【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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第四章

第180話 ミュンヘル王国編 【落とし子同盟】

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朝。



木々の間から木漏れ日が差し、小鳥のさえずりがチチチッと聞こえる。



清々しい森の目覚めの中、副将ベイツは数人の部下と共に早めの朝食をとっていた。



先行して渓谷の国門に向かうためだ。



見張りの兵以外はまだ寝ている。



「え……?」



部下の一人が一点を見つめたまま動かない。



「どうした?」



ベイツと他の兵は森の奥に視線を移した。



木々の間に仮面をつけた兵が一人、二人……。



やがて敵襲を告げる笛が鳴り響き、



ベイツたちが武器を構える頃には、



仮面の軍勢に囲まれていた。



「凄い数です……」



「見れば分かる」



不安そうに部下が呟いた時、



離れた場所で声が上がる。



「今のは……将軍か?」



ベイツたちが急いで駆け寄ると一際大きな仮面兵と、



機械化した腕を構えたバルバレスが衝突していた。



バルバレスが腕から放った空気弾を、



その仮面兵は盾で防ぎきる。



友軍兵は皆バルバレスの空気弾の威力を知っているため、



驚きの声が上がった。



だが数発目で盾が壊れる。仮面兵は前進し刀身が白い剣を抜いた。



その白い剣を見た瞬間、ベイツはそれが誰か分かった。



鎧に空気弾を食らい少しよろけるが構わず進み、



バルバレスに剣を出させた。二人の剣先が衝突した時、



「ウェイン、止めろ!」とベイツは叫んだ。



仮面の大男は少しだけ下がり、素顔を見せた。



「……ベイツ? お前ベイツか!?」



巨体に似合わぬ優しい顔が驚きから笑顔になった時、



ベイツは歩み寄り、ウェインと固い抱擁を交わした。



「何年ぶりだ? まさかお前が軍の武将になるとはな」



「お前こそその恰好はなんだ? それがミュンヘル軍の正装か」



ウェインは苦笑した。



「話せば長い。……彼が将軍か?」



「ああ、そうだ。キトゥルセン連邦軍総大将、バルバレス将軍だ」



ベイツはウェインとバルバレスの間に入って紹介した。



「なんと……あんたがバルバレスか。先の戦争の話は聞いている。



お会いできて光栄だ」



「……それにしては手荒い歓迎だな」



「一応、そちらの力を測っておきたくてね。俺はウェイン・ホブス。



ミュンヘル王国軍の将軍……だった」



「だった?」



ベイツは眉根を寄せた。



「事情を話す前に会ってほしい人がいる」



ウェインの部下たちが割れ、奥から一人の小柄な仮面兵が歩いてきた。



灰色のマントで身を包み、どうやら女らしいことが分かった。



仮面を取ると、まだ幼さの残る美少女の顔がそこにはあった。



「ミュンヘル王国、王女ルナーオ・デストゥルネル様だ」



バルバレスとベイツは顔を見合わせた。



「デストゥルネル家の長女、ルナーオと申します。



バルバレス・エメリア将軍、ご無礼をお許し下さい。



我々と同盟を結ぶにふさわしい者たちかどうか見極めたかったのです」



バルバレスは名剣キリアンを収めた。



「……それはいいが、その奇妙な恰好……



とても一国家の正規軍とは思えん。



森に潜む盗賊団に見える……



何か事情がありそうだな」



長い黒髪を耳にかけ、ルナーオは険しい表情だ。



「全てお話します」



神妙な面持ちでルナーオは語り出した。







数カ月前に父である王が病で亡くなり、



王位継承者であるルナーオが女王として、



ミュンヘル王国を統治するはずだった。



しかし、即位する直前、



第二の都市であるニューク城を治める王の弟、オムザが反乱。



軍の半分を率いて王都を奇襲し、正規軍を壊滅させた。



ミュンヘル王家には代々伝わる〝魔剣オウルエール〟があり、



ルナーオの他にオムザも適正者で、



魔剣を奪われたルナーオ一派は命からがらこの森に逃げ出した。



そしてこの森を拠点とする盗賊団【落とし子同盟】と共同戦線を張り、



現在は3千人のレジスタンスを率いてミュンヘル軍と戦っているとの事だった。





「叔父の持つ魔剣オウルエールは精霊を操る力を有しています」



「精霊って人間が触れると死ぬって奴だろ」



バルバレスたちは見たことはないが話は聞いていた。



「はい、とても強力な魔剣です。父は同時に十体の精霊を召喚出来ました。



……十体いれば、時間はかかりますが1万の軍勢を殲滅できます」



ルナーオは絶望感を現すように伏し目がちに話す。



「精霊の弱点は?」



ベイツはウェインに聞いた。



「ない。光が動いてるようなもんだ。攻撃してもすり抜ける」



「……一つあるとすれば、使い手を殺すことでしょうが、



叔父は常に1~2体は自分の傍に精霊を置いているので、



接近することさえ難しいのが現状です」



「そいつは何体の精霊を操れるんだ?」



バルバレスの問いにルナーオは泣きそうな表情で答える。



「……30体です」



沈黙が流れる。



「……どうか、どうか一緒に戦って頂けませんか!?



私たちが頼れるのは、もうあなた方しかいないのです!



叔父はいずれ大陸中央部に進軍するつもりです。



やがては北を攻めると言っていました。



あの危険な男を野に放ってはいけません!



お願いです……どうか……どうか……」



ルナーオは青い瞳から涙を流し、膝から崩れ落ちた。



よく見れば頬はこけて、目の下には隈が出来ている。



限界なのだろう。戦い疲れた惨敗兵のようだ。



「ルナーオ様……」



ウェインはそっとルナーオの肩に手を添える。



「……なぜ俺たちキトゥルセンなんだ?」



バルバレスは静かに聞く。



「父が言っていたのです。



生前、父は……6つの国を征服して半島を統一したオスカー王子の事を褒めていました。



思想や文化の違う国々を一つにまとめるのがどんなに大変な事かと、



感心していました。しまいには私をキトゥルセンに嫁に出し国交を結ぶとも……」



ルナーオは涙を拭きながら、昔を思い出して小さく笑った。



「亡き父から聴くあなた方はまるで本の中の登場人物で、



とても強くて勇敢で……。そして……ザサウスニアを倒した時に確信に変わりました。



あなた達は私たちの希望の光だとっ……!」



ルナーオの目つきが変わった。王族の目だ。



「私が王位奪還を成し遂げた暁には、



魔剣オウルエールを手に、キトゥルセン連邦王国の属国となることを誓います。



どうか我らに力を貸して下さい」



ルナーオはバルバレスに片膝をつき、頭を下げた。



ウェインもそれに倣う。



周りの【落とし子同盟】の仮面兵たちも片膝をつき一斉に頭を下げた。
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