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第2章 久瀬玲華

宣戦布告③

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「ね? RIN?」

 玲華は凛を名指しして、俺達がいるこちら側にマイクを向けた。そのマイクはまるで銃口のようで、凛を真正面から貫いていた。
 それはまさしく、プロレスのようなパフォーマンスだった。会場はさらに白熱し、今度はRINコールが起こる。

(もしかして⋯⋯)

 これが狙いか。これをやるためにここに来て、わざわざ登壇したのか。他に候補者がいないことを確認していて。凛にこうして喧嘩を売るための伏線だったのか。

「昔はよく雑誌の企画で2人で競い合ったし⋯⋯また競ってみない? あなたの〝 今の〟ホームで」

 玲華の挑発は続く。
 凛は顔を真っ青にしていて、動けないでいた。
 当たり前だ。こんな状況、どう考えてももうどうしようもない。
 俺だってどうしていいのかわからない。

(これはあんまりだろう⋯⋯玲華)

 そんなに凛が許せないのか。
 あの時、あのバス停であれだけ罵倒したのに、まだ凛を許せないのか。凛が得られなかったものを全部得て、それでもまだ不満なのか。
 玲華に怒りすら感じた。こんなやり方間違っている。いくら凛が憎いにしたって、あんまりだ。ただ凛のメンツを⋯⋯顔を潰したいだけじゃないか。
 その時、凛が前に一歩踏み出したので、慌てて俺は凛の腕を掴んだ。

「バカ、こんな挑発に乗るな!」
「だって⋯⋯ここで逃げたら、私⋯⋯ッ」

 小さく、こちらを見ないでつぶやいて、俺の腕を払う。

『ここにも居れなくなる』

 きっと彼女はこう言いたかったのだろう。
 それもまた、間違いなかった。プロレスムードと化してるこの場を白けさせるようなことは一番嫌われる。ここで凛が逃げようものなら、それこそ敗北者として映る。
 彼女は逃げられない。だから、卑怯なのだ。
 凛は意を決したようにステージに向かう。それはまるで、無理矢理コロシアムに向かわさせられる剣闘士のようにも見えた。

(くっそ⋯⋯止められないのかよ)

 今の状況で仮に人気投票をしたところで、REIKAには勝てないだろう。もうその空気が出来上がってしまっている。かといって、逃げてもダメ。どちらに転んでも凛は恥をかく。
 もう無理矢理止めるしかない。でも、どうやって?
 かくなる上は、無理矢理凛を俺が引っ張ってどこかに連れて行くしかないか? ただ、それで本当に凛の名誉は守られるのか? 俺が嫌われる分にはいい。ただ、これまで凛がこの新しい場所で築いてきたものだけは壊させたくなかった。
 はっきり言って、博打だ。場がシラケた原因が俺と認識され、俺が嫌われる方に賭けるしかない。これで凛の名誉に傷が付いてしまったら⋯⋯そう思うと、足が竦む。だが、今このまま彼女が赤っ恥をかくよりは、幾分マシだろう。
 俺は大きく息を吐いて、ステージに向かう凛に追いつこうと、歩を進めた。 
 凛の腕を掴もうとしたその時、ステージに駆け寄るスーツ姿の男が見えた。
 玲華もステージ上からその人物を見たのだろう。『あちゃー』という顔をしていた。

「なぁにをやってるんですかぁ!!」

 スーツの男がREIKAに向かって怒鳴った。どこかで聞いたことがある声・見た事のある風貌だと思ったら、凛の元マネージャーの田中だった。そういえば田中は凛のあとはREIKAの担当になると言っていた。
 田中はそのままズカズカとステージまで上がって、玲華に詰め寄る。

「ごめん、マネージャーにバレちゃったからナシ。帰る! またねー♪」

 先に自分から話してマイクを司会者に渡すて、そそくさとステージを降りる。
 田中だけステージに取り残されるが、とりあえず深々と頭を下げた。しかし、ブーイングである。
 田中はブーイングから逃げるようにステージに降りると、玲華を追いかける。
 玲華が歩くところは、まるでモーセを前にした海のように、道が開けている。ステージ上の愛想の良さはもうない。不機嫌さが全開で、誰も話しかけようともしなかった。
 こうなった玲華が面倒なのを俺はよく知っている。
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