【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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第五章 大陸戦争編

第249話 古代浮遊遺跡編 決着

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敵軍と衝突したマーナ率いるベミー軍は、



牛人族などのパワー系を前列に配置、



圧倒的な力で中へ斬り込んでいく。



「リューズ!そろそろ止まって!



後続を待って!」



「了解」



マーナと同じく副将のリューズは牛人族の代表だ。



獣人族が乱した陣形に、



アルトゥール軍の槍兵たちが続く。



「竜翼人だ!」



どこかから声が上がった。



振り向いたマーナはこちらへ降りてくる巨大な影に、



一瞬止まってしまった。



なんて大きい………そして速い!



竜翼人達は獣人族を狙っているようだった。



「お前が頭か?」



唸るような声はビリビリとマーナの五臓を震わせた。



視界に『ホルダ王国 ダキュラ王』と出る。



ベミーは何やってるのよ……



マーナは背中に冷や汗を感じながら、



刃が付いた手甲をガチンと鳴らし、



拳を顔の前に構えた。











「くっそー中々手強かったなー。



〝狂戦士化〟出来るのが4人もいるとはなー……ん?」



地下遺跡の階段を走って上がっているベミーは、



視界に現れた画像に目を奪われた。



後方には大量の竜翼人兵が転がっている。



『目標 ダキュラ王 現在地 浮遊遺跡上部 平原中央』



映像にはマーナも映っていた。



「くそ、上にいたのかよ」



ベミーはぐんと走る速度を上げた。



「ああ、耐えてよ、マーナ……」



嫌な予感がした。



ダメージは与えているが、



マーナの方が押されている。



『マーナ!引いて!今俺が行くから!』



地上に飛び出たベミーは戦場へと駆ける。



遺跡群を抜けて、



乱戦の中に入ったが全力で進むのは難しい。



襲い掛かる敵兵を倒しながら、



視界のナビを頼りにようやく二人の姿が目に入った。



『マーナ!もういい……』



言いかけた時、ダキュラの剣がマーナを貫いた。



『マーナ!!!』



悲痛な叫びを上げたベミーは、



気付けば狂戦士化していた。



目にも止まらぬ速さでダキュラを吹っ飛ばす。



「マーナ……」



すでにマーナは事切れていた。



傷口に2体の機械蜂がいたが、



生命反応がなくなると、



程なく去っていった。



「お前がベミー・リガリオン……



まだ小娘じゃないか」



「お前……覚悟は出来てるだろうな!!」



ベミーは牙をむき、巨大な爪を全開に叫ぶ。



「……覚悟も何もこれが戦争だ。



個人的に憎くて殺したわけではない」



ダキュラは冷静に返し、



身体から蒸気を出し始めた。



「私は王として、



この戦争に参加した時から死ぬ覚悟はしている。



お前はどうだ?そいつは最後まで立派だった。



どちらが死んでもお互い恨みっこなしだ。違うか?」



一理ある、そう思ったベミーはきつく目を閉じ、



幾分怒りを収めた。



そして狂戦士化したダキュラ目掛けて突っ込んだ。



二人の強烈な拳がぶつかる。



力はほぼ互角だった。



常人には見えない速さでの攻防が続く。



周囲の兵士たちを巻き込み、



戦場の真ん中で粉塵を上げながら大将同士の一騎打ち。



徐々に二人の周りを兵たちが囲む。



時間が経つにつれ、



ダキュラはベミーの速さについていけなくなってきた。



身体中から血を流し、足元がふらつく。



ベミーは変わらずフルスロットルだ。



このままベミーが押すかと思われたが、



ダキュラが必死の形相でベミーの肩に噛みついた。



「ぐああああ!」



竜翼人特有の鋭い牙で、



今にも噛み千切らんばかりだ。



大量の血が地面を染める。



しかし、ふいにダキュラの身体が痙攣し、



そのまま力なく倒れ込む。



何が起こったのかと、



敵味方関係なく、周りの兵たちが息を呑む。



ベミーの腕がダキュラの心臓を貫いていたのだ。



狂戦士化を解いたベミーは涙を流しながら、



「マーナ、ごめんな」と呟き、血の海に倒れた。















ベミー軍が激戦を繰り広げる戦場から少し離れた場所に、



ルガクトとハイガーは着地した。



既に二人の全身には小さな傷がたくさんついている。



「何度やっても俺には勝てんぞ、ルガクト」



ギンッギンッと二人の武器が狂暴な金属音を立てる。



ハイガーは二刀流、



ルガクトも斧手と剣の二刀流で、剣を振るう。



実力が拮抗しているため、



二人はまるで見世物の剣舞を演じているようだった。



「前回は確かに俺が甘かった。



お前を救えるのではないかと、淡い希望を抱いていた」



「救うだと!? ははっ!いったい何からだ!」



ハイガーの剣がルガクトの腕を掠る。



「お前の暴力的な思考は幼少期の環境が原因だ。



まっとうに生きればどこかの国の、



将軍にでもなれたものを……。



だがそれも無駄だと悟った。お前とは分かり合えない」



今度はルガクトの斧がハイガーの肩を捉えた。



「出会った時から俺たちは分かり合えなかっただろ。



何をいまさら……」



負けじとハイガーは身体を回転させ反撃、



ルガクトの額に剣先を当てた。



「俺はお前に感謝している!」



ルガクトの刃がハイガーの腕を貫く。



「何の話だ!?」



二人は一旦離れた。



「お前がフェネを逃がしてくれなければ、



フェネはあの場で死んでいた」



「だから何だ! フェネはもう死んだんだろうが!」



再び同時に地面を蹴り衝突。



激しい斬り合い。



「それでもだ。だからこそ……」



ハイガーの機械翼の先端がルガクトの腹部に刺さる。



「うっ……」



「もう喋るな。……ちっ調子が狂うぜ」



実力はハイガーの方が上だ。



ルガクトは徐々に自覚し始める。



だが……



「俺も……本気を出そう」



「ここへ来て負け惜しみか?



これ以上お前に何がある?」



血だらけの二人は再び衝突した。



ハイガーの剣を屈んで避け、



左の剣を突き出す。



もう一本の剣で阻まれる。



一瞬の隙に斧を下から振り上げた。



ハイガーは機械の翼で受け止めた。



「こんなもんか?」



「まさか。計算通りだ」



ルガクトの機械眼が青く光る。



それと同時に斧が変形しだした。



「まさか……」



「機械化したのは自分だけとでも思ったか?」



ルガクトは筒状になった斧手から火炎放射を見舞った。



「ぐおおおおっ!!」



全身に火が回ったハイガーは地面を転がり回った。



「悪縁もここまでだ。楽にしてやる」



ルガクトはやみくもに飛び立とうとしたハイガーを斬り伏せた。

















ネネルの雷剣はカフカスの作った重力渦によって防がれた。



カフカスはネネルの腕を掴み殴り飛ばす。



凄まじい威力で後方まで引き飛ばされたが、



身体がぐん、と強い重力で引き戻され、



再度殴り飛ばされる。



「肉弾戦は不得意と見える。



能力に依存しすぎるのもよくないぞ」



カフカスの言葉が微かに聞こえてくる。



何度もこれをやられると終いだ。



ネネルの全身が白く光り、



四方八方に放電、ギカク化した。



身体の大きさは倍になり、



手足は鳥人のように野生に戻っている。



髪は白く伸び、瞳も真っ白。



まるで天界から舞い降りた獣だ。



上空にはゴロゴロと、



雷音轟く黒い雲が形成されつつある。



カフカスは天を仰ぐ。



「天候をも変えるか……」



あっけに取られている間に、



バリッ!と姿を消したネネルは、



下方からカフカスに襲い掛かる。



だが手が届く寸前、



強力な重力渦が右側に出現、



引き寄せられ何もない空間に叩きつけられる。



「こりゃあわしもギカク化しないと危ないわい」



カフカスの周りの空気が歪み、



黒い円に包まれる。



やがて静かに姿を現したカフカスは、



巨大な体躯に黒い肌、長い白髪、



禍々しい翼と、まったく違う様相になっていた。



カフカスは獣のような雄叫びを上げると、



広範囲の重力を加圧、



そのままネネルに向かって振り下ろす。



上空からの重力波をネネルは辛うじて避けた。



重力波は地面にぶつかり、浮遊遺跡全体が傾いた。

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婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

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