憧れの世界でもう一度

五味

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二章 新しくも懐かしい日々

出発前にひと騒動

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そうして、三人で門まで向かうと、どこか疲れた顔のアーサーがそこには立っていた。
慣れた物と、仮登録証を取り出して、差し出しながら、オユキが声をかける。

「お疲れのようですけれど。」

それぞれの登録証を受け取り、台帳に書き込みながら、アーサーはぼやく。

「ああ、朝から初心者が来ては、追い返していてな。
 そっちも、トラノスケがいるにしても、あまり離れたところまで行くなよ。」
「ええ、森には近づきませんよ。」
「まったく、他の奴もそれくらいの分別が欲しいんだがな。」
「それは仕方がないのではないでしょうか、氾濫があると、そう公表はしていないのでしょう?」
「いや、疑いがあると、それくらいは伝えるさ。それでも、だからな。」

やれやれと、首を横に振るアーサーから、登録証を受け取ると、三人顔を見合わせて、外へと向かおうとする。
すると、そこに声がかかる。

「おい、なんでそいつは町の外に出てもいいんだよ。」

掛けられた声のほうへ振り向けば、そこには五人ほどの少年、少女がいた。
まだあどけなさの残る、その集団が、怒りを浮かべながら、三人のほうへと寄ってくる。
こちらの成人年齢は、オユキが16とそうなっていることから、それ以下ではあるし、少年少女といっても、その誰もが、オユキよりも上背はある。

「保護者が付いてるからな。お前らも、でたけりゃ探してこい。」

アーサーはそれに対して、ぞんざいにそのように返す。
恐らく彼が疲れて見えた、その原因の一端を担っている集団なのだろう。
オユキは、その様子に少し申し訳なさを感じる。

「どうしましょうか。私は、残りましょうか?」
「どうだろうな、それでおさまりが効くようにも見えないが。」

そう、オユキが尋ねると、トラノスケは即座に否定する。

「保護者なんていらねーよ。これまでだって、何度も外に出て、戻ってきてるんだぞ。」
「状況が変わったからな。氾濫の兆候がある。
 そんな中で、トラブルに巻き込まれれば、お前ら全員魔物の餌だ。」
「んなこたねーよ。変異種相手だって、問題ないさ。」
「素面でそんなことを言える時点で、お前らは町の外には出せない。
 どうしても外に出たいなら、保護者を探してこい。」
「ガキ扱いすんじゃねーよ。」
「そうされて、起こってる時点でクソガキだ。ほれ、いいからおとなしく戻れ。
 どうしてもっていうなら、ここで寝かしつけるぞ。」

そう、アーサーがわずかに凄みを漂わせて、槍を一度振れば、威勢のいい少年を始め、残りの四人も後ずさりをする。
その様子に、オユキがアーサーに声をかける。

「少々大人げないですよ。疲れているのはわかりますが、年長者としての余裕を見せるところです。」

そう、声をかけながら、アーサーの前にオユキがたつと、リーダーなのだろう、一人前に出ている少年は、途端に標的を変えて、今度はオユキを睨みつける。
そんな彼に、若いなと、そう思いながらオユキが声をかける。

「この見た目では説得力はあまりないでしょうが、私はこれでも成人していますよ。
 それでも納得がいかないと、そう思うのであれば、私も外に出るのを止めましょう。
 それで、あなた方はこの場を治める気はありますか?」
「はぁ?んなわけあるかよ。俺たちは大丈夫だ、そういってんのに、なんで出られないんだよ。」
「先ほどアーサーさんの仰った通りです。彼は住民の命を守る、その職責の元、あなた方では不測の事態が起きれば死ぬ、そう判断しています。ならば、命を守るため、その危険性を排するのは当たり前です。」
「俺たちは問題ないって言ってるだろ。」
「あなた方より、はるかに強い、その人物の判断です。
 どちらが正しいのかは、問うまでもありません。それでも、どうしても出たいというのなら、あなた方を守れる、そんな相手に同行を頼むといいでしょう。私のように。」
「ふざけるな、そんなのいらねーよ。俺たちだけで、大丈夫だって言ってんだろ。」

そう言う少年に同調するように、後ろで成り行きを見守る四人の内2人が頷いている。
オユキは話しながらも、その後人の立ち振る舞いを観察していたが、少なくとも彼らの力量については、不安しかない。
立ち姿も、武器の扱いも、未熟と、そう判断せざるを得ない様子だ。

「あなた方の内、一人か二人であれば、トラノスケさんと、トモエさんで面倒を見切れるでしょうが、流石に5人は無理です。私から見ても、大丈夫ではないので、外に出るのならば、相応の同行者をもとめなさい。」

そう、オユキが5人を見回しながら告げると、我慢ができない、そういわんばかりに少年が腰につるした剣に手をかけ、それを抜く。

「馬鹿にするな。」

その動きに合わせて、オユキは手に持った槍を回し、抜かれた剣を追いかけるように添え、そのまま斜め下へと力を軽く加える。
結果は単純で、抜こうと力任せに引き出した剣は少年の手を離れ、地面に転がる。
その様子を、何処か茫然とした表情で少年は見ている。

「魔物を狩るための道具を、人に向けるのは感心しませんよ。」

そう、オユキが声をかければ、少年はただ肩を震わせる。

「それでは、私は彼らと一度ギルドに戻りますので。」

そう、オユキが二人に声をかけると、聞き覚えのある声がかかる。

「おや、何かトラブルですか。」

そちらに視線を向ければ、訓練所での軽装と違い、完全武装、フルプレート、全身を覆う美しい光沢を持った鎧に、大きな盾、腰には装飾の施された柄を持つ剣を佩いた、イマノルが立っていた。
少年少女に意識を向けていたとはいえ、この距離、後数歩踏み込めば、剣が届く、そんな距離まで接近されて気が付かないものかと、オユキは改めて彼との技量の差を思い知る。

「いえ、こちらの方々が、町の外に出るのを止められ、それが納得いかないと、そういう事でしたので。」
「成程。途中からしか見ていませんでしたが、その程度の技量では、それもそうでしょう。」

そう、イマノルが頷くと、剣をあっさりと落とされた少年は、恥ずかしさか、怒りか、顔を赤くする。
トモエの道場に、時折訪れる跳ねっ返りと同じ対処をしてしまったが、まずかっただろうかとオユキはそんなことを考えるオユキに、イマノルから意外な申し出がある。

「まぁ、その様子では納得できていないようです。
 いいでしょう、私が面倒を見ますので、彼らも連れていきましょう。
 どのみち、今日は間引きだけの予定ですから。アーサー、それで問題はありませんか。」
「ああ。面倒を抱えるのはそっちだ。
 お前がついてくなら、問題ないさ。」

そう言う二人に、オユキは申し訳なさを感じてしまう。
それはトモエも、オユキよりもより正しく、彼の技量を判断できるトモエもそう思ったようで、口をはさむ。

「宜しいのですか?
 その、流石に、イマノルさんにお支払いできるほどの持ち合わせはありませんが。
 払えるだけでよいと、そう言って頂けるのであれば、今から傭兵ギルドで手続きをさせていただきますけれど。」
「そうですね。引き受ける以上は、ギルドに話を通すのが筋ですか。
 元々の予定、そのついでですので、100ペセほどでお受けしますよ。
 このあたりであれば、片手間以上の仕事ではありませんから。」
「その、ご厚意は有難いのですが。それは、流石に。」
「ああ、俺からも多少は出すぞ。一度ギルドで話してから決めよう。
 払えなければ、しかたないが、払えるだけなら出すさ。」

そう、三人で話始める横で、少年が、肩を震わせながらこぼす。

「俺たちだけで、問題ないのに。くそ。」

それも若さだろうか、そんなことを思いながら、オユキは彼に声をかける。

「そう、周りの人に思われるだけの力を、先に身につけましょう。
 少なくとも、今は。私にあしらわれた、それがあなたの現実ですよ。」

そう告げれば、少年は、ただ黙って剣を拾う。
恐らく、彼がリーダーで、この集団では最も確かな力量を持っているのだろう。
残りの四人もどこか暗い表情で、それを見ている。
やりすぎただろうか、そう思いはするが、命がかかっているのだから、過去の門下生に対するものよりも、厳しくしなければいけないだろう、そう、オユキは考え、傭兵ギルドへと足を向ける三人を追いかける。
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