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6章 始まりの町へ
予定の確認
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「今日の奴がいいな。どんだけやったか分かり易いし。」
「ああ、だが俺は4つもダメにした。」
「変な風に力を入れるとそうなるって言われてたじゃない。それに、後になるほど、長持ちしてたし。」
「難しいものだな。」
「あなた達、元気ね。」
いつものように揃って夕食を取っていると、ようやくソファーで腰を伸ばしていたアイリスが起き上がり、食卓へと座る。
少年たちは時間一杯、せいぜい5百程度だが、しっかりと木を叩ききり、その反省会を食事の最中に行ていた。
「ま、俺らは加護ありだしな。」
「それはそうかもしれないけれど、じゃぁ、こっちの二人は何なのよ。」
「あんちゃんと、オユキだしな。」
「うん。二人だもん。」
アイリスは少年たちから至極あっさりと返され、それ以上は何を言うでもなく、大きめに肉を切り分けそれにかじりつく。
「アイリスさんは、横木ですから。」
「それにしても、枝一本折れないとは思わなかったわ。」
「それだけこれまでは身についてなかった、そういう事です。まずはあの横木を全て削り、折る事が目標ですかね。しなりもありますから、早々直ぐには成りませんが。」
アイリスのボヤキにトモエが応える。
発案はオユキだが、結局トモエが彼女の面倒も見ていた。
「私と一緒にやっていたあなたは、短い時間で既に数本枝を折ったわけだけれど。」
「それが、今の差と、そう言うしかありませんね。構えは悪くありませんが、きちんと腰を落とす、腕の力だけでなく得物の重さを使う、地面まで斬るその意識を持ちながらも、きちんとその前に武器を止める、そう言った事を意識しましょう、としか。」
「構え、違うものね。」
「ええ、一応知識はありますが、表層だけですから。きちんと教えるのは、流石に。」
話しているうちに、加護を抑える指輪を外したこともあるのだおるが、アイリスも徐々に気力を取り戻してきた。
彼女は既に護衛の期間を魔物の狩りに出ている間だけと、内容を変え、それをトモエとオユキ、傭兵ギルドの物も承諾したため、午後からはしっかりと訓練に混ざっている。
「でも、その太刀だったかしら、それは良いわね。確かにこれまで覚えた物に良く馴染むわ。」
「ハヤトさんは、やはり持ちが悪い、そう見てこちらに多い武器を選んだのでしょうね。」
「ああ、氾濫の魔物を素材に使っているからと、そういう事ね。」
「ええ、そうでなければ細く薄い、それがただ欠点になりますから。」
「あの長刀も悪くなかったな。ただ、狩猟者の武器としては、確かにな。
それもあって、お前らも片手剣を持ってるんだろうが。」
そうしてルイスも話に混ざってくる。
「ああ、俺らも最初に言われたな。森で振るには向かないって。」
「森以外にも遺跡とか、放棄された街とか、色々長い武器が触れないところもあるからな。」
「へー。なんかおっちゃんなら、回り事行きそうな気もするけど。」
「やった後が面倒なんだよ、一気に足場が悪くなるし、場所によってはそれこそ並の武器じゃ斬れないようなのもあるからな。」
「そうなんだ。」
「ま、森に入らず、草原主体って手もあるしな。そのあたりはもう好みだ。」
そうして食事を進めながら話をしているうちに、オユキが今後の予定を確認する。
「さて、公爵様からのお礼も明後日には完成すると言われましたし、予定通り一月で戻りましょうか。」
「えっと、虹月石が、あと。」
「4,5日といったところでしょうか。受け取ったら、馬車や護衛の方の手配をして、それからとそうなりますね。」
「うん、わかった。公爵様へのお礼も考えなきゃね。」
「散々手に入れた石とか宝石でもいいかなって思うんだけどさ。」
「ええ、それも非常に喜ばれるかと。」
「なんか、ピンと来なくてさ。日にちが無くなれば、石人形のトロフィーをある程度取っておいてもらってるから、それにしようかな。」
そういって、シグルドは宿の部屋の中、既に物置のように使っている部屋を見る。
「にしても、なんだかんだで、あれこれ増えたよな。」
「そうね、武器に、布に。後はお土産に。」
数日前一日それぞれ自由にと、そうした時に少年たちもなんだかんだとため込んでいたお金を吐き出して、それなりの質の武器を予備としてさらに買い足し、教会への土産として、布を数巻き買っていた。
後は日持ちがすると言われた食料なども。
オユキとトモエにしても、街歩きの時はあれこれと舌鼓をうちながら、少年たちと同じように予備の武器やいくつかの小物を邪魔にならない程度に買ったが、それに加えて公爵から改めて贈られたワインの樽が増えている。
「ええ。帰りの段取りは、馬車も含めてですから、少し大変かもしれませんね。」
「そういや、ホセのおっちゃんは無理なんだっけ。」
「ええ、近隣の町をあれこれと動き回っておられるようですよ。」
「そっか。となると、初めての人かな。」
「さて、それは分かりませんよ。」
そういってオユキが微笑めば、シグルドはキョトンとする。
一人、可能性がある相手を忘れているのだろう。
それは今言及することでもないかと、オユキは傭兵二人に視線を向ける。
「護衛は、お願いできそうですか。」
「ま、南の分手も増えてるからな。忙しいことは事実だが、問題ない。
俺もそれに合わせて、始まりの町に戻るつもりだし。アイリスは。」
「ついていくわよ。流石に今離れるわけにはいかないもの。配置換えの願いも出してるわ。」
「そうですか。となると、馬車の手配は商人ギルドにお願いですかね。」
「あんちゃんたち、自分のをとか考えないのか。」
シグルドにそう言われて、オユキは一度トモエに視線を送ると、首を振る。
「馬の管理を出来る場所がありませんからね。」
「教会で、引き受けてるぞ。」
断った矢先に、パウに言われて、委託という手段があったかと考えを改める。
「成程。そうですね。道中の町でも、そこで預けておくわけですから、自分たちで厩舎の用意を考えることもないのですよね。」
「とはいっても、流石に高いぞ、旅に使える様な馬は。」
「ええ。そうでしょうとも。今はやめておきましょう。車もそうですし、荷物を全て載せて人もとなれば、少なくとも2台ですから、流石に現実的ではありませんからね。」
「ま、そうだな。それに、商人ギルドなら喜んで準備するだろ、お得意様だしな。」
「さて、喜んでいただけるかは分かりませんね。」
このところ顔を合わせるたびにアマリーアの隈が色濃くなってきている。
恨み節でチクリとやられることもあったが、ここしばらくはその元気もないようであった。
「私としても、戻る前には一度鉄人形に遭遇してみたいですね。」
「なかなか奥まで行けてないからな。」
「頑張って運びます。」
「いえ、それ以上に魔物が多いですから、より早く馬車がいっぱいになって終わるでしょう。」
これまでも鉱山には何度も足を運んでいるが、結局奥に進むよりも早く馬車の容量が尽きる。
「頼んで増やしてもらうか。それとも借りるか。」
「ここまで面倒見て貰ってるし、俺らで探そうか。」
「うん。いいかも。私も鉱山は鉱山で練習したいし。」
「俺も、もう少し稼いでおきたい。戦槌高かったからな。」
「金属の塊だもの。」
そうして少年たちが話す中、オユキはルイスに話しかける。
「それにしても、草原には少し狩猟者が増えましたが、鉱山は増えませんね。」
「南の連中はほとんど西に行ってるからな。南で狩れるなら、はじめっからそこで狩ってるさ。」
「ええと、これまでも南の人から指定があったものを狩っていたりは。」
「中抜きだ。」
「それは、なかなか。」
トモエもそれには苦笑いをするしかない。
南にもともと住んでいたもので、度が過ぎた、烙印が押されたものは処分され、その他の者は、結界の苦しみに耐えながら、改めてやり直すと、そう生きる者、それとまとまって何処かへと流れて言った者に別れた。
この世界で、加護もなく町から大きく離れれば、どうなるか。
現地のものほどよくわかっているだろう。
それでも、神の加護に背を向ける。
さて、この国の隣、そこではそのような物が集まっていたはずだが、そもそもどう生活を成立させているのか。
神殿があるわけでもなく、向かう理由がないが、オユキは少し調べてみたほうが良いかと、そんなことを考える。
「ああ、だが俺は4つもダメにした。」
「変な風に力を入れるとそうなるって言われてたじゃない。それに、後になるほど、長持ちしてたし。」
「難しいものだな。」
「あなた達、元気ね。」
いつものように揃って夕食を取っていると、ようやくソファーで腰を伸ばしていたアイリスが起き上がり、食卓へと座る。
少年たちは時間一杯、せいぜい5百程度だが、しっかりと木を叩ききり、その反省会を食事の最中に行ていた。
「ま、俺らは加護ありだしな。」
「それはそうかもしれないけれど、じゃぁ、こっちの二人は何なのよ。」
「あんちゃんと、オユキだしな。」
「うん。二人だもん。」
アイリスは少年たちから至極あっさりと返され、それ以上は何を言うでもなく、大きめに肉を切り分けそれにかじりつく。
「アイリスさんは、横木ですから。」
「それにしても、枝一本折れないとは思わなかったわ。」
「それだけこれまでは身についてなかった、そういう事です。まずはあの横木を全て削り、折る事が目標ですかね。しなりもありますから、早々直ぐには成りませんが。」
アイリスのボヤキにトモエが応える。
発案はオユキだが、結局トモエが彼女の面倒も見ていた。
「私と一緒にやっていたあなたは、短い時間で既に数本枝を折ったわけだけれど。」
「それが、今の差と、そう言うしかありませんね。構えは悪くありませんが、きちんと腰を落とす、腕の力だけでなく得物の重さを使う、地面まで斬るその意識を持ちながらも、きちんとその前に武器を止める、そう言った事を意識しましょう、としか。」
「構え、違うものね。」
「ええ、一応知識はありますが、表層だけですから。きちんと教えるのは、流石に。」
話しているうちに、加護を抑える指輪を外したこともあるのだおるが、アイリスも徐々に気力を取り戻してきた。
彼女は既に護衛の期間を魔物の狩りに出ている間だけと、内容を変え、それをトモエとオユキ、傭兵ギルドの物も承諾したため、午後からはしっかりと訓練に混ざっている。
「でも、その太刀だったかしら、それは良いわね。確かにこれまで覚えた物に良く馴染むわ。」
「ハヤトさんは、やはり持ちが悪い、そう見てこちらに多い武器を選んだのでしょうね。」
「ああ、氾濫の魔物を素材に使っているからと、そういう事ね。」
「ええ、そうでなければ細く薄い、それがただ欠点になりますから。」
「あの長刀も悪くなかったな。ただ、狩猟者の武器としては、確かにな。
それもあって、お前らも片手剣を持ってるんだろうが。」
そうしてルイスも話に混ざってくる。
「ああ、俺らも最初に言われたな。森で振るには向かないって。」
「森以外にも遺跡とか、放棄された街とか、色々長い武器が触れないところもあるからな。」
「へー。なんかおっちゃんなら、回り事行きそうな気もするけど。」
「やった後が面倒なんだよ、一気に足場が悪くなるし、場所によってはそれこそ並の武器じゃ斬れないようなのもあるからな。」
「そうなんだ。」
「ま、森に入らず、草原主体って手もあるしな。そのあたりはもう好みだ。」
そうして食事を進めながら話をしているうちに、オユキが今後の予定を確認する。
「さて、公爵様からのお礼も明後日には完成すると言われましたし、予定通り一月で戻りましょうか。」
「えっと、虹月石が、あと。」
「4,5日といったところでしょうか。受け取ったら、馬車や護衛の方の手配をして、それからとそうなりますね。」
「うん、わかった。公爵様へのお礼も考えなきゃね。」
「散々手に入れた石とか宝石でもいいかなって思うんだけどさ。」
「ええ、それも非常に喜ばれるかと。」
「なんか、ピンと来なくてさ。日にちが無くなれば、石人形のトロフィーをある程度取っておいてもらってるから、それにしようかな。」
そういって、シグルドは宿の部屋の中、既に物置のように使っている部屋を見る。
「にしても、なんだかんだで、あれこれ増えたよな。」
「そうね、武器に、布に。後はお土産に。」
数日前一日それぞれ自由にと、そうした時に少年たちもなんだかんだとため込んでいたお金を吐き出して、それなりの質の武器を予備としてさらに買い足し、教会への土産として、布を数巻き買っていた。
後は日持ちがすると言われた食料なども。
オユキとトモエにしても、街歩きの時はあれこれと舌鼓をうちながら、少年たちと同じように予備の武器やいくつかの小物を邪魔にならない程度に買ったが、それに加えて公爵から改めて贈られたワインの樽が増えている。
「ええ。帰りの段取りは、馬車も含めてですから、少し大変かもしれませんね。」
「そういや、ホセのおっちゃんは無理なんだっけ。」
「ええ、近隣の町をあれこれと動き回っておられるようですよ。」
「そっか。となると、初めての人かな。」
「さて、それは分かりませんよ。」
そういってオユキが微笑めば、シグルドはキョトンとする。
一人、可能性がある相手を忘れているのだろう。
それは今言及することでもないかと、オユキは傭兵二人に視線を向ける。
「護衛は、お願いできそうですか。」
「ま、南の分手も増えてるからな。忙しいことは事実だが、問題ない。
俺もそれに合わせて、始まりの町に戻るつもりだし。アイリスは。」
「ついていくわよ。流石に今離れるわけにはいかないもの。配置換えの願いも出してるわ。」
「そうですか。となると、馬車の手配は商人ギルドにお願いですかね。」
「あんちゃんたち、自分のをとか考えないのか。」
シグルドにそう言われて、オユキは一度トモエに視線を送ると、首を振る。
「馬の管理を出来る場所がありませんからね。」
「教会で、引き受けてるぞ。」
断った矢先に、パウに言われて、委託という手段があったかと考えを改める。
「成程。そうですね。道中の町でも、そこで預けておくわけですから、自分たちで厩舎の用意を考えることもないのですよね。」
「とはいっても、流石に高いぞ、旅に使える様な馬は。」
「ええ。そうでしょうとも。今はやめておきましょう。車もそうですし、荷物を全て載せて人もとなれば、少なくとも2台ですから、流石に現実的ではありませんからね。」
「ま、そうだな。それに、商人ギルドなら喜んで準備するだろ、お得意様だしな。」
「さて、喜んでいただけるかは分かりませんね。」
このところ顔を合わせるたびにアマリーアの隈が色濃くなってきている。
恨み節でチクリとやられることもあったが、ここしばらくはその元気もないようであった。
「私としても、戻る前には一度鉄人形に遭遇してみたいですね。」
「なかなか奥まで行けてないからな。」
「頑張って運びます。」
「いえ、それ以上に魔物が多いですから、より早く馬車がいっぱいになって終わるでしょう。」
これまでも鉱山には何度も足を運んでいるが、結局奥に進むよりも早く馬車の容量が尽きる。
「頼んで増やしてもらうか。それとも借りるか。」
「ここまで面倒見て貰ってるし、俺らで探そうか。」
「うん。いいかも。私も鉱山は鉱山で練習したいし。」
「俺も、もう少し稼いでおきたい。戦槌高かったからな。」
「金属の塊だもの。」
そうして少年たちが話す中、オユキはルイスに話しかける。
「それにしても、草原には少し狩猟者が増えましたが、鉱山は増えませんね。」
「南の連中はほとんど西に行ってるからな。南で狩れるなら、はじめっからそこで狩ってるさ。」
「ええと、これまでも南の人から指定があったものを狩っていたりは。」
「中抜きだ。」
「それは、なかなか。」
トモエもそれには苦笑いをするしかない。
南にもともと住んでいたもので、度が過ぎた、烙印が押されたものは処分され、その他の者は、結界の苦しみに耐えながら、改めてやり直すと、そう生きる者、それとまとまって何処かへと流れて言った者に別れた。
この世界で、加護もなく町から大きく離れれば、どうなるか。
現地のものほどよくわかっているだろう。
それでも、神の加護に背を向ける。
さて、この国の隣、そこではそのような物が集まっていたはずだが、そもそもどう生活を成立させているのか。
神殿があるわけでもなく、向かう理由がないが、オユキは少し調べてみたほうが良いかと、そんなことを考える。
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