139 / 192
第3章 大切なもの
凛と翔の大切なもの②
しおりを挟む
(逃れる、か。また逃げるのか、俺は)
逃れるんじゃない。
打ち勝つんだ。
でも、何で? どうやって? 俺の手札には何がある? なんのカードもありはしない。
俺は、一介の田舎の高校生でしかないのだから。せめて、ワセ高の学生という立場だけでも持っておけば、違ったのだろうか?
学歴は自信になったのだろうか?
わからない。何もわからなかった。
わかるのは、自分の矮小さだけ。
「あのー⋯⋯翔くん?」
そんな時、ふわっとした綺麗な声が聞こえてきた。
ゆっくりと顔を上げると、そこには、やや気まずそうな顔をしていた凛がいた。
「ご、ごめんね? さすがに監督いる前で連絡できなくてさ」
「⋯⋯いいよ」
「ほんとにごめん。まさか、こんな時間まで待ってくれてると思わなくて」
「違うよ。陽介さんがLIMEで、長引きそうだから帰ったほうがいいって連絡しれくれてたのに、俺が好きで待ってたから」
「そうなんだ」
少しほっとした表情をして、彼女は小さく息を吐いた。
「それはもしかして、私に会いたくて待っててくれたのかな? あはは、嬉しいぞ、この」
凛が冗談交じりで言いながら、肘でつついてくる。
機嫌はは良さそうだから、きっと打ち合わせはうまく進んだのだろう。
「うん。会いたかった」
彼女がうまくいっている事は嬉しいはずなのに、疎外感が拭えない。
ああ、離れていくんだなって⋯⋯そう実感する。
凛も、玲華と同じ場所に行ってしまうんだ。俺を置いて。
そう思うと、情けなさと孤独感で、胸が痛くなって、危うく泣きそうになってくる。
「ちょっと、冗談だってば。どうしたの? 大丈夫? なにかあった?」
凛が心配そうに眉根を寄せて、顔を覗き込んでくる。
「⋯⋯大丈夫だよ。帰ろっか」
顔を見られたくなかったので、俺は立ち上がって、歩き始めた。
「打ち合わせ、どうだった?」
歩き始めると、俺はあらかじめ考えていた質問を投げかけた。
「打ち合わせは⋯⋯うん、とくに滞りなくって感じかな。役作りの指針と、あとはどこまで今進んでるのか、とか、いつまでに何をやらないといけない、みたいなスケジュール面の話がほとんど。覚えること多くて死にそう」
打ち合わせの話を振ると、凛が声を弾ませた。
きっと、楽しかったのだろう。やはり、田舎の高校生活は彼女にとっては退屈だったのかもしれない。
「撮影の日、学校はどうする?」
「基本的に私の撮影は土日とか放課後にしてくれるって言ってるけど、それだと回らないからさ。やっぱりたまに早退とか休んだりとかしないといけないかも。学校にも相談しなきゃいけないかなぁ」
「大変そうだな」
「うん、まあね。でも、自分で志願したから」
逃げられない状況作られてたけど、と愚痴りつつも、やっぱり彼女は嬉しそうだった。瞳が輝いている。
「撮影はいつから参加?」
「三日後の放課後から。それまでに死ぬ気で台本覚えてこいって、割と鬼畜だよね? 役作りもまだなのに」
凛は苦笑いをしているが、それでもやり切れるという自信の表れなのか、悲観している様子はなかった。
今の彼女は、雑誌に載っていたRINだった。
「そういえば、いつの間に山梨さんとLIME交換したの?」
「凛が打ち合わせに行ってから、交換しようって言われて。で、放課後に撮影の手伝いしてくれって言われた」
「え? じゃあ、翔くんも撮影くるんだ?」
「うん、一応そのつもりだけど⋯⋯もし嫌だったら、やめとくよ」
「ううん、そんなことない! むしろ、すっごく嬉しいかな。翔くんにかっこいいとこ見せるためにも、頑張らないとね」
彼女の声は相変わらず弾んでいる。
本当に嬉しいと思ってくれているようだった。
どうして凛は⋯⋯俺の事をそんなに大切に想ってくれるのだろうか。
俺は君に何も与えられていないと思うのだけれど。
やっぱりそれがわからなくて、どうしても俺は不安になってしまうのだった。
逃れるんじゃない。
打ち勝つんだ。
でも、何で? どうやって? 俺の手札には何がある? なんのカードもありはしない。
俺は、一介の田舎の高校生でしかないのだから。せめて、ワセ高の学生という立場だけでも持っておけば、違ったのだろうか?
学歴は自信になったのだろうか?
わからない。何もわからなかった。
わかるのは、自分の矮小さだけ。
「あのー⋯⋯翔くん?」
そんな時、ふわっとした綺麗な声が聞こえてきた。
ゆっくりと顔を上げると、そこには、やや気まずそうな顔をしていた凛がいた。
「ご、ごめんね? さすがに監督いる前で連絡できなくてさ」
「⋯⋯いいよ」
「ほんとにごめん。まさか、こんな時間まで待ってくれてると思わなくて」
「違うよ。陽介さんがLIMEで、長引きそうだから帰ったほうがいいって連絡しれくれてたのに、俺が好きで待ってたから」
「そうなんだ」
少しほっとした表情をして、彼女は小さく息を吐いた。
「それはもしかして、私に会いたくて待っててくれたのかな? あはは、嬉しいぞ、この」
凛が冗談交じりで言いながら、肘でつついてくる。
機嫌はは良さそうだから、きっと打ち合わせはうまく進んだのだろう。
「うん。会いたかった」
彼女がうまくいっている事は嬉しいはずなのに、疎外感が拭えない。
ああ、離れていくんだなって⋯⋯そう実感する。
凛も、玲華と同じ場所に行ってしまうんだ。俺を置いて。
そう思うと、情けなさと孤独感で、胸が痛くなって、危うく泣きそうになってくる。
「ちょっと、冗談だってば。どうしたの? 大丈夫? なにかあった?」
凛が心配そうに眉根を寄せて、顔を覗き込んでくる。
「⋯⋯大丈夫だよ。帰ろっか」
顔を見られたくなかったので、俺は立ち上がって、歩き始めた。
「打ち合わせ、どうだった?」
歩き始めると、俺はあらかじめ考えていた質問を投げかけた。
「打ち合わせは⋯⋯うん、とくに滞りなくって感じかな。役作りの指針と、あとはどこまで今進んでるのか、とか、いつまでに何をやらないといけない、みたいなスケジュール面の話がほとんど。覚えること多くて死にそう」
打ち合わせの話を振ると、凛が声を弾ませた。
きっと、楽しかったのだろう。やはり、田舎の高校生活は彼女にとっては退屈だったのかもしれない。
「撮影の日、学校はどうする?」
「基本的に私の撮影は土日とか放課後にしてくれるって言ってるけど、それだと回らないからさ。やっぱりたまに早退とか休んだりとかしないといけないかも。学校にも相談しなきゃいけないかなぁ」
「大変そうだな」
「うん、まあね。でも、自分で志願したから」
逃げられない状況作られてたけど、と愚痴りつつも、やっぱり彼女は嬉しそうだった。瞳が輝いている。
「撮影はいつから参加?」
「三日後の放課後から。それまでに死ぬ気で台本覚えてこいって、割と鬼畜だよね? 役作りもまだなのに」
凛は苦笑いをしているが、それでもやり切れるという自信の表れなのか、悲観している様子はなかった。
今の彼女は、雑誌に載っていたRINだった。
「そういえば、いつの間に山梨さんとLIME交換したの?」
「凛が打ち合わせに行ってから、交換しようって言われて。で、放課後に撮影の手伝いしてくれって言われた」
「え? じゃあ、翔くんも撮影くるんだ?」
「うん、一応そのつもりだけど⋯⋯もし嫌だったら、やめとくよ」
「ううん、そんなことない! むしろ、すっごく嬉しいかな。翔くんにかっこいいとこ見せるためにも、頑張らないとね」
彼女の声は相変わらず弾んでいる。
本当に嬉しいと思ってくれているようだった。
どうして凛は⋯⋯俺の事をそんなに大切に想ってくれるのだろうか。
俺は君に何も与えられていないと思うのだけれど。
やっぱりそれがわからなくて、どうしても俺は不安になってしまうのだった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる