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第3章 大切なもの
凛と翔の大切なもの④
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「もちろん、この先もしかしたら芸能活動をやりたいと思うかもしれないけど、その時はその時で考えればいいかなって」
ぎゅっと彼女は俺の手を強く握って。
「翔くんの言葉を借りるなら、”今の私にとってはここでの生活のほうが価値が高い”ってこと」
それは、ここで出会った日に俺が彼女に言った言葉だった。彼女は俺のその言葉によって、自分の進退を決めた。
その言葉がこうして自分のために使われる日がくるなんて思っていなくて、胸にぐっとくる。
星空が少し滲んでいる気がするが、きっと気のせいだ。
「じゃあ、なんで今回の撮影に参加したの?」
気になったので訊いてみた。その毎日が大切なのであれば、彼女にとって映画は不要なはずだと思えたからだ。
「犬飼監督の映画はやっぱり私の目標の1つだったからっていうのもあるけど⋯⋯一番の理由は、玲華に負けたくなかったから、かな。負けたくないっていうより、玲華から逃げたくなかった」
それが一番大きな理由だと思う、と彼女は付け足して、何かを決意するように、続けた。
「このまま玲華に怯え続けて生きて行くなんて⋯⋯もう嫌だから」
風が吹き抜けて、木の葉が揺れた。
凛は俺の手を握ったまま身を起こして、俺に覆いかぶさった。
そのまま俺を覗き込んでくる。
凛の両手は俺の顔を挟むように突い立てられていて、真正面に凛の顔が見えた。
月が明るいせいか、彼女の表情がよく見えた。
じっと、瞳の奥まで彼女に見透かされそうで、少し怖い。
ただ、彼女の視線から目を背けることは、彼女に対して後ろめたさを感じていることを示す気がした。
彼女の瞳をじっと見返す。
月明かりで見える彼女の表情は⋯少しどこか迷っているようで、怯えているようだった。
そのまま、無言で俺達は見つめ合っていた。
それから彼女が意を決したように、小さな声で訊いてきた。
「ねえ⋯⋯」
「うん?」
「ほんとに⋯⋯昨日、玲華と何もしてない⋯⋯?」
震えている瞳。
気になっていて仕方なかったけども、それでも聞いてはいけないのではないか、それはパンドラの箱なのではないか⋯⋯そんな恐怖を感じている表情。
やっぱり、気にしてないなんてことはないよな。
逆の立場なら、俺だって気になる。気になって気が狂いそうになっているだろう。いや、もしかすると⋯⋯凛もそうだったのかもしれない。
「何もしてないよ。課題を手伝っただけ」
玲華の言葉を信じて。
凛を傷つけたくなくて、そう答えた。
「ほんとに?」
「ああ」
「信じていい?」
「もちろん」
「じゃあ⋯⋯信じる」
彼女は安堵したように、少し微笑んだ。
「翔くん」
「うん?」
「好き⋯⋯」
そう囁いて、彼女は俺の唇と自分のそれを重ねた。
1回で止まらず、2回、3回と⋯何度も何度も、何度も重ねた。
こんなに凛が積極的になったことは過去になかった。
まるで彼女がこれまで感じていた不安を払拭するかのように、何度も同じことを繰り返す。
彼女の垂れてきた髪がくすぐったい。
それでも、凛はお構い無しにその口づけを続けた。俺の肩を掴んで、より強く自分に引きつけてくる。
長く口付けを繰り返しているうちに、どちらともなく、舌が絡み合った。
脳がとろけそうな幸福感と安心感、そして渇望感に襲われた。
風の音が止んで、唾液の交わる音と、彼女の口から漏れる色っぽい嗚咽だけが聞こえた。
侵入してきた彼女の舌に吸いついて⋯⋯俺の口の中に取り残されたその舌を、蹂躙し尽くす。彼女は苦しそうに声を漏らしながらも、必死にそれに応えてくれた。
彼女は自らの舌が解放されると、今度は同じことをやり返してきた。でも、彼女の舌はとても繊細で優しくて⋯⋯ただただ彼女の口の中で優しく舌同士が絡み合っているだけだった。
それが愛しくて、渇望感を我慢できなくて、彼女を抱き寄せ、もっと彼女の口の中を侵食していく。何も考えず、本能で相手を求め続けた。
続けている最中に、脳の中で何かが弾けたように、ふわふわとした光が生じて、同時に幸福感に満たされた。心にできてしまっていた隙間を、全て凛が埋めてくれているような気さえした。暖かくて、優しかった。感じていた恐怖や不安が、どんどん消えていくように感じた。
それでも、何度も何度も、繰り返した。どちらもやめようとしない。きっと俺達は、この瞬間が永遠に続くことを願っていたのだと思う。
それだけ、幸せだったのだ。心の隙間を埋めてもらえる事の幸せを、この時初めて知った。
凛が教えてくれたのだ。
ぎゅっと彼女は俺の手を強く握って。
「翔くんの言葉を借りるなら、”今の私にとってはここでの生活のほうが価値が高い”ってこと」
それは、ここで出会った日に俺が彼女に言った言葉だった。彼女は俺のその言葉によって、自分の進退を決めた。
その言葉がこうして自分のために使われる日がくるなんて思っていなくて、胸にぐっとくる。
星空が少し滲んでいる気がするが、きっと気のせいだ。
「じゃあ、なんで今回の撮影に参加したの?」
気になったので訊いてみた。その毎日が大切なのであれば、彼女にとって映画は不要なはずだと思えたからだ。
「犬飼監督の映画はやっぱり私の目標の1つだったからっていうのもあるけど⋯⋯一番の理由は、玲華に負けたくなかったから、かな。負けたくないっていうより、玲華から逃げたくなかった」
それが一番大きな理由だと思う、と彼女は付け足して、何かを決意するように、続けた。
「このまま玲華に怯え続けて生きて行くなんて⋯⋯もう嫌だから」
風が吹き抜けて、木の葉が揺れた。
凛は俺の手を握ったまま身を起こして、俺に覆いかぶさった。
そのまま俺を覗き込んでくる。
凛の両手は俺の顔を挟むように突い立てられていて、真正面に凛の顔が見えた。
月が明るいせいか、彼女の表情がよく見えた。
じっと、瞳の奥まで彼女に見透かされそうで、少し怖い。
ただ、彼女の視線から目を背けることは、彼女に対して後ろめたさを感じていることを示す気がした。
彼女の瞳をじっと見返す。
月明かりで見える彼女の表情は⋯少しどこか迷っているようで、怯えているようだった。
そのまま、無言で俺達は見つめ合っていた。
それから彼女が意を決したように、小さな声で訊いてきた。
「ねえ⋯⋯」
「うん?」
「ほんとに⋯⋯昨日、玲華と何もしてない⋯⋯?」
震えている瞳。
気になっていて仕方なかったけども、それでも聞いてはいけないのではないか、それはパンドラの箱なのではないか⋯⋯そんな恐怖を感じている表情。
やっぱり、気にしてないなんてことはないよな。
逆の立場なら、俺だって気になる。気になって気が狂いそうになっているだろう。いや、もしかすると⋯⋯凛もそうだったのかもしれない。
「何もしてないよ。課題を手伝っただけ」
玲華の言葉を信じて。
凛を傷つけたくなくて、そう答えた。
「ほんとに?」
「ああ」
「信じていい?」
「もちろん」
「じゃあ⋯⋯信じる」
彼女は安堵したように、少し微笑んだ。
「翔くん」
「うん?」
「好き⋯⋯」
そう囁いて、彼女は俺の唇と自分のそれを重ねた。
1回で止まらず、2回、3回と⋯何度も何度も、何度も重ねた。
こんなに凛が積極的になったことは過去になかった。
まるで彼女がこれまで感じていた不安を払拭するかのように、何度も同じことを繰り返す。
彼女の垂れてきた髪がくすぐったい。
それでも、凛はお構い無しにその口づけを続けた。俺の肩を掴んで、より強く自分に引きつけてくる。
長く口付けを繰り返しているうちに、どちらともなく、舌が絡み合った。
脳がとろけそうな幸福感と安心感、そして渇望感に襲われた。
風の音が止んで、唾液の交わる音と、彼女の口から漏れる色っぽい嗚咽だけが聞こえた。
侵入してきた彼女の舌に吸いついて⋯⋯俺の口の中に取り残されたその舌を、蹂躙し尽くす。彼女は苦しそうに声を漏らしながらも、必死にそれに応えてくれた。
彼女は自らの舌が解放されると、今度は同じことをやり返してきた。でも、彼女の舌はとても繊細で優しくて⋯⋯ただただ彼女の口の中で優しく舌同士が絡み合っているだけだった。
それが愛しくて、渇望感を我慢できなくて、彼女を抱き寄せ、もっと彼女の口の中を侵食していく。何も考えず、本能で相手を求め続けた。
続けている最中に、脳の中で何かが弾けたように、ふわふわとした光が生じて、同時に幸福感に満たされた。心にできてしまっていた隙間を、全て凛が埋めてくれているような気さえした。暖かくて、優しかった。感じていた恐怖や不安が、どんどん消えていくように感じた。
それでも、何度も何度も、繰り返した。どちらもやめようとしない。きっと俺達は、この瞬間が永遠に続くことを願っていたのだと思う。
それだけ、幸せだったのだ。心の隙間を埋めてもらえる事の幸せを、この時初めて知った。
凛が教えてくれたのだ。
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