上 下
262 / 325
第五章 大陸戦争編

第250話 古代浮遊遺跡編 〝球史全書〟

しおりを挟む
「シボ!」



目的の階に着くと、



通路の向こうからアルトゥール達がやってきた。



「無事だったか」



「何とかね」



先行した機械蜂が送ってきた道順は、



少し先を示している。



ここまで来ると敵兵は皆無だった。



通路もあまり荒らされていない。



「ここか……」



指示された場所は、



巨大な黒い扉で塞がれていた。



両開きの扉の上部に機械蜂が入っていき、



数秒後、重たい音と共にゆっくりと扉が開いてゆく。



数匹の機械蜂が内部を照らす。



脅威となるものは見受けられなかった。



全員武器をしまい、中に入る。



『二人共、ご苦労様。



ヨく辿り着いたワ』



ユウリナから通信が入った。



『ユウリナ様、目的の物とは……』



内部は球体の部屋だった。



壁一面に取っ手のようなものがずらりと並び、



どうやら引き出せる仕様らしい。



『右から6番目の列、



下かラ8番目を引き出しテ』



アルトゥールは言われたとおりの場所まで行き、



簡易梯子を登る。



取っ手を引くと中には黒い板が大量に入っていた。



所々が赤や緑に光っている。



『そレは基盤と言うものヨ。



それがアれば浮遊遺跡ハ私たちの物。



全部回収して』



全員総出で回収にかかる。



『他のモノは?』



『持てルだけ持って帰ってキてくれると、



とっテもありがたいワ』



数分後にはその場にいる全兵が、



鎧の下に基盤をしまい込んだ。



部屋を出ようという時、



突然地面が揺れた。



大地震のような衝撃で、



一人残らず壁や床に投げ出される。



「うわああ!!」



「なんだこれは!」



揺れはさらに激しく、



部屋全体が傾きだした。



「シボ、危ない!」



落下物がシボに向かって来たところを、



アルトゥールが身を挺して庇った。



「うぐあああ!!」



鈍い衝突音がした。



やがて揺れが収まり、



各々無事か点呼を取り合う。



「アルトゥールさん!」



部隊長のヴァンダムが悲痛な声を上げ、



皆が集まってきた。



シボとアルトゥールは、



大きな鉄骨の下敷きになっていた。



アルトゥールがシボに、



覆いかぶさるようにして守っている。



「アルトゥール!」



血だらけのアルトゥールを見て、



シボは悲鳴を上げた。



部下たちが数人がかりで鉄骨をどかす。



「衛生兵!」



「全員で集まるな!」



「ここは敵地だ。何人かは見張っておけ」



シボに怪我はなかった。



しかし、アルトゥールは左腕が折れていた。



出血もひどい。



顔も青ざめて、



このまま死んでしまいそうな雰囲気に、



誰もが息を呑んだ。



アルトゥールはゆっくりとシボと視線を合わせた。



「……シボ、お前は強く美しい。



俺は以前、愛する人を失った。



お前もそうだ。だからかもしれない。



親近感なのか、俺はお前に惹かれていった。



ここで最後かもしれないから言っておく。



お前の事を……愛している」



「アルトゥール……」



シボの瞳から大粒の涙が落ちた。



機械蜂が傷口をせわしなく動き回る。



部下たちも涙目で見守る。



『命に別状はないワ。早く脱出ポイントへ』



ユウリナの冷たい声が機械蜂から響く。



一瞬空気が止まり、安堵の声が溢れるが、



アルトゥールは目をしぱしぱしながら天井を見つめていた。



「なんだ、大したことないのか……



そうかそうか。



……なんだか気まずいな」



「ぷっ!」



シボはたまらず噴き出した。



笑いは伝染し、全員が声を上げて笑った。



うんうん、そうだそうだ。



笑ってくれた方が助かる。



アルトゥールは心の中でそう呟いた。

















「どこにいようと、逃れることは出来ぬぞ」



光の速さで避け、攪乱するネネルに、



カフカスは全方位に重力負荷をかけた。



地表の木々が音を立てて折れ、



川の魚が川底に押さえつけられ血を吐く。



「見つけた」



カフカスはにやりと笑う。



広範囲の重力に捕まったネネルは、



崩れた城の瓦礫に押さえつけられていた。



バチバチと放電が周囲を焦がす。



「おうおう、これじゃ近づけん」



更に重力を増す。



「グオオオオオ!!!!」



ギカク化しているネネルは、



獣のような声を上げる。



その瞬間、



眩い光を放ち上下にレーザーが走った。



「うおお!」



ネネルの姿は消えていた。



「……どこへ消えた?」



覗き込むと浮遊遺跡の下層まで穴が開き、



光が見えていた。



「重力に逆らわず下に逃げるとは……」



一時の間をおいて、



背後からレーザーの乱射がカフカスを襲う。



しかしレーザーは重力渦で曲げられた。



死角がない。ネネルは焦る。



「これならどうじゃ」



周囲の草木、石、水が一斉に浮き上がる。



一帯を無重力にした、と気づいた時には遅かった。



ネネルも浮かび上がったところで、



両手足を小型の重力渦で固定されてしまった。



輪っか状の重力渦は、



それぞれつま先からゆっくり身体に向かって動き出す。



同時にバキバキと骨が砕ける音が響く。



「グオオオオオ!!!」



強力な重力が手足を破壊してゆく。



「ここまでじゃネネル」



こうなったら奥の手を……。



ネネルは力を内側に入れ込むイメージで魔力を最大化した。



ネネルの全身が眩く発光し始めた。



あまりの光量にカフカスも目を開けていられない。



やがて光は収まり、



現れたのは全身が雷と化したネネルだった。



「なんと……」



黄金の光そのものになったネネルは、



カフカスの重力渦を消滅させた。



「さすが我が弟子じゃ。



こうでなくちゃ命の駆け引きは面白くないからの」



カフカスは自分の前方に大きな重力渦を発生させた。



周囲の木々や岩が突風と共に吸い込まれてゆく。



もはやブラックホールだ。



両者は向かい合い、



一拍の間の後、衝突した。



直視していたら視力を失うほどの光、



身体がちぎれるほどの爆風。



辺りの地面は抉れ、瓦礫や草木が宙を舞う。



その衝撃は実に浮遊遺跡の五分の一を吹き飛ばし、



高度を半分以下にまで下げさせた。





















「カフカスさん。手加減していましたよね」



「……しとらんよ。そんな余裕なかったわい」



心地の良い風がネネルの頬を撫でた。



既に戦いは終わり、



戦場では負傷者の救助が行われている。



辛くも勝利したキトゥルセン軍だったが、



勝因はルガクトが仕込んでいた、



ガゴイル族5000の援軍だった。



アルトゥール達とユウリナの遠隔操作によって、



浮遊遺跡はミュンヘル王国の領空まで移動していた。



「カフカスさんの考えを変えたのは……



一体何だったのですか? 



……カフカスさんは何を知っているのですか?」



ネネルは戦場跡を見つめながら、



横のカフカスに呟くように訊いた。



「ここで全てを語ることは出来ん」



血まみれのカフカスはそっと目を閉じた。



「〝球史全書〟……調べてみる……ことじゃ」



カフカスは上半身しかなかった。



「弟子に敗れ、弟子に看取られる。



何とも贅沢な最後じゃ。



ネネルよ。



わしの魔石を受け取ってくれ」



その言葉を最後にカフカスは動かなくなった。



やがて灰のように、



残った上半身がさらさらと崩れ、舞い散ってゆく。



小鳥が舞う優しい風に乗り、上空へ。



灰となったカフカスは飛んでいく。



後には紫に光る魔石だけが残った。



ネネルは立ち上がり、



ぐっと翼を伸ばした。













「ありゃあ、これ生きてるか?」



黒い炭のような塊にしか見えないハイガーの近くで、



人の声がした。



しかし、辺りには誰もいない。



「生命反応あり……凄いな、これで生きてるのか」



地面の草に足跡だけがつき、



それが近づいてくる。



「君はまだまだ使えるってさ。



ウルバッハに感謝だな」



愉快そうな声と共に、



ハイガーの姿がその場からパッと消えた。



少し先にはキトゥルセン軍の兵達がいたが、



気が付いた者は一人もいなかった。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

王都を逃げ出した没落貴族、【農地再生】スキルで領地を黄金に変える

昼から山猫
ファンタジー
没落寸前の貴族家に生まれ、親族の遺産争いに嫌気が差して王都から逃げ出した主人公ゼフィル。辿り着いたのは荒地ばかりの辺境領だった。地位も金も名誉も無い状態でなぜか発現した彼のスキルは「農地再生」。痩せた大地を肥沃に蘇らせ、作物を驚くほど成長させる力があった。周囲から集まる貧困民や廃村を引き受けて復興に乗り出し、気づけば辺境が豊作溢れる“黄金郷”へ。王都で彼を見下していた連中も注目せざるを得なくなる。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~

白い黒猫
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある希望が丘駅前商店街、通称【ゆうYOU ミラーじゅ希望ヶ丘】。 国会議員の重光幸太郎先生の膝元であるこの土地にある商店街は、パワフルで個性的な人が多く明るく元気な街。就職浪人になりJazzBarを経営する伯父の元で就職活動をしながら働く事になった東明(とうめい)透(ゆき)は、商店街のある仕事を担当する事になり……。 ※ 鏡野ゆうさんの『政治家の嫁は秘書様』に出てくる商店街が物語を飛び出し、仲良し作家さんの活動スポットとなってしまいました。その為に同じ商店街に住む他の作家さんのキャラクターが数多く物語の中で登場して活躍しています。鏡野ゆうさん及び、登場する作家さんの許可を得て創作させて頂いております。  コラボ作品はコチラとなっています。 【政治家の嫁は秘書様】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981 【希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々 】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/274274583/188152339 【日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232 【希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~】  https://ncode.syosetu.com/n7423cb/ 【希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376  【Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271 【希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271 【希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/813152283

俺の天使は盲目でひきこもり

ことりとりとん
恋愛
あらすじ いきなり婚約破棄された俺に、代わりに与えられた婚約者は盲目の少女。 人形のような彼女に、普通の楽しみを知ってほしいな。 男主人公と、盲目の女の子のふわっとした恋愛小説です。ただひたすらあまーい雰囲気が続きます。婚約破棄スタートですが、ざまぁはたぶんありません。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 小説家になろうからの転載です。 全62話、完結まで投稿済で、序盤以外は1日1話ずつ公開していきます。 よろしくお願いします!

処理中です...