憧れの世界でもう一度

五味

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17章 次なる旅は

今後の予測

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神国を後にして、その間。移動に時間がかかるからこそ、移動したばかりのこの時間で、あれこれと話を進める。オユキにしても、トモエから寄せられる視線というのは気が付いている物だし、確かに現地に残らず、完全に手を離す以上は他の思惑が乗りすぎる為、制御など叶うものではない。

「これで、一先ず互いの求める物というのも分かり合えたものかと。」
「そうですな。」

そんな事は互いにわかった上で、このあたりに着地点を。そうして話しているに過ぎない。それこそこれまでと変わらない。確定したと、そう言ってもいい事は、魔国に対して神国からの代表として先代アルゼオ公爵が、門を運んだオユキとして。この両名から何を求めるかが決まっただけ。そして、それにしても勝算があるとはいえ皮算用であることに変わりない。
それをこうして楽しげに話す者達を、悪童と評するのは間違ってもいない。
問題点としては、この者達がそれを実現するに十分な手札と方法論を持っている事だ。

「当面は、だがな。」
「それこそ、長期的な物を考える予定もありませんから。」
「さて、話には聞きましたが、かじ取りに手を借りられる相手は、多いに越した事は無いのですが。」
「それこそ、後事を託すものです。十分とは言えませんが、研鑽を積んでもらうしかありませんとも。そう言えば、レジス侯爵は。」

隣国へ今回門を運び、今後のより強固な国交というものを叶えるために。当然、事前に使節団というものが出発している。いきなり持ち込んで、神国では結果的にそのようになったが、他国に対してそうするわけにもいかない。その一団に今後マリーア公爵から領を別けられるレジス侯爵も同行している。

「そちらは息子、現アルゼオ公爵に。」
「では、またお会いした時にでもお伺いしましょうか。」

一応、という事でしかないがレジス侯爵家の家名というのも、オユキの手元に収まっている。
勿論、それを使ってどうこうしようなどという気もさらさらないが、オユキに与える家格の話の中で、大いに紛糾した原因というのがそれだ。新たに与えるも何も、既に持っているではないかと。しかし、あまりに偶発的な事態で転がり込んできた物であり、オユキもトモエも使う予定が無いとその態度を変えなかったため、実に多くの者達が首をかしげるしかない落としどころに落ち着いた。何となればオユキ個人に与えられた位階が第三位というのも、メイに対しての物以外にこの家名というのも影響している。

「我々より、二月は先に現地に。最も新しい拠点ではなく、ある程度整った町で、我らを待っている予定です。」
「そこで合流し、改めて、ですか。事前に王都にとも思いましたが。」
「何分、武門でしてな。我らよりも、よほど長旅というものに得意なようで。」

加護という意味では、随分と薄いと。トモエがそのように断言していたし、オユキも以前の立ち合いを見て、トモエの攻撃で体を崩す程度だと考えていた。しかし、そこから今までの間に、武門としての物を預けた己は、指導を行う事は出来ぬとしたこともあり、その時間で大いに魔物を相手に暴れていたらしい。生憎、王都の内部にしても書公爵ごとに集まる方向が決まっていたため、別派閥のレジス侯爵とはいよいよ狩場が同じとなる事は無かったが。本人にしても、次に同じ戦場に立つのなら、その思いもあっての事だろう。

「基礎の研鑽は、確かに十分以上。それを存分にとなれば、確かにあの子達よりも伸びは早いでしょう。」
「ほう。」
「魔物を狩れば得られるわけです。そして、己よりも強い、その判定の詳細は分かりませんが、そう言った現状があれば。」

そう、そこはトモエとオユキで、はっきりと意見の一致を見ている箇所でもある。
方法が、効率が、そこにあるものが。そう言った諸々に目をつぶった上での評価になるが。
どの様な形であれ、壁の中で行う鍛錬というのは、確実に有用だ。魔物と戦った事のないファルコ、彼にしてもだいぶ後から加わったため、戦闘力、加護も含めたそこではやはりシグルドたちに少し劣る。しかし、これまで培ってきた確かな体力、膂力というものが、既に少しの差とそう呼んで問題が無いほどに迄詰めさせている。
問題点としては、明確にそういった差異が出来る。少なくとも、国中からある程度の子供を集めて教育をという発想が出る程度であるというのに、何故軽視したのかとトモエが不満をさらに抱えたことくらいだろう。
如何に理由があるとはいえ、オユキがそれを話したとして。そればかりはどうにもならない事でもある。

「その辺りは、マリーア公爵と。」
「成程。まぁ、心配せずとも今後はより緊密に付き合う事になるでしょうとも。」
「ええ。そうある事を願うものです。」

一先ず、今後の関係性、その整理は終わった。トモエがそろそろと、そう言った意味を込めて切り出したのも、当然この場にいる者達は理解が出来ていることもある。では、こうして集まっている最たる理由の一つは何かといえば。

「オユキ殿は、今後のわが国、それがどうなると。」
「陛下の打った一手が効く事でしょう。既にその協力も、アルゼオ公爵に言われている事でしょうから。」

人口の移動、これまでは以下に馬車が愉快な速度であろうと、難しい。特に壁の内で暮らすしかない人間、それが同じ領内ですらどうなるのか。それは始まりの町に連れてこられた者達、その惨状を見たトモエとオユキは散々に理解している。身をもって知っていることもある。
しかし、今回ばかりはそうでは無い。

「ええ。早速の増産と、各地へと。」
「となれば、ある程度の安全は確保されますか。」
「ローレンツ殿と、シェリア殿が総指揮を。」
「おや、そちらに回されましたか。」

オユキの好むやり方を知っているため、魔国から連れて帰って来る人員、そちらの饗応役に回されるとオユキはそう考えていたものだが。

「近衛ですからな。」
「そう言えば、そうですね。すっかりと侍女としての仕事を多く頼んでいましたが。」

果たして、その言葉が真実かと公爵夫人辺りに尋ねれば、ため息とともにただ頭を振るだろうが。

「覚えがめでたい事は、実に分かりやすい証をお持ちですからな。」
「となると、成程。」

要はこれまでは早々得られなかった、神々の印を功績として持つ者達。巫女の護衛をやり遂げた、その分かりやすい実績を持つ者達が、民の護衛をという事に落ち着いたらしい。後から増員された者達はともかく、最初から配置されていた者達は確かに問題が無い。そして、それも含めてオユキの、トモエの不興を買った者達を叩き直すという事だろう。

「シェリア様にも、申し訳なく思ってしまいますね。」

王妃から借り受けていた人員。今は、また違う顔ぶれが与えられている。今日ばかりは優先するべきことがあるが、それこそ今後の移動の中で、またそちらとも言葉を交わしていくことになるだろう。ただ、シェリアについては、恐らくそういった仕事を与えられている以上は、近衛を辞職してという事になっているはずではある。レイン伯爵家の長女であり、その才については疑う余地もない。トモエよりも少々上、クララよりも年若く見えるというのに、王妃の近衛などを務められる人間だ。片手落ちになっているクララと比べれば、どちらも、王族に認められるほどに熟せる相手が跳ねっ返りと呼ばれる素地を形成するというのも、まぁ仕方あるまい。そして、才覚ではどうにもならぬ相手があてがわれたという事だ。タルヤであったり、トモエであったり。

「どうにも、シェリアには王宮も狭かったのでしょう。」
「派閥については、知識がなく。知らぬこととはいえ。」
「いえ。やはり私では足りぬものが多かったのでしょう。教えた事など、全て片手間に熟して退屈だと、それを隠しもしませんでしたから。」
「少なくとも、私の見ている範囲では、実に楽しそうに日々過ごされていましたが。」
「オユキ殿とトモエ殿の側。これほど色々と事が起こり、あの娘にとって楽しい場所は無かった事でしょう。」

そして、結果としてこれまでどうにか表面を覆ってきたものが剥がれ落ちる原因ともなった二人としては、どうにも座りの悪い事柄ではある。

「王都で、本人の今後は伺おうと考えていたのですが。」
「その本人から、その折に改めて挨拶をと。」
「ダンジョンと、隣国と。ええ、身に着けた事の全てを存分に生かせることでしょう。」

そして、そこには先代アルゼオ公爵。主に布陣だが、シェリアを王宮に送り出すだけの教育を施した人間も配置される。確かに、色々と納得のいく配置ではある。

「知らなかったと、そのように。」
「ええ。心得ていますとも。」

隠し事をするには、まぁ、若すぎる。そもそも祈願祭で彼女がなにを語ったのか、それにしてもオユキとトモエも聞いている。トモエに触発されてというだけでもない。クララが己の在り方を決めた、その場に彼女も居合わせた。恋に生きると、幼い日の約束を守るためにと行った事、それを無かったことにしたくはない。しかし、二人で出来る新しい事も手放したくないと、そう欲張った彼女の決断に。そして、これから大いに新しい物を積み上げるのだと盛大に啖呵を切ったメイという少女と、それに向かって邁進する情熱を。散々に近くで見て、思うところが彼女にしてもあったのだ。

「思いのほか、配置も固まっているようですし、今後の国内についても。」
「マリーア公爵と、王都。そちらから。」
「アイリスさんの立場も向上するわけですね。後は、生まれる空白、失われる拠点については。」
「まぁ、構わないでしょう。予測もあるようですからな。」

そればかりは、ルイスが口を滑らせたのが悪いと、オユキはそう言うしかないが。

「作った後に失われる、それはあまり問題が無いのです。」

つまり、何もてこ入れが無ければ、間違いなく打ちに籠るという判断がなされたため、外に向かえという使命が神々から与えられていたという事だ、この世界に対して。

「今後は、各拠点の質も向上するでしょうから、無くなる物でしょう。」
「ええ。今年は新たな拠点、その数は与えられませんでした。」

人の自由な歩み、それに真っ向から相反する事柄であっただけに、早々に他に理由がありそうなものだとオユキも疑っていた。ミズキリに聞いても回答は無いであろう事柄。今分かったことにしても、答えらしいことだけでしかない。恐らく理由の一つそれ以上の物ではない。
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