【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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第四章

第205話 セキロニア帝国編 帝都バハロ上空にて

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「おい、待て!」



敵兵の剣を受けたウォルバーの隙を突き、



ネグロスは縛られたまま駆けだした。



「ネグロスが逃げた! 誰か捕まえてくれ!」



しかし、誰もが目の前の敵に精いっぱいで、



瞬時に反応できる者はいなく、姿を見失ってしまった。



「くそっ!」



『こちらアルトゥール。俺の機械蜂の映像を送る。



それで探せ』



タイタスの視界に城の俯瞰図が現れる。



しばらくすると、正門から騎馬兵が飛び出してゆくのを発見した。



5頭の馬が砂ぼこりを上げて道をかけてゆく。



『あれだ!』



『見つけたぞ!』



皆が一斉に叫ぶ。



「僕が行く」



敵の南セキロニア兵を二人切り倒すと、



タイタスはするりするりと戦場を抜けて城の内部通路に入った。



通路は中庭から正門まで繋がっていて、



隊列が通れるほど広くて天井も高かった。



途中で死んだ兵士を引きずった馬を見つけた。



「よーし、いい子だ」



顔を撫でてやり、興奮を静めてからタイタスは鞍に乗り、



「行くよ」と馬に語り掛け、勢いよく腹を蹴る。



『任せたぞ、タイタス』



ウォルバーの息は荒い。激戦の中にいるのだろう。



『こちらが片付いたら私たちも向かうわ』



シボの声は何だか落ち着く。



「みんなが来る頃には終わってるよ」



そう言ってから、少し恥ずかしくなった。



なんで自分は強がっているんだろうか。



まるで拗ねた子供みたいだ。



でも……仲間っていいかもな。



そんなことを思いながら、タイタスは城を出た。









荒涼とした大地の向こうに砂が舞っている。



ほぼ一本道だ。見間違うはずがない。



タイタスは馬を全力で走らせた。



機械蜂が数匹並行して飛んでいる。



シボのかアルトゥールのか。



どのみち自分が報告しなくても、



本隊に情報はいっているということだ。



ネグロス達の目的地は完全にガイロン鉱山。



中庭から城を経由して脱出したのであれば、



確実に〝ナザロの翼〟の動力を持っているだろう。



このままいけば〝ナザロの翼〟を起動……



そして攻撃を仕掛けてくる。









前方にガイロン鉱山が見えてきた頃、



道の途中に馬と人の影があるのに気が付いた。



護衛の牛人兵が二人。足止めだろう。



二騎が揃ってこちらに駆けだした。



「……あの馬鹿力は厄介だよなぁ」



そう言いつつもタイタスは高揚感で笑みを浮かべていた。



しかし、正面からぶつかっても吹っ飛ばされる。



タイタスは一人に的を絞り、ナイフを投げまくった。



そしてすれ違う手前で、



馬から飛んでもう一騎の方に自ら襲い掛かる。



落下の力と体重を乗せた一太刀を相手の剣にぶつけ、



馬上から落とす事に成功したタイタスは、



地面を転がりつつも次の一手を考えていた。



ナイフを投げられた方が馬を下りて走ってきている。



肩と足に刺さったまま、憤怒の表情。



受けたらヤバい剣圧で振られる刃先を間一髪のところで躱しながら、



タイタスは股の間に滑り込み、膝を斬った。



「ぐあぁ!!」



これでもう歩けない。



まずは一人。



間髪入れず背後から迫っていたもう一人の剣を受ける。



物凄い力で思わず膝を地面につけた所に蹴りを食らった。



傷みを無視してすぐに立ち上がり、迫りくる剣を躱す。



隙を見つけたタイタスはわき腹に剣を突き立てた。



「ふーっ、今のは楽しかったー」



地面に倒れる二人の牛人兵を後目に、



タイタスは血を拭い、すぐに馬に乗って駆け出した。









ガイロン鉱山の入り口には30名ほどの兵と、



護衛の牛人兵2名が布陣していた。



「ちっ……あれはちょっとキツイか……」



タイタスと並行して飛ぶ機械蜂がぐんとスピードを上げた。



『タイタス。俺の機械蜂で兵士共を一掃する。



その後は任せるぞ』



アルトゥールの声が脳内に届く。



『了解』



6匹ほどの機械蜂の姿が見えなくなってしばらくすると、



前方の入り口で大爆発が起きた。



馬のスピードを上げる。



爆炎に向かってタイタスは飛び込んだ。



薄暗い坑道を駆け抜け、広い空間に出ると、



数名の敵兵が向かって来た。



「お前とはここまでだな。



好きなところに行って好きなように生きな」



タイタスは馬を放った。



すかさず剣を抜き、



流れるような剣術で襲い掛かる敵を切り伏せる。



あっという間に全員を片付けると急いで奥に駆けだす。



「まだいてくれよ……」



タイタスが見つけた時、



既にネグロスは〝ナザロの翼〟の操縦席に座っていた。



腹に響くようなブーンという低い振動が伝わってくる。



まさかもう起動しているのか?



そう思った時、操縦席の両脇の翼が、



まるで生き物みたいに身震いした。



「まずい!」



ナザロの翼が浮き上がるのと同時に、



タイタスは翼の付け根に飛び付いた。



途端に機体は洞窟の天井に開いている大穴から、



上空に勢いよく上昇した。



山と同じ高さまで一気に登ると、



鱗のような金属が逆立ち、



次いで翼が鳥のように羽ばたき始める。



ぐんぐん加速し、タイタスは落下しないよう懸命にしがみついた。



そして突然、カッと光ったかと思うと、



操縦席の下から光の筋が飛び出した。



とてつもない速度のその光は、遠くの村と山を一瞬で破壊した。



その光景にタイタスは言葉を失う。



同時に視界にマップが出現した。



今の光の被害地域が表示される。



村が3つ、消し飛んでいた。



そこにはアジトのあったクハナ村も含まれていた。



タイタスの頭にモナの顔が浮かぶ。



身体が熱くなった。



『タイタス! 今どこにいるの?』



シボだ。生きていた。



『空だ』



映像を送る。



『ええ! しがみついてるの!?』



『タイタス。聞こエる?』



『……ユウリナ神?』



『映像を見てるわ。〝ナザロの翼〟を止めルには動力を破壊するしかナい。



機体の翼の下にあるはズ』



首を伸ばして覗き込むと、一か所だけ鱗状の金属がない部分があった。



緑の小さな光が見える。



タイタスは投げナイフの切っ先を動力の隙間に差し込み、



てこの原理で少しだけ捻じ曲げた。



そしてその隙間に剣を突き立てる。



機体がガクンと大きく揺れてから、



ガタガタと揺れ始めた。



だがまだ飛んでいる。



タイタスは透明の風防を固定してある箇所に剣を突き刺した。



そこは弾力のある不思議な素材で、



柔らかいのか固いのか分からない。



しかし鋭利なものは刺さるようで、



何とか剣は入った。



かろうじてできた隙間に、



タイタスは最後の機械蜂を潜りこませた。



そこでネグロスがようやくこちらに気付いた。



何やら喚いているが、声がこもって何を言っているか分からない。



「じゃあな、くそ野郎」



機械蜂が操縦席で爆発した。



透明の風防が吹き飛び、破片が飛び散った。



同時にわき腹に激痛が走る。



目をやると鉄の破片が刺さっていた。



「ぐ……くそ……」



タイタスは何とか操縦席に移った。



機械類はめちゃくちゃで、さらに血と汚れでぐちゃぐちゃだ。



足元に千切れたネグロスの足が残っている。



機体はまだ落ちていない。完全には破壊出来ていないようだ。



『タイタス。よくやっタわ』



『……ユウリナ様、どうしたらいいですか?』



どこを操作すればいいのか以前に、



触れる場所がほとんどない。



おまけに黒煙が顔にかかって見えづらかった。



『炉心がもう限界ヨ。山や町が消し飛ぶようナ爆発が起きる。



早く脱出……タイタス、あなタ、脈拍が……』



タイタスの視界に目の前の機械類の詳細が出された。



操縦桿の根元の軸があったので握ってみると機体が動いた。



『……判断は任せるワ。



今まで〝影〟として国を支えてくレて感謝シます』



『ありがとうございます……』



タイタスは状況を整理した。



〝ナザロの翼〟はまだ凄い速さで飛行している。



飛び降りれば死ぬ。



減速も加速ももう出来ない。



出来ることは操縦するだけ。



眼下には都市が見える。



現在地は南セキロニア、帝都バハロ上空。











気が付くとタイタスの目には涙が溢れていた。



脳裏に村の少女、モナの笑顔が浮かぶ。



なんだよ、子供は嫌いだったはずなのに……。



モナからもらった布は腕に巻いたままだった。



片方の手でその布をぎゅっとつかむ。



……くそっ! 殺しやがって!



この街に突っ込んでやる。



操縦桿の壊れた軸を倒し、



帝都の城に機体を傾ける。



ガタガタと振動が大きくなってきた。



ふと町の市場が見えた。



大勢がこちらを見上げている。



小さな子供が数人走っているのが目に入った。



その時ウォルバーの言葉が脳裏をかすめた。





〝敵にも家族がいる。命は軽いものじゃない〟





「ちっ、うるさいなぁ……」



城にぶつかる直前でタイタスは操縦桿を引いた。



機体は垂直に上空へ逃れた。



『……ウォルバー』



『タイタス、今どこに……お前、まだ乗ってるのか!



早く逃げろ!!』



機体は空へ、ぐんぐん高度を上げてゆく。



『……もう無理だ、間に合わない。



ウォルバー……あんたとは……



もうちょっと話してみたかったな……』



口から大量の血が出た。



瞳を閉じると父の顔が浮かぶ。



『おいっ! タイタスっ!』



タイタスの口元はもう笑うことはなかった。



機体が雲の高さまで昇った時、



太陽がもう一つ出来たかのような大爆発が起こった。

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