憧れの世界でもう一度

五味

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二章 新しくも懐かしい日々

一日の終わりに

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「先ほどのお店は、御眼鏡にかないましたか。」

何処か、楽しそうに、満足そうに隣を歩くトモエに、オユキはそんな風に声をかける。
自分も、まぁ似たような顔をしているだろうが、そんなことを考えながら。

「はい。勿論です。向こうにはない意匠なども多かったですし、それこそ素材が全く違って、どれも手作りの趣があって、実に目を楽しませてくれました。」
「そうですか、それは良かったです。」
「オユキさんは、付き合わせてしまいましたか。長い買い物に、退屈すると、そう前に聞いたことがありますから。」

言われて、オユキは前の世界で、同性の友人たちが買い物に付き合わされて疲れた、そういっている姿をよく見たことを思い出す。
ただ、オユキにとってはそれは少し違う。

「さて、私はトモエさんと一緒にいるだけですから。それがなにかに関わらず、いえ、それこそ知り合いの不幸、その場であったりすれば、楽しめませんが、そうでもない限り、楽しく幸せですよ。」

そう、オユキにとっては、買い物に付き合っているのではなく、トモエと一緒にいる、その場が買い物と、そうなっているだけに過ぎない。
目的は一緒にいる事であり、楽しむのもそれ自体。ならば、それが何であれ、変わらず幸せな時間でしかない。

「まぁ。お互いに、今後もそうであるように努めなければいけませんね。
 それに甘えてと、そうならないようには、やはり気を遣うのが思いやり、というものでしょうから。」

くすくすと、口元に手を当てながらそう笑うトモエの姿は、特にこうしてふとした時に出る仕草、それに前の世界で馴染んだ姿が重なる。

「そこで、そう返してくれるあなたが好きですよ。
 確かに、たまに衣装の意見を求められた時は、なかなか難題だと、そう悩むこともありましたが。
 私の好みを知ろうと、そうしてくれるのだと思うのは、自惚れでしたか。」
「いいえ。それも一つです。
 ただ、やはり私はそうして選んでいる時間、どちらがいいかを考えている時間が楽しかったので。
 それを一緒にできればと、そう願わずにはいられませんでしたから。
 正直、結果は二の次でした。」

そのあたり、あまり頓着されなかったですからね。
そう、二人手を繋いで歩きながら、のんびりと話、宿へと向かう。
既に日が落ち、夜空を見上げれば、ゲームと同じ、4つの月がそれぞれの色合いで静かに輝いている。
空を見上げるオユキの視線を追ってか、トモエもそちらに視線を向け、ぽつりとこぼす。

「これはこれで幻想的、そうは思いますが、やはり星が無いのは寂しいですね。」
「そうですね。向こうのように、他に恒星が存在しない、そういった世界観、いえ今となっては宇宙観となるのでしょうか、そういうものですから、仕方ありません。
 あの月も、衛星と、そう呼べるものかは誰も確かめられていませんから。」

そんな話をしているうちに、オユキに合わせ、どうしても歩くペースの送れる二人を、後から後から、追い抜いていく人が現れる。
その流れの先は、宿屋に向かうものもあれば、何処か、他の場所へと逸れていくものもある。
帰る家があるのだろう、それを見送ると、オユキはふと、自分もこの世界で欲しいなと、やりたいなとそう思うものが出てくる。

「トモエさん、旅が終われば、まぁ、その前のほうが何かと都合はいいと思いますが。
 こちらでも、家を構えませんか?」

流れ浮く人、その宿へと向かわない流れは、別の宿か、それとも自分の家か、そんなことを考えたせいか、オユキ自身も、明確に、自分が帰える場所、それが欲しくなった。

「いいですね。その、どちらにと、そういう考えはありますか?」
「いえ。今すぐには、流石にいろいろと難しいでしょうから。
 それこそ旅先で、ここに腰をおちつけてもいいだろう、そう思う場所ができたらで良いのではないでしょうか。」
「それはまた、旅の楽しみが一つ増えますね。
 やはりそのあたりは、前の世界ではなかなか自由に行く、そういうものでもありませんでしたから。」
「そうですね、だからこそ、こちらでは、そのような形でもいいのではないかと。」

そう話をしている間に、二人は宿屋へとたどり着く。
既に、入ってすぐ、食堂として使われているホールには、それなりの人出があり、食事を楽しむ人々の、その賑やかさがあふれている。
さて、ここにいる人々、そのどれほどが今日聞いてしまった、不穏な、少し先の話を知っているのだろうか。
これから狩猟者ギルドが調査を行うとして、狩猟者、それもそこそこ腕の立つ人であれば、その話をされ、明日以降、それこそ周囲の調査に向かうのだろうが。

「あ、お帰り。遅かったね。」
「はい、今戻りました、フラウさん。
 帰りに買い物などもしてきましたので。」
「あ、そうなんだ。えっと、ちょっと待ってね。」

そういうと、フラウがカウンターのほうへと走っていき、直ぐに鍵をもって戻ってくる。

「はい、どうぞ。ご飯食べたくなったら、降りて来てね。」
「ありがとうございます。一度身支度をしたら、直ぐに。」

そう答えて部屋に戻り、装備をを解いて、流石に埃っぽいままではと裏手で、軽く体を拭いてから食堂へと戻る。
すると、すでに席に着いたトラノスケとミズキリ、それから見覚えのない女性が席を一つ占領しており、二人を見つけたのか、手を振っている。

「こんばんは、トラノスケさん、ミズキリさん。
 そちらの女性は、どなた様でしょうか。」

女性は、装備を外し、薄手の服を着ている。
オユキよりは短いが、それでも腰まで届く長く美しい蜂蜜色の髪、日に当たる草原の色をそのまま映したような瞳、そして耳の形が、人のそれとは異なっている。人の物に比べると、耳輪に向けて細長い。
確か、妖精属、その中のなんという種だったか、そうオユキは考える。

「初めまして、トモエさんとオユキさんで、間違いはないのかしら。
 私は花精種のルーリエラ、最も、本当の名前はもう少し長いのだけれど。
 人種の方はこれでも長く感じるようだから、面倒ならルーでもいいわ。」
「初めまして。ルーリエラさん。私がトモエ、こちらがオユキです。
 今後とも、よろしくお願いします。」

そう声をかけて、オユキとトモエも同じ机に腰を掛ける。
既に三人は、飲み物を片手にはしているが、食事はまだとっていないようだ。
二人が席に着いたのを、見計らうようにやってきたフラウに、5人分の食事と、オユキとトモエの飲み物を頼むと、改めて話始める。

「お二人とも、もう戻られていたのですね。」
「ああ。夜はなんだかんだで危ないからな。戻れるなら町に戻って休みたい。」
「向こうでもそうだが、こっちだと魔物は昼夜関係なくだから、なおさらだな。」
「あら、そうなのですか。」

トラノスケがこぼした言葉にトモエが疑問の声を上げる。

「ああ、見た目は生き物だが、実態は違うからな。
 いつだろうが、生き物を見かければ襲い掛かってくる。」
「成程。それは、今後にも差し障りがありそうですね。」
「そうだな、それこそ日をまたぐつもりなら、野営の訓練は必須だし、必ず見張り番もいる。」

その言葉に、オユキもトモエも頷く。
今後旅に出るとして、そのあたりは気を付けなければいけないのだろう。

「はい、持ってきたよー。お肉もすぐに持ってくるね。」
「ありがとうございます。」

そんな話をしている間に、フラウが飲み物とポトフを先に持ってくる。
それを手早く机に置くと、またさっさと戻っていく。

「お肉ですか。そのルーリエラさんは。」

トモエが少し気にするように目線を送ると、彼女は軽く肩をすくめる。

「ミズキリもそうだったけど、私達も肉は食べるわよ。
 そもそも、天寿を全うした動物が土にかえれば、その全ては私たちの祖の食事なのですもの。
 食べられないと、そう思う理由が分からないわ。」
「言われてみれば、その通りではありますが、何故でしょうね。
 私たちの来た場所では、ルーリエラさんのような方は、肉を食べない、そうなっていましたので。」
「こっちの世界でも、私達が動物を狩って、処理をしていると、たまに不思議そうな顔をする人もいるし、分からないでもないのだけれど。やっぱり見た目からなのかしらね。」

そういって、ジョッキを傾けながら、ルーリエラは首をかしげる。
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