憧れの世界でもう一度

五味

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17章 次なる旅は

ミズキリ

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「オユキさんは、随分と思い悩まれているようですが。」
「はい。」

サキの方でも、あれこれと話をしていたアルノーが進む酒に合わせて、手加減を忘れ。トモエとしても、凡そ必要な情報は引き出せたはずだと考える頃には、自然とお開きの流れが出来上がっていた。アベルの方でも、いよいよアイリスと話し合いを進めているだろう。そこに新たに加えられた情報というのは、確かに彼にしても考える事が増えた様子であり、黙考を友とするものが席に増えた。アイリスにしても、合間に祖霊であったり、神々であったり。簡単に間に入れる者を使う訳にもいかなかったため、多少の疲れは感じたようで、あくびも増えだしていた。
夜中の食事、年頃らしく気にするそぶりを見せたサキではあるが、他の者は一切気にせずに食べ進めていたそれらが無くなったというのも大きいだろうが。
トモエにしても、セミフレッドとバーチ・ディ・ダーマを口に運んでいたものだ。

「先ほどの席では、色々と有難う御座いました。」
「いえ。最低限は私でも出来る物ですし、任されているわけですから。」
「それでも、私が嬉しかったので。」
「では、頼られて嬉しかった私からも、有難う御座います。それに、私の為というのもありますから。」

いよいよ辺境では然したる違いが出る物では無かった。そのような余裕が無いという、至極もっともな理由があるため納得が出来る物だが、王都までほど近い場所に足が伸びれば、そこにはやはり土地特有の者ちうのがある。そして、かつてトモエが好んでいた品というのが加工された物も、当然出て来る。

「味覚が変わって、そのようにも考えていましたが。」
「幸い、今も好きですよ。オユキさんが、初めて私のためにと選んでくださったお菓子でもありますから。」

それこそ原料の原産地を考えれば、存在しないだろうものだが、こちらにはやはり有名な菓子の類が息づいている。そして、イタリアと言えば思いつくお菓子というのは、ココアパウダーが使われている。そして、それに気が付いたオユキが早々にあれこれと手を打つために考えているというのもある。今日も、枕としてアルノーにオランジェット、トモエが酒の肴にだけではなく好んでいたものを話し、その辺りからサキが製菓に興味があると話を広げた事もあるのだ。

「でしたら、何よりです。私にしても、恐らく今後も変わらず五指に入る難問でしたから。」
「食べる事は好きですよと、そう示してはいたと思うのですが。」
「ええ。だからこそ、悩んだというものです。」
「今のオユキさんの悩みは、では、それと比べて。」

では、トモエに任せて、一応話の流れではトモエの方が知識を蓄えている事があるから適任ではあるのだが、己の思考にいよいよ何故オユキが没頭していたのかと言えば。

「こちらは、そうですね、数える手を増やすかどうか。」
「ミズキリさん、ですよね。」

ここまでなりふり構わぬ、身内の意識がこの度の間で強くなっていることを含めても、そこまでするほどに頭を悩ませている事、それはいよいよ過去と変わらない。

「はい。」
「あの方の目的は、恐らく過去から一貫していると考えていますが。」
「私もそこは疑っていません。」

トモエから見て、一言で評するなら夢想家となる。ただ、それを現実とするだけの能力を持っているため、傍から見れば野心家とそう言った評価になるのだろう。もっと他の評価が生まれてくるのだろう。

「ですが、どうにもミズキリ自身、急ぐつもりがありそうなのですよね。」
「さて、いよいよ急いだところで意味があるとも思えませんが。」
「意味ならあります。」

トモエの知らぬ時間が、そこには確かにある。如何に本質を見る目というのが、オユキよりもトモエの方が遥かに抜けていようとも。

「ルーリエラさんについて、考えていました。」
「ご本人が、花精と自称されていましたね。しかし。」
「言葉の問題がそこにあります。アイリスさんの言葉にしても、己の種族ではなく、部族となっているように。」
「成程、言われてみれば。」

トモエは言葉にやはりオユキよりも親しんでいない。関係性、拙い言葉、感情の暴発、そういった物はオユキよりもよほど馴染んでいるのは確か。しかし、仕事として言葉を扱うという経験がそこには無い。対外的な交渉を嫌という程行い続けたオユキの持つそれが。トモエは確かにオユキがなにを為そうとしているか、得るべきものを得るために何を行っているか正しく理解している。しかし、それはあくまでオユキに対する理解がそうさせているに過ぎない。

「花の精、要は精霊です。そして、こちらには当然あちらに無かった花も存在します。」
「木も、花をつけますか。」
「ええ。そこで恐らく明確に種族として分かれる余地があるとは思うのですが、いえ、そちらはあまり関係ありませんね。」

どうにも思考が纏まり切っていない事もあり、弁舌にしても千々になるとオユキはトモエと肩を並べたままに軽く頭をゆする。

「前にも話したとは思いますが、あの二人が如何にして、それを伺わなければ想像の域を出る事は無いでしょう。」
「アベルさんからは、なんと。」
「狩猟者ギルドに問い合わせていただきましたが、始まりの町以前の記録は無いと。しかし、アーサーさんが保証をして通したことで町への滞在が認められ、そこからという事だそうです。」

つまり、そちらにしても分からぬ事ばかり。

「門番、アーサーさん達も。」
「変わらずそこにおられる方々ですね。」
「それは。」
「いえ、流石に私もそこまで記憶にあるわけでは。トラノスケさんなら、覚えているかもしれませんが。」

マリーア公爵の領都、そして、王都。どちらもオユキ達が使う門を守っていた者達は騎士だ。門番ではない。始まりの町がいかに長閑とは言え貴族はいる。そして、それに抱えられる騎士達も、相応に。そう言った者達と比べてしまえば、身近であったアベルやイマノルと比べても、明らかに異質な存在として門番たちというのが存在する。

「これまでに居られたのは、始まりの町と、王城、それから水と癒しの神殿だけでしたね。」
「遠目に見ただけで、分かりますか。」
「はい。先の闘技大会、そこに王城の門を守られている方が出られていれば、オユキさんとああして楽しい時間を得られる事は無かったでしょう。」
「はい。私では、今のところアーサーさんにも及びませんから。」

師からのあまりにもはっきりとした言葉に、オユキとしては少々ため息が零れもするが。

「さて、どうしても前置きばかりで話が逸れますね。この世界の持つ、最も大きな事柄。」

この世界というのは、始まりから歪を抱えている。そして、それはかつての世界ではありえない認識。

「そうですね。以前零されていましたね。異邦人たちはこの世界の前身となる物、そちらにいた記憶があると、確かそのように。」

こちらに暮らす者達は、知っているのだ。だから異邦人という存在を認識ができる。そして、総体として示す言葉を齟齬なく使う事が出来る。世界の切り離し、その話があるというのに。それこそオユキやトモエに対して行っているように、改めて等とも考えもした。言葉が伝わっていないからこそ、そこに何かが生まれているのかとも勘繰った。しかし、これまでの事を考えてしまえば、そうでは無いと否でも分かる。この世界を作った者達、神々がそれを認識しているのだ。

「言われてみればと、そう言った所ではありますが。」
「はい、切り離しを行うとして、ではあちらの想念の影響を受けると仰った三狐神、運ぶものであるカナリアさん達の造物主。それらから取り上げる物でしょうか。」
「だとすると、やはり先々になるのでは。それで神々もお忙しいのだろうと、そう考えているとオユキさんも。」
「どうにも、それを考え直さねばならない、そのように。」

そして、何もミズキリだけではないのだ。勿論オユキだけでもない。この世界を楽しんでいたものはあまりにも多い。確かに世界に名だたる企業に迄、一代で押し上げた。しかし、そこには当然より規模の大きな組織を守り続けた物たちもいれば、同様の事を別の方面で為したものもいる。割合ばかりは分かる物ではないが、そう言った相手が全く存在しないと考えるのも道理に合わない。

「つまり、ミズキリさんも急ぐだけの、競うだけの事があると。」
「そうでは無いかと考えていました。」

その案を、ミズキリが伏せているであろうことというのを前提として、オユキはこれまで考えていた。しかし、魔国の王ともほど近いというのに、どうにも首をかしげざるを得ない事ばかりがそこにはある。

「そこまでを考えたときに、別の大陸、かつて私も見つけたそちらに思考が及ぶわけです。」
「ですが、それでは神殿が。」
「この世界に10の神、それに嘘は無いと、そう考えています。しかし、こちらで神殿とされているものが、元は教会であった。それもありそうな話ではあるのですよね。」

そこまで話して、オユキはため息を一つ。

「彼の民俗学者の言葉ではありませんが、実際に見なければ結局は夢想の如き思考遊び、その域を出ないのだと。」

オユキが、楽しい時間を犠牲にしても思考を行っている。その最たる理由は、何処まで行ってもそこにある。こちらの世界は、己の両親の手が加わっていると理解した。恐らくは、旅の終わりに、それを確かと出来る機会もあるだろうと予想は出来る。しかしそれ以上を望むのならばと、そう言われているのだと。

「オユキさん、それについては最後の時まで決めずとも良いと思いますよ。」
「引継ぎは、ありますから。」
「それがないように、これまで為してきました。お互いに。打ち明けた事もあります。」

そういった荷物を少しは降ろせるように。だからこその時間があったではないかと。

「優しい方々ですから。」
「それは、はい。恵まれています。有難い事です。」

そして、そう言った背景に理解を示してくれる相手、その優しさというのは暖かいものだ。失われる事を、ただ静かに見つめ続けた物に、今一度の熱を与えるほどに。

「確かに、期限までが短くなれば、意見も変わりそうです。」
「我が心、我が事ながらいくつになっても、全く。義父に叱られそうですね。」
「オユキさんの前では殊更らしく振舞っていましたが、制御という意味では自制の利かない事もままありましたよ。」

そこはそれ。トモエが心配をするから、オユキはそれを伏せる。それでもやはり今後も考え続けるのだと、それはトモエも理解している。変わらぬ物というのが、良くも悪くも確かにあるのだと。
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