憧れの世界でもう一度

五味

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7章 ダンジョンアタック

先達としての仕事

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「さてメイ様。忌憚なくそう仰られたかと。」
「ええ。今も間違いありません。事は前例のない事態。皆の力がいる、これは私の偽りなき言葉です。」

さて、これで少年たちもダンジョンとそれにまつわる事柄で、過剰な我慢はしなくてもよくなったと、オユキは残りの人物に向けて話を進める。
必要な確認はすでに終えている。メイはこの場で今後の方針を示さねばならないのだが、ミズキリが側についていた以上、多少の腹案は伝えているだろうが、彼は少々先を見すぎる。
それと、先の事を考えて足場をと、そう考えて報告を聞くだけの場にしたいのだろうが。
流石にそれは不義理が過ぎるだろう。オユキとしてはそう考えてしまう。
ミズキリの判断基準は、オユキの語った創造神からの聖印、その発言力を加味しての物となっているのだろうが、それにしても彼女一人に重荷を背負わせきるのも、オユキの趣味ではないのだから。

「この場でメイ様が得たいもの、それは如何にして国王陛下へと、ひいては公爵様、リース伯爵様へ報告するのがよいか、その事かと愚考します。」

ミズキリにしても、こうしたほうが良い、その程度の助言はしているだろうが、オユキとしてはもう少し踏み込んでもいいと思うのだ。巻き込む人間は増やしてしまえ。かつて義父から聞き、それをトラノスケに、トラノスケからシグルドへと語られたように。できない事は出来る人間に任せればいいのだ。

「ええ。予想がついている、ミズキリ殿からもそう伺っていますが、あなた方は私と共に王都へ。
 その前に領都にて、報告を行っていただきますが。」
「まぁ、そうなるでしょうね。では、私からはこれを。」

昨日帰りがけに早速とばかりに筆記用具を買い求め、当然馴染んだもののように使いやすい物では無かったが、夜遅くまで久しぶりに、本当に久しぶりに書類仕事などに精を出すこととなった。
おかげで、今朝はトモエの手を煩わせることになったが。

「その、それは。」
「報告書と、予想される問答です。ミズキリには、いつものと言えば分かるでしょう。」
「まぁ、な。何もそこまでとは思うが。」
「ミズキリ、何度も平行線となりましたが、あなたは何処か杓子定規と言いますか、この地位にいるなら、こういった役職ならこれができる、そのように考えすぎです。
 ところ変われば、品代わる、何度も言ったでしょう。」
「だが、メイ伯爵令嬢にしても、相応の教育は受けているし、相談役もいるだろう。」
「越権と、そうであるなら本人が断るでしょう。そうでないなら、受け取るでしょう。初めから手を伸ばさない、それはあまりに悲しい。」

そうミズキリに語った上で、オユキはその場にいる他の者にも語り掛ける。

「さて、メイ・グレース・リース伯爵家令嬢、若しくは領主代行、既にそこまでの権限を得ているかもしれません。
 だからと言って、未だ年若い、そんな少女に差し伸べる手、それを惜しむものが有りますか。
 彼女は、公爵様でさえ、シグルド君、未だ少年、そんな相手からのお礼とて喜ぶとそう私に語りましたよ。」
「だがな、彼女にも立場がある。あまりに侮れば。」
「そうではない、そんな場を用意すればいいだけでしょう。まったく。職務は常に公、それだけで世界は回るものですか。」

結局人と人なのだ、人の世というのは。公明性だだとか、公平だとか。そんなおためごかしの様に常に0ベースで査定を、そんな事をいう物もいるが、そうであるなら、その人物がこれまでに積み上げた、よくしてくれた、その過去をすべて無視しろというのだろうか。それこそ公平さを欠くのだと、さて、オユキは何度この古い友人とやり合ったか。

「あくまで、個人と個人、そうであるならいいが。」
「何処まで行っても、私は私ですよ。いえ、今は古い友人とかつての平行線、その続きを楽しむ場ではありませんね。メイ様。私の、私たちの手助けは要りますか。
 これまで、あの町での時、明らかにまずいとそう思ったときにだけ、その一度だけ私は口をはさみました。
 そして、今、恐らく問題は無いのだろう、そうは思いますが。しかしこの先の重圧、それにただ耐えるあなたを放っておくのは私の矜持に反します。」

そうして、オユキがメイの方をまっすぐ見れば、この会議は始まって以来握りこまれ、白くなっていたそれも指が伸びている。

「あの時と、同じ、そうなのですね。」
「ええ。あなたに付き従うものは、あなたの決断を待たねばなりません。そこだけは変えられないのです。」
「では、私は言いましょう。正直身に余ります。王への報告など初めての事。加えて彼の聖印がある限り、私は神からそれを与えられた身として、王に対して間違いなく発言をせねばなりません。」

その言葉に、それを知らなかったのだろう数名が表情を変える。
傭兵ギルドはアイリスから報告が上がっただろうからか、アベルは眉を動かすこともないが。

「繰り返しますが、身に余ります。どこからどこまでを神の名のもとに、王に奏上すればいいかも分からないのです。しかし、事ここに至っては私が助けを求められる相手は、あまりに限られています。
 公爵、父、リース伯爵でさえ、今回については私の報告、神の言葉を伝える私を待たねばならぬ身となってしまいました。
 連れてきた者達も、正直そんな余裕はありません。ですから。」

そうして伸ばされた手の上に、オユキは昨晩の内にどうにか書き上げたその書類を置く。
スペイン語圏ではあるものの、公用語と言えばいいのだろうか、侯爵の手紙などは英語で記載されていたので、恐らく問題ないと思いたいが。
そして、渡したそれをメイが数枚、僅かな時間目を通し、そして、ため息をつく。

「オユキは、ここまでの質問があると。」
「ないと考えるほうが不自然でしょう。以前も言いましたが、国を割る、その前提がありますから。」

オユキの言葉に息を呑んだのは、さて誰であろうか。

「そうですね。私の認識が甘かったのでしょう。神の言葉は、ここに在る様に、ダンジョン、その作成が可能になったこと、それともう一点、そうですね。」
「私は、そう考えている、そういう事ですよ、メイ様。」
「分かりました。皆、忙しい事は十二分に理解しています。しかし事は国事。そして私は後一月も立たないうちに王都へと向かわねばなりません。
 それまでの間に、各々今後ダンジョン、資源を得られる新たな神の奇跡、それがどのような影響を与えるか、それを可能な限りよく検討し、報告してください。」
「メイ伯爵令嬢。ご下命承りました。しかしながら、情報の開示それについては。」

アベルが普段見慣れた彼とは違う恐らく過去にそうしていた、騎士としての振る舞いで、メイに応える。

「それぞれが信頼のおけるもの、そうしてください。まったく、オユキは実に慣れいますね。オユキによればその会議に参加したもの、その名前をすべて控える事、そう返答するのがいいだろうとのことですよ。」
「そちらは、先に共有していただいても。」
「同様ですね。曰く、先入観は与えず、それぞれから出た情報を期限を決めて、改めて皆で吟味するのがよいと、そういう事らしいですよ。」
「確かに。想定の範囲でしか動けていない今では、ならばオユキ一人で良しとなりますか。」
「情報の開示については、ミズキリが詳しいとのことですが。」

メイがオユキの渡した書類をひらひらと振りながらミズキリに語り掛ければ、やはり見目は全く異なるが、これまでにもよく見た表情で、肩を竦める。

「既存の組織図が分かりません。しかしこと本件、今回の件ついては新規の枠組みを作り、そこに参加するものを決めるのがよいでしょう。容易く外に漏らしていい情報ばかりではありません。
 王への報告を、その業務に従事したもの以外が知っている、それは外聞も良くないでしょうから。」
「あなた方は、まったく。」
「オユキが協力を決め、私にあそこまで言ったのです。なら後は、あれの勘を信じます。
 私の目的は既にお話ししたかと思いますが、それが果たされるのであれば、一蓮托生、そう納得しましょう。」
「繰り返しになりますが、私からは返答は出来ません。ただ、必ずその要望は伝えましょう。」
「ええ、それで構いませんとも。さて。そうであるなら早速ですが組織の構造、まずはそこからです。
 一過性の対策として構築するか、今後もダンジョンに関わる物として、構築するか。」

そうしてそこからはミズキリの主導で、組織、その構造、いくつかの類型と、実際に配置するべき人員などが語られながらも、それぞれのメリット、デメリットも併せて語られる。
後は、それを他の者達に質問され、ミズキリが応え、メイが決めてしまえばいいだけだ。

「退屈ですか。」

そんな新組織の立ち上げ、ブルーノ、狩猟者ギルドの長からその一環として新人教育の部署もと、そんな話が上がりさらに白熱する議論の中、完全に取り残された形となる少年たちに、オユキは声をかける。

「いや。まぁ。なに言ってるか分かんないって意味では退屈だけどさ。」

そこで言葉を切って、アナと二人、シグルドは部屋を見回してから続ける。

「俺たちが知らないところで、こんだけ苦労して、頑張って、それで俺たちがいるんだなって、そう実感できるよ。」
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