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9章 忙しくも楽しい日々
実践
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「いや、これ、無理だ。」
「直ぐには成りませんよ。」
理屈を伝えたのならば、早速実践とオユキも含めて相対して一時間ほど。既に立っているものは、四人だけとなっている。
「全体を見なさいと、そう言ったでしょう。」
「いや、武器を狙うってなると。」
「武器だけ見ては、間に合いませんよ。対応できる速さで振るものではありませんから。」
だからこそ全体を見て、機先を察し、それに対応するのだ。
「えっと、言いたいことは分かりますけど。」
「先ほども言いましたが、直ぐに成る物ではありません。流派の基礎理念ではありますが、だからこそ極意でもあります。」
「うん。分かるかも。だからトモエさんは自分からあまり仕掛けない、そういう事ですよね。」
「はい。己の有利を作る。とにかくそれに腐心するわけです。」
以前目が良いと評したセシリアが一番理解が早い。勿論距離を取れる武器を使っている、それも大きな理由ではあるのだが。
「まずは相手の武器を、攻撃を、相手の望むことをさせない。其処が始まりです。その先に他の技があります。」
そうして、トモエは立ったまま、少年たちは地面に伏した状態ではあるが、武器の確認をする。慣れない意識、そこからもたらされる、普段とは違う体の強張り、それがしっかりと体力を奪っているため、そればかりは仕方ない物ではある。ファルコは、既に息を整え上体を起こし、地面に座り込む、そういった回復は見せている。
「それにしても、オユキ殿に。」
「ああ。俺も未だに易々と弾かれる。」
「パウは、見た目通りの力はありそうなものだが。」
「自慢、だったんだがな。」
オユキも相手として、これまでもやったように、トモエの柔らかいそれとも違う、振出しを打ち据えて止める。そういった形で、散々とその理合いを示した。その中で鍔競りを仕掛けようとした場合は、手ひどくあしらったが。
「パウ君には、トモエさんがすでに伝え始めていますが。」
「ああ、力を出す、使う、それはひどく繊細だとな。確かに直されれば、その動きの中で変わるのはわかるのだが。」
「それは私もよくわかっている。正直、軽く体勢を直してもらうと、覿面に変わるのだ。では自分でそれを他に使えと言われれば、そもそもなぜかもわからぬのだが。」
各々武器の点検を終えて、今はそれを一度横に置いてあれこれと話し合っている。その時間もまた、大事な物だ。
「正直、私の理合いにとっては天敵ね。何故開祖は、そう聞けば、それをされる前に斬れというのでしょうけれど。」
「ええ。以前にもお伝えしましたが。」
「最速の剣。防御毎。確かにそれが一つの答えなのでしょうね。」
アイリスは今は練習中にしか使っていないが、いつの間にやら、オユキが改めて形状を伝えたこともあるが、王都に向かう途中、領都によった時から野太刀を振るっている。
まだまだ馴染むには時間がかかるのだろうが、それでも、やはりハヤトという異邦人一代では完全にこちらに合わせたものになっていたわけでは無いのだろう。今は随分とのびのびとそれを振っている。
まだまだ雑な動きが多く、既に相応に消耗しているそれを見て、ため息をつく。
「ただ、あなた達にもあるって聞いたわ。」
「流石に、私では斬鉄迄納めていませんよ。」
「トモエはやるんでしょう。あなたにしても、槍の穂先を切り落とす、手首を落とす、それくらいはやって見せるといった風だったじゃない。」
「武器を奪うなら、そもそも持てないようにする。それが一番手っ取り早いですからね。」
そう今は少年達には籠手を打つ、そう教えている。しかし本来であれば籠手の継ぎ目、関節部を狙って斬るものだ。打つのはあくまで、それができないから。斬らぬのであれば、刃を使う理由などない。相手の武器を打ち据えるときから薄い刃でなく、欠けやすい其処ではなく峰を使えばよいだけだ。
「斬鉄、ですか。」
「兜割、本義であれば頭を割る、ですね。しかし鎧毎、相手の剣、そういった物を斬る、そういった類の術理です。」
「剣を、斬るのですか。」
「ああ、実際に俺も目の前で見たぞ。」
そうしてアベルも苦笑いをしながら、話に交じってくる。流石に自力ばかりはどうにもなる物では無い。アベルについてはかなりどころではない加減をされたうえで、打ち合いをしたのだが、ただただ驚いている風ではあった。
反応についても、以前数度やり合ったイマノル達よりもかなり早く、良く見えているようだ。明らかに後から動いたオユキやトモエ、それが同じ速度だというのに、先に振り始めようと動いた自身よりも早く、間合いの内側に入りその攻撃を止める。そしてその間隙をついて、武器の持ち手を狙うという流れに唖然とすることが数度あった。
「アベル殿は、例えば本気でやるのであれば。」
「ま、それなら騎士団の、そうだな。」
そういって少し考えこんだ後に、改めてアベルは口にする。
「入団から3年たった連中なら、勝負になる。」
「そこまでですか。」
ただそう言われると、オユキとトモエとしても思うところはある。無論こちらに来ては確かに短いのだが、未だに半年も立ってはいない、そのような身である事に間違いはないのだが。
「3年程度で、超えられますか。」
それほどこちらにおける加護、それは強い。
「いや、それこそお前らなら戦と武技の神から賜った功績を外せば、もっといいところまで行くぞ。」
「あー、そうだよな。あんちゃんも、オユキも、加護を抑えてるんだもんな。」
その事に少年たちが揃って肩を落とす。
「皆さんも、かなり伸びて来てますよ。」
「ああ。正直私と同じ年頃でシエルヴォを単独で仕留めるのだ。最初は悪い夢を見ているのかと思ったよ。」
「でも、オユキがなぁ。」
「見目は確かに。しかし異邦の経験、それを持っているからこそなのだろう。」
ファルコの言葉の通りとしか言えない。
「それに、体力も、やっぱりファルコの方があるしな。」
「そればかりは、な。それこそ物心ついたころからの訓練があったのだ、それすら抜かれては。」
「ああ、そういやそう言ってたな。でも体力つけるには走るって言われてたけど、そういやファルコは何処走ってたんだ。」
「父上の領地、その屋敷の囲いに沿って、だな。一週で5キロ程あったから都合がよかったのだ。」
「流石に町の外は走れないしな。ここの庭で走るか。」
そうシグルドが言えば、少年たちも改めて周囲を見回す。訓練をするには十分すぎるほどの、それこそテニスコートを3面程入れられる程度の大きさはある。15週もすれば程よい準備運動にはなるが。
「何度も回らなければいけませんからね。正直、飽きるでしょう。それにあまり急に曲がったりというのは、過度な負荷がかかりますし。」
だからこそ、これまでトモエはあまりやらせていないのだ。ただ走る、それだけであるなら狭くとも何週もすればいいというのはあるが。
「その、かなり気を使うのですね。」
ファルコにとっては意外な事ではあるのだろう。こちらでの鍛錬というのは加護ありき、怪我にしても向こうには無い、ご都合主義の結晶としか言えない魔術や奇跡がある。怪我にしてもたちどころに治る、致命傷、生前であれば後遺症が残るだろうそれについても、問題にはならない。
勿論金銭的な負担はあるだろうが、公爵家にとっては支払えない物では無いはずでもある。
「ええ。治る、治せる。だからと言ってそれに甘える理由にはなりません。」
それを頼るのは構わないが、甘えるのはよろしくない。怪我などしないに越したことなどないのだ。やむを得ない時、それはあるだろう。しかし、そうでないなら。
「それに怪我、外傷は治ったとしても、怪我をした、その記憶が足を止める事が有ります。」
そして、実際の問題として、それもあるのだ。外傷が治っても、本人に自覚がなくとも。体が覚えているために、まったく同じように動けない、無理に直そうとすればずれが大きくなり、更に次の事故に繋がる、そういった事もある。
そして実践経験が長い二人は、思い当たることもあるのだろう、ただそれぞれに深く頷いている。
「神様の厳しさ、それを忘れるのは駄目だと思います。」
まだそういった経験のない少年たちからは、アナが若干砕け始めた口調でファルコに語り掛ける。
「厳しさ、か。」
「勿論、私たちの伸ばした手を取ってくれます。でも、全身でもたれ掛かるのは。」
「ああ、そうだな。それは確かに違う。」
その言葉に頷いたファルコが、横に置いておいた武器を手に取り、それを掲げ持ち眺める。
「さて、私はやはり許されるなら、闘技大会、その場に立ってみたいと考えています。」
そして、告げられるのは、トモエが判断を預かる、そう告げた事柄についてである。
「そうですね。今の調子であれば間に合うでしょう。そういうからには、どちらを使うか決めましたか。」
「手癖として、出るかもしれませんが。」
「ならば良いでしょう。」
そうトモエが告げれば、少年たちも各々に考え込む様子である。人を相手にする、別に打倒しなければいけない相手でもない、その相手に武器を振る。その意味をまだ考えているのだろう。
「直ぐには成りませんよ。」
理屈を伝えたのならば、早速実践とオユキも含めて相対して一時間ほど。既に立っているものは、四人だけとなっている。
「全体を見なさいと、そう言ったでしょう。」
「いや、武器を狙うってなると。」
「武器だけ見ては、間に合いませんよ。対応できる速さで振るものではありませんから。」
だからこそ全体を見て、機先を察し、それに対応するのだ。
「えっと、言いたいことは分かりますけど。」
「先ほども言いましたが、直ぐに成る物ではありません。流派の基礎理念ではありますが、だからこそ極意でもあります。」
「うん。分かるかも。だからトモエさんは自分からあまり仕掛けない、そういう事ですよね。」
「はい。己の有利を作る。とにかくそれに腐心するわけです。」
以前目が良いと評したセシリアが一番理解が早い。勿論距離を取れる武器を使っている、それも大きな理由ではあるのだが。
「まずは相手の武器を、攻撃を、相手の望むことをさせない。其処が始まりです。その先に他の技があります。」
そうして、トモエは立ったまま、少年たちは地面に伏した状態ではあるが、武器の確認をする。慣れない意識、そこからもたらされる、普段とは違う体の強張り、それがしっかりと体力を奪っているため、そればかりは仕方ない物ではある。ファルコは、既に息を整え上体を起こし、地面に座り込む、そういった回復は見せている。
「それにしても、オユキ殿に。」
「ああ。俺も未だに易々と弾かれる。」
「パウは、見た目通りの力はありそうなものだが。」
「自慢、だったんだがな。」
オユキも相手として、これまでもやったように、トモエの柔らかいそれとも違う、振出しを打ち据えて止める。そういった形で、散々とその理合いを示した。その中で鍔競りを仕掛けようとした場合は、手ひどくあしらったが。
「パウ君には、トモエさんがすでに伝え始めていますが。」
「ああ、力を出す、使う、それはひどく繊細だとな。確かに直されれば、その動きの中で変わるのはわかるのだが。」
「それは私もよくわかっている。正直、軽く体勢を直してもらうと、覿面に変わるのだ。では自分でそれを他に使えと言われれば、そもそもなぜかもわからぬのだが。」
各々武器の点検を終えて、今はそれを一度横に置いてあれこれと話し合っている。その時間もまた、大事な物だ。
「正直、私の理合いにとっては天敵ね。何故開祖は、そう聞けば、それをされる前に斬れというのでしょうけれど。」
「ええ。以前にもお伝えしましたが。」
「最速の剣。防御毎。確かにそれが一つの答えなのでしょうね。」
アイリスは今は練習中にしか使っていないが、いつの間にやら、オユキが改めて形状を伝えたこともあるが、王都に向かう途中、領都によった時から野太刀を振るっている。
まだまだ馴染むには時間がかかるのだろうが、それでも、やはりハヤトという異邦人一代では完全にこちらに合わせたものになっていたわけでは無いのだろう。今は随分とのびのびとそれを振っている。
まだまだ雑な動きが多く、既に相応に消耗しているそれを見て、ため息をつく。
「ただ、あなた達にもあるって聞いたわ。」
「流石に、私では斬鉄迄納めていませんよ。」
「トモエはやるんでしょう。あなたにしても、槍の穂先を切り落とす、手首を落とす、それくらいはやって見せるといった風だったじゃない。」
「武器を奪うなら、そもそも持てないようにする。それが一番手っ取り早いですからね。」
そう今は少年達には籠手を打つ、そう教えている。しかし本来であれば籠手の継ぎ目、関節部を狙って斬るものだ。打つのはあくまで、それができないから。斬らぬのであれば、刃を使う理由などない。相手の武器を打ち据えるときから薄い刃でなく、欠けやすい其処ではなく峰を使えばよいだけだ。
「斬鉄、ですか。」
「兜割、本義であれば頭を割る、ですね。しかし鎧毎、相手の剣、そういった物を斬る、そういった類の術理です。」
「剣を、斬るのですか。」
「ああ、実際に俺も目の前で見たぞ。」
そうしてアベルも苦笑いをしながら、話に交じってくる。流石に自力ばかりはどうにもなる物では無い。アベルについてはかなりどころではない加減をされたうえで、打ち合いをしたのだが、ただただ驚いている風ではあった。
反応についても、以前数度やり合ったイマノル達よりもかなり早く、良く見えているようだ。明らかに後から動いたオユキやトモエ、それが同じ速度だというのに、先に振り始めようと動いた自身よりも早く、間合いの内側に入りその攻撃を止める。そしてその間隙をついて、武器の持ち手を狙うという流れに唖然とすることが数度あった。
「アベル殿は、例えば本気でやるのであれば。」
「ま、それなら騎士団の、そうだな。」
そういって少し考えこんだ後に、改めてアベルは口にする。
「入団から3年たった連中なら、勝負になる。」
「そこまでですか。」
ただそう言われると、オユキとトモエとしても思うところはある。無論こちらに来ては確かに短いのだが、未だに半年も立ってはいない、そのような身である事に間違いはないのだが。
「3年程度で、超えられますか。」
それほどこちらにおける加護、それは強い。
「いや、それこそお前らなら戦と武技の神から賜った功績を外せば、もっといいところまで行くぞ。」
「あー、そうだよな。あんちゃんも、オユキも、加護を抑えてるんだもんな。」
その事に少年たちが揃って肩を落とす。
「皆さんも、かなり伸びて来てますよ。」
「ああ。正直私と同じ年頃でシエルヴォを単独で仕留めるのだ。最初は悪い夢を見ているのかと思ったよ。」
「でも、オユキがなぁ。」
「見目は確かに。しかし異邦の経験、それを持っているからこそなのだろう。」
ファルコの言葉の通りとしか言えない。
「それに、体力も、やっぱりファルコの方があるしな。」
「そればかりは、な。それこそ物心ついたころからの訓練があったのだ、それすら抜かれては。」
「ああ、そういやそう言ってたな。でも体力つけるには走るって言われてたけど、そういやファルコは何処走ってたんだ。」
「父上の領地、その屋敷の囲いに沿って、だな。一週で5キロ程あったから都合がよかったのだ。」
「流石に町の外は走れないしな。ここの庭で走るか。」
そうシグルドが言えば、少年たちも改めて周囲を見回す。訓練をするには十分すぎるほどの、それこそテニスコートを3面程入れられる程度の大きさはある。15週もすれば程よい準備運動にはなるが。
「何度も回らなければいけませんからね。正直、飽きるでしょう。それにあまり急に曲がったりというのは、過度な負荷がかかりますし。」
だからこそ、これまでトモエはあまりやらせていないのだ。ただ走る、それだけであるなら狭くとも何週もすればいいというのはあるが。
「その、かなり気を使うのですね。」
ファルコにとっては意外な事ではあるのだろう。こちらでの鍛錬というのは加護ありき、怪我にしても向こうには無い、ご都合主義の結晶としか言えない魔術や奇跡がある。怪我にしてもたちどころに治る、致命傷、生前であれば後遺症が残るだろうそれについても、問題にはならない。
勿論金銭的な負担はあるだろうが、公爵家にとっては支払えない物では無いはずでもある。
「ええ。治る、治せる。だからと言ってそれに甘える理由にはなりません。」
それを頼るのは構わないが、甘えるのはよろしくない。怪我などしないに越したことなどないのだ。やむを得ない時、それはあるだろう。しかし、そうでないなら。
「それに怪我、外傷は治ったとしても、怪我をした、その記憶が足を止める事が有ります。」
そして、実際の問題として、それもあるのだ。外傷が治っても、本人に自覚がなくとも。体が覚えているために、まったく同じように動けない、無理に直そうとすればずれが大きくなり、更に次の事故に繋がる、そういった事もある。
そして実践経験が長い二人は、思い当たることもあるのだろう、ただそれぞれに深く頷いている。
「神様の厳しさ、それを忘れるのは駄目だと思います。」
まだそういった経験のない少年たちからは、アナが若干砕け始めた口調でファルコに語り掛ける。
「厳しさ、か。」
「勿論、私たちの伸ばした手を取ってくれます。でも、全身でもたれ掛かるのは。」
「ああ、そうだな。それは確かに違う。」
その言葉に頷いたファルコが、横に置いておいた武器を手に取り、それを掲げ持ち眺める。
「さて、私はやはり許されるなら、闘技大会、その場に立ってみたいと考えています。」
そして、告げられるのは、トモエが判断を預かる、そう告げた事柄についてである。
「そうですね。今の調子であれば間に合うでしょう。そういうからには、どちらを使うか決めましたか。」
「手癖として、出るかもしれませんが。」
「ならば良いでしょう。」
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