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第2章 久瀬玲華

宣戦布告④

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「REIKAちゃん、困りますよ! これが事務所にバレたら⋯」
「うるさい。ちゃんと映画の宣伝したから良いでしょ」

「宣伝って⋯⋯まだクランクインしたばかりで公開日も決まってないのに⋯⋯」

 小言を言われて玲華のご機嫌はすごく悪そうだ。そのまま玲華はツカツカと俺たちの前まで来た。

「り、RINちゃんもごめんね。ほんとにごめん。僕が目を離したせいで」

 田中が凛に気づいて、平謝りする。マネージャーの目を盗んでここまできたということか。

「ねえ、リン」

 玲華は田中を無視して凛に向かって話しかける。そのとき、ちらっとだけ俺のほうを見た。

「私、まだ諦めてないから」
「な、何を──」
「わかってるくせに」

 凛はそこで言葉を失う。

「別に逃げてもいいよ。これまでみたいに」

 玲華は追い打ちをかけるようにそれだけいうと、凛の横をすり抜けていく。田中も慌ててREIKAについていった。
 凛は何も返さない。何も話さない。
 今の玲華の発言を聞き取っていた周囲の連中は、「REIKAはRINに戻ってきてほしいんじゃね?」「2人昔中よかったていうしね」などと、勝手に解釈しているが、それは真意ではない。
 きっと、俺と凛にしかわからないこと。

(俺のこと、か⋯⋯)

 昨日の朝のことを思い浮かべれば、間違いない。きっと凛も察したにちがいない。

「⋯⋯凛、とりあえず、行こ」

 喧騒の鳴り止まない中庭から、とりあえず凛を引っ張って、なるべく人が少ない場所を探す。とにかく騒ぎから遠ざかる。とりあえず、人が誰もいないであろう体育館裏に行った。

「ほんとに、全然逃がしてくれないね、玲華は⋯⋯」

 少し冗談めかして凛は言ったが、表情は憔悴しきっていた。
 ───逃亡者同盟。俺たちは玲華からの逃亡者。それでも、玲華は追いかけてくる。

「もし、さ。もし、あのままコンテストが継続されてたら、翔くんはどっちに入れてた⋯⋯?」

 弱々しく訊いてくる。

「凛に決まってるだろ」

 そう言ったものの。
 ほんとうにその場になったらどうしていたかわからない。
 というか、2人にそんな事をさせたくなかった。
 いや、そもそも俺は何故あの時、凛を連れ去ろうと思ったのだろう?
 凛に傷付いてほしくないというのも勿論あったが⋯⋯もし、その場になってどちらかを選ぶ事になった場合、俺には選ぶ勇気がなかったからなのではないだろうか。
 わからない。

(どうしようもない奴だな、俺は)

 この逃げ癖、そろそろどうにかしないと、どうにもならなくなる。
 だからといって、俺にどうしろっていうんだ。
 ほんとに勝手だ⋯⋯俺が悪いのはわかってる。
 だけど、それでも⋯⋯。
 俺のことも⋯⋯少しは考えてくれ。
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