憧れの世界でもう一度

五味

文字の大きさ
上 下
607 / 1,214
17章 次なる旅は

気になるのは

しおりを挟む
トモエとしての考えは、ある程度固まった。
流石に、この場で直接名前を出してという事は選べないが、始まりの町で次に何をするべきかについては、それを基にオユキとと共に備えようという事が。始まりの町で、間違いなく何かがある。時間があれば、そこに詰め込まれる予定が存在するというのは、オユキとトモエの共通認識だ。神々がそれを為さぬとして、動かせる人材がいるというのに、それに対して何の予定も与えないというのは二人の知るミズキリの振る舞いでは無いと、その理解がある。
そして、そう言った振る舞いに対してオユキとトモエから、ミズキリという人物に向けて行う意趣返しが存在しており、そこに対しても勿論何かしてくるだろうとも。
サキとアルノーは、すっかりと別の事を同じ部屋の中で話し込んでいる。同じ場にいるというのに、少し置いておくような真似を申し訳なくは確かに思うのだが、二人とも興味が無いであろう事柄でもあるため、仕方が無いところもある。ただ、話の流れをそれとなく聞いている範囲では、アルノーはしっかりとトモエの予想を把握しており、その場での手伝いをサキにとそう考えていることもあるようにも思える話の流れをサキに対して作っている。

「トモエさん。」
「何でしょう。」
「予想が正しいとして、祖霊とするにはまた少し系統の違う柱でもあります。また、司る物についてもアイリスさんの祖霊様より既に得た物があります。」

そして、思考で遊んでいたオユキが、無視できない疑問として抱えているものを改めて。

「豊饒の加護、ですね。」
「はい。アイリスさんには申し訳ない予想です。加えて、神国の神殿が。」

思い当たる相手、それが司るものは豊饒と治癒。女神でもあるため、処女性などもその権能に含まれている。オユキの懸念としては、神国にもたらされる加護としてその二つというのが今一つ納得がいかない。前者は既に大掛かりな事柄として、五穀豊穣の加護を勝ち取っている。そして、その祖霊から既に飢えとは無縁なのだと、そのように評されている。後者にしても、そもそも神国が擁する神殿、そこに坐す柱が司る権能だ。
だというのに、そこにさらなる加護をというのは、始まりの町で試しを受けるというのは、まるでそのどちらにも不足があると言われているに等しい。そのような事は、特に後者に対してはあり得ないだろうというのがオユキの考えでもある。

「豊饒と治癒、その加護を異なる柱から。それについて、ですよね。しかし、魔国の事もあります。何も直ぐにという事は無いでしょう。そうであるなら。」
「魔国より、お招きした時期に合わせて、ですか。」
「後は、三狐神からは、加護のある土地は飢えとは無縁である、そう言われただけですから。」

始まりの町だけではないのだ、飢えの不安が生まれる場というのは。

「ミズキリの拠点もありますか。しかし。」
「確かに、断定をせずとも、可能性がある以上は備える必要もありますね。」

一先ず、ここまでの話で予想できる相手がいる為、それに対して何もせぬというのは望まぬでしょうと。

「確かに、魔国を念頭に置けば、最も可能性は高そうではありますか。」

知識と魔の国、この国がその背景に抱えているのはかつてのイタリアだ。神国がスペインとなっているため、確かに地理関係という意味では大いに首をかしげはするものだが、それこそそのような設定を元にしているのだからとトモエからは言うしかない。

「そっちだけで、分かったように話を進めちゃいるが。」
「かつての世界に重ねた話ですから。こちらでは、どうでしょうか。伝わるかも正直。」

オユキがそう前置きを作り、トモエに目線を送ってきたため、改めて公算の高い相手というの伝える。

「女性による秘祭がある、それだけは分かった。」
「流石に、聖名を直接お呼び立てはしていませんが、そこだけでも伝わったなら何よりです。」

司る加護の形、それにしても伝わっていないあたり、トモエとしてもそれに僅かに疑念は覚える。オユキも、そこで何か思うところがあるようで、また考え事に。
どうにも、明確にそういった制限が存在すると気がついていることもあり、それを避けるにはどうすればいいのか、そう言ったところ考えながら話していることもあるのだろう。自覚があり、それを神々も認めていると知っている。だからこそ、その辺りの制限が緩くなっていると、それもあるだろう。別として、制限が緩くなっているとかつて言われた事もあるだろう。

「後は、加護か。ただ、そちらにしても神々の権能として、重なるものがあるのはままあるからな。」
「その、こちらでの事は、私たちも正直主たる10の神、教会に置かれている神像の方々以外は、あまり。」
「持祭の嬢ちゃんたちから聞いてないのか。」

何故、そう言った話をしないのかと、アベルから責める様な声色で返ってくるものだが。

「生憎と、そう言った機会も考えましたし、実際に10の神のお話を少しは伺いましたが。」
「あー、まぁ、あの嬢ちゃんたちだと体系的に話すのは難しそうだな。にしても、豊饒と治癒か。確か、お前らが少し不安視していただろ。あくまでアイリスの祖霊が司るのは、五穀だと。」
「それも、そうなのですよね。」

税として扱われるものが含まれているため、そこから転じてとトモエは考えているが商売に対するものも含んではいる。ただ、先の事では、それに言及されなかったため、いよいよ関係の無い事ではあるのだが。

「祖霊様の加護は、まぁ、確かに限られた範囲よ。勿論、そのお力で他にも影響は与えるでしょうけれど。」

そして、軽視するような話の流れについては、流石にアイリスにしても割って入ってくる。
事実として、加護が与えられるとなってすぐに、五穀とはおおよそ関係のなさそうな、イネ科だとすれば、大きく見ればというところもあるが、雑草、下生えの草と言った物が目に見えてとなっていた。つまりは、アイリスが未だに語っていない事、その辺りも大いに関わってくる。カナリアたちの創造神にしても同様に。モデルではあっても、実物ではない。そう言った複雑がきちんと背景には存在している。オユキも気にしているナザレアの角の形状。それもある。現在のトモエの想像が正しければ、混同されているのは山羊であって羊ではない。

「ただ、アイリスさんとしても、人が暮らす上での不足は否定しませんか。」
「それこそ、祖霊様が大いに力を振るわれるのであれば、単独で十分よ。私たちが勝ち得た物がその程度、そう言う話でしかない物。」
「まぁ、それはそうなのですが。」

恐らく、そのような前置きも必要ない神国における最高位の戦力、そう評しても遜色のない物が参加し、大いに力を示したというのに与えられるものはその程度。加護を頼み、伸び悩んでいた人物ではある。その事実を差し引いたとしても。

「ま、何を気にしてるかは分かった。俺じゃ結局のところ不足が多すぎる。それは事実だからな。」
「いえ、国の中では確かな方だと。」
「それはそうだが、だからと言って、これまで以上を望むのに、これまでの枠組みでというのは評価しようにもという事なのだろうな。」

そして、濁していたこともアベルには正しく伝わっている。
梃入れが無ければ、これまででは不足があった。それは特定の個人だけという訳ではなく、凡そこの世界全てに。それを補うための、異邦人という枠組みだ。オユキがトモエに向けて話すには、現在を得てからではなく、過去の事としても。それがゲームとしての最低要件だと、遊ばぬトモエだからこそ、理解が及んだものだ。遊ぶものが居らずとも完成しており、不足が無いのであれば、それはもはや遊んで楽しめる様な物ではない。解消するべき何かが無いのであれば、凡そプレイヤーとして介入する余地などそこに生まれない。

「変える為には、外力が必要になることも多いものですから。」
「それにしても、異邦の知識があるとはいえ、あなた達、本当に良く考えるものね。」

さて、アイリスがついには諦めたように。

「祖霊様から、良しとされたのだから、私からも話すけれど。ええ、ナザレア、あの種族が祀る祖霊というのは秋と豊饒、その流れをくむ相手よ。」
「やはり、ですか。」
「あなた達の種族は、これまで祈ってもいなかったようだけれど、多産、これからはその加護もいるのでしょう。」
「ああ、それもそうだな。得られないという前提があったわけだが、それが変わるというのであれば、確かに。貴族階級の者達は、それこそ実に喜ぶだろう。」

豊饒という言葉がかかるのは、何も食料だけではない。

「後は、やっぱり余剰でしかないのよ、穀物以外は。それと、アベルも考えている事だけれど、あの町に花精がまとめてきてしまうと。」
「その、ルーリエラさんやセシリアさんしか知りませんし、タルヤさんはいよいよ食事を同席しませんでしたが。」
「ルーリエラは俺もよくわからんが、正直アイリスの比じゃないな。何よりも厄介なのが、満腹という状態が存在しない事だな。植物を祖とする相手にとっては、本来の意味での食事は大地から得るマナでな。」

要は、そう言った由来であるため経口で得る食事というのは、いよいよ娯楽でしかない。経口でマナを得られない事も無いのだろうが、それは非常に効率が悪いという事だろう。そして、五穀に働きかける力であるため、大地に恵みを与える物ともまた違う現在始まりの町に存在する加護、それでは支えきれぬという事なのだろう。要は、既にそういった相手がそれなりの数新たな恵みを求めて移動しているという話でもある。トモエの脳裏には、僅かに蝗害という言葉もよぎりはするが。

「それと、トモエの懸念も、まぁ、分かるけれど。一応下にも着るわよ、流石に同性で集まるとはいえ、見苦しいもの。」
「いえ、勿論それもありますが、オユキさんは。」

誰が犠牲を捧げるのかという話もあるのだが、それについては、こちらの世界を考えればそれは無いと思えるものでもある。ただ、トモエの最大の懸念として、そうした儀式には付き物がある。

「ああ。」

未だにグラス一杯がオユキの許容値だ。それで眠気を覚える有様であるため、そうした会に顔を出すのは非常に難しい。

「確か、あの子も酒癖、悪かったわね。」

そして、あの町の正式な管理者であり、その屋敷を使って行われる祭祀である以上、参加が強制される相手にしても。

「茶会で済ますことは出来んのか。」
「無理よ。」

酔ったメイに、顔に直接ワインを引っかけられた相手が非常に渋い顔でそう提案するものだが、にべもなく切り捨てられる。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

最推しの義兄を愛でるため、長生きします!

BL / 連載中 24h.ポイント:26,852pt お気に入り:13,180

男は歪んだ計画のままに可愛がられる

BL / 完結 24h.ポイント:340pt お気に入り:11

雪の王と雪の男

BL / 完結 24h.ポイント:220pt お気に入り:20

文化祭

青春 / 完結 24h.ポイント:482pt お気に入り:1

二番煎じな俺を殴りたいんだが、手を貸してくれ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:518pt お気に入り:0

処理中です...