べたりもしますが。」
「流石に、荷が勝ちすぎますもの。降ろしてしまって、それで安心だと思っていたら。」
「ああ。起きたら枕元にと、そうした形ですか。」

オユキの方でも、実にそうしたことがよくあるものだ。気持ちはよく分かるし、起き上がった時に、さてこれは何だと一瞬思考が空転する独特の感覚。そうした物を、あなたも味わっているのですねと。

「オユキ、その目は正直やめて欲しいのですけれど。」
「失礼しました。」

仲間を見つけたと、そうした色が目に乗ったのだろうか。

「さて、ダンジョンですが。やはりオユキも賛成ですのね。」
「反対が出ているのは、ミズキリあたりですか。」
「いえ、彼にしてもそれしかないだろうと、消極的な賛成ですね。他、この町に長らく住んでいる者達が、やはり危惧しているのです。」
「狩猟者ギルドの長、それからアーサーさんですか。」

言われてオユキがまず思いつくのは、その二人。初代国王陛下らしき人物と、初代マリーア公爵らしき人物。アーサーに関しては確認までは取っていないが、恐らくそう外れてはいないだろうとオユキもトモエも考えている。聞いた話では、トモエがオユキが彼から借り受けていた槍を水に沈めれば速やかに水と癒しに回収されたらしい。
随分と年季の入った槍ではあったし、それを何故オユキに預けて見せたのかも分からないが、一つの証拠としても良いだろうものがそこにはある。他に幾人か武器を水と癒しに捧げようと考えるものがいたのならば、それと比較するのも良いのだろうが。

「いえ、そちらの二人は恐らく否定は無いでしょう。と、言いますか狩猟者ギルドと採取者ギルド、オユキが懇意にしているそちらからは他のいくつかのギルドも巻き込んで、既にそうした方策を取ってはどうかと。」
「となると、残るのは。」

残るのは、このまちに暮らすいくらかの貴族たち。

「あの、いくら何でも。」
「ええ。いくら何でもというものです。」

貴族ともあろうものが、為政者ともあろうものが時流が読めぬのかと、そうオユキは言うしかない。
勿論、反対意見を出すというのは重要だ。議論というのは、見落としを一つでも無くすための手段として有用ではある。互いの理解を深める為にも、避けては通れぬ類の物だ。ただ、メイの様子を見る限り、反対している者達は全くもって議論の場に出る事も無いのだろう。彼らはあくまで彼らの意見をメイに、年若い少女にぶつけてそれで終わりとしているのだろう。

「それは、ミズキリも嫌いそうな手合いですね。ケレスさんは、相手にしないでしょうが。」
「正直、執務室でその二人がなかなか派手にやり合っているのも、私の疲れの一因なのです。」
「私から何か言ったとして、いえ、私が向かって行けばまた色々と言われそうなものですし、こう。」

仮にオユキが出向けば、間違いなく矛先がオユキに変わる。
メイからは人身御供としてどうかと、そうした風に言われている。実際に彼女が考えているかはさておき、メイよりも何を言っているのか、物事に対してどう考えどう振舞うのかよくわかっているのだろうと、旧い知り合いなのだからどうにかと言われているのは分かるのだが。
それを果たしてトモエが許すかどうか。オユキとしては、そちらが難問なのだ。

「トモエさん、許してくれるでしょうか。」
「それは、どうなのでしょう。」

のんびりと、互いに視線を送る先ではトモエが子供たちへの手入を終えている。オユキとメイから揃って視線を向ければ、何やら実に良い笑顔を浮かべるだけ。

「その、ダメそうです。」
「そのようですわね。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

処理中です...