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第2章 久瀬玲華
『お願い⋯⋯助けて』
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学祭2日目は、特に問題も生じず、滞りなく終わった。凛も接客中は普通通りだった。
ただ、凛とは話もしてなかったし、連絡も取っていない。なんとなく、連絡を取りにくかった。
打ち上げの時に話そうかとも思っていたが、凛は打ち上げに参加しなかった。具合が良くないから先に帰る、とだけクラスメイトに伝えて、終わった後にすぐに帰ってしまった。
俺もその日はすぐに帰った。
凛がいないのであれば、打ち上げの意味がない。
もともとは、凛を楽しませるためだったのに。普通の学祭を楽しみたいっていう、ほんの小さな希望だったのに。
それすらも、叶えてやれなかった。
ごろりと寝転がって、時計を見る。
日曜日だっていうのに、何もやることがない。
本当は凛と遊びに行きたかった。久しぶりにどこかデートでもして、気晴らししたかった。でも、今の状態では誘うに誘えない。
(俺のミスだよな)
俺が翌日に学園祭だと口を滑らせなければ、玲華は来なかった。
いや、そもそも2日連続で会ってしまったのが原因だ。どちらも不可抗力だとは言っても、もっとやり方はあったはずだった。
(もう会わない)
絶対に。
会っても無視してやる。
終わってるんだよ。俺達は。あの日のバス停を最後に。
何を今更、諦めないだとか言ってるんだ。
もう終わってる。あの日に。君から言ったんだ。だから、俺はこんな田舎町にいる。惰性で生きている。君から逃げるために。
『今だから言うけど、君のことが本当に好きだったよ。自分でもバカだって思うくらい尽くしたし、君の為なら何でもできた。でも、君は私と居るとどんどんダメになった⋯⋯私はそれに耐えれなかった』
勝手に玲華の言葉が蘇ってくる。
考えるなと念じても、勝手に脳内で再生されてしまう。
『だから⋯⋯別れたのに。別れたくなんて無かったけど⋯⋯ショーに立ち直って欲しかったから。なのに⋯⋯これじゃ、私だけがバカみたいじゃん⋯⋯』
終わってると思ってたのに。
『私の好きだった人を奪えて満足? 私のこんな顔見れて、満足⋯⋯?』
あんな顔されたら。
『こんなに甘いなら⋯⋯ブラックも悪くないかもね』
終わったと思えないじゃないか。
バカ野郎。
バカ野郎。
⋯⋯バカ野郎。
手に持っていた携帯電話を投げ捨てようかと思った時。
いきなり携帯電話が鳴った。
慌てて落としそうになった。
電話に出ずに番号だけ見ると、登録されていない番号だった。
それでも、見覚えがある。
ここ数日で2回かかってきた番号だ。
(くそ、玲華のやつ⋯⋯)
なんでよりによってお前のことを思い出したときにかけてくるんだ。
なんで凛じゃなくてお前なんだ。
(絶対に出てやるか)
携帯電話をベッドの上に投げ捨てて、放置する。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯しかし。
電話が鳴りやまない。
いつまでたってもコールが続く。
2分くらい放置したが、まだなる。
一度切れたかと思うと、すぐにまたかけなおしてくる。
くっそ⋯⋯!
耐えきれなくなって、電話の通話ボタンを押す。
「お前、いい加減にしろよ! なんでかけてくんだよ!」
『⋯⋯⋯⋯⋯⋯』
電話口からは何も聞こえてこない。
「⋯⋯⋯⋯? 玲華?」
怒っているのか、びっくりさせようと思ってるのか?
「おい、なんだよ。切るぞ」
イライラが収まって、逆に不安な気持ちになってくる。
『⋯⋯ショー』
本当に切ろうか迷った時、電話口からすごく弱々しい声が聞こえた。
『⋯⋯助けて』
「⋯⋯え? おい、どうしたんだよ」
まさか誘拐されたとか?
いや、マネージャーやスタッフもいるし、そんなことはないだろう。そう思いつつも、不安になってくる。
こんなに弱々しい玲華の声を聞いた事がなかったからだ。
『お願い⋯⋯助けて』
ただ事じゃない。きっと何かあったのだ。
「おい、場所どこだよ」
そこでぶつっと電話が切れた。かけなおそうと思ったが、代わりにショートメールで住所だけ送られてきた。
(⋯⋯アパート?)
ここからそれほど遠くはない。自転車で飛ばせば20分かかるかどうかだ。
それよりも、気になったのは住所だ。彼女から送られてきた住所は、全国展開しているマンスリーのアパートだったのだ。よくCMでもやっているから、だれでも知っている。
(警察は呼ぶか?)
事件かどうかまでわからない。
状況が全くわからないので、公的な機関を頼るわけにもいかないだろう。
それよりも、もし本当に時間の猶予がないのであれば、警察が動くまで待ってられない。
幸い、まだ昼間だ。もし何かあっても、大声を上げればきっと近所の人が通報してくれる。田舎とは、こういったときに強いのだ。
まずは、安否を調べないと。
とりあえず俺は慌てて自転車に乗り、メールに記載された住所に向かった。
ただ、凛とは話もしてなかったし、連絡も取っていない。なんとなく、連絡を取りにくかった。
打ち上げの時に話そうかとも思っていたが、凛は打ち上げに参加しなかった。具合が良くないから先に帰る、とだけクラスメイトに伝えて、終わった後にすぐに帰ってしまった。
俺もその日はすぐに帰った。
凛がいないのであれば、打ち上げの意味がない。
もともとは、凛を楽しませるためだったのに。普通の学祭を楽しみたいっていう、ほんの小さな希望だったのに。
それすらも、叶えてやれなかった。
ごろりと寝転がって、時計を見る。
日曜日だっていうのに、何もやることがない。
本当は凛と遊びに行きたかった。久しぶりにどこかデートでもして、気晴らししたかった。でも、今の状態では誘うに誘えない。
(俺のミスだよな)
俺が翌日に学園祭だと口を滑らせなければ、玲華は来なかった。
いや、そもそも2日連続で会ってしまったのが原因だ。どちらも不可抗力だとは言っても、もっとやり方はあったはずだった。
(もう会わない)
絶対に。
会っても無視してやる。
終わってるんだよ。俺達は。あの日のバス停を最後に。
何を今更、諦めないだとか言ってるんだ。
もう終わってる。あの日に。君から言ったんだ。だから、俺はこんな田舎町にいる。惰性で生きている。君から逃げるために。
『今だから言うけど、君のことが本当に好きだったよ。自分でもバカだって思うくらい尽くしたし、君の為なら何でもできた。でも、君は私と居るとどんどんダメになった⋯⋯私はそれに耐えれなかった』
勝手に玲華の言葉が蘇ってくる。
考えるなと念じても、勝手に脳内で再生されてしまう。
『だから⋯⋯別れたのに。別れたくなんて無かったけど⋯⋯ショーに立ち直って欲しかったから。なのに⋯⋯これじゃ、私だけがバカみたいじゃん⋯⋯』
終わってると思ってたのに。
『私の好きだった人を奪えて満足? 私のこんな顔見れて、満足⋯⋯?』
あんな顔されたら。
『こんなに甘いなら⋯⋯ブラックも悪くないかもね』
終わったと思えないじゃないか。
バカ野郎。
バカ野郎。
⋯⋯バカ野郎。
手に持っていた携帯電話を投げ捨てようかと思った時。
いきなり携帯電話が鳴った。
慌てて落としそうになった。
電話に出ずに番号だけ見ると、登録されていない番号だった。
それでも、見覚えがある。
ここ数日で2回かかってきた番号だ。
(くそ、玲華のやつ⋯⋯)
なんでよりによってお前のことを思い出したときにかけてくるんだ。
なんで凛じゃなくてお前なんだ。
(絶対に出てやるか)
携帯電話をベッドの上に投げ捨てて、放置する。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯しかし。
電話が鳴りやまない。
いつまでたってもコールが続く。
2分くらい放置したが、まだなる。
一度切れたかと思うと、すぐにまたかけなおしてくる。
くっそ⋯⋯!
耐えきれなくなって、電話の通話ボタンを押す。
「お前、いい加減にしろよ! なんでかけてくんだよ!」
『⋯⋯⋯⋯⋯⋯』
電話口からは何も聞こえてこない。
「⋯⋯⋯⋯? 玲華?」
怒っているのか、びっくりさせようと思ってるのか?
「おい、なんだよ。切るぞ」
イライラが収まって、逆に不安な気持ちになってくる。
『⋯⋯ショー』
本当に切ろうか迷った時、電話口からすごく弱々しい声が聞こえた。
『⋯⋯助けて』
「⋯⋯え? おい、どうしたんだよ」
まさか誘拐されたとか?
いや、マネージャーやスタッフもいるし、そんなことはないだろう。そう思いつつも、不安になってくる。
こんなに弱々しい玲華の声を聞いた事がなかったからだ。
『お願い⋯⋯助けて』
ただ事じゃない。きっと何かあったのだ。
「おい、場所どこだよ」
そこでぶつっと電話が切れた。かけなおそうと思ったが、代わりにショートメールで住所だけ送られてきた。
(⋯⋯アパート?)
ここからそれほど遠くはない。自転車で飛ばせば20分かかるかどうかだ。
それよりも、気になったのは住所だ。彼女から送られてきた住所は、全国展開しているマンスリーのアパートだったのだ。よくCMでもやっているから、だれでも知っている。
(警察は呼ぶか?)
事件かどうかまでわからない。
状況が全くわからないので、公的な機関を頼るわけにもいかないだろう。
それよりも、もし本当に時間の猶予がないのであれば、警察が動くまで待ってられない。
幸い、まだ昼間だ。もし何かあっても、大声を上げればきっと近所の人が通報してくれる。田舎とは、こういったときに強いのだ。
まずは、安否を調べないと。
とりあえず俺は慌てて自転車に乗り、メールに記載された住所に向かった。
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