想い出と君の狭間で

九条蓮@㊗再重版㊗書籍発売中

文字の大きさ
73 / 192
第2章 久瀬玲華

玲華④

しおりを挟む
「……まあ、ショーに関しては、気付いてたけどね」

 困った様に笑って、うっすらと涙が滲む。

「今だから言うけど、君のことが本当に好きだったよ。自分でもバカだって思うくらい尽くしたし、君の為なら何でもできた。でも、君は私と居るとどんどんダメになった……私はそれに耐えれなかった。私じゃどうしようもなかったから……」

 高校入学までの春休みや、ゴールデンウイーク、週末、別れるまでの間……玲華は毎回俺の為に時間を作ってくれた。
 生きる気力も活力もなくしてしまった俺の為に勉強を教えに来たり、遊びに誘いに来たり。こんな風にツンツンとした言葉遣いだけど愛情を注いでくれた。

(知ってた……)

 玲華がどれだけ努力してくれていたか、俺は知っていた。
 そして俺はいつも彼女を傷つけていた。
 玲華は俺が求めたならいくらでも応えてくれたから。
 最初は、ゴールデンウイークだった。
 玲華は家族の居ない日に俺を自分の部屋に招き、彼女の“初めて”を捧げてくれた。
 単純に、俺を喜ばせようとしての事だった。もしかしたら、玲華からすれば万策が尽きた最後の手段だったのかもしれない。ただ、俺は幸せや愛情よりも、ほかの悦びを見つけてしまった。
 それは、征服欲だった。
 自分がどれだけ適わなかった女が、努力しても届かなかった女が、高潔で誰も寄せ付けなかった女が、自分の下で喘ぎ苦しみながら涙目になって自分に縋っている。自分を求めてくれている。
 その光景が当時の俺にとって唯一の救いで、甘い時間だった。そして……何よりも惨めさを痛感させてくれた。
 彼女を傷つける事で喜んでいる自分が居た。自己嫌悪というレベルではなかった。自分が好きだと言った女を、俺は慰みものにしていたのだ。
 それに気付いた日から、彼女を求められなくなった。別れたのはそれからすぐ後だった。

「だから……別れたのに。別れたくなんて無かったけど……ショーに立ち直って欲しかったから。なのに……これじゃ、私だけバカみたいじゃん……」

 玲華が、初めて見せた悔しそうな顔。涙を溜めて、堪えている表情。笑おうとして失敗して、端正な顔が崩れている。
 玲華のこんな顔は初めて見た。彼女でもこんな顔をすることがあるのかと……。
 玲華は凛を見つめた。

「ねえ、リン……満足?」

 玲華は弱々しく言った

「えっ……?」
「私の好きだった人、奪えて満足? 私のこんな顔見れて、満足……?」

 泣いた様に笑って、玲華は凛に言った。
 凛は何も言わず、下を向いて玲華から視線を逸らした。

「リン……あなた、ズルい」

 玲華はそう言い、顔を伏せて俺達に背を向けた。
 ふわりと彼女の柑橘系の香水が香る。
 俺は何も言えず、引き留める事も出来ず、ただ押し黙っていた。

 結局凛の家にいくのはやめにした。とてもそんな気分にならなかったからだ。
 用事ができたのでいけない旨を凛が親に連絡し、そのままホテルへと戻った。
 帰りのバスの道中で再確認したが、玲華の家の最寄りのバス停は、やはり今降りたバス停より二駅ほど離れていた。
 そして、そのバス停は、玲華が俺に別れを告げたバス停だ。
 もしかしたら……
 これは完全な俺の一人よがりな想像ではあるが……
 玲華は俺を振ったあの時から、あのバス停を使っていないのかも知
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

八年間の恋を捨てて結婚します

abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。 無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。 そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。 彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。 八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。 なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。 正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。 「今度はそうやって気を引くつもりか!?」

処理中です...