【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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第四章

第204話 セキロニア帝国編 トゥーロン城潜入

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数日後。



タイタス、ウォルバー、レジュはシボ隊と共に、



トゥーロン城に向けて行軍していた。



見た目は行商とその護衛団。



荷馬車の一つはネグロスの入った檻だ。



何やら叫んでいるようだが、



荷車ごと布で覆われていて、更に猿ぐつわをして縛ってあるので、



何を言っているのか分からない。



「本当に〝ナザロの翼〟の動力はトゥーロン城にあると?」



「この前の寺院は機械蜂で徹底的に調べた。



ガイロン鉱山から移動できる範囲にはそこしかない」



シボの問いかけにウォルバーが答える。



「罠の可能性は?」



名剣ブロッキスの柄に手を掛け、シボは鋭い眼光だ。



「もちろんあるでしょう。



しかし、だからこその〝準備〟でしょ?」



タイタスが余裕の笑みで返す。



「その〝準備〟頼りにならなきゃいいけど……」



トゥーロン城はガイロン鉱山から比較的近い。



南北セキロニア帝国の国境沿いの要所だ。



荒涼とした赤土の荒野には一本道しかない。



遠くに名もなき小さな村がぽつりぽつりと揺らめいている。



その時、シボ、レグロ、タイタス、ウォルバーに脳内通信が入った。



『キトゥルセン連邦関係者各位、こちらはオスカーだ。



つい先ほどスラヴェシにて、北ブリムス連合との同盟を締結した。



不本意ながらこれで大陸を二分する構図が出来てしまった。



南の勢力がすぐにでも仕掛けてくるかもしれない。



各前線の指揮官は警戒を怠るな』



四人は無言で顔を見合わせた。













トゥーロン城は河川の際に建てられた城だ。



河の水が城の地下に流れる仕組みになっており、



荒涼としたこの地域でも一年中水に困ることはない。



城下町も比較的豊かで多くの商人が出入りしていた。



一行は事前の計画通り、地下水路にいた。



「しかし、あんたらのこの機械蜂ってのは便利だな。



まるで外のように明るい……」



ライト機能で水路の至る所を照らす機械蜂に、



レジュは感心しっぱなしだ。



「……くっ、この城にこんな〝穴〟があったなんて……」



縛られた腕をウォルバーに抑えられながら、



ネグロスは呻いた。



「お前ら……だんだん分かってきたぞ。



キトゥルセンじゃないのか?



そうだろ? えぇ!?」



「うるさい、黙れ」



ウォルバーの機械腕がキュゥゥゥと小さく鳴り、



ネグロスを締め上げる。



「いででででっ!!」



狭い水路を進んでいくと古びた木製の扉が現れた。



その先は地下倉庫に繋がっていて、



反対側のもう一つの扉は薄暗い城の通路へと抜ける。



レグロが通路を覗き、安全を確認してから連弩を構えて素早く動く。



全員息を殺し、緊張感が辺りを包む。



先行するレグロ班は一階に上がる階段にて2人の敵兵を音もなく殺し、



地上に出た。そこは城壁と城の間の空き地で、



人気のない死角ともいうべき場所だった。



全員が地上に出て、中庭まで進む。



「なんだ……おかしいぞ。



人っ子一人見当たらない……」



レジュは不安を覚えた。



「隊長、扉が全て開きません」



シボに部下が報告したとき、



機械蜂で辺りを偵察していたタイタスが「駄目だ、戻れ!」



と大声を上げた。



その途端、城の正面扉が開き、大勢の兵が飛び出てきた。



塀の上にも、外に繋がる大門からも大軍がなだれ込んできて、



シボ達はあっという間に包囲されてしまった。



敵兵は槍と弓をこちらに向け、動きを止めた。



こちらも円形に布陣し、連弩を全方位に向ける。



「くそっ! やられたわ……」



シボの険しい表情を見てネグロスは嬉しそうだ。



「ククク……残念だったな」



敵軍から黒い甲冑が一人出てきた。



牛人族の護衛兵団の隊長だ。



「ネグロス様を渡せ。



さすれば命までは取らん」



シボは部下の盾の前に出た。



長い金髪が風に泳ぐ。



「あなたたちは聖ジオン教騎士団ね?」



「だから何だ? お前らも北セキロニアの軍ではあるまい。



だがそれはどうでもいい。お前らは知らんだろうが、



先ほどキトゥルセンと北ブリムスの同盟が締結された。



どのみち敵ということだ」



護衛隊長は腰の大剣を抜いた。



「早くネグロス様を渡せ!」



一向に動かないシボ達に護衛隊長はイラついている。



「お前たち分かっているのか?



ここは最前線だ。今ここで争えば……



大陸を二つに分かつ大戦争の火蓋が斬って落とされることになるんだぞ!



その責任をお前たちは負えるのか!」



シボの視界に敵のマークが完了した文字が現れる。



上空の機械蜂が自分たち、そして城全体の俯瞰映像を送ってくる。



敵勢は約2000。



続けて機械蜂の自爆推奨配置図が表示され、



予想敵兵削減数が700と出る。



「残り1300か……こちらは50……」



しかし……。



『シボ、アルトゥール。オスカーだ』



脳内通信で君主から直々に連絡が入った。



『オスカー様……』



『俺は大陸を獲ると決めた。……好きに暴れろ』













「お、おい。なんだこれは……」



「河の関所からは何の合図も……まさかやられたのか!?」



裏手の門塔にいる兵たちが青ざめる。



トゥーロン城傍の河にいつの間にか大船団が現れたのだ。



「……あの旗はまさか……キトゥルセン連邦か?」



船の上に立つ将軍、アルトゥールが放った弓が、



大きな弧を描き、裏門上に布陣していた敵将の頭を貫く。



続いて矢の雨。



着岸後、速やかにアルトゥール軍は隊列を組み、



機械蜂の爆発によって破壊された門から攻め入った。













『お任せ下さい、オスカー様』



シボは手を上げると全員が連弩を構えなおす。



「正気かお前ら!」



護衛隊長が怯む。



『こちらアルトゥール。シボ、いいぞ』



『了解』



城を堕とす為の準備が整った。



シボは大きく息を吸い込んだ。



「私はキトゥルセン連邦【護国十二隊】、



三番隊隊長シボ・アッシュハフ!!



我らが王の命にて、この城を堕とします!!」



シボが手を下げると部下たちは四方八方に連弩を発射した。



「や、やりやがった……!! 正気か、お前ら!!」



ネグロスの叫びは開戦の怒号に消えた。



間髪入れず所定の位置で機械蜂が一斉に自爆、



全方位で爆発と煙が上がり、



瓦礫と人が宙を舞い、



阿鼻叫喚の声が響く。



「矢が来るぞ! 固まれ!」



レグロの声に全員身をかがめる。



ガ、ガ、ガッと、盾に無数の矢が刺さる。



すかさず反撃。



連弩の発射速度は敵軍を圧倒した。



こちらの被害は少数。



シボは名剣ブロッキスを抜く。



「矢がなくなるまで撃ちまくれ!!」



そして裏門からアルトゥール軍3000がなだれ込んできた。
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