【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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第四章

第181話 ミュンヘル王国編 魔剣オウルエールと身体の無い子供たち

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ミュンヘル王国、王都、軍の鍛錬場内施設



「ほら、最後の一口」



ベッドの上の少年は姉の運ぶお粥を口に入れた。



「もうお腹いっぱい」



少年は眉を八の字にして困り顔を見せた。



「今日は全部食べれたね。ほら次は身体拭くよ」



姉は足の悪い弟の服を脱がせ、背中を拭いてやる。



その時、部屋の扉が開いて屈強な兵が顔を覗かせた。



「おい、時間だ」



姉は苦い顔をして立ち上がる。



「……ごめん、私もう行かなくちゃ。後は一人で出来るわね?」



「……うん。お仕事頑張って」



何も知らない弟の健気な笑顔に胸が痛む。



「ごめんね……」





部屋を出た姉は兵士に促されながら廊下を歩く。



「いやはや、〝国守の剣〟も落ちたもんだな。



今あんた、どんな身分なんだ?



新国王の娼婦か何かか?」



兵士は下品に笑う。



姉は相手にすまいと無視した。



「〝白剣のウェイン〟は生死不明、



〝黒剣のキョウ〟は王のメス犬……



あの戦い、負けは明白だっただろう?



剣の腕はあっても政局を見抜くのは苦手だったか」



姉は振り向き、兵士を睨んだ。



「性格の悪そうな顔をした男だと思ったが、その通りだったな」



兵士はピクリを眉を動かしたが、すぐに顔を崩した。



「おお怖い。さすが名剣を与えられた剣士だな。



……だが調子に乗るなよ。お前の弟の命は俺が握ってるんだ。



お前の反抗的な態度をオムザ様に報告してもいいんだぞ?



……それが嫌なら……こっちにこい」



人のいない小部屋で、兵士は「服を脱げ」と言ってきた。



「ちっ……」



やはりそう来たか、と姉は思った。



「お、素直じゃないか。てっきり反抗するもんだと思ったのに。



ああ、その〝名剣エンキ〟はそっちに置いとけ。



急に斬られたらたまったもんじゃない」



兵士はいやらしい笑みを浮かべて姉の裸体をまじまじと見た。



「元〝国守の剣〟を犯せるとはな。



みんながお前を狙ってたんだぜ。俺は英雄だ、はっはっは」



姉は決めた。



コイツは殺そう。でも今じゃない、と。













「オムザ様、捜索隊より報告です。



城下町、プケア通りにて【落とし子同盟】のアジトを発見」



大臣の報告にオムザは笑みを浮かべた。



「ほう、今もいるのか?」



「はい。屋敷の3階に20名ほど。



先ほど兵を送りました」



「いや、俺がやろう」



オムザは王座から立ち上がり魔剣オウルエールを抜いた。



取り巻きの数人がどよめく。



「……は、しかし、場所は街中でして……」



「黙れ。死にたいのか?」



睨まれた大臣は青ざめた顔で下がった。



オムザは魔剣を握り力を込めた。



途端に光が溢れ、地面に黒い染みが浮かび上がる。



「……3体でいいだろう」



オムザが呟くと、染みの中から黒い人型が立ち上がる。



いずれも子供サイズだ。



「こ、黒霊種……」



誰かが呟く。



「行け」



3体の黒い人型は、音もなく壁を通り抜け、部屋を出ていった。







「おい! 家の中に入れ!」



「オムザの黒霊種がくる!」



「触るな! 逃げるんだ!」



「家の中でも動くなよ!」



町の商店街の人々はパニックだった。



反乱の復興でようやく活気が出てきた街中には、



戻ってきた住民が新生活をスタートさせていた。



道には野菜、果物、乗り捨てられた馬車、



食べかけの串などが散乱し、人々は我を忘れて逃げ惑った。



通りの向こうから黒い人影が、



粒子の残像を引きながら、かなりの速さで向かって来ていた。



「【身体の無い子供たち】だ……」



積まれた木箱の隅に身を隠していた男性は、



黒い影が傍を通った時、子供の笑い声を確かに聞いた。









「何だ? 外が騒がしいぞ」



落とし子同盟の工作部隊隊長、ルンバートは三階の窓から外を覗く。



「班長! オムザの野郎の【身体の無い子供たち】です!」



見張りの部下が息を荒げて駆けこんできた。



「なに! ここがバレたのか?」



「おそらく! 早く移動を」



しかし、なぜか全員が扉から目を離さなかった。



見張りの男はゆっくり振り向く。



黒い煙の子供がそこにはいた。



子供の笑い声が響く。









「ははは! 仕留めたぞ! なんて間抜けな面をしてやがるんだ!



おい! もう終わったぞ!



全員死んだ。なんて簡単なんだ!



くくく、まったく……兄はこんな力を長年持っていたのか……



魔剣オウルエール、そりゃあいい気分だったろうな」



側近や近衛兵はいつオムザの気まぐれで殺されるのかビクついていた。



「だが俺の方が精霊をたくさん出せた!



真の王位継承者は俺だったわけだ!



ったく、こんなことなら早く反乱を起こしとくんだったぜ」



「ええ、そうですね」と側近たちは冷や汗交じりに笑みを浮かべる。



「そういえば……おい、キョウを呼んで来い。城に帰ってきてるんだろ?」



数分後、細い黒刀を携えた女剣士がオムザの前に召喚された。



「お、お呼びでしょうか……」



小柄で長い黒髪にやや低音ボイスのキョウ・ルクレツィアは怯えていた。



「キョウよ、逃亡者はまだ捕まらんのか?」



「申し訳ございません。現在全力をもって……」



「嘘をつけ! おい、調子に乗るなよ? 



お前は剣の腕と顔がいいから生かしてやってるんだ!



お前はルナーオと仲が良かっただろうが!



ならば隠れ場所くらいすぐにわかるはずだ!」



オムザは額に血管を浮かして激高している。



キョウはゴクリと喉を鳴らした。



「よく見ろ」



キョウの目の前の地面から黒霊種が浮かび上がる。



「俺がその気になったらこいつをぶつけるだけでお前を殺せるんだ!



いいか、言動に気を付けろ。お前の弟もただじゃ済まさんぞ。



次、ルナーオを連れてこなければ弟の指を落してお前に食わせてやるからな!」



「……弟だけは、止めて下さい」



「ならばさっさと行け!」



オムザが怒鳴り、キョウが部屋を出ようとした時、



「ちょっと待て」



と呼び止められた。



「もっと面白い事思いついた」



キョウを呼び戻したオムザはニヤリと白い歯を見せる。



不意にオムザは黒霊種をキョウにぶつけた。



「うわっ! あああああ!」



「心配するな、殺しはしない。



どうもお前は信用ならないからな。



体に黒霊種を植え付けといてやるよ。



これでもうサボれないぞ。



しっかり働け! ……くくくっ」
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