想い出と君の狭間で

九条蓮@㊗再重版㊗書籍発売中

文字の大きさ
138 / 192
第3章 大切なもの

凛と翔の大切なもの

しおりを挟む
 凛の打ち合わせがまだ終わらない。
 そろそろ3時間は経とうかというところだが、まだ連絡がないので、俺はずっと待ち惚けだ。
 途中で陽介さんから『打ち合わせまだ時間かかりそうだから帰ったほうがいい』とLIMEが届いたが、帰る気にもなれず、ひたすら待ち惚けた。
 数日前に玲華と話していた自販機の前で、目をつぶって、ただ待つ。
 俺はどうして待っているのだろう?
 待たせていると思わせているほうが、凛は気遣いそうだ。
 先に帰ったほうが彼女も気兼ねなく打ち合わせに集中できるだろう。先に帰ったほうがいいに決まってる。
 しかし、それでも俺は待った。帰りたくなかった。彼女を待ちたかった。
 ただただ、不安なのだ。
 凛は、昨日俺と玲華が会っていたことを知っていた。
 部屋に行った事まで知っている。その状態で、どう思われているのか、誤解されていないかが不安で仕方ないのだ。誤解されるような事も実際してしまっている後ろめたさもある。
 それだけではない。
 俺は、彼女が遠くに行ってしまいそうで、怖いのだ。
 こうして意地けたように待っていれば、きっと彼女はきてくれる⋯⋯そんな女々しい気持ちも、実のところあるのかもしれない。

(情けないな⋯⋯)

 自販機にもたれかかるように座って、膝に顔を埋めて、目を瞑る。
 完璧に思えた玲華は、失敗してながらもそれを跳ね除けて今日まで辿り着いていた。
 凛も挫折を乗り越えて、過去の誤ちを払拭するために、今立ち上がった。
 俺だけが、一度の挫折から立ち直れずにいた。
 まだ逃げ続けているのかもしれない。
 凛はもう逃亡者を辞めたというのに。
 彼女が芸能の世界に戻れば⋯⋯きっと俺なんて、捨てられてしまう。
 なんの価値もない、ただの田舎の高校生。魅力なんて何もありはしない。そんな事は1番俺がわかっている。
 今日の撮影で俺が感じた感情は、疎外感だった。陽介さんは、役作りの為なのかおもちゃを見つけた感覚なのかわからないが、何故か仲良くしてくれているにせよ、それでも、俺だけが住んでいる世界が違った。

(あんな怖そうな監督に意見できるか?)

 玲華は名監督と名高い邦画界の重鎮に真正面から意見した。

(あんな怖そうな監督に頭を下げさせられるか?)

 凛もその重鎮から求められている才能。
 あの2人は例外だから比べてはいけない、という陽介さんの話は、きっと間違いない。
 彼女達は特別だ。
 しかし、俺は? 俺は何を持っている?
 俺は何様だ? どうしてそんな彼女達の横に並んで立っているのだ? なぜ関係者ヅラしているのだ?
 できるはずがないのだ。

(俺は、何もない。何者でもない)

 それが俺なのだから。
 それなのに、そんな何もない俺を、彼女達は奪い合うという。
 もう、わけがわからない。俺はそんなに大それた人間じゃないんだ。
 俺は彼女達に何を与えられるというんだ?
 劣等感だけが積もっていく。何も持っていない人間なのに、何も与えられない人間なのに、大人ですら一目置く才能を持つ女の子が俺を特別視している。
 ただただ怖い。
 俺が何も持っていないという事を気付かれるのが怖いのだ。
 何より、俺には武器と呼べる武器がない。
 演技も、人脈も、金も知恵も、何もない。自分で自分に自信を持てるものがないのだ。そんな俺が彼女達になにを与えられるっていうんだ。何を満たせるっていうんだ。
 ここで陽介さんを引き合いに出すのは変な話だが、俺なんかよりもあの人の方が絶対に相応しい。輝かしくて、爽やかで、彼女達と似たようなオーラを持っていて、華々しい未来があって。きっと俺よりも苦労をわかってやれるはずなのだ。

(こんな俺をどうして⋯⋯)

 自分の矮小さだけが際立って、嫌になる。

(こなければよかった)

 凛が逃げないと選んだから、凛に決意させたから、半分義務感でここにきた。
 でも、判ったことは、自分の矮小さだけだった。
 最初からわかっていた、自分の矮小さ。
 あの日、あの雨の日に玲華が離れた日に知った自分の矮小さ。
 その矮小さから、俺は今も逃れられない。
 ここから逃れるには、きっと自分に自信をつけないといけない。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

処理中です...