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9章 忙しくも楽しい日々
舞
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さて、今日の鍛錬としては買い物の時間もあり、余力は残しているが良い時間とはなっている。あと少しもすれば、様子を伺っている使用人の誰かが近づいてくるだろう。そんな時間になっている。
さて、残りの短い時間、このまま大会に向けて、それぞれがどうするのか。その判断を待つ時間としても良かったのだが、アナからふと思い出したように声が上がる。
「そういえば、オユキちゃんとアイリスさん、祭祀に巫女様として参加するんだよね。」
「はい。それもあって、エリーザ助祭にご足労を願っていますから。」
「ええ、まぁ、そうよね。」
どうにも歯切れの悪い扁桃にはなるのだが。
「じゃ、もう舞は戦と武技の神様から。」
以前アナから聞いた巫女の職務には、確かにそういったものが有った。
「いいえ。恐らくないと考えています。」
ただ、オユキからの回答としてはそうなる。そして、それに驚いたようにするのが、持祭の位を持つ少女二人。アイリスもどうやら予感はあるようで、オユキの言葉に特に動揺は見られない。
そして、こういった事が最も詳しいだろう助祭に至っては、急な準備が立て込んでいるため、こちらに顔を出すことは叶うはずも無い。今も夕食までの時間を使い、公爵夫人と話しながら教会に向けての手紙の用意に始まり、諸々の手配を行ってくれているのだろう。
「そもそも武としての舞ですから。演武に近い形で行う事になるでしょう。」
だからこそ、同じ場所で巫女二人という事でもある。
しかし、どうにも伝わり切る物では無いようで、そもそもが長々とやる物でもなく、幾度かトモエが演武としての動きは披露しているが、あくまで型の延長としての物でしかない。
「そうですね。アイリスさん。」
オユキとしては、此処でトモエを頼むのは色々と違う。だからこそアイリスに声をかける。巫女同士、そういった練習もいるだろう。
「私はそういった心得はないわよ。」
「ええ、あくまでそう動くのは私で。」
形式として、受けと取り、そうなりはするが。
本番の武器は、恐らく明日取りに行かねば分からないが、一先ず訓練用の木製の武器を互いに手に取り、対峙する。当然本番もそうであるように、しっかりと加護を封じる指輪をはめた上で。
「そうですね、動きとしてはゆっくりと。だいたい、このくらいで。」
「まぁ、舞としては、普段通りであれば苛烈にすぎるでしょうね。」
「それも笑って好んでいただけそうではありますが。」
さて、オユキとしても、何やらトモエの楽しそうな視線を感じる。それに懐かしい緊張を覚えながらもゆるりと動き出す。どうにか馴染んできた、その動きを基礎として。
軸を意識して、体を支えながらも、支えた先では大きく体を動かす。ゆっくりと動く以上、そこにごまかしは聞かない。早く動けば強くなる慣性も、助けになりはしない。だからこそゆっくりと、丁寧に。
まずは虚を含まない動きからと、揺らす体が離れ近寄る、それに合わせて腕も振出し、アイリスがそれにオユキと同じ程度の速度で動いて対処するのを待つ。そして、予測にたがわず互いの中央で乾いた音を軽快にあげる。
「成程、これはこれで。」
「ええ、良い訓練になるでしょう。」
そう軽口を交わしながらも、オユキはすぐに次の動きに移る。本来であれば、慣れぬものが受け手に回り、場を支配するものではあるのだが、今は動く側として。
出した足は残したまま、上体を引きながら回す。さて、アイリスとしては知らない流れ、対応できるほどの経験も知見も無い。だからこそ慣れた体制で、次を軽快して少し後ろに引いたうえで構えようとする。オユキが残した足、それを見落として。
だから軽く跳ねて、上体はそのまま動かしながら、体ごと。構え、間合いから離れた位置に、入り身に近い動きで滑り込む。
「舞、ね。」
ただ動きとしては虚を突いても、対応できる速度ではある。今は。
跳ねるオユキに合わせて、アイリスも体を入れ替えて対応をしようとする。それに合わせて、もう一度という選択もありはするが、今度は回す角度を変えて胴を薙ぐ形ではなく、斜め、上方から武器を振るう。
再度乾いた音を立てて、互いに弾けたその勢いで、体を逆に回しながら、もう片方の手に持った武器をそのまま振るう。流石に少年たちと違って、そちらを見落とすことは無いが、戻す時間はないと判断したのか、そのまま切り返そうと動く。
「愚策ですよ。」
ただ、オユキはそれに付き合わずに、ただ間合いを外す。近寄るために跳ねたのと同じように、今度は逆に。しかし短く。互いの武器は、アイリスが付き合おうと膝を曲げ上体を押し込むが、それでは届かないように肘を曲げ、ただ互いの武器をすれ違わせる。
そして、残していた弾かれて上がった腕と合わせて振り下ろす。
「厄介ね。」
しかし、その程度で崩れる相手でもない。しっかりと刃を返してきちんと受け止めた上で、オユキよりも優れた腕力、ここまでの鍛錬で身に着けだした膂力の使い方をもって、二刀をそのままはじき返す。
そして、その流れに沿って、オユキは後ろに飛んで体を回す。その反動をもって、今度は前に飛び込みながら胴を払うようにと動く。
「鍛錬として、このようにゆっくりと動く、そういう物もあるのです。」
「ええ、打ち込みの時にたまにトモエがやらせているものね。」
そう、特に型の練習では、特にそうしろとは言わず、体の動きを直すのに合わせて、ゆっくりと動くように手を添えている。本当によく見ているものだし、貪欲に知識を得ている。
今度は先ほどと違い、無理にオユキに付き合う事も無く、アイリスの得意な動きができる位置に体を逃がして整えるが。
「それも、良くない動きです。」
跳ねて動く相手に、それでは遅すぎる。さらに跳ねて、今度は逆に、構えから離れた場所ではなく。武器を残して対応を強制しながら、その構えの奥に向けて跳ぶ。
正解はその動きに合わせて、空いた正面を切り捨てる事だが、武器を戻そうと刃先を上に運び、体を後ろに引いているアイリスでは間に合わない。
「でしょうね。」
ただ、何度も相対している経験もある。オユキが兵法としてこういった振る舞いを取るのは、向こうも織り込み済みであるらしい。残した足を振り上げて、オユキを弾こうとする。ただ。
「ここまで含めて、良くないと、そう申し上げたつもりです。」
地に着いた片足、それで存分に体を制御できるオユキと、そうではないアイリス。まだまだ動きの幅が狭い彼女では、当然そこから出来る事に差があるというものだ。そこで軸足を払うのではなく、蹴り上げる事を選んだのが失敗。そうとしか言えない。無論、そう誘導している所はあるのだが。
先ほどと同じように、片足、それだけを軸に回転の方向を変える。振っていた、斬撃の邪魔のために残した腕を引き、逆の腕を。アイリスの上げていない、もう一方の足を狙って回す。
「相変わらず、悪辣な。」
蹴りのために、前蹴りに近い物ではあるが、そもそも体重も膂力も違う。オユキ程度なら体重を乗せる必要も無く弾き飛ばせる。それが幸いして、後ろに跳ぶことで間合いを空けようとするが。
「ええ、選択肢は他は選べないでしょう。」
それを追いかけて変わらずアイリスの側に残した軸足で、引きながら回していた体を再度前へ引っ張った上で、跳ねる。また逆に体を回して再び上段からの攻撃になるように腕も回しながら。
「選べるわよ。」
ただ、すでにみた動きでもある。先に体勢を動かしたアイリスが迎え撃つには十分な時間はある。そして、先ほどのようにまた体を回して空振りさせ、それを嫌ってか、袈裟切りではなく、横に寝かせて剣を振るう。さて、一見会費は難しいが。話していた片足を先に付き、そもそも跳ねるといっても高くではない。あくまで力を入れて、体を運んではいるが、膝を曲げてそう見せているというところもある。
本番では、相応の速度域までは持っていくのだろうが、今はまだ。
途中でついた足を新しく制御に回し、派手に体を回しながら足も振り上げる。アイリスが剣を持つ、その手を狙って。そして、それを嫌ったアイリスが、更に動きを変えてと、舞は続く。
本来であれば、狐は狩猟する側ではあるのだろうが、そこはそういう役割分担を先にしたこともある。今は追い詰めるのはオユキで、そうされているのがアイリスだ。
「あと6手。」
そう、その回数動けば、詰められる。後は油断なく。その流れのままに。アイリスが途中で一切を嫌って、互いに課した動きの速さ、その制限を取り払ってしまえば、どうにでもなるのだろうが。結局最後までそれを破ることなく、アイリスが地面に転がる事となった。
オユキとしても難度が高く、そもそもまだまだ練習中。汗を袖で拭う事はしないが、緊張を解くために一度大きく息をついた時には、例によってアナに振り回されることになった。
夕食前に、気分が悪くなる前には解放してもらえるといいのだが、そんな事を考えながら。
さて、残りの短い時間、このまま大会に向けて、それぞれがどうするのか。その判断を待つ時間としても良かったのだが、アナからふと思い出したように声が上がる。
「そういえば、オユキちゃんとアイリスさん、祭祀に巫女様として参加するんだよね。」
「はい。それもあって、エリーザ助祭にご足労を願っていますから。」
「ええ、まぁ、そうよね。」
どうにも歯切れの悪い扁桃にはなるのだが。
「じゃ、もう舞は戦と武技の神様から。」
以前アナから聞いた巫女の職務には、確かにそういったものが有った。
「いいえ。恐らくないと考えています。」
ただ、オユキからの回答としてはそうなる。そして、それに驚いたようにするのが、持祭の位を持つ少女二人。アイリスもどうやら予感はあるようで、オユキの言葉に特に動揺は見られない。
そして、こういった事が最も詳しいだろう助祭に至っては、急な準備が立て込んでいるため、こちらに顔を出すことは叶うはずも無い。今も夕食までの時間を使い、公爵夫人と話しながら教会に向けての手紙の用意に始まり、諸々の手配を行ってくれているのだろう。
「そもそも武としての舞ですから。演武に近い形で行う事になるでしょう。」
だからこそ、同じ場所で巫女二人という事でもある。
しかし、どうにも伝わり切る物では無いようで、そもそもが長々とやる物でもなく、幾度かトモエが演武としての動きは披露しているが、あくまで型の延長としての物でしかない。
「そうですね。アイリスさん。」
オユキとしては、此処でトモエを頼むのは色々と違う。だからこそアイリスに声をかける。巫女同士、そういった練習もいるだろう。
「私はそういった心得はないわよ。」
「ええ、あくまでそう動くのは私で。」
形式として、受けと取り、そうなりはするが。
本番の武器は、恐らく明日取りに行かねば分からないが、一先ず訓練用の木製の武器を互いに手に取り、対峙する。当然本番もそうであるように、しっかりと加護を封じる指輪をはめた上で。
「そうですね、動きとしてはゆっくりと。だいたい、このくらいで。」
「まぁ、舞としては、普段通りであれば苛烈にすぎるでしょうね。」
「それも笑って好んでいただけそうではありますが。」
さて、オユキとしても、何やらトモエの楽しそうな視線を感じる。それに懐かしい緊張を覚えながらもゆるりと動き出す。どうにか馴染んできた、その動きを基礎として。
軸を意識して、体を支えながらも、支えた先では大きく体を動かす。ゆっくりと動く以上、そこにごまかしは聞かない。早く動けば強くなる慣性も、助けになりはしない。だからこそゆっくりと、丁寧に。
まずは虚を含まない動きからと、揺らす体が離れ近寄る、それに合わせて腕も振出し、アイリスがそれにオユキと同じ程度の速度で動いて対処するのを待つ。そして、予測にたがわず互いの中央で乾いた音を軽快にあげる。
「成程、これはこれで。」
「ええ、良い訓練になるでしょう。」
そう軽口を交わしながらも、オユキはすぐに次の動きに移る。本来であれば、慣れぬものが受け手に回り、場を支配するものではあるのだが、今は動く側として。
出した足は残したまま、上体を引きながら回す。さて、アイリスとしては知らない流れ、対応できるほどの経験も知見も無い。だからこそ慣れた体制で、次を軽快して少し後ろに引いたうえで構えようとする。オユキが残した足、それを見落として。
だから軽く跳ねて、上体はそのまま動かしながら、体ごと。構え、間合いから離れた位置に、入り身に近い動きで滑り込む。
「舞、ね。」
ただ動きとしては虚を突いても、対応できる速度ではある。今は。
跳ねるオユキに合わせて、アイリスも体を入れ替えて対応をしようとする。それに合わせて、もう一度という選択もありはするが、今度は回す角度を変えて胴を薙ぐ形ではなく、斜め、上方から武器を振るう。
再度乾いた音を立てて、互いに弾けたその勢いで、体を逆に回しながら、もう片方の手に持った武器をそのまま振るう。流石に少年たちと違って、そちらを見落とすことは無いが、戻す時間はないと判断したのか、そのまま切り返そうと動く。
「愚策ですよ。」
ただ、オユキはそれに付き合わずに、ただ間合いを外す。近寄るために跳ねたのと同じように、今度は逆に。しかし短く。互いの武器は、アイリスが付き合おうと膝を曲げ上体を押し込むが、それでは届かないように肘を曲げ、ただ互いの武器をすれ違わせる。
そして、残していた弾かれて上がった腕と合わせて振り下ろす。
「厄介ね。」
しかし、その程度で崩れる相手でもない。しっかりと刃を返してきちんと受け止めた上で、オユキよりも優れた腕力、ここまでの鍛錬で身に着けだした膂力の使い方をもって、二刀をそのままはじき返す。
そして、その流れに沿って、オユキは後ろに飛んで体を回す。その反動をもって、今度は前に飛び込みながら胴を払うようにと動く。
「鍛錬として、このようにゆっくりと動く、そういう物もあるのです。」
「ええ、打ち込みの時にたまにトモエがやらせているものね。」
そう、特に型の練習では、特にそうしろとは言わず、体の動きを直すのに合わせて、ゆっくりと動くように手を添えている。本当によく見ているものだし、貪欲に知識を得ている。
今度は先ほどと違い、無理にオユキに付き合う事も無く、アイリスの得意な動きができる位置に体を逃がして整えるが。
「それも、良くない動きです。」
跳ねて動く相手に、それでは遅すぎる。さらに跳ねて、今度は逆に、構えから離れた場所ではなく。武器を残して対応を強制しながら、その構えの奥に向けて跳ぶ。
正解はその動きに合わせて、空いた正面を切り捨てる事だが、武器を戻そうと刃先を上に運び、体を後ろに引いているアイリスでは間に合わない。
「でしょうね。」
ただ、何度も相対している経験もある。オユキが兵法としてこういった振る舞いを取るのは、向こうも織り込み済みであるらしい。残した足を振り上げて、オユキを弾こうとする。ただ。
「ここまで含めて、良くないと、そう申し上げたつもりです。」
地に着いた片足、それで存分に体を制御できるオユキと、そうではないアイリス。まだまだ動きの幅が狭い彼女では、当然そこから出来る事に差があるというものだ。そこで軸足を払うのではなく、蹴り上げる事を選んだのが失敗。そうとしか言えない。無論、そう誘導している所はあるのだが。
先ほどと同じように、片足、それだけを軸に回転の方向を変える。振っていた、斬撃の邪魔のために残した腕を引き、逆の腕を。アイリスの上げていない、もう一方の足を狙って回す。
「相変わらず、悪辣な。」
蹴りのために、前蹴りに近い物ではあるが、そもそも体重も膂力も違う。オユキ程度なら体重を乗せる必要も無く弾き飛ばせる。それが幸いして、後ろに跳ぶことで間合いを空けようとするが。
「ええ、選択肢は他は選べないでしょう。」
それを追いかけて変わらずアイリスの側に残した軸足で、引きながら回していた体を再度前へ引っ張った上で、跳ねる。また逆に体を回して再び上段からの攻撃になるように腕も回しながら。
「選べるわよ。」
ただ、すでにみた動きでもある。先に体勢を動かしたアイリスが迎え撃つには十分な時間はある。そして、先ほどのようにまた体を回して空振りさせ、それを嫌ってか、袈裟切りではなく、横に寝かせて剣を振るう。さて、一見会費は難しいが。話していた片足を先に付き、そもそも跳ねるといっても高くではない。あくまで力を入れて、体を運んではいるが、膝を曲げてそう見せているというところもある。
本番では、相応の速度域までは持っていくのだろうが、今はまだ。
途中でついた足を新しく制御に回し、派手に体を回しながら足も振り上げる。アイリスが剣を持つ、その手を狙って。そして、それを嫌ったアイリスが、更に動きを変えてと、舞は続く。
本来であれば、狐は狩猟する側ではあるのだろうが、そこはそういう役割分担を先にしたこともある。今は追い詰めるのはオユキで、そうされているのがアイリスだ。
「あと6手。」
そう、その回数動けば、詰められる。後は油断なく。その流れのままに。アイリスが途中で一切を嫌って、互いに課した動きの速さ、その制限を取り払ってしまえば、どうにでもなるのだろうが。結局最後までそれを破ることなく、アイリスが地面に転がる事となった。
オユキとしても難度が高く、そもそもまだまだ練習中。汗を袖で拭う事はしないが、緊張を解くために一度大きく息をついた時には、例によってアナに振り回されることになった。
夕食前に、気分が悪くなる前には解放してもらえるといいのだが、そんな事を考えながら。
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