憧れの世界でもう一度

五味

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6章 始まりの町へ

楽しい鉱山

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「お。おお。」

シグルドが岩人形を相手取り、そんな声を出している。
その様子を見てトモエは目を細めているが、オユキとしてはそこに確かに成長を感じる。
一日の鍛錬でも、はっきりと成果が出る。それがこの世界の加護、その非常に大きな点だろう。
ただ、今はそれが若干悪い方向に動いているかと思ったが、どうやら彼は自分で気が付いたようで調整を入れる。

「成程。なんか、分かって来たな。」

そこからは実に危なげなく岩人形を切り分け、討伐する。

「そっか、繊細ってこういう事か。」

その言葉にトモエが近づいて、肩と腰に振れて少し姿勢を直させる。

「途中、自分で気が付けたのは良かった点ですね。」
「ああ。にしても違う構えで練習しても、影響あるんだな。」
「体は変わりませんから。それにきちんと繋がっていますよ。はい、ではそのまま振ってみてください。
 何を直したか、分かりますか。」
「体が少し開いて、前傾姿勢だった。」
「そうです。力がついた分、腕だけで振ってしまいましたね。」

そうして数度その場で剣を振って、確かめたシグルドが頷いてから皆のいる場所へ戻って来る。

「うん。次は大丈夫、だと思う。」
「ほんとに。」
「アンもやってみれば分かるさ。結構変わってるぞ。」
「へー、気を付けるね。」

そういって、次に影から出てきた石人形にアナが向かう。
彼女はなんだかんだとオユキと揃いの武器、特に何か特別な素材を使ったものではないが、それを使うようになっている。
しかし、彼女の動きはこれまでと特別変わる物でもなく、きれいに継ぎ目に次々と刃を通して片づける。
これまでとの大きな違いは、そもそも武器が異なるが、この片手剣使うときに、振り上げて斬る、ではなく剣を寝かせてそのまま横に振りぬく、その型を基本とするようになったことくらいだろうか。
素振りの中では、上段を基本とし、トモエが中段からの振り抜きを教え始めているくらいではあるが、短剣よりも性に合っているようで、呑み込みが早い。

「ほんとだ。ちょっと勢いがつきすぎるかも。」
「ええ、上手くとは言いませんが、きちんと制御できていましたよ。
 舞に近い動き、それがいい方向に働いていますね。」
「はい。気を抜くと転ぶので。」
「そうですね、オユキさんのあれは難易度が高いですから。」

そういってトモエがアナの体を触り、数か所を直す。

「あ、うん。こっちの方が次に動きやすい。」
「勢いが増した分、腕に限らず体の各部が普段より伸びていましたからね。」
「それができたら、上手く、になるんですね。」
「ええ。では交代を。」

そして、次にパウだが、こちらは、より劇的だった。
つるはしの一撃で見事に岩人形を砕き、終わらせて見せる。

「パウ君は、こちらではいう事があまりありませんね。」
「まぁ、一振りでは。」

そう言いながらもトモエがパウに近づき、先の二人と違い少し上に振らせてからその手に触り、声をかける。

「この時ですね、きちんと重さを感じるでしょう。」
「ああ。」
「それを小指で支えます。」
「小指に力を入れろと、いつも言われるな。確かに、今は親指で支えている。」
「小さなことですが、大事な事です。」
「分かった。」

そうしてパウも数度振れば、トモエに開放され、次はセシリアが向かう。
彼女に関しては、少年たちの中で最も成長が目覚ましい。
長刀、オユキと同じ武器に変えてから、攻撃の精度、威力、どちらも長足の成長を見せている。
一週間ほど前にはできなかったというのに、今となっては綺麗に岩人形の首を落とすほどに。

「わ、上手くいった。」
「そうですね、それが当たり前になれば合格です。」

初めての成功に喜ぶセシリアに、トモエがそう声をかける。

「えっと、はい。でも、これ振った時に先が安定しやすくて。」
「その、こういう言いようはあまり好みませんが、前の物は質が。」
「ああ、はい。分かります。武器にだけ頼らないように頑張ります。」
「その頑張りはあまり勧めませんが、一先ず今は。」

そういって、トモエはセシリアの体勢も簡単に治して言葉をかける。

「ここだと足元が引っかかっているので気づかないでしょうが、足が流れています。」
「あ、最初に河原でよろけた。」
「武器の重量が大きく変わったので。改めて気を付けて馴染ませましょう。」
「はい。」

そうして、最後のアドリアーナも危なげなく岩人形の相手をするが、元々弓を希望していたこともあり、遅れて振り始めた太刀にまだまだ振り回されている。

「片手剣とも両手剣とも違いますね。」
「設計思想が違いますから。使った印象はどうですか。」
「片手剣よりも好きです。なんだかこう、両手の使い方で、いろいろ変わるのが楽しいです。」
「では、これからは、こちらを主に振っていきましょうか。弓は申しわけありませんが、戻ってからですね。
 間隔があいているので、本当に申し訳ありません。」
「いえ、それ以上の物を頂いていますから、それは贅沢が過ぎるというか、もう理不尽な話というか。」

そんな少年たちを見守る間も、子供たちが次々と魔物の収集品を馬車へと運んでいく。
草原では、彼女たちも魔物と戦っているためか、かなり身体能力も上がっており、最初は3人程で運んでいたものも、今となっては2人で運んでいる。
馬車については、宿に相談すれば、当たり前のように追加の馬車が用意された。
またここに来れば、必ず泊まろうと、オユキとトモエで話し合ったりもしたが、おかげでいつもより奥に進むことができ、そこでようやく目当ての物を見つける。

「これが、中層を示すものですか。」

そこには、巨大な石板が壁際に置かれている。そこにはただ腕に覚えがなければ引き返せ、そうとだけ刻まれている。

「魔物に破壊されたりしないのですね。」
「結構な手間をかけて加工しているらしい。試そうとするなよ。流石に騎士団に怒られるだけじゃ済まん。」
「いえ、流石に私もそこまで手あたり次第切ろうとは思いませんが。おや、早速ですか。」

その石板を超えた少し先に、ギリギリ光が届く、その位置にはこれまでのようにそこらに落ちた岩を適当に寄せ集めた、そんな形状ではない、鉄で作られた、人形がいた。
完全に人型というわけでもなく、三角の頭部、巨大な胴体そこから伸びる地面をこする長さの腕、そして太い足。
それぞれの部位、可動部として肩、肘、手首、膝と足首。その位置に継ぎ目は見えるが、それ以外はのっぺりとした作りになっている。

「中身が詰まっていると思いますか。」
「引き摺っている跡が深いですからね、恐らく。完全に張りぼてではないでしょう。叩けば早いかと。」
「それもそうですね。こちらに来た目的の一つ、それでは早速。」

いうが早いか、トモエが無造作に歩を進め、鉄人形に対峙する。少し距離があったためあまり感じはしなかったが、正面に立てば3mは優に超えるその体躯に改めて警戒する。
トモエとしては、早速と少々欲もあるが、その前に試しと振り下ろされた腕をかわし、軽く峰で叩く。
金属同士がぶつかる音はするが、空洞に反響するようなものではない。
であれば、中も詰まっていると判断し、トモエは腕を引き上げられる前に、その手首から先を継ぎ目を狙って切り落とす。
その感触に、トモエは少年たちにはまだ早いとそう判断する。鉄ほどではないが、継ぎ目を斬るときには丸太を斬る程度の感触があった。
実際にそのような物はないから、数度試せば少年たちも落とせるかもしれないが、その前に他を叩いて、武器がダメになるだろうと。
重量のバランスが変わったからか、腕を再び振り上げ、そのまま後ろに行き過ぎ、バランスが崩れたところで、膝を斬り転がす。倒れ込む際にも伸ばしてきたうで、トモエに向けて動かされた足を、きちんと下がって躱しながら、それぞれの先を切り落とし、肩を念のために斬り落としたうえで、地面に転がっているというのにトモエの肩程の位置にある首を斬り落とす。
それで巨大な胴体は消え去るが、切り離した部位は、そのまま残る。
相も変わらず、このトロフィーというのは今一つ判定基準が分からないと、トモエは首を傾げそうになるが、太刀の状態を確認してから鞘へと戻す。
次の機会があれば、恐らく、継ぎ目を狙わなくても斬れる、そんな確信を手ごたえとして感じながら。 
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