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第3章 大切なもの
凛と翔の大切なもの③
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それから、凛は打ち合わせであったことを話してくれた。ほとんどの話は、俺には関係のないことだった。
どの役者さんが優しかったか、とか、スタッフさんの誰々がどうだった、だとか⋯⋯俺もスタッフとして参加するわけだから、きっと知っておいたほうが良いのだと思うけど、どうにも興味を抱けなかった。
彼女の話に、相槌を打っているが、やはりどこか疎外感を感じてしまうのだ。
凛はそれに気づいたのかどうかわからないが、するっと俺の腕に自分の腕を絡ませてきた。
彼女がそうして俺のことをまだ気にかけてくれていると思うだけで、少し安心する。
そのまま黙ったまま、2人で誰もいない夜道を歩いた。
ただ風の音と、わずかな外灯しかない、静かな世界。
これが当たり前のはずなのに、俺たちの周りはあまりにも騒がしくて、どうにも落ち着かない。
「ねえ。今日ってもう少し時間大丈夫だったりする?」
ちょうど音慶寺の階段前を通りがかった時に彼女が立ち止まった。
「どうしたの?」
「うん⋯⋯もうちょっと翔くんと話したい、かなって」
彼女はちらっと階段を見上げた。
あそこの行きたい、ということだろう。俺たちが初めて会ったあの場所に。
「いいよ」
「やった」
彼女は嬉しそうに言い、するりと腕をすり抜けると、階段をとことこ登っていく。俺もそれについて行った。
時間はもう22時を回っているが、彼女のほう大丈夫なのだろうか?
それこそ、台本覚えだったりとか。彼女に訊いてみたところ、「明日から詰め込むから大丈夫」との事だった。
高台に出ると、昨日よりも月明かりがあり、明るかった。
いつもより月が近く見えるのは、気のせいだろうか?
とても綺麗だが、町はいつもと変わりなく、そこにあった。当たり前ではたるのだが、こんなに大変動があった1日とは思えないくらい、町はいつも通りだったのだ。なんだかそれが少し信じられない。
「あ、今日は月が綺麗だねー。満月かな?」
凛はカバンを置いて、崖の先っぽに腰掛けた。
彼女と初めて会った時みたいに、横に並んで座る。凛はまんまるの月に向かって、大きく伸びをした。
「はぁ、疲れたぁっ」
そのままばたんと後ろに大の字に倒れた。
「⋯⋯星、綺麗だなぁ」
彼女はそのまま空を見て、小さく呟いた。
「翔くんも見る? ちょっと冷たいけど」
「うん」
俺も、凛の横に大の字になって寝転がった。
背中の土が冷たくて気持ちいい。
なんだか今日の緊張感と疲れがどっと湧き出て、体が重くなった。
俺も何もしてなかった割に疲れてたんだなと実感する。
ただ、疲れていたから、余計にこの解放感に心が洗われている気がした。
今日は満月なのか、月が大きく見えて、空が明るい。
それなのに空が澄んでいるからか、星もよく見えていて、とても綺麗だった。
この星空の綺麗さも、田舎の醍醐味なのかもしれない。東京では、こんな風に空は見えない。
すると、凛が手を握ってきた。
「信じられないよね⋯⋯少し前まで全部逃げてたのに。今また自分をそうした元凶のところに自分から突っ込んでるなんて」
それは、凛が逃げるのをやめたから。
俺はまだ逃げ続けているのに、凛はもう立ち向かう強さと覚悟を持てたから。
「バカだと思う? また傷つくのにって」
「そんなことないだろ。すごいと思うよ」
俺にはできないことだらけだ。凛はもう、強い。それこそ、もう玲華に負けないくらい凛は強いんだと思う。
俺だけが弱いままなんだ。
「この作品をきっかけにまたRINは復活して大ブレイク。いいシナリオじゃないか?」
「え? 何言ってるの? 復活しないよ?」
凛が予想外の言葉を言った。
「もしかして、私がもう1回芸能界に戻ると思ってた?」
「違うのか?」
「違うよ。今回の映画だけ。今回の撮影が終わったら、私はただの高校生に戻るから」
意外な言葉だった。
「今回はフリーの女優。”体調不良で参加できなくなった”サヤカちゃんの代役なのであります」
少しおちゃらけた口調で言った。
なるほど、今回はそういう設定で凛を代役として選んだことにするのか。
サヤカちゃんという子も、それなりに力のあるプロダクションの子みたいだし、そういう大義名分が必要となるのだろう。
もちろん凛は未成年だから、その場で本人の承諾だけでは出演はできない。その場でお母さんに電話して、許可をもらったそうだ。無所属の扱いなので、出演費もそのまま凛に振り込まれる。
そのあたりの事務的な手続きもさっき済ませたらしい。それで時間が長引いていたのだろう。
「てっきり芸能界に戻りたいんだと思ってた」
「まさか。あんな辞め方をしておいて、たった数か月で戻るなんて、さすがに許されないよ」
それに、と彼女は付け加えた。
「私はさ、この鳴那町のみんなとの生活も大切にしたいわけなのさ。翔くんや愛梨、純哉くんがいるこの町の生活は、一番私を救ってくれたから。高校卒業したときのことまではまだ考えられてないけどさ、それでも、今はみんなとの生活⋯ううん、翔くんがいるこの町での生活を大切にしたい」
「⋯⋯⋯⋯」
正直なところ、俺はこの凛の言葉で救われたように感じていた。
彼女はがすぐに遠くにいくわけではないということがわかったから。
さっきまでそれが不安で不安で仕方なかったのだ。
どの役者さんが優しかったか、とか、スタッフさんの誰々がどうだった、だとか⋯⋯俺もスタッフとして参加するわけだから、きっと知っておいたほうが良いのだと思うけど、どうにも興味を抱けなかった。
彼女の話に、相槌を打っているが、やはりどこか疎外感を感じてしまうのだ。
凛はそれに気づいたのかどうかわからないが、するっと俺の腕に自分の腕を絡ませてきた。
彼女がそうして俺のことをまだ気にかけてくれていると思うだけで、少し安心する。
そのまま黙ったまま、2人で誰もいない夜道を歩いた。
ただ風の音と、わずかな外灯しかない、静かな世界。
これが当たり前のはずなのに、俺たちの周りはあまりにも騒がしくて、どうにも落ち着かない。
「ねえ。今日ってもう少し時間大丈夫だったりする?」
ちょうど音慶寺の階段前を通りがかった時に彼女が立ち止まった。
「どうしたの?」
「うん⋯⋯もうちょっと翔くんと話したい、かなって」
彼女はちらっと階段を見上げた。
あそこの行きたい、ということだろう。俺たちが初めて会ったあの場所に。
「いいよ」
「やった」
彼女は嬉しそうに言い、するりと腕をすり抜けると、階段をとことこ登っていく。俺もそれについて行った。
時間はもう22時を回っているが、彼女のほう大丈夫なのだろうか?
それこそ、台本覚えだったりとか。彼女に訊いてみたところ、「明日から詰め込むから大丈夫」との事だった。
高台に出ると、昨日よりも月明かりがあり、明るかった。
いつもより月が近く見えるのは、気のせいだろうか?
とても綺麗だが、町はいつもと変わりなく、そこにあった。当たり前ではたるのだが、こんなに大変動があった1日とは思えないくらい、町はいつも通りだったのだ。なんだかそれが少し信じられない。
「あ、今日は月が綺麗だねー。満月かな?」
凛はカバンを置いて、崖の先っぽに腰掛けた。
彼女と初めて会った時みたいに、横に並んで座る。凛はまんまるの月に向かって、大きく伸びをした。
「はぁ、疲れたぁっ」
そのままばたんと後ろに大の字に倒れた。
「⋯⋯星、綺麗だなぁ」
彼女はそのまま空を見て、小さく呟いた。
「翔くんも見る? ちょっと冷たいけど」
「うん」
俺も、凛の横に大の字になって寝転がった。
背中の土が冷たくて気持ちいい。
なんだか今日の緊張感と疲れがどっと湧き出て、体が重くなった。
俺も何もしてなかった割に疲れてたんだなと実感する。
ただ、疲れていたから、余計にこの解放感に心が洗われている気がした。
今日は満月なのか、月が大きく見えて、空が明るい。
それなのに空が澄んでいるからか、星もよく見えていて、とても綺麗だった。
この星空の綺麗さも、田舎の醍醐味なのかもしれない。東京では、こんな風に空は見えない。
すると、凛が手を握ってきた。
「信じられないよね⋯⋯少し前まで全部逃げてたのに。今また自分をそうした元凶のところに自分から突っ込んでるなんて」
それは、凛が逃げるのをやめたから。
俺はまだ逃げ続けているのに、凛はもう立ち向かう強さと覚悟を持てたから。
「バカだと思う? また傷つくのにって」
「そんなことないだろ。すごいと思うよ」
俺にはできないことだらけだ。凛はもう、強い。それこそ、もう玲華に負けないくらい凛は強いんだと思う。
俺だけが弱いままなんだ。
「この作品をきっかけにまたRINは復活して大ブレイク。いいシナリオじゃないか?」
「え? 何言ってるの? 復活しないよ?」
凛が予想外の言葉を言った。
「もしかして、私がもう1回芸能界に戻ると思ってた?」
「違うのか?」
「違うよ。今回の映画だけ。今回の撮影が終わったら、私はただの高校生に戻るから」
意外な言葉だった。
「今回はフリーの女優。”体調不良で参加できなくなった”サヤカちゃんの代役なのであります」
少しおちゃらけた口調で言った。
なるほど、今回はそういう設定で凛を代役として選んだことにするのか。
サヤカちゃんという子も、それなりに力のあるプロダクションの子みたいだし、そういう大義名分が必要となるのだろう。
もちろん凛は未成年だから、その場で本人の承諾だけでは出演はできない。その場でお母さんに電話して、許可をもらったそうだ。無所属の扱いなので、出演費もそのまま凛に振り込まれる。
そのあたりの事務的な手続きもさっき済ませたらしい。それで時間が長引いていたのだろう。
「てっきり芸能界に戻りたいんだと思ってた」
「まさか。あんな辞め方をしておいて、たった数か月で戻るなんて、さすがに許されないよ」
それに、と彼女は付け加えた。
「私はさ、この鳴那町のみんなとの生活も大切にしたいわけなのさ。翔くんや愛梨、純哉くんがいるこの町の生活は、一番私を救ってくれたから。高校卒業したときのことまではまだ考えられてないけどさ、それでも、今はみんなとの生活⋯ううん、翔くんがいるこの町での生活を大切にしたい」
「⋯⋯⋯⋯」
正直なところ、俺はこの凛の言葉で救われたように感じていた。
彼女はがすぐに遠くにいくわけではないということがわかったから。
さっきまでそれが不安で不安で仕方なかったのだ。
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