憧れの世界でもう一度

五味

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二章 新しくも懐かしい日々

魔物の氾濫、その予兆

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昨日と変わらず、分厚い肉が運ばれてくる。
オユキは運動した分は、そう思いながらも、どうにか食べようと試みるが、結局昨日よりも少ない量でポトフへと取り掛かることになった。
そっと目をそらして押し出せば、トモエがそれを引き取り、さらりと平らげる。
オユキは、そういえば今日は昼にも食べたのだったか、そう思い、ならば昨日よりも入らないのは仕方ないと、そんなことを考える。そして、トモエもそれを把握していた。

「あら、随分と小食ね。」

そういう花精種の女性は、その見た目にそぐわぬ健啖ぶりを見せ、追加で頼んだ料理まできれいに食べきっていた。
食べる速度も、ミズキリ、トラノスケと変わらない速度で。

「もともと向こうにいたころにも、もうずいぶんと食べられない時期がありましたから。
 ただ、こちらに来て味覚も変わったようで、油が強いものが、どうにも苦手なようです。」
「ああ、それは俺もだな。前ともまた味の感じ方が違う。」

ミズキリがゲームと、その言葉を出さずに、話す。

「前は肉にしても、どうにも家畜と違った匂いが気になったが、こっちに来てからはむしろそれもうまいと感じるようになった。」
「ああ、旦那もか。俺もこっちに来てから、前よりも甘いものが苦手になったな。」

そういって、口々にどう味覚が変わったのか、話し合っていると、次第に話は何を美味しく感じるのか、こっちで食べた美味しいもの、そういった方向に話の流れが変わっていく。
ただ、そうなるとミズキリ、それからルーリエラの独壇場になった。
ミズキリにしても、かつての仲間が来る迄はこの町を離れないと、そうしてはいるものの、各地に既に散っている、かつての団員から、時におすそ分けと称してものが送られることもあり、ルーリエラは自身の足で歩き回った、そんな経験から語られる。
中には、当たり前のように向こうには存在のしない、オユキにしても聞き覚えのないものであったりと、実にいろいろな話が合った。
そんな中、ルーリエラが思い出したように、腰元の袋をあさる。

「ああ、まだありました。今話していた、私達の街で人気のあるお菓子がこれです。」

花の蜜、木の実、それから花弁、それらを小麦粉の生地に練り込んだ焼き菓子、そのようなものがあるのだと、そんなことを口にしていた彼女が、それを机の上に広げる。
てっきり、焼き菓子の類かと思えば、見た目は、色とりどりの花びらと、木の実が閉じ込められた、飴にしか見えないそんな透き通った、琥珀色の見た目をしていた。

「まぁ、かわいらしいお菓子ですね。それにしても、小麦を使っているのに、どうして透き通っているのでしょう。」
「小麦粉のようなもの、が正解ですね。こちらにはないのですが、水蜜花の種を乾燥させてから引くと、水に溶かすと見た目が飴のようになるんです。おひとつどうぞ。」
「成程、それでは一つ。」

そういって、トモエが手を伸ばして、それを口にする。
見た目は飴だが、歯触りは焼き菓子のそれで、さらに驚くことになる。

「おいしいですね。見た目ほど甘さも強くないですし。花の香りと、気のみの芳ばしさが、素晴らしいですね。」
「そうですね、やはり見た目が飴に見えますから。私たちは逆になるのですが。オユキさんは如何ですか。」
「その、有難いのですが、私は今日はこれ以上ものを口にするのが、辛いです。」

勧められた菓子に、興味は引かれるが、夕食をかなり無理に杭に運んだため、もはや水分でさえなめるようにしか、とっていない。
その様子に、ルーリエラは苦笑いをして、いくつかを分けて包むと、トモエに後でどうぞと、そういって渡す。
そうして、一通り話が進んだ頃、ミズキリが一つ咳払いをして、話を変える。

「ところで、お前達はギルドで話は聞いたか?」
「何のお話でしょうか。」
「ああ、変異種が町の側で出たらしくてな。」

その言葉に、オユキとトモエが顔を見合わせる。

「聞いたといいますか、発見したのが私達ですから。」

その言葉に、ルーリエラが眉を上げる。

「成程、オユキがいればすぐに逃げるか。」
「そうですね。以前であれば、意気揚々と突っ込んだのでしょうが、今は流石に。」
「いや、その判断が正しいさ。正直、トラノスケも一人ではまだ無理だろう。」
「まぁ、そうですね。今の自分が対応できる魔物を考えれば、ここらの変異種でも、まず、死にますね。」

ミズキリがすぐに逃げただろうと、そう口にしたのを聞いて、ルーリエラが表情を戻す。
無謀を諭そうとしたのか、心配をしてくれたのか。
流石に、そのわずかな表情から、感情を読み取れるほどの理解は、まだミズキリ以外のものには無い。

「よくぞ、ご無事で。なにがいたのか、お伺いしても?」
「白玉兎です。最初はトモエが、白くこんもりとしたそのような場所を見つけ、私が見て判断を。」
「ロボグリスではなくて、本当に良かったです。」

ほっと、ルーリエラは息をつく。
トモエはその名前に心当たりがないだろうからと、オユキは細かく口にする。

「そうですね、グレイハウンドの変異種、それに遭遇したのであれば、今こうしてはいなかったでしょう。
 何とか逃げ切ることはできた方は思いますが、怪我は避けられないでしょうから。」

そういえば、トモエも今話に出ている相手が、どういったものか、解ったように頷く。

「ただ、ロボグリスは流石に森の奥、そこにしか出なかったように思いますが。」
「ああ、それも間違っちゃいないが、氾濫の時は別だ。
 俺たち、トラノスケとルーリエラの三人でだが、明日少し森の中を見てくることになってな。」
「大丈夫なのでしょうか。」
「ああ、それこそ、逃げるだけなら無傷で済むさ。
 それよりも、氾濫が確実だとして、レイド、ああ、王種が出張っていないのなら、数が多いパターンだろうからな、森の中を十分には調べられないだろうから、分かり次第さっさと帰ってくるさ。」
「ええ、そうね。どれだけ隠したとは言っても、流石に氾濫規模の魔物の群れを、三人でどうこうはできない物。
 まぁ、それができる人もいるわけだけれど。
 それと、もう少し詳しい話を聞いてもいいかしら。」

聞かれたトモエが、今日既に2度話したことを、ここでも繰り返す。
その最中、オユキは、ふと気になる視線を感じて、そちらを向くと、一人の、人のものではない、頭から動物の耳をはやした相手と目が合う。
その様子に、トモエが話を切り上げ、オユキに声をかける。

「あら、気が付きましたか。敵意は無いようでしたので、放っておいたのですが。」
「まぁ、分かり易いものでしたからね。トモエさんは先に気が付いていたのですね。」
「はい。変異種の言葉が出たときから、こちらを気にされていましたよ。」

そんな話を二人でしていると、トラノスケがオユキの視線を追って、その先にいる相手に声をかける。

「おい、ラルフ。気になるならこっちに来て、話を聞いていけばいい。
 何もそんなに耳だけ立てる様な真似をすることはないさ。」

言われた、灰色にまだらに黒が入った髪を持つ、そんな人物が立ち上がり、オユキ達の席へと寄ってくる。

「あー、悪いな。その、気になってな。」
「いえ、町にも係ることでしょうから。
 初めまして、私はオユキ、こちらはトモエです。ここにいる、ミズキリとトラノスケとは、古い知り合いです。」
「俺はさっきも呼ばれたがラルフだ。狩猟者ギルドに所属している。
 それで、あんたらが変異種の話をしているのが気になってな。
 今日は休んでいて、ギルドに寄っちゃいないんだ。」
「ああ、それなら、ここでギルドから聞いた話もしておこう。
 同席させても構わないか?」

それに一同が頷くと、ラルフは悪いと、そう一言謝ってから、同じ卓にこれまで彼の腰かけていたスツールを持ってきて腰かける。
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