憧れの世界でもう一度

五味

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二章 新しくも懐かしい日々

氾濫とは

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「それでは、改めて最初から話したほうが、宜しいですか?」
「ああ、いや、大丈夫だ。聞いていたからな。
 その、すまなかったな。どうしても聞き逃せなくて。」

ラルフは、犬、狼だろうか、はたまた猫だろうか。
外見に現れる特徴だけでは、種族までわからないが、頭頂部から伸びる、三角の耳を伏せながら、改めて先に責にいた5人に軽く頭を下げる。

「いえ、私達もこのような場所で話していますから、謝っていただくような事ではありませんよ。
 私以外は、少し前から気が付いていたようですし。」

そういって、オユキがトモエ以外の面々を見ると、トラノスケは手を振っているが、残りの二人は苦笑いをしている。
どうやら、トラノスケは気が付いていなかったようだ。

「ええと、どこまで話していましたか。」
「ああ、見つけたときの状況を一通りだな。」
「そうでしたか。門番の方々も、変異種が現れるのがいつもより早く、町からあまりにも近い、それを気にされていたようでした。」

そこまで話が終わっているのであれば、後に続くものはほとんどない。
オユキがそう端的に説明して、口を閉ざすと、ミズキリは考えるように顎をさする。
彼は特に、これから調査として森に入る、その前提があるからこそ、判断材料は多く集めておきたいのだろう。

「ミズキリ、悩むことはないでしょう。ほぼ決まりよ。
 前の氾濫から、少し短いのは気になるけれど、起こるとそう考えて調査したほうがいいわ。」
「ああ。そうだな。王種はどうだろうな。」
「そうなれば、私が森の声で気が付くわ。明日でわかるでしょう。」

こういった事に慣れているのだろう。
二人の会話には、特に力が入っている風でもなく、いつもの事、ただ妙な事態について考えている、そういった気楽さが見て取れる。

「なぁ、ミズキリさん、ルーリエラさん。
 その調査、俺も連れてっちゃくれないか。」
「ギルドからの依頼でな、そっちに話を通してからなら構わないぞ。
 耳と鼻は、やはり頼りになるしな。」
「そりゃそうだな。明日、朝、ギルドで落ち合おう、そこで聞いて駄目だったら仕方ないさ。
 戦闘って面じゃ、足手まといにしかならないだろうしな。」

そんな話をしているところに、オユキはトラノスケに話しかける。

「トラノスケさんも今回が初めてですか?」
「ああ、前の防衛戦とは違って、年に一度、それくらいらしいからな。
 ただ、この町では前にあったのは、半年ほど前と、そう聞いているな。」
「変異種も、本来の半分ほどの期間だったと聞きましたね。」
「成程。まぁ、そのあたりはわかる連中に任せるさ。
 そんな事より、出来ることをやるほうが建設的だからな。」

そういって、トラノスケもあまり緊張感を見せずに、酒を呷る。
オユキ達より先輩だけあって、心構えもできているのだろう。
ただ、オユキ達にしても、少し困ることがあった。

「それにしても、防衛戦まで、狩りができないとなると、当座の分は問題ありませんが、なかなか厳しそうですね。」

オユキがトモエにちらりと視線を送りながら、そういえば、トモエも苦い顔で頷く。
先立つものは、確かにまだ二月程、この宿に泊まっても問題ないだけはあるが、こちらに来て、二人で得た金銭でとなると、あと三日ほどで尽きるだろう。

「そのような状況で、町の外で魔物を狩ってもいいと、許可が出るか、ですね。」
「まぁ、森はやめておけと言われるだろうな。
 俺も、氾濫が近い森に入る気はないから、二人さえよければ、明日からしばらく一緒に動くか?」
「宜しいのですか?」
「ああ、いや、俺以外にも森迄は行きたくない、そう考える人間はそれなりにいるだろうからな、そいつらと組んで、ある程度の規模で森に入ってもいいのはいいが。
 まぁ、そこで怪我でもしたらつまらないしな。」
「そうだな、やめておけ。」

そういって肩をすくめるトラノスケに、ミズキリが肩をすくめながら声をかける。
同席しているが、半々に分かれて話を進める形になっていたが、向こうでは、一度話が付いたのだろう。

「ほぼ決まりのようだからな。森から草原にグレイハウンドも出て来るだろう。
 町の側でも、これまでより難易度は上がるだろうさ。
 それに森の中は、それこそ、変異種に率いられた群れがいるかもしれない。
 街の側でも、ある程度人数をそろえたほうがいい。明日、出る前にギルドに行けば、そのあたり詳しい話も聞けるだろうし、調整もしてくれるんじゃないか。
 危険だと、そう門番が判断すれば、下手すりゃ出してもらえないぞ。」
「成程。そういう事でしたら、明日は、まずギルドに寄ってみましょうか。
 トラノスケさんも、それで宜しいですか。」
「ああ、こういうことは先達に従うさ。
 よくわからない人間が、浅知恵でどうこうするには、対価が重すぎる。
 俺は、まだ当分死ぬ気はないからな。」

そうして話している様子を、ルーリエラとラルフは感心したように見る。

「その、あなた方の種族は、どうにも生き急ぐ方が多いように見えましたが、あなたの知り合いだからかしら。」
「そうだな。家の群れも、なんだかんだととりあえず突っ込んで、っていうのが主流だからなぁ。」

ラルフの言葉に、それは流石に、もう少しどうにかしたほうがいいのではないかと、そう思わないでもないが、それこそ種族差で、口を出す事でもないだろう、そう考えオユキはひとまずルーリエラに応える。

「どうでしょう。こう見えて見た目よりも長く生きていますので。
 私も若いころ、この見た目で言っても、説得力はないかもしれませんが、若いころにはそこそこに無鉄砲でしたよ。確かに、命のかかるような、そういった物からは遠ざかる、その程度の分別は持っていたように思いたいですが。」
「ああ、ミズキリも見た目より年を重ねたといっていたわね。
 異邦人の特徴かしら。まぁ、見た目で言えば、オユキ程の見た目で、数百年を生きている花精もいるし、あまり気にしなくてもいいんじゃないかしら。
 いえ、あなたが気にするなら、失礼だったかもしれないけれど。」
「気にしていませんよ。それよりも、氾濫ですか、町に危険はないのでしょうか。」

オユキがそう聞けば、それに関してはミズキリもルーラリエも軽く答える。

「ああ、壁の中は問題ない。そのためにあの冗談みたいに強い門番たちがいるし、傭兵ギルドの手練れもいる。
 ただ、まぁ町の広さに対して、人手が足りないのは事実だからな。
 壁が壊されないにしても、傷は入るだろうし、町の外には被害も出るだろう。」
「やむを得ませんか。」
「まぁ、町のすぐそばで、あの派手な火柱を上げるわけにもいきませんものね。」
「そうだな。正直、個人で威力のある、それこそ俺でもある程度の範囲をまとめて、そういった事はできるが、いかんせん、町の側だと巻き込むからな。そういった技は、加減が効くようなものじゃないからなぁ。」

そういってミズキリは腕を組み、難しい顔をする。
オユキにしても、ゲームの頃であれば、例えば数十mの範囲を一度に薙ぐ等、序の口、そういった技を身に着けてもいた。
確かにそれを、町のすぐそばで、何も考えずに振るえば、魔物よりも町に被害を出すことになるだろう。

「となると、派手な攻撃は群れに向けて、そういう事か?」

トラノスケの言葉に、ミズキリは難しい顔を崩さない。

「そうしたいが、森や草原に過剰な被害を出しても、また問題があるからな。
 こう、上手い塩梅で、どうにかしなけりゃならん。
 それさえなければ、ここの溢れぐらいなら、それこそこの町にいる上位の5,6人で片が付く。」
「私としても、あまり無為に草木を焼かれたり、傷つけられたりと、そういう姿は見たくないです。」
「ままならない物ですね。」

そう、一同で苦笑いをして、今日のところはお開きとなった。
明日、朝、ギルドでもう一度会おうと、そんな約束をして。
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