憧れの世界でもう一度

五味

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13章 千早振る神に臨むと謳いあげ

示すほど

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オユキとしても分かり切ってはいる事だったが、今この場にいる相手が手紙でのやり取りを止める事など勿論ない。そもそもそれを求めている相手に用意された人員であるのだ。他の、王家に比べてといった部分に対して優先順位の整理は望める物だろうが、今度はゲラルド、リース伯から用意された人員との軋轢がそこで生まれる事になる。
同じ公爵の麾下でもあるし、そもそもその公爵家に縁のある人物なのだ。そちらへの配慮というのも欠かせるものではない。

「勿論状況は理解しているのですが、王太子妃様の手紙ばかりは。」

ただ、それでもオユキからは愚痴が零れる。

「私は聞いただけではあるのだが、当然の帰結とそう言うしかないな。」

話題が常の物に変わる。聞きたいことの半分ほどしか確認できてないが、それ以上は互いに踏み込むことも難しい為当たり障りのない物に。結局業務から離れる事は無いのだが、それでも軽い物に変わったこともあり周囲を覆う蔦も既に消えている。

「そこで控えてくれる、そう言った心算もあったのですが。」
「已むを得ん。この老いぼれに迄声がかかる状況だ。王家であればこそ、手元に留めるためにとなりふり構っておれんだろうよ。ああ、すまん、失言であったな。」

王に仕える騎士として、その振る舞いに苦言を呈する形となったローレンツがそう近衛に向けて頭を下げる。

「いえ、私も家から色々と。」
「人、短い期間で繋ぐ方々は厄介を抱えていますね。」

タルヤの言葉に、そう言った精神性が後の世代、次に繋ぐ種に対する認識の齟齬を起こすのではないかと、そんな思考が頭をよぎるがオユキは懸命にもそれを口にしない。

「王妃様からは手加減が見られますが、王太子妃様は。」

そして、そのままの流れとして話題を続ける。とにかく、オユキですら怪しさを覚える文言が多いのだ。現状の解決のためにと過激な手段をとった、その自覚は確かにある。因果応報、その言葉を身をもって知っている。ただ、それを熟すべき、対応すべきことが多い状況で強要させられれば流石に不満も溜まる。
今日にしても、まずは己なりの解釈を書き、それをゲラルドに預け公爵夫人の判断を仰ぐためにと預ける事になっているのだから。

「王太子妃様は、知識と魔、コノシェンツァの方ですから。どうしても互いの知識を試すことを楽しまれますし、それに。」

シェリアが王太子妃を庇う言葉を作るが、途中でそれを止める。
さて、この場においても何か言いにくい事がとオユキが首を傾げれば、タルヤから端的にそれが纏められる。

「お礼を示す形、それを探っておられるのですよ。一般的な物に価値を置かない、それを異邦人の方はこれまで散々示されてきましたから。」
「その、私たちの目的、その助力が頂けるだけでも。」
「それにしても、神国、魔国、どちらの国益にかなうものでもあります。それを礼、行った事に対しての褒賞とすれば吝嗇の謗りは避けられませんから。」
「今回にしても、既に布であったり調度であったり色々と。」

そう言われたところで、既に過分と感じるものが有るとそうオユキは応えるのだが。

「王太子殿下のお子様、その誕生に際して送られた品への返し、その枠を超える物ではありませんよ。」
「そちらにしても、公爵様からという形では。」
「ええ、ですから公爵様に返して、オユキ様とトモエ様に与えられる、その形です。しかし神々の御前での奉剣と授けられた神授の短剣に対するものが、未だに浮いていますから。」
「それを言えば、王城内に置くことのできる神像もですね。トモエ様に対して、初代の戦と武技の神の名の下に開かれた彼の儀式、その勝者に対するものも頭を悩ませておられるとか。」

近衛二人から、直ぐに二人の瑕疵が指摘される。トモエの範疇外ではあり、オユキが引き受けている事ではあるが、それこそ文化の違いという物だ。言われなければ理解ができる物では無い。そう言った事もひっくるめて今後の荷物であったり、今回の屋敷や人員だと、そう言った頭でいたのだから。

「そう言った諸々を含めて、今回の事と考えていましたが。」
「実務としての用意と、褒章は異なりますよ。そう言ったご理解はあると、そのように伺っていましたが。」
「こう、異邦における物価が基準に。」
「オユキ様もトモエ様も貴族的と言いますか、世俗に対する理解に疎いとは聞いていましたが。」
「シェリア、言葉が過ぎます。」
「いえ、もっともな評価ではありますから。」

シェリアからのそれは、もっともだとそう言った理解はオユキにも嫌というほどある。それこそ神、この世界の一切をその支配下に置いている相手からすらも、もっとゆっくりと時間を使えとそう言われているのだから。だからと言って、そこに反省であったり改善であったり、そう言った物を積極的に行う意思は無いのだが。
必要性は理解しているが、それ以上に優先すべき事柄が存在しておりどうした所で優先する理由が無い。
こちらの世界における常識を身に着けるために、では王家とのやり取り、公爵家とのやり取り、それを一時保留する、そんな事が許されるわけもないのだから。

「改善は先々となるのでしょうが。」

そういった諸々を飲み込んだうえで出てくる言葉など、それに尽きるという物だ。
そして、それを強いる周囲というのも、理解を示さざるを得ない。
神々の評するところの都合のいい存在、まさしくその通りであると。

「古来、それこそこの身がこうして枯れるほどの時を過ごす中でも、流れる時間の残酷、それは変わりませんな。」
「さて、時の流れに研がれた刃、その鋭さは疑うべくもありませんが。」
「これはこれは、流石彼の神より評されるお方の言葉ですな。」

トモエの言葉。それこそその生涯を一振りの刃に託した人物がそう語れば、老境の人物の理解は得られるものだが。

「トモエ様も、巫女様の伴侶として求めたいことはあるのですけど。」
「その辺り、実際のところはどうなのでしょうか。」

トモエにしても、オユキにしても。これまで二人の間では当然であったこともあり、放置していた話題が上がったため、それに乗る。
今の所、それを前提としてくれる相手が多かったものであるし、王太子の振る舞いについても咎めるべきとそう言った言葉があったのは確認しているのだが。

「オユキ様にしても、正式に登録されたわけではありませんから。急ぎでという話もあったのですが。」

その辺り以前にも聞いた年始に纏めて、そう言った流れであるらしい。
そもそも言ってはいるものの、急いでいないこともある。であるならば、より喫緊の事態に対してリソースの配分がお紺われるという物だ。要はみなしとそう言う事でしかないという事らしい。

「先の話にも出しましたが、予定が前倒し、その流れの中という事なのでしょうね。」

そして、大きな事柄以外にも勿論軋轢という物は生まれる。オユキが気づかない場所にですら。総合として利益が大きい、そう考えている相手が他にも居る、オユキもそう判断している。そもそも予定でしかなく実現しなかった以上参考にする以外何ら拘束力を持つものでない。事前に相談見当があればまだしも。

「ええ。神々の思慮は太古より変わらず遠大ですもの。私たちに託された言葉にしても、未だ石を苔が覆うかのごとき年月の先、そのような物ですし。」
「花精、私たちよりもはるかに長い時を得る方々の伝承ですか。」
「はい。第一段階、それだけしか私も聞き及んではおりませんが、新たな祖たる精霊、その区分が生まれるとか。」
「私たちにとっては、神話の誕生、そうとしか言いようのない話ですね。」

さて、そうした実に酒の席らしい方向に話が流れている、そう感じたところにほどほどにグラスも空き、浮かべた氷が融け残りは水の割合が多くなり始めたそのころ合いに、オユキに届く言葉がある。
現状、与えられた使命、そちらに対する配慮で今後しばらくは無いはずだとそう考えていたものが、これまでよりも少し遠くから。
それを気のせい、思いをはせたが故の空耳と思えないだけのはっきりとした力をもって。

「予定の変更、ですか。」
「オユキ様。」

戦と武技の神、豪放磊落を絵に書いたような、そのような存在からあまりにも、言葉だけでも分かる苦々しさをもって確かに届いたものが有る。昼間に確認したばかりのそれに、変更が加えられたのだと。そして、それが実現するのは明日だとも。
後者についてはミズキリが降臨祭に焦点を置いていたこともあり、それに関連した褒美の一種とわかるのだが、残りの人員については別であったらしい。使徒と言えども、役割があり、叶えられる願いはその枠の内という事なのだろう。

「明日、異邦から3名ほどこちらに。」
「先ほど話に合った。」
「いえ、予定から顔触れが変わったようです。」

料理人が三名、祭りに華を添える存在が一名、そのように聞いていたものだが。

「料理人が一人と、そうなったようです。残りの二人は知識と魔、そちらに送られるとか。」

文化圏、手に入る食材や調理の道具。それらを考え最大限が行える、備えられることになるだろうそれを考えれば、そう言うこともあるのだろうと、それは理解できるのだが。

「それにしても、祭りを盛り上げるために二人、ですか。」

そして、そのうちの一人はオユキにとって 随分と懐かしい名前だ。
本人は演じる為の舞台を求めて、そう嘯いていたものだが対人戦に置いて存分に名を馳せた存在だ。今のオユキの動き、その参考に大いに使っている相手。対の直刀、双剣を持って凄惨な場になるはずの対人戦、その舞台を大いに盛り上げたそんな人物の名前だ。

「華鈴さんまで来られるとなると、さて、今の道にしても不足を言われているとそう感じる物ですが。ああ、それとトモエさん、一応気を付けておいてください。」
「聞き覚えの無い発音ですが。」
「ええ、別の言語圏の方です。その、過去対人戦を挑まれて。」

その頃はオユキも今の道を模索していなかった。そして相手にしても虚という物に対する理解が浅かった。結果として手酷くあしらった、そのような相手だ。もしも望んでの事であり、また機会があればとそうなれば、抑えが利くかは大いに疑問だ。どの時点でという問題もあるのだから。

「ああ。そう言うこともありますか。」

オユキの言葉を実に楽し気にトモエは頷くものでしかないが。
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