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二章 新しくも懐かしい日々
一日の終わりに
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その後は何事もなく宿に戻り、オユキとトモエが身を清めて食卓に着けば、そこには昨日で見覚えた顔が並んでいた。
「お疲れ様。」
そういって、後から合流する二人にミズキリが木でできたカップを掲げて、労う。
その様子に、オユキは苦笑いを浮かべて声をかける。
「ここのところ、毎日こちらに来ていますが、ご自分の宿は大丈夫なのですか。」
「ああ、こっちも長いからな。持ち家だ。
自分で料理、それも考えはしたが、どうにも面倒でな。」
そう言うミズキリを、ルーリエラが軽く腕をつねって咎める。
「まったく。なら家など買わなければよかったでしょうに。」
「どうにも昔の仲間が、来るまでは離れがたくてな。
たまに長く離れている以上、言い訳にもならないが。」
「分かっているなら、直してください。」
その様子に、オユキはふと疑問を覚えて尋ねる。
「おや、お二人は、ご一緒に。」
元の世界でミズキリは、忙しさにかまけて家庭を持たず、異性との関係など、社員を連れて、取引先との付き合いで、それこそそういった店に通う、その程度のものであったはずだが。
妻や家族はいたが、政治的な、それこそ仕事の都合、そういった意味合いの家庭を築き、それでも確かに愛情は示していたし、こちらに来てあった時に、その後を聞く程度には、思い入れもあったはずだ。
それを断ち切って、こちらで新しく関係を築いた友人に、オユキは意外を覚えてしまう。
「まぁ、何となく気が合ってな。そういうのも悪くないか、そう思った。」
「押しかけたのは私ですね。押し切って、そのまま。」
恥ずかし気に語るミズキリと、自慢げに言うルーリエラが実に対照的だ。
「まぁ、それはおめでとうございます。」
トモエは、その事実を素直に祝福する。
「ああ、ありがとう。オユキとしては意外か。」
「ええ、まぁ。」
隠さずそういえば、ミズキリはそれもそうだろう、そう頷く。
「二年、短いと取るか、長いと取るかは人それぞれだしな。
こちらで生きる、その決意をした。そう考えたときに、心残りはあるが、それでもこちらで、そう思ったのさ。」
「ああ、勘違いをさせたのなら、申し訳ありません。非難する意図はありません。
ただ、前が前でしたから。自分からというのは、どうしても。」
オユキが歯切れ悪くそう答えれば、ミズキリがその表情を固める。
そして、間髪を入れず、ルーリエラがオユキに詰め寄る。
「あら、オユキさん、それはどういう意味ですか。」
何処か、不思議な、座ってさえいなければ、二歩は間を開けただろう、そんな威圧感を湛えてルーリエラはオユキに詰め寄る。
その目は逃がさない、そんな色をはっきりと浮かべている。
思わずオユキが、話してもいいのか、そうミズキリに視線を送れば、ただ緩やかに彼は首を横に振る。
「その、こちらに来る前は、忙しくしていまして。
自分から、そういった相手を作ることを避けていましたから。」
オユキが、可能な限りぼかして、逃げるように言えば、ルーリエラはさもありなんと頷いて見せる。
「だから、私が押しかけました。」
そして、そんなことを自慢げに言い切る。
その様子に、ああ、押し切られたのだな、そうオユキも納得してしまう。
「ま、それはいい。いや、興味があれば、話せることは話すが。」
ミズキリは、今はそれよりと、昼間の森、その様子について話始める。
魔物の量が確実に増えており、溢れるまであまり猶予がない。
ルーリエラからは、既に森の中は淀んでおり、今後も解決するまでは魔物が増え続けるだろうと。
ラルフ、改めてトラノスケが、調査の代わりを謝れば、自分から言い出したからと、そう前置きをしたうえで、森から通常の生物が数を減らしていること、そういった情報が共有される。
「異常が明らかだったからな。あまり奥までは入らずに、さっさと戻ってきたが。」
そういって、ミズキリは難しい顔をする。
「俺じゃ、流石にな。索敵はできても戦闘力が足りない。」
「いや、ラルフの責任でもないさ。それこそ、あの森に大きな被害を出してもいいなら、俺とルーでも十分ではあったんだ。まだそれをするほどでもない、そう判断して退いただけだからな。」
「私としても、罪もなく、使うからでもなく。無意味に植物を傷つけられるのは、遠慮していただきたいわ。」
二人がフォローをすれば、ラルフも少し持ち直したのか、話を続ける。
「森の中でもいったが、なんか妙な匂いがしたんだよな。」
「ああ、それか。かといって溢れが確定した以上は、再調査というわけにもな。」
「私じゃなくて、木精がいれば、もう少し詳しくわかったんでしょうけど。」
「まぁ、言っても仕方ない。トラノスケ、恐らく草原にも森から魔物が出る、どうする、一緒に行くか。」
ミズキリがそう尋ねると、トラノスケは一度オユキ達に視線を向けてから、頷く。
「ああ、一緒に行かせてもらおう。」
そう答えるトラノスケに、ミズキリが苦笑いを浮かべて、続ける。
「流石に、この状況ではな。オユキとトモエは留守番だ。」
「怪我もありますし、森の魔物相手は、まだ難しいでしょうからね。」
オユキが、つるした腕を撫でながらそう言えば、トラノスケはそれを否定する。
「いや、今日グレイハウンド相手は十分にやれていたからな。
強化された状態でも、十分捌けていたんだ。普段の森なら大丈夫だろう。」
「ああ。そういえば、そのような話でしたね。」
トラノスケの言葉に、トモエが驚いたように、そんなことを呟く。
対峙した数は少なく、機があれば問題なく切り伏せていたため、初日との差をあまり感じなかったのだろう。
トモエに関しては、怪我などもしていないわけではあるし。
「気が付かなかったかもしれないが、あれでも刃物が通せない、そんな奴も出て来るくらいには強化されていたんだぞ。後は、丸兎もな。変異種はいなかったが、溢れが近く活性化しているんだろう。普段よりも、少々強くなっていたさ。」
「そうなのですか。」
「ああ。いくら振り回しているだけといっても、幅広剣で、刃もついているんだ。丸兎くらいは、両断できなくても切れはする。それができない程度には、強化されていたな。」
言われて、トモエは初日と、今日、その様子を頭の中で比べているのだろう。
ただ、オユキにしても、正直違いが明確には言えない。
言われてみれば、突進の速度が上がっていたような、その程度だ。
「こちらに来てから、力量を見る目が曇りましたかね。」
「魔物を狩れば、その恩恵があるからな。そのせいで差を感じなかったんじゃないか。
なんだかんだで、そこそこ狩ってるだろ。今日にいたっては、それこそ結構な数だったしな。」
「そこまで言うほどのものではないように思いますが。」
オユキがそう言えば、ミズキリが笑い声を上げながら、どこか納得のいかない顔をしているオユキとトモエに告げる。
「魔物だけじゃないさ。鍛えれば鍛えた分だけ、確実に強くなる。まぁ、人によって差はあるがな。
それに、こっちだと仮登録したばかりなら、半日で丸兎2匹かれれば上等だ。
把握しきれてはないだろうが、それで宿に1日食事つき、そう考えれば納得もしやすいだろう。」
そう言われて、トモエの表情が曇る。
どうやら、少年たちに対して、かなり厳しい想定で訓練をしてしまった、そんなことを考えているのだろう。
そんなトモエを横に座り、その顔を見上げながら、オユキは話しかける。
「気にすることはありませんよ。命がかかっているのは事実です。
それに訓練は、実践よりも厳しく。」
そうでしょう、とオユキが告げれば、少し戸惑ったようにトモエも頷く。
「やりすぎと、そう見ればイマノルさんも、ルイスさんも止めましたよ。」
そう言いながら、オユキはイマノルが懐かしい、そういった事を思い出す。
彼が懐かしむというのは、つまり騎士団、そこに入った見習いが受ける、それと同程度と、そういう事だ。
やりすぎであることには、変わりなかったのだろう。
「あら、こうしていては分からないけれど、トモエさんは情熱的な方なのね。」
ルーリエラがそう、実に綺麗にまとめ、ミズキリとトラノスケはそれに吹き出す。
そうして、楽しい夕食の時間は過ぎていった。
「お疲れ様。」
そういって、後から合流する二人にミズキリが木でできたカップを掲げて、労う。
その様子に、オユキは苦笑いを浮かべて声をかける。
「ここのところ、毎日こちらに来ていますが、ご自分の宿は大丈夫なのですか。」
「ああ、こっちも長いからな。持ち家だ。
自分で料理、それも考えはしたが、どうにも面倒でな。」
そう言うミズキリを、ルーリエラが軽く腕をつねって咎める。
「まったく。なら家など買わなければよかったでしょうに。」
「どうにも昔の仲間が、来るまでは離れがたくてな。
たまに長く離れている以上、言い訳にもならないが。」
「分かっているなら、直してください。」
その様子に、オユキはふと疑問を覚えて尋ねる。
「おや、お二人は、ご一緒に。」
元の世界でミズキリは、忙しさにかまけて家庭を持たず、異性との関係など、社員を連れて、取引先との付き合いで、それこそそういった店に通う、その程度のものであったはずだが。
妻や家族はいたが、政治的な、それこそ仕事の都合、そういった意味合いの家庭を築き、それでも確かに愛情は示していたし、こちらに来てあった時に、その後を聞く程度には、思い入れもあったはずだ。
それを断ち切って、こちらで新しく関係を築いた友人に、オユキは意外を覚えてしまう。
「まぁ、何となく気が合ってな。そういうのも悪くないか、そう思った。」
「押しかけたのは私ですね。押し切って、そのまま。」
恥ずかし気に語るミズキリと、自慢げに言うルーリエラが実に対照的だ。
「まぁ、それはおめでとうございます。」
トモエは、その事実を素直に祝福する。
「ああ、ありがとう。オユキとしては意外か。」
「ええ、まぁ。」
隠さずそういえば、ミズキリはそれもそうだろう、そう頷く。
「二年、短いと取るか、長いと取るかは人それぞれだしな。
こちらで生きる、その決意をした。そう考えたときに、心残りはあるが、それでもこちらで、そう思ったのさ。」
「ああ、勘違いをさせたのなら、申し訳ありません。非難する意図はありません。
ただ、前が前でしたから。自分からというのは、どうしても。」
オユキが歯切れ悪くそう答えれば、ミズキリがその表情を固める。
そして、間髪を入れず、ルーリエラがオユキに詰め寄る。
「あら、オユキさん、それはどういう意味ですか。」
何処か、不思議な、座ってさえいなければ、二歩は間を開けただろう、そんな威圧感を湛えてルーリエラはオユキに詰め寄る。
その目は逃がさない、そんな色をはっきりと浮かべている。
思わずオユキが、話してもいいのか、そうミズキリに視線を送れば、ただ緩やかに彼は首を横に振る。
「その、こちらに来る前は、忙しくしていまして。
自分から、そういった相手を作ることを避けていましたから。」
オユキが、可能な限りぼかして、逃げるように言えば、ルーリエラはさもありなんと頷いて見せる。
「だから、私が押しかけました。」
そして、そんなことを自慢げに言い切る。
その様子に、ああ、押し切られたのだな、そうオユキも納得してしまう。
「ま、それはいい。いや、興味があれば、話せることは話すが。」
ミズキリは、今はそれよりと、昼間の森、その様子について話始める。
魔物の量が確実に増えており、溢れるまであまり猶予がない。
ルーリエラからは、既に森の中は淀んでおり、今後も解決するまでは魔物が増え続けるだろうと。
ラルフ、改めてトラノスケが、調査の代わりを謝れば、自分から言い出したからと、そう前置きをしたうえで、森から通常の生物が数を減らしていること、そういった情報が共有される。
「異常が明らかだったからな。あまり奥までは入らずに、さっさと戻ってきたが。」
そういって、ミズキリは難しい顔をする。
「俺じゃ、流石にな。索敵はできても戦闘力が足りない。」
「いや、ラルフの責任でもないさ。それこそ、あの森に大きな被害を出してもいいなら、俺とルーでも十分ではあったんだ。まだそれをするほどでもない、そう判断して退いただけだからな。」
「私としても、罪もなく、使うからでもなく。無意味に植物を傷つけられるのは、遠慮していただきたいわ。」
二人がフォローをすれば、ラルフも少し持ち直したのか、話を続ける。
「森の中でもいったが、なんか妙な匂いがしたんだよな。」
「ああ、それか。かといって溢れが確定した以上は、再調査というわけにもな。」
「私じゃなくて、木精がいれば、もう少し詳しくわかったんでしょうけど。」
「まぁ、言っても仕方ない。トラノスケ、恐らく草原にも森から魔物が出る、どうする、一緒に行くか。」
ミズキリがそう尋ねると、トラノスケは一度オユキ達に視線を向けてから、頷く。
「ああ、一緒に行かせてもらおう。」
そう答えるトラノスケに、ミズキリが苦笑いを浮かべて、続ける。
「流石に、この状況ではな。オユキとトモエは留守番だ。」
「怪我もありますし、森の魔物相手は、まだ難しいでしょうからね。」
オユキが、つるした腕を撫でながらそう言えば、トラノスケはそれを否定する。
「いや、今日グレイハウンド相手は十分にやれていたからな。
強化された状態でも、十分捌けていたんだ。普段の森なら大丈夫だろう。」
「ああ。そういえば、そのような話でしたね。」
トラノスケの言葉に、トモエが驚いたように、そんなことを呟く。
対峙した数は少なく、機があれば問題なく切り伏せていたため、初日との差をあまり感じなかったのだろう。
トモエに関しては、怪我などもしていないわけではあるし。
「気が付かなかったかもしれないが、あれでも刃物が通せない、そんな奴も出て来るくらいには強化されていたんだぞ。後は、丸兎もな。変異種はいなかったが、溢れが近く活性化しているんだろう。普段よりも、少々強くなっていたさ。」
「そうなのですか。」
「ああ。いくら振り回しているだけといっても、幅広剣で、刃もついているんだ。丸兎くらいは、両断できなくても切れはする。それができない程度には、強化されていたな。」
言われて、トモエは初日と、今日、その様子を頭の中で比べているのだろう。
ただ、オユキにしても、正直違いが明確には言えない。
言われてみれば、突進の速度が上がっていたような、その程度だ。
「こちらに来てから、力量を見る目が曇りましたかね。」
「魔物を狩れば、その恩恵があるからな。そのせいで差を感じなかったんじゃないか。
なんだかんだで、そこそこ狩ってるだろ。今日にいたっては、それこそ結構な数だったしな。」
「そこまで言うほどのものではないように思いますが。」
オユキがそう言えば、ミズキリが笑い声を上げながら、どこか納得のいかない顔をしているオユキとトモエに告げる。
「魔物だけじゃないさ。鍛えれば鍛えた分だけ、確実に強くなる。まぁ、人によって差はあるがな。
それに、こっちだと仮登録したばかりなら、半日で丸兎2匹かれれば上等だ。
把握しきれてはないだろうが、それで宿に1日食事つき、そう考えれば納得もしやすいだろう。」
そう言われて、トモエの表情が曇る。
どうやら、少年たちに対して、かなり厳しい想定で訓練をしてしまった、そんなことを考えているのだろう。
そんなトモエを横に座り、その顔を見上げながら、オユキは話しかける。
「気にすることはありませんよ。命がかかっているのは事実です。
それに訓練は、実践よりも厳しく。」
そうでしょう、とオユキが告げれば、少し戸惑ったようにトモエも頷く。
「やりすぎと、そう見ればイマノルさんも、ルイスさんも止めましたよ。」
そう言いながら、オユキはイマノルが懐かしい、そういった事を思い出す。
彼が懐かしむというのは、つまり騎士団、そこに入った見習いが受ける、それと同程度と、そういう事だ。
やりすぎであることには、変わりなかったのだろう。
「あら、こうしていては分からないけれど、トモエさんは情熱的な方なのね。」
ルーリエラがそう、実に綺麗にまとめ、ミズキリとトラノスケはそれに吹き出す。
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追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
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