獣は愛に囚われる

禎祥

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9、変態 *(side:守)

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「あ、阿倍野くん、も、やめて、くれ……」
「なぜ? 気持ちいいでしょう? ここ、こんななのに、やめちゃっていいんですか?」
「痛い、から……その、中、クリームが、凄く、染みる」

 息も絶え絶えに訴える。
 阿倍野くんが言うとおり、中も陰茎も刺激されて、自分の意思とは関係なく高められてはいる。
 けれど、ヒリヒリするそこを洗い流したくて仕方がない。この痛みまで快感に変わってしまうのが怖い。

「あぁ、昨夜乱暴にしてしまったから、切れたところが染みるのですね」
「!?」
「仕方ない」

 今、何と言った? 昨夜?
 では、私をやり捨てたのは阿倍野くんだったのか?
 混乱する私を、阿倍野くんはいきなり抱え上げた。

「暴れないでくださいね。さすがに落としてしまいますので」
「あ、阿倍野くん。昨夜って……?」
「はぁ、それも覚えてないんですか……。まぁ、あれだけ酔ってらっしゃいましたしね」

 お姫様抱っこなど初めてされる。
 縛られたままだから、掴まることもできずとても怖い。
 おまけに、阿倍野くんは何故だかとても苛立たし気だ。
 怯えてしまったのが伝わったのか、阿倍野くんは深い溜息を吐いた。

「昨夜は、他の男を追い回すあなたへの怒りや嫉妬で乱暴にしてしまったので、今日は優しくしたいんです」
「や、やめっ! 自分で! 自分でできるから! これ、外してくれ!」
「ダメですよ。外したらあなた、逃げるでしょう?」

 当たり前だ。
 身体の自由が利かないから好き勝手させてしまったが、こんな常軌を逸した状況逃げるに決まっている。
 それがわかっているからか、阿倍野くんは無遠慮に私の尻にシャワーを当てる。

「あ、良いことを思いつきました。このまま腸内洗浄も済ませれば、今日は生でやれますね」
「な?!」



 不穏な言葉と共にニコリと笑う阿倍野くん。
 その宣言通り、私は抵抗虚しく中を何度も洗われてしまった。
 散々中を弄られて、水を入れられて。
 無理やり人前で粗相をさせられるだなんて……。

「普段澄ましている高貴なあなたがお漏らしだなんて、恥ずかしいですねぇ」
「いっそ、殺してくれ……」

 穴があったら入りたい。いや、むしろ死んでしまいたい。
 こんな羞恥を与えてくる阿倍野くんは、何故か顔を紅潮させ悦に入った表情をしている。
 いくら好きな相手でも、こんな臭い汚物まみれの姿を見たら萎えないだろうか。
 いや、ないな。阿倍野くんの中心が膨らんでいる。かつてないほど興奮しているということか。この変態め。

「ふふ。あなたの泣き顔、最高に興奮します」
「なっ! やめ、撮るな!」
「何故? ほら、可愛く撮れましたよ?」

 シャッター音が聞こえ、羞恥心から伏せていた顔を上げるといつの間にか阿倍野くんがスマホをこちらに向けていた。
 見せられたスマホの画面には、縛られ局部を晒しながら涙を流す私が映っている。
 直視できなくて、思わず顔を逸らした。

「消してくれ……頼む。嫌がらせなら、もう十分だろう?」
「嫌がらせ? ここまでやってもまだ、俺の気持ちは伝わらない?」

 阿倍野くんの顔が急に近づいたかと思うと、そのまま口付けをされた。
 一瞬離れたかと思うと、今度は噛みつくようなキスをされる。
 貪るように舌を絡ませ、吸われ。
 長い長いキスの後、離れた二人の舌先で混ざり合った唾液が糸を引く。

「あなたを、愛しているんです。俺のものになって」

 至近距離から、阿倍野くんの真剣な瞳が私を捉える。
 ここで断れば、あの画像をばら撒くのだろうか?
 そんなことをするような人物ではないと思っていたが、ずっと女性だと思っていたこともあって、阿倍野くんのことがわからない。

 力なく頷いた私の体を洗い流すと、阿倍野くんは再び私をベッドへと運んだ。
 そして、ローションの冷たい感触と共に阿倍野くんの指が入ってくる。
 いきなり犯されるとばかり思っていたのに、少しずつ本数を増やしゆっくりと開かれていく。

「酔っていたから覚えていないって言いましたけど、ここはちゃんと俺を覚えてるみたいですよ。ほら、こんなに吸い付いてきて……」
「……っ!」
「今何本入っているかわかります?」
「わかる、わけ、ない……」

 中でぐにぐにと蠢きながら、剃毛中に見つけたと言っていた場所ばかり刺激される。
 その度にビクビクと体が跳ねてしまう。
 お尻でなど、感じたくないのに。
 長い時間をかけた容赦のない刺激に、先ほどから何度も絶頂させられていた。

「入れるなら、さっさと入れろ」
「んん? 違うでしょう? 欲しいなら、くださいって言わなきゃ」
「!」

 いい加減もう終わってくれ。
 そう思っていたのに、阿倍野くんはまだ解放してくれる気はないらしい。
 大事にしたいなんて言っているが、楽しんでいる気がしてならない。
 ニマニマと厭らしい笑みを浮かべながら、私の言葉を待っている。

「ほら、欲しくないの?」
「……っ」

 欲しいわけがない。
 抵抗できないから、写真を撮られたから言いなりになっているだけだ。
 だけど。
 縛られたままの体が痛い。
 もう出ないと訴えているのに、容赦なく与えられる快楽がつらい。
 言えば、終わるのか……?

「……っ」
「はぁ……強情ですねぇ。ま、いいです。俺のものになるって言ってくれましたし」
「あっ?!」

 指などとは比べ物にならないほどの質量がゆっくりと押し入ってくる。
 ピリッとした痛みと、強烈な圧迫感。
 けれど、それだけじゃない。
 先ほどまでさんざん指で弄られた気持ちのいいところを押し潰し、更に奥に入ってくる。

「や、痛い! 痛い、から、抜いて!」
「嘘ばっかり。さっきから、中、凄いうねってますよ。搾り取られそうです」
「嘘だ!」
「挿れただけでイっちゃうなんて、エロい体してますね」
「してない!」
「じゃあ、俺たち体の相性が良いってことですね」

 阿倍野くんのものが、入ってはいけないところまで入ってきている気がする。
 怖い。けど、気持ちいい。
 阿倍野くんが腰を動かす度に、何も出ていないのに絶頂する時のような感覚が押し寄せてくる。

「そのうち、守さんから欲しいって言えるようにしましょうね」

 何それ怖い。
 阿倍野くんに怖いことや恥ずかしいことをたくさん言われた気がしたけれど、押し寄せる快楽の奔流に頭が真っ白になってしまって。
 気を失うまで抱かれていたってことしか覚えていない。

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