憧れの世界でもう一度

五味

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二章 新しくも懐かしい日々

魔物、その対策

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「こちらで訓練用の武器を選んでいただきます。
 今お持ちの物と同じ種類でも、異なるものでも構いません。
 訓練中に持ち替えていただいてもかまいません、ただあまり数がないので先着ではありますが。」

いわれて、オユキが棚を見れば、既にいくつか空きがある。

「やはり、両手剣、斧槍といったものが人気ですね。
 今も、外にいる方はそういった物を使っています。
 もう予備がないので、そちらは避けていただくことになりますが。」
「そういった物は、特に扱いが難しいように思いますが。」
「十全にということであれば、そうですが。」

そういうとイマノルは、複雑な表情を浮かべて、並べられて武器を見る。

「やはり、頑丈で距離が空けられる。それに鈍器として十分以上に威力を発揮しますから。
 このあたりにいるまものに対しては、やはり長柄が有効ですしね。
 特に大型の両手剣は、盾としても扱えます。鎧に比べて、手入れも簡単、価格も安い。」

言われた言葉に、オユキとトモエは確かにそうだろうと納得すると同時に、イマノルの複雑な表情にも納得がいく。
並べられた言葉は、武器としての評価のほうが少ない。

「そして、扱いに慣れれば、他を選ぶ理由もなくなる、そういう事ですか。」
「ええ、その通りです。状況に合わせて変えてほしいのですが、森の中で振り回すようなものでもないでしょうに。」

そういって、イマノルはとうとうため息をつく。

「私はひとまずこちらにしましょうか。」

トモエはそういいながら、腰に下げている獲物とよく似た物を選び、オユキもそれに倣って、槍、穂先は布で巻かれている、を選ぶ。

「お二人とも、持ち方を見るとかなり経験がありそうですね。
 渡り人の方は、なかなか、よくわからない方ばかりです。魔物について詳しいこともあれば、子供でも知っていることを知らなかったりと。皆が武器を扱えるかと思えば、それこそ、初めて手に持つような方もいますし。」
「まぁ、いろいろですね。」

イマノルの呟きに、今度はオユキが複雑な表情で答えることとなった。
ゲームの中でもなければ、一部のものしか武器等取り扱いになれたりしない。そしてゲームの中でも、一度も魔物と戦ったことが無いものがいる、そういうものだったのだ。

「そうですね。さて、魔物との戦いとのことですが、お二人は経験は?」
「昨日、町の外で少々。」
「成程。そこで訓練の必要性を覚え、そうできるというのは、素晴らしい事です。
 その身長差を、今後も忘れずにいていただけると有難いですね。」

そういうと、イマノルは腰から下げていた剣を軽くたたいて、話を始める。

「さて、町の近隣の魔物、これらで気を付けることは、まず何よりも、その位置の低さです。」

意味は解りますか、そう尋ねるように彼は目線を二人へと向ける。

「ええ。人相手の理合いとは、まったく違っています。正直戸惑いが大きいですね。」
「そうですね、丸兎にしても、こちらに跳ねたところを切り伏せるのであればともかく、逃げるなり、そのままの位置から体当たりをされるようであれば、かなり難しいでしょう。」

二人がそれぞれに口にすれば、イマノルは実に機嫌よさげに首を振る。

「ええ。その通りです。例えばトモエさんと私、持っている獲物を、振りやすいように上から下へと振れば、丸兎にはまずあたりません。それこそ自分の足を切るような、無理な振り方をしない限り。
 ですから、本来であれば、魔物の狩猟、その最も有効な手段は弓を使う、もしくは長柄の武器を使う、このどちらかです。」

二人も特に異存はなく、それに頷く。

「ですが、実際問題として、魔物というのは大きなものが多いのです。」

その言葉にトモエは首を傾げ、オユキは記憶をたどる。

「この町に限らず、人里の側であれば、中型種以上は、徹底的に駆除されますので、早々出くわすものではありませんが、少し森に入れば、シエルヴォ、ソポルタのような人よりも大きいものがいますからね。」
「ああ、鹿に熊ですね。そういえばこのあたりでも、出るのでしたか。」
「それはどの様な?」
「シエルヴォが鹿の魔物です、類似種は多くいますが、枝分かれした刃物のような角を使い、得物を切り裂く凶暴な生き物です。体高も角まで入れれば、2m超えることもあるかと。
 ソポルタが熊の魔物です。見た目はほぼ灰色熊ですね。倍ほどの大きさですが。」

オユキがそう口にすると、イマノルはよくご存じで、そう褒める。
トモエは、自分の腰につるされる獲物を見ながら、眉根を寄せる。

「そうですね。ご懸念の通りです。このような獲物では、致命傷を早々与えられません。」

それこそかなり接近して切りつけるか、半分以上を相手に埋めるか、そうでもしない限り、下手をすれば毛皮に軽く傷をつけて終わるだろう。

「そして、今あげた物は、中型の中ではまだ小さいほうです。
 狩猟者ギルドも、同じ区分を行っていますが1m未満が小型、10m未満が中型、それ以上が大型です。
 大型相手になれば、正直人の扱う範疇の矢をただ射かけたところで、まったく効果がありません。
 両手剣で切りつけたところで、表皮を傷つけて、それで終わりです。」

イマノルは、そういって肩をすくめる。
オユキはその話を聞きながら、昔の事を懐かしく思い出す。
ミズキリを筆頭に、大型相手に、使い慣れた得物を手に、蛮勇を発揮した、そんな頃を。

「成程。つまり得物よりも知識、工夫と、そういう事ですか。」
「はい。加えて神の加護、魔術、やりようはあります。何より大事なのが、侮らない事、それにつきます。
 人間ではない、それをまず、正しく理解してもらうことが、第一です。
 知らない魔物からは、戦わず逃げる、事前に情報を集め、対応策を考えておく。とにかくそれにつきます。」
「そうですね。普通に使えば効果がない弓でも、毒を使えば話も変わりますし。」
「ええ、その通りです。ただ、毒に関しては魔物ごとに何が有効なものが変わるので、より正しく、広範な知識が求められますが。
 さて、話はそれましたが、この近隣の魔物、その対処法ですね。」

そういうと、イマノルは腕を組み、軽く目を閉じて話し始める。

「丸兎は、体当たりの際、必ずある程度以上の高さに跳びます。また、魔物全般の特徴ですが、魔物以外の生き物を見つけて、逃げることはありません。逃げるそぶりを見せて、罠に連れ込む類もいますが、それは今は置いておきましょう。
 間合いの短い武器を使うのであれば、丸兎が飛んだところを狙うのが正解です。
 必ず直進することもあり、合わせるのも難しくありません。それでも難しければ、それこそ武器を置くように構えるだけで、対応できます。ただ、その威力はそれなりのものがありますので、それに耐えられないようなら、まずは体を鍛えていただくのが良いでしょう。」

ゲームにおいても、最も弱く、マスコットのような扱いを受けた生き物だけはある、現実でも非常に簡単に対応できる、そんな相手だといわれる。

「歩きキノコ、こちらに関しては、ごくまれに体当たりを仕掛けてくる程度です。
 鈍器はあまり効果がなく、刺突、斬撃といったものが効果的です。
 大型の武器であれば、そのまま二つに割れば片が付きます。ただ、刃渡りの短い武器の場合は、頑丈な魔物なので、苦労をすることになるでしょう。弓を使う場合は、おとなしく諦めて短剣で切りつけるのを勧めますね。」

そういって、イマノルは肩をすくめる。
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