憧れの世界でもう一度

五味

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四章 領都

オユキとトモエの発注

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「お客様ですよ。」

ホセがそう苦笑いと共に告げれば、店の主だろう人物が無遠慮な視線をトモエたちに向ける。
少し品定めのような視線を贈ると、店主はため息をついて、ホセに応える。

「ちょっとはマシなのを連れて来るようになったじゃねーか。
 だが、そっちの小娘は論外として、そこのガキどももうちの武器がいるようには見ねぇな。」

その言葉にホセが苦笑いをしながら、話しかける。

「こちらの7人がお客様ですよ。こっちのカレンはまぁ、荷運びの手伝いです。」
「そのガキどももか。まだまだ、安物のほうがお似合いだろ。うちのじゃ赤字になるだけだろ。」
「そのあたりは、私が判断するわけではありませんから。
 それと、こちらを。武器の素材です。こちらの方々の持ち込みですよ。」

ホセがそう言いながら、馬車からカレンと二人掛で持ってきた木箱を置けば、トモエたちも残りを側に並べる。

「ほう。」

早速とばかりに、中を開けて覗き込み、その中から少し手に取って、しげしげと見定め始める。

「トモエさん、こちらが今この領都で徐々に名前を売り始めている、ウーヴェさんです。」
「トモエと言います。」
「おう。で、これか。溢れのソポルト、これならいいもんが作れそうだ。」

そう言うと、ウーヴェが他の木箱も覗き込み、そこに入っているものを確認していく。

「まずはこちらの作品、それを見てお任せするか決めたいとのことです。」
「ほう。いいだろう。魔物を使ったものだな、そこに座って待ってな。すぐ持ってくる。」

そういって裏手にウーヴェが引っ込むと、ホセがトモエに謝り始める。

「その、腕は確かなのですが、あの通りの気性の方でして。
 もう少し人当たりが良ければ、もっと評判も出るのでしょうが。」
「いえ、お気になさらず。こだわりを持っている方というのは、往々にしてそういうところがありますから。
 それに悪意は感じませんし。」
「まったく、無礼な男です。なにが論外ですか。」

カレンがそんなことを呟いているのを横目に、辺りを興味深げに見まわしている少年にオユキは声をかける。

「何か気になる形状の物はありましたか。」

工房らしく、辺りには数打ちか習作か、少なくとも見本として出すようなものではない、そんな武器が壁際の樽にまとめて入れられたり、壁に掛けられたりと、所狭しと並べられている。

「いや、たくさんあるなって。俺はあっちの両手剣が良いかな。今持ってるのによく似てるし。」
「ほんと、短剣だけでもこんなにたくさんあるんだ。あの片側が櫛みたいになってるのは、オユキちゃん分かる。」
「ソードブレイカー、聞き手と逆に持って、相手の剣をからめとって折る、盾のように扱うものですね。」
「へー、そんな短剣もあるんだ。」
「トモエさん、あれって槍なんですか。」
「長柄にも色々ありますから、あれは種類としては戟と呼ぶものですね。出来る事は多いのですが、その分取り扱いが難しくなります。」
「アレが、戦槌か。」
「あれは、何でしょう。槌鉾の一種でしょうが、なかなか威圧的な見た目ですね。」
「モーニングスター等と呼ばれていたかと。」

あれこれと始まりの町で見ることもなかった形状の武器に、楽し気にあれはあれはとオユキとトモエに聞きながらも、それぞれに興味のある武器に視線を向けていると、裏手からウーヴェが戻ってくる。
その手には長剣に片手剣、短剣と三種類の武器と、なぜか2つのインゴットらしきものをもって。
そのインゴットにしても、二つ合わせれば、持ってきている短剣なら4本は作れそうな、そんな大きさだ。

「おう、待たせたか。これが今うちに残ってる中で、一番新しい奴だ。」
「ありがとうございます。抜いてみても。」
「勿論だ。」

そういって、トモエが手を伸ばし、片手剣を持とうとするが、少し眉を上げる。

「かなり、重さがありますね。」
「ああ、一番いいのを選んだからな。まぁ、やっぱり知らなかったか。
 武器を見る前に、少し話を聞け。」

その言葉にトモエが片手剣から手を放すと、ウーヴェが持ってきたインゴットを指して、トモエたちに質問を投げかける。

「こっちに鉄も持ってきたが、これで、どの武器が作れると思う。」
「長剣なら一つ、短剣と片手剣を合わせて一つ、くらいでしょうか。」
「短剣だけなら、4本は作れそうですが。」

トモエとオユキがそれぞれに応えると、ウーヴェはにやりと笑う。

「ああ、鉄だけで作るんならその見立てでいい。だがな魔物の素材を使うなら、これで短剣一本だ。」
「は。いや、そりゃないだろおっさん。どう見たって、こっちのほうが倍以上あるじゃねーか。」
「誰がおっさんだ小僧。ま、知らんだろうが、魔物の素材は鉄を吸う。文字通りな。」
「それにしても、その量は。」
「そのあたりは鍛冶と火の神の領分だ。儂らにはわからんよ。なんにせよ吸わせる鉄で品質がある程度代わる。
 むろん目一杯吸わせたものが、一番いい。鉄以外にもあれこれ混ぜることもある。
 その辺の配合は秘伝だがな。」

言われた言葉に、トモエが短剣に手を伸ばし持ち上げる。

「その割に、こちらの短剣は、そっちの鉄に比べて軽すぎるようにも思いますが。」
「言ったろ。鍛冶と火の神の領分だ。そこにどんな奇跡があるかはわからんよ。」

トモエはウーヴェの答えにオユキを見るが、オユキにしてもゲームの中で鍛冶などしたわけがない。
さっぱりわからぬその理屈に、ただ肩を竦めて応える。

「そこの骨で作っていただくとしたら、同じくらいの重量増加、そうなりますか。」
「いや、これは寄せ集めの素材で拵えてるからな、もう少し重くなるだろう。大体、そうだな3割り増しくらいか。」
「それほどですか。」
「どうする、質を落とせば、勿論軽くなる。ああ、グレイハウンドだと流石にこれよりは軽くなる。つっても持ってもなんとなく軽いと、そう思う程度だがな。」
「おっさん、俺も持ってみてもいいか。」
「言葉は選べよ小僧。なに構わん、持ってみろ。」

そう告げられて、シグルドが両手剣、アナが短剣を手に取り、少年たちの間で回す。

「げ、こんな重いのか。」
「わ、ほんとだ。全然違う。」
「俺はむしろ安心できるな。」

そうしてわいわい騒ぐ中、トモエはどうやら腹を決めたらしい。
改めて鞘から抜いた片手剣を、じっくりと見分してから鞘に戻し、改めて頭を下げる。

「では、最も良いものを、まず一振りお願いできますか。」
「ああ、作りの指定はあるか。」

それにトモエが、以前よく使っていた太刀、刀身が85センチほどあった、あと少し大きければ大太刀とそう呼ばれるような大きさの刀、その形状を説明している。

「随分と身が細いな。持ちが悪いぞ。」
「そのあたりの試しも含めて、ですね。一番使い慣れた形の物も持っておきたいですから。」
「納得してるならいいが。鎬はこっちの背の方に入れればいいのか。」
「ええ、その様に。」

合わせてオユキも長刀の依頼を行う。重量もかなり増えるため、本当に持てるのかと心配されはしたが、両手剣を軽々と持って見せて、納得させた。

「どっちも見慣れない形だが、まぁ、いいだろう。そうだな、今の話だと、腕の骨一本その半分あれば足りるが。」
「その程度ですか。いえ、鉄を吸うと、それを考えれば、むしろ多いのでしょうか。
 そうですね、同じものをもう一つ、それから私は両手剣を二つ。オユキさんは。」
「私も同じものをもう一つと、片手剣、それから、こういった形状の武器なのですが。」

そういってオユキはファルシオンとカトラス、その中間のような、幅広の片手剣、僅かに反りを持ち、切っ先は両刃、そういった物を説明する。

「作れんことはないが、重いぞ。」
「慣れますよ。それを二つ。それだけ作るとすれば、こっちの素材はどれだけいりますか。」
「ま、腕が全部と爪を半分、牙を少し、ってところか。」
「そんなに残りますか。」
「そりゃお前、本来ならたまに手に入る牙とか爪を寄せ集めて作るもんだしな。」
「分かりました。余剰はいりますか。」
「それも込みで、その量だ。」
「では、ホセさん。残りは任せます。」
「畏まりました。ではウーヴェ、今から取り分けてしまいましょう。」

そういって、ウーヴェとホセが素材をより分け、トモエとオユキの注文に必要なものはウーヴェがそのまま裏手に持っていく。

「いや、想像以上に残りました。ありがたい事です。」

そういってホセは実に楽しげに笑うのだった。
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