767 / 1,214
22章 祭りを終えて
人を返した後には
しおりを挟む
「少し、いえ、大分疲れましたね。」
ここ数日、オユキの活動時間は非常に短かった。しかし今日はどうだ。午前中、昼食がいつもより少し遅い時間になる程度には仕事に励み、昼からも同様に。メイと四阿でのんびりと話をしただけではあるのだが、それにしても夏の気配も近づいている陽気の中で行ったため、しっかりと体力が削られたらしい。
ここ暫くは、トモエがオユキの為にと手ずからお粥に近い、麦を煮込んだものを作ってくれたりもしていたのだが、それも今一つ喉を通らず側にいるトモエに仕方が無いとそういった風に笑いかけられる。
「そうですね。今日は随分と長い時間でしたから。」
「これまでに比べれば、短いものではありますが。」
「まだまだ、体力が戻っていないという事なのでしょう。」
いつぞやに領都で買い求めた銀食器、その中でもスープ用の匙にいくらかを乗せてオユキの口元に運びながらトモエが。
「無念です。」
「そういう物ではありませんよ。」
口元に運ぶものを、少しづつ食べる速度が落ちたからだろう。そろそろ、オユキの方でも食べる事自体に抵抗を覚えているのだと見切りをつけたトモエが、器を一度机に置いてでは薬をと準備を始める。準備と言っても、以前のように飲むのに色々と手間がかかるようなものではなく、簡単な木製の器に入れられた物をそのまま飲むだけなのだが。
「さ、オユキさん。」
「はい。それにしても、このあたりでは陶器もありませんか。」
思えば炭焼き小屋くらいはこのあたりにも作られているのだが、それに合わせて、少なくともそうした技術はあるのだから焼成窯くらいはあっても良いのではないかと、そんな事をオユキはぼんやりと考える。トモエに補助をされながら流し込まれる薬に関しては、いよいよ独特の香りがついており素材を存分に活かしたのだろうえぐみが舌を襲う。完全に夢現の頃には気になりもしなかったが、今となっては、先ほどまで口に運ばれていた蜂蜜の甘さがほのかに付けられた優しい麦粥と比べて思わず眉を顰めるというものだ。
「オユキさんは、どう思いますか。」
「そう、ですね。難しさというのはやはりあるものかと。各々に合わせた武器を、こちらでは使える訳ですから。」
脈絡もなく、トモエとオユキでなければそう感じるだろう言葉に、オユキは遅滞なく。
「仕方がない、あまり好きな言葉ではありません。」
「そうでしょうとも。他に方法が無いかと言われれば、やはりトモエさんが扱う武器を増やして、手本とし見せるしか無いでしょう。私が扱える武器の数は、やはりトモエさんに比べてしまえば少ないですから。」
「ですが。」
「正直、然したる痛痒はありませんよ。」
トモエからしてみれば、実際に使わない。戦場に持ち込むことが無い物を揃えるのはと、そうした抵抗を覚えているのはオユキにもよくわかる。しかし、それをしたところでもはやファンタズマ子爵としての家が傾く事は無い。トモエげ倹約かという程では無いのは理解しているのだが、それでも勿体ないとそう感じるのは承知の上。
しかし、迷っている。
少年達がより良いようにと、そう考えて悩んでいるのであれば、鐘で解決できることなどしてしまえと、オユキとしてはそう思うのだ。こうしたオユキの考えというのを、貴族的等と揶揄する手合いも昔はいたのだがこちらではまさにそれだ。部屋の隅にいるシェリアなども、その通りとばかりにオユキの提案に頷いている。
「ただ、問題は。」
「そう、ですね。」
しかし、厳然たる問題がそこにはある。
「ウーヴェさんは、変わらずお忙しそうでしたか。」
「はい。私たちの武器を一手に引き受けていただいている、そういった評が回っているようでして。」
先ごろであった時には、雑談に興じる位の時間は彼も確かに持っていた。一通り彼お手製の武器が出回り、それで今はどうにか落ち着きを見せているのだろう。しかし、そこにトモエが相応にまとめて手直しを持ち込んだ。今頃はそれらに向けて、彼とて最善を尽くしてくれているに違いない。そして、そうした余裕を見れば彼に他の者達も頼み込むのだろう。
「後は、オユキさんも気が付いているでしょうが、私達がこれまで手にしていたものはそろそろ。」
「そう、ですか。」
「そこで、代わりを頼む為に、オユキさんの体調が戻ればですが、中型を狙いに行こうかと。」
そんなトモエの提案に、オユキは思わず数回瞬きを返す。
正直な所、意外な提案としか思えないのだ。弘法筆を選ばずなどという事は当然ないが、トモエはそれでも普段使いとする武器をいくつか持っているわけであるし、オユキにしてもそうだ。最も良いと感じる物は、変わらず溢れのソポルト、熊の魔物の爪や牙を使って拵えたものなのだが何もそこまでこだわらなくてもと、オユキとしてはそういった考えではあったのだ。
「オユキさんも、今後は少し時間が取れるのでしょう。そうなれば、やはりもう少し私たちは私達で道を歩くのも良いでしょうから。」
「それは、そうかもしれませんが。」
「これは、私の我儘ですよ。もう少しオユキさんと、やはりこちらの世界を楽しみたくはありますから。」
「分かりました。」
トモエがはっきりとそう口にするのならば、オユキにも否は無い。
何も中型を己で狙わずとも、誰かに頼んでと考えていたし寧ろそうした形で少しくらいはそれぞれの都市に還元するのも良いなどと考えてはいたのだが、そういった考えを完全に一度止めてしまう。僅かに公爵からトモエが与えられている鎧、蛇の魔物から得た鱗を使って拵えたなどと言われている鎧を何ならウーヴェに頼んで鋳つぶして、若しくは色々と行った事に対して与えられている下賜品の宝剣たちをなどと考えもしたのだが、そういった物を今は一度止めて。
「では、何時にしましょうか。」
「まずは、オユキさんは療養に専念してください。」
気持ちが上向き、ついつい先走るオユキにトモエが直ぐに苦言を呈す。
「今の状態では、中型が出る場所まで向かうだけで、直ぐに疲れますよ。」
「この町でしたら、日帰りがどうにか適うとそういった距離ですか。」
先ごろ行われた狩猟祭では、少々異例の事と言えばいいのか、それこそ神々の差配によって町の近くにもそうした魔物の姿が見られたのだが、本来であればもっと離れた場所に現れるような相手だ。
流石に寝室に狩猟者ギルドで買い求めた資料などは置いていないのだが、どうにか思い出しながらトモエが話しを進める。どうにも、オユキはこうした話が楽しいのだろうからと。トモエにしても楽しい話題ではあるからと。
「以前見たバイソンでしょうか、長毛種の牛等が最たるものらしいのですが、どうにもそちらはあまり武具には向かないとか。」
「そうですね。以前聞いた話によれば、魔物の素材を武器にするならば攻撃に使う部位がなどという話でしたが。」
確か王都で試し切りをしたときに、狩猟者ギルドの担当者がそのような話をしていたはずだ。そんな事を思い返してオユキは呟くのだが、しかしそうであれば他に気になるところもある。
「その辺り、ウーヴェさんはどの様にお考えなのでしょうか。」
「ウーヴェさんが、ですか。」
「はい。武器を頼むのは、今のところあの方以外にはいないでしょう。であれば、知恵をお借りするのが良いかと。」
トモエには無い観点を、オユキから。
素材などというのは、どう使うかはそれこそ作り手次第。一般に向かないとされているものにしても、ではウーヴェがそうかと言われればまた違う話でしかない。
「ウーヴェさんは、ソポルトの頭蓋骨も興味を示されていましたから、恐らく使い道があるのだと思いますよ。加えて、やはり刃の鋭さというのは後で研いでつけるものかと。」
「言われてみれば、確かに。」
オユキの意見に、確かにそれには理が有るとトモエは頷く。思い返してみれば、ウーヴェはシグルドにも骨全てを使った上で、どれだけの武器が作れるのかとそういった話をしていた。確かに、こうして話をして、改めて考えてみればわざわざ爪や牙といった部分で別に刃を作ってそれをかぶせるなどというのはあまりに面倒とそう考えられるものだ。実態は分からない、ただ、技術者の話を無視してというのも流石に無理があるかもしれない。
「溢れのソポルトと同等なら、中型以上とはウーヴェさんの言葉ですが。」
「そこまで話をされたのなら、ついでにどういった魔物が良いかも。」
「その、私はあまり詳しくはないですし、ウーヴェさんもこちらに来て間もない、という程ではありませんか。」
「そういえば、そうですね。」
すっかりとと言えばいいのだろうか、それとももっと他の言葉があるのだろうか。オユキはついついそんな事を考えてしまう。こちらに来てからこうして完全に体調を崩すのは、都合二度目。合間に一度、隣国から戻った折にはトモエと揃って長く眠り込んでいたというか意識を失っていた期間もあったと聞いてはいるのだが、自覚が出来る範囲はそれ。それ以外にも、移動に随分時間を使ってしまっているためどうにも時間ん感覚が狂っている。つい先ごろ迄、こちらに来て初めての冬だと思えば、今となっては夏の気配が近づいている。常春の国とは言え、やはり多少の気温の変化はある。マナが変わってきているのもオユキは殊更感じる。確かに時間が経ち、日々が過ぎているとは思う物のどれほどの時間が経ったのか、それが少々曖昧になっていたなと。
「オユキさん、また眠りますか。」
「そう、ですね。」
どこか空転する思考、トモエが側にいるというのに、己の考えにばかり意識が向くのは、眠気が訪れているからに違いない。
「今はしっかりと休んで、体調が良くなればまた少し遠出としましょう。」
「トモエさんは、領都と王都、それぞれどれくらい滞在したいでしょうか。」
「色々と見て回るのなら、一週程必要かと、いえ、かなり広いわけですから。」
オユキが、そろそろと落ちて来る瞼をそのままに、オユキも今後考えている事があるのだとトモエに伝えれば、トモエの方でもそれは楽しそうだとそういった声が返ってくる。
「また、神殿は見に行きたいですね。」
トモエの、そうした見て回りたい場所の話を聞きながら、オユキは意識を手放す。
ここ数日、オユキの活動時間は非常に短かった。しかし今日はどうだ。午前中、昼食がいつもより少し遅い時間になる程度には仕事に励み、昼からも同様に。メイと四阿でのんびりと話をしただけではあるのだが、それにしても夏の気配も近づいている陽気の中で行ったため、しっかりと体力が削られたらしい。
ここ暫くは、トモエがオユキの為にと手ずからお粥に近い、麦を煮込んだものを作ってくれたりもしていたのだが、それも今一つ喉を通らず側にいるトモエに仕方が無いとそういった風に笑いかけられる。
「そうですね。今日は随分と長い時間でしたから。」
「これまでに比べれば、短いものではありますが。」
「まだまだ、体力が戻っていないという事なのでしょう。」
いつぞやに領都で買い求めた銀食器、その中でもスープ用の匙にいくらかを乗せてオユキの口元に運びながらトモエが。
「無念です。」
「そういう物ではありませんよ。」
口元に運ぶものを、少しづつ食べる速度が落ちたからだろう。そろそろ、オユキの方でも食べる事自体に抵抗を覚えているのだと見切りをつけたトモエが、器を一度机に置いてでは薬をと準備を始める。準備と言っても、以前のように飲むのに色々と手間がかかるようなものではなく、簡単な木製の器に入れられた物をそのまま飲むだけなのだが。
「さ、オユキさん。」
「はい。それにしても、このあたりでは陶器もありませんか。」
思えば炭焼き小屋くらいはこのあたりにも作られているのだが、それに合わせて、少なくともそうした技術はあるのだから焼成窯くらいはあっても良いのではないかと、そんな事をオユキはぼんやりと考える。トモエに補助をされながら流し込まれる薬に関しては、いよいよ独特の香りがついており素材を存分に活かしたのだろうえぐみが舌を襲う。完全に夢現の頃には気になりもしなかったが、今となっては、先ほどまで口に運ばれていた蜂蜜の甘さがほのかに付けられた優しい麦粥と比べて思わず眉を顰めるというものだ。
「オユキさんは、どう思いますか。」
「そう、ですね。難しさというのはやはりあるものかと。各々に合わせた武器を、こちらでは使える訳ですから。」
脈絡もなく、トモエとオユキでなければそう感じるだろう言葉に、オユキは遅滞なく。
「仕方がない、あまり好きな言葉ではありません。」
「そうでしょうとも。他に方法が無いかと言われれば、やはりトモエさんが扱う武器を増やして、手本とし見せるしか無いでしょう。私が扱える武器の数は、やはりトモエさんに比べてしまえば少ないですから。」
「ですが。」
「正直、然したる痛痒はありませんよ。」
トモエからしてみれば、実際に使わない。戦場に持ち込むことが無い物を揃えるのはと、そうした抵抗を覚えているのはオユキにもよくわかる。しかし、それをしたところでもはやファンタズマ子爵としての家が傾く事は無い。トモエげ倹約かという程では無いのは理解しているのだが、それでも勿体ないとそう感じるのは承知の上。
しかし、迷っている。
少年達がより良いようにと、そう考えて悩んでいるのであれば、鐘で解決できることなどしてしまえと、オユキとしてはそう思うのだ。こうしたオユキの考えというのを、貴族的等と揶揄する手合いも昔はいたのだがこちらではまさにそれだ。部屋の隅にいるシェリアなども、その通りとばかりにオユキの提案に頷いている。
「ただ、問題は。」
「そう、ですね。」
しかし、厳然たる問題がそこにはある。
「ウーヴェさんは、変わらずお忙しそうでしたか。」
「はい。私たちの武器を一手に引き受けていただいている、そういった評が回っているようでして。」
先ごろであった時には、雑談に興じる位の時間は彼も確かに持っていた。一通り彼お手製の武器が出回り、それで今はどうにか落ち着きを見せているのだろう。しかし、そこにトモエが相応にまとめて手直しを持ち込んだ。今頃はそれらに向けて、彼とて最善を尽くしてくれているに違いない。そして、そうした余裕を見れば彼に他の者達も頼み込むのだろう。
「後は、オユキさんも気が付いているでしょうが、私達がこれまで手にしていたものはそろそろ。」
「そう、ですか。」
「そこで、代わりを頼む為に、オユキさんの体調が戻ればですが、中型を狙いに行こうかと。」
そんなトモエの提案に、オユキは思わず数回瞬きを返す。
正直な所、意外な提案としか思えないのだ。弘法筆を選ばずなどという事は当然ないが、トモエはそれでも普段使いとする武器をいくつか持っているわけであるし、オユキにしてもそうだ。最も良いと感じる物は、変わらず溢れのソポルト、熊の魔物の爪や牙を使って拵えたものなのだが何もそこまでこだわらなくてもと、オユキとしてはそういった考えではあったのだ。
「オユキさんも、今後は少し時間が取れるのでしょう。そうなれば、やはりもう少し私たちは私達で道を歩くのも良いでしょうから。」
「それは、そうかもしれませんが。」
「これは、私の我儘ですよ。もう少しオユキさんと、やはりこちらの世界を楽しみたくはありますから。」
「分かりました。」
トモエがはっきりとそう口にするのならば、オユキにも否は無い。
何も中型を己で狙わずとも、誰かに頼んでと考えていたし寧ろそうした形で少しくらいはそれぞれの都市に還元するのも良いなどと考えてはいたのだが、そういった考えを完全に一度止めてしまう。僅かに公爵からトモエが与えられている鎧、蛇の魔物から得た鱗を使って拵えたなどと言われている鎧を何ならウーヴェに頼んで鋳つぶして、若しくは色々と行った事に対して与えられている下賜品の宝剣たちをなどと考えもしたのだが、そういった物を今は一度止めて。
「では、何時にしましょうか。」
「まずは、オユキさんは療養に専念してください。」
気持ちが上向き、ついつい先走るオユキにトモエが直ぐに苦言を呈す。
「今の状態では、中型が出る場所まで向かうだけで、直ぐに疲れますよ。」
「この町でしたら、日帰りがどうにか適うとそういった距離ですか。」
先ごろ行われた狩猟祭では、少々異例の事と言えばいいのか、それこそ神々の差配によって町の近くにもそうした魔物の姿が見られたのだが、本来であればもっと離れた場所に現れるような相手だ。
流石に寝室に狩猟者ギルドで買い求めた資料などは置いていないのだが、どうにか思い出しながらトモエが話しを進める。どうにも、オユキはこうした話が楽しいのだろうからと。トモエにしても楽しい話題ではあるからと。
「以前見たバイソンでしょうか、長毛種の牛等が最たるものらしいのですが、どうにもそちらはあまり武具には向かないとか。」
「そうですね。以前聞いた話によれば、魔物の素材を武器にするならば攻撃に使う部位がなどという話でしたが。」
確か王都で試し切りをしたときに、狩猟者ギルドの担当者がそのような話をしていたはずだ。そんな事を思い返してオユキは呟くのだが、しかしそうであれば他に気になるところもある。
「その辺り、ウーヴェさんはどの様にお考えなのでしょうか。」
「ウーヴェさんが、ですか。」
「はい。武器を頼むのは、今のところあの方以外にはいないでしょう。であれば、知恵をお借りするのが良いかと。」
トモエには無い観点を、オユキから。
素材などというのは、どう使うかはそれこそ作り手次第。一般に向かないとされているものにしても、ではウーヴェがそうかと言われればまた違う話でしかない。
「ウーヴェさんは、ソポルトの頭蓋骨も興味を示されていましたから、恐らく使い道があるのだと思いますよ。加えて、やはり刃の鋭さというのは後で研いでつけるものかと。」
「言われてみれば、確かに。」
オユキの意見に、確かにそれには理が有るとトモエは頷く。思い返してみれば、ウーヴェはシグルドにも骨全てを使った上で、どれだけの武器が作れるのかとそういった話をしていた。確かに、こうして話をして、改めて考えてみればわざわざ爪や牙といった部分で別に刃を作ってそれをかぶせるなどというのはあまりに面倒とそう考えられるものだ。実態は分からない、ただ、技術者の話を無視してというのも流石に無理があるかもしれない。
「溢れのソポルトと同等なら、中型以上とはウーヴェさんの言葉ですが。」
「そこまで話をされたのなら、ついでにどういった魔物が良いかも。」
「その、私はあまり詳しくはないですし、ウーヴェさんもこちらに来て間もない、という程ではありませんか。」
「そういえば、そうですね。」
すっかりとと言えばいいのだろうか、それとももっと他の言葉があるのだろうか。オユキはついついそんな事を考えてしまう。こちらに来てからこうして完全に体調を崩すのは、都合二度目。合間に一度、隣国から戻った折にはトモエと揃って長く眠り込んでいたというか意識を失っていた期間もあったと聞いてはいるのだが、自覚が出来る範囲はそれ。それ以外にも、移動に随分時間を使ってしまっているためどうにも時間ん感覚が狂っている。つい先ごろ迄、こちらに来て初めての冬だと思えば、今となっては夏の気配が近づいている。常春の国とは言え、やはり多少の気温の変化はある。マナが変わってきているのもオユキは殊更感じる。確かに時間が経ち、日々が過ぎているとは思う物のどれほどの時間が経ったのか、それが少々曖昧になっていたなと。
「オユキさん、また眠りますか。」
「そう、ですね。」
どこか空転する思考、トモエが側にいるというのに、己の考えにばかり意識が向くのは、眠気が訪れているからに違いない。
「今はしっかりと休んで、体調が良くなればまた少し遠出としましょう。」
「トモエさんは、領都と王都、それぞれどれくらい滞在したいでしょうか。」
「色々と見て回るのなら、一週程必要かと、いえ、かなり広いわけですから。」
オユキが、そろそろと落ちて来る瞼をそのままに、オユキも今後考えている事があるのだとトモエに伝えれば、トモエの方でもそれは楽しそうだとそういった声が返ってくる。
「また、神殿は見に行きたいですね。」
トモエの、そうした見て回りたい場所の話を聞きながら、オユキは意識を手放す。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
419
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる