獣は愛に囚われる

禎祥

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10、どうして? *(side:律)

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 社長さんに無理やりキスされたあの日。
 助けてくれた村岡さんは僕の手を握ったまま、村岡さんの家まで戻った。

「大丈夫、何もしないから」

 村岡さんは、一緒に暮らそうって言ってくれた。
 心配だ、って。放っておけない、って。
 助けられたときからずっとドキドキしていた僕は、その言葉に頷いてしまっていた。

(村岡さん、かっこよかったなぁ……)

 社長さんに怒ってくれた。
 それだけで、嫌な気持ちも、怖かった気持ちも消えてしまって。
 隣の部屋に村岡さんがいる。そう思うだけでドキドキしてしまう。

 ――そりゃお前、恋だろ。

 ふいに友人たちの言葉を思い出し、顔が熱くなる。

(そっか、僕、村岡さんのこと、そういう意味で好きなんだ……)

 ――いっそその人とエロいことする想像して……。
 ――んっ、いいよ、律……

 友人の言葉と共に、村岡さんのオナニー姿を思い出してしまって慌てて思考を散らす。
 昼間、僕の名前を呼びながらしていたのを見てしまった時はびっくりして逃げてしまったけれど。
 オナニーの時に僕の名前を呼ぶって、そういうことだよね?

(村岡さんも、僕のことを好き……)

 社長さんに迫られていた時よりもよほど生々しい光景だったのだけど、全然嫌じゃない。
 それどころか……。
 モジモジと揺れてしまう腰を持て余して、何度も寝返りを打つ。

 両想いなのに、どうして「何もしない」なんて言うんだろう?
 恐る恐る、勃ち上がりかけた自分のものに触れる。
 昼間見たオナニー中の村岡さんは、凄く色っぽかった。

「村岡さん……あっ」

 村岡さんのあの姿を思い返していたらいつの間にか形を変えていた。
 反り返ったそれに触れる指の動きに合わせて、ぐちゅ、と濡れた音が混じる。
 この指が村岡さんのだったら……。

「ん、気持ちいい……村岡さん……村岡さんっ」

 隣の部屋で寝ている村岡さんに聞こえてしまうかもしれない。
 でも、もうこの熱を解放してやらないことには苦しくて。
 村岡さんに触って欲しい。
 村岡さんのにも触れてみたい。

(そういえば、エッチってどうやるんだろう?)

 悪友たちは、それはもう気持ちの良いものだって言っていた。
 オナニーなどとは比べ物にならないと。
 今だって、村岡さんの顔を、息遣いを、浮かんだ汗を思い浮かべるだけでいつもより気持ち良いのに。
 これ以上凄いのかな。

「ちょっとだけ……」

 悪友たちに無理やり持たされたエッチなDVD。
 自由に使っていいとあてがわれた部屋にはDVDも観れるテレビがあった。
 音が漏れないようボリュームを絞って、恐る恐るセットする。
 途端におちんちんを頬張る女の人が画面いっぱいに映った。

 喉奥まで入れたり、尖端を舐めたり。裏筋に沿って舌を滑らせたり。
 男の人の顔は映らないけれど、くぐもった気持ちよさそうな声が聞こえる。
 淫らな息遣いと、ぴちゃぴちゃという音で体が熱くなるくらい恥ずかしいけれど、目が離せない。

「……すごい……」

 ごくり、と唾を呑み込む。
 それは偶然にも女の人が口の中に出された精子を呑み込むのと同じタイミングだった。
 それから、女の人が画面に向かい股を広げる。
 顔も見えない男の人のおちんちんがそこに吸い込まれるように入り、抜き差しが始まる。
 最初はゆっくり、だんだん早く、激しく。
 動きに合わせて女の人が声を上げる。

「ふっ、ンンッ……あっ」

 映像を見ているうちに、僕はたまらなくなってしまって、自分の体を弄ってしまっていた。
 男の人の手が女の人のおっぱいを触るのを真似して自分の胸を。
 女の人のクリトリスを弄るのに合わせて、自分のおちんちんの先っぽを。
 女の人がおちんちんをしゃぶる時には、口に指を入れて舌でその動きを真似していた。

「ここに、あなたの太くて大きいのちょうだい」
「ここに、村岡さんの、太くて大きいのちょうだい」

 女の人の真似をして、股を広げて、台詞を繰り返してみる。
 けれど、映像と違って、いくら待ってみても刺激が来るわけではない。
 だって、ここには僕一人だから。
 僕には、映像の女の人みたく入れるところなんてないから。

「……欲しいよう、村岡さん……」

 結局自分でおちんちんを扱いて、果てた。
 途端に、はしたない自分の痴態に恥ずかしくなる。
 急いで服を着て布団に潜ったけれど、結局眠ることはできなかった。




 それから数日。
 僕が住んでいたアパートを引き払って、本格的に村岡さんとの生活が始まった。
 けれど。村岡さんは宣言通り、僕に触れることは一度もなかった。
 どうして? 僕たちは、両想いなんじゃないの?

「律、どうした?」
「んー……何でもない」

 床に座ってテレビを見ていた村岡さんの前に座って、その腕の中に収まってみても。
 じっと見つめてみても。
 キスどころか、ハグすらない。

 村岡さんはたびたび「どうした?」って聞いてきてくれるけど。
 どうやって言い出したらいいんだろう?
 キスして欲しいとか、エッチしたいとか。
 恥ずかしくて言い出せなくて。
 全然手をだしてこない村岡さんにだんだんイライラするようになってしまった。





「僕って、魅力がないのかな?」
「お? 例の年上彼女の話?」

 思わず漏らした愚痴を、耳ざとく悪友たちが聞きつけた。
 彼女じゃなくて彼氏だけど、って言ったらびっくりするかな?

「この前、痴漢されてたとこを助けてくれてね。その流れで心配だから一緒に暮らそうって言ってもらえたんだけどね」
「律、お前! いきなり同棲とか! 羨ましいぞ!」
「一緒に暮らしてるってことは、お姉さまの風呂上りとか、着替えとか!」
「くそぉ、律がいつの間にか大人に……!」
「そ、そんなんじゃないよ。だって……」

 何にも起きないもの。
 キスしたいって思っても気付いてくれないし。
 触りたいって、ぎゅってしたいって思っているのも僕ばかりみたいで。
 そんなことを零した僕に、悪友たちは溜息を吐いた。

「お前なぁ。ただ待っているだけじゃ、何にも起きないに決まってるだろ?」
「年上だとか気にするな! 男なら、ガっと行け! 押し倒せ!」
「そうそう。こういうのは、男がリードしてやるもんだ」

 思っているだけじゃダメなんだって。
 そうか。確かに、社長さんとかも凄くボディタッチ多かったっけ。
 悪友たちにけしかけられて、僕はすっかりその気になってしまった。

「そっか、僕からしちゃってもいいんだ」
「そうだ。律、男を見せろ!」
「うん、僕、頑張って押し倒す!」
「おぅ、頑張れ!」

 悪友たちがこんなに頼もしく感じたのは初めてだ。
 今日こそ、村岡さんとの関係を進める。
 僕が、村岡さんを押し倒すんだ!
 両手をグーにして意気込む僕に、悪友たちは力いっぱい応援をくれた。
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