憧れの世界でもう一度

五味

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二章 新しくも懐かしい日々

久しぶりに買い物を

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二人で、さてどうしましょうか、そんなことを話しながら、これまではほとんど素通りするだけであった、大通りに軒先を並べる店舗に軽く視線を送りながら、それでも足を宿へと向けて進める。

「そうですね。今後は少し大変なことになりそうではありますが、それはそれ。
 日々を楽しむのは、重要なことですからね。特にその余裕があるときには。」
「はい。オユキさんは、今後はどの様な流れになると。」

並んで歩くには、お互いに気を配らなければ、かなり難しいが、それでも互いに気を使い、オユキは速足で、トモエはゆっくりと道を歩く。

「さて、こちらのことは詳しくありませんが、溢れと確定すれば、防衛線ですね。
 昨日ギルドで説明を受けましたが、狩猟者を始め、魔物と戦えるものが一丸となって、対処にあたるでしょう。」
「成程。なかなか、骨が折れそうですね。」
「ええ。その時は、お互い怪我には気をつけながら、手伝わせていただきましょうか。」
「そうですね。どの程度かは分かりませんが、正直傭兵ギルドのイマノルさんや、アーサーさんのような方が多くいらっしゃるのであれば、お手を煩わせないようにも、気を付けなければいけませんね。」
「精進あるのみですね。」

そういって、高さの違う視線をそれでも合わせてほほ笑み合い、またあたりを見ながらのんびり歩きだすと、トモエが何かに気が付いたように、顔をある店舗に向け、足を止める。

「おや、気になるものがありましたか。」

オユキがトモエの見るほうを、確認すれば、そこには何か雑多なものが並んでいる、そうとしか表現できない店舗があった。

「はい、雑貨屋さんでしょうか。」
「ああ。なるほど。少し覗いていきますか?」
「ええ、ありがとうございます。」

生前のトモエは特に、こういった取り留めのない小物が並ぶ店舗を好んでいたと、そう思い出し、オユキが声をかければ、間を置かずに首を縦に振る。
そうして、二人で連れ立って、その店舗に近づいてみれば、向こうの世界で見たようなものから、そうでないものまで、本当に取り留めのないものが並んでいる。
あたりに金属資源がない、そう言われていたからだろうが、一目で金属とわかるものは無いが。

「なかなか、変わったものも並んでいますね。」

そういって、オユキが手に取ったのは、何かをモチーフにしたものだろうが、木彫りで装飾の施された、細長く、先が二股に分かれている、そんな代物だった。

「あら、ピックフォークですか。
 そういえば近くの森で、果物が取れるのでしたね。」

そういって、オユキが手に持っていたものを、トモエが横から覗き込む様に顔を寄せてくる。
その目は、実に楽しそうな色合いを帯びている。

「そういうようとの物なのですか。」
「身もふたもなくいってしまえば、楊枝の代わりですね。
 ただ、サイズでお分かりいただけるように、も少し大きいもの、それこそ果物や、フォンデュの時に使ったりしますね。」
「成程。和食ばかりでしたから、洋食器には疎くていけませんね。」
「まぁ、箸やそれこそフォークで十分代用できるものではありますから。
 それに、金属はなくとも、鉱石の類はあるようですね。」

そういって、トモエは手に持っていた、不思議な色合いの、よく磨かれたとわかる石がはめられた、オユキには一目でそれがなにと、そういう事ができない物を手にしていた。

「よい色合いの石ですね。そちらは?」
「イヤーカフスでしょうか。ただ、私の知る物よりも、少々サイズが大きくはありますが。」
「人ばかりではありませんからね、恐らくそういった方に向けた物では?」

オユキの言葉にトモエが、何度か頷く。

「いけませんね、どうにもそういう前提がないもので。」
「まぁ、そういうものでしょう。凝り固まるのはよくありませんが、これまで培った物を漂白するのも、それはそれで、と思いますし。」
「失礼の内容には、気を付けなければいけませんね。」

そうして、少し店先を冷かして、今度は店の中へと入る。
ガラス窓などがないため、入り口からわずかに覗けるばかりであったが、中に入れば、これまた雑貨屋と、そう呼ぶにふさわし光景が広がっていた。

「おや、いらっしゃい。」
「すみません。少し品を見せていただいても?」
「ええ、もちろんですとも。説明が必要でしたら、お呼びください。
 それでは、どうぞごゆっくり。」

広いとは言えない店内の、少し奥まった場所で、のんびりと座っている、年配の店員らしき人物へと、そう声をかけてトモエが意気揚々と、あれこれと見始める。
それを邪魔しないようにと、オユキもトモエについて店内を見て回るが、いよいよ何に使うのかわからない、そういった物が、多数見受けられる。
ただ、その中で、棚にいくつか、それぞれ束ねて置かれている、色とりどりの布が少し気になり、そちらに近づき、手に取って、眺めてみる。
前の世界のそれに比べれば、ところどころに粗さは目立つが、そこはそれ、人の手によって作られたものだろうと、そうわかる趣深さもある。
手に取ったそれは、不思議とひんやりとしていて、これまで触ったことのある布地とは、感触が異なっていた。

「あら。布地も置いてあるのですね。」
「ええ、少し変わった感触です。さて、以前の覚えにもこういった物はありませんでしたが。」

ゲームとしての知識を思い返すが、オユキは思い当たるものが無かった。
その様子に、トモエも興味をひかれたのか、布地を触って首をひねっている。

「不思議ですね、何処かひんやりとしていますし。
 夏場に、肌着に使えば良さそうですね。」

そういうと、トモエはその布地をもって、店員へと声をかける。

「もし。こちらの布地ですけれど。」
「ああ、それですか。近くの河底に生える、水綿の花で織った布ですよ。」
「水中に、綿花のようなものがあるのですか。」
「ええ、綿花に比べれば、少しつるりとして、重さがありますが、水精の加護もあり、丈夫で夏場でも涼しい布ですよ。ただ、感触が苦手とそういう方もいらっしゃいますが。」
「成程、仕立てはこちらで?」
「いえ、服やに持ち込んで頂いています。
 ただ、今うちにある分では、服を仕立てるまでは足りませんが。
 ああ、そちらのお嬢さんであれば、上着くらいは作れそうですね。」

そういって、店員にほほえまし気にオユキを見る。
ただ、オユキとしても、自分の分だけと、それは気が引ける。

「分かりました、ありがとうございます。
 また、お伺いさせていただきますね。」

そう、オユキが声をかければ、いつでも聞いてくださいと、店員が応え、トモエは少し名残惜しそうに、その布を基の場所に戻す。

「気に入りましたか。」
「はい。味のある、いい布でしたので。ただ、やはり肌着と言えども、量が要りますからね。」
「こちらがいくらかはわかりませんが、それも今後の目標の一つにしましょうか。」
「いえ、あまりものを持つのも難しいでしょう。
 以前のように、旅行とそう言えるものではなさそうですから。」

そうして、物珍しく、まったく用途の分からない物を、数度説明をもとめながら、結局オユキの髪を結ぶためにと、華やかな色合いに染められた紐を数本、宿の賑やかな娘のお土産にと、一本。こちらに来てさっそく頂いた功績、それを示す証をつるすために、丈夫な革ひもを二本買って、店を後にすることとなった。
なんだかんだと、時間を使っていたようで、店の外に出れば、既に日が傾き始める、そんな時間になっていた。
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