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005 十三の部屋
しおりを挟む自室を挟んで右に六部屋、左に六部屋。
この廊下には計十三の部屋があることはわかったものの、探索は進んでいない。
理由はすべての扉に鍵がかかっているか、もしくはドアノブが見当たらなかったから。
しかもどれも頑丈にてビクともしない。
そのうち郵便受けがあったのは二か所。
が、一か所は例の白い少女の腕があるところにて、もう一か所は廊下を左に進んだ先、一番端の角部屋であったが、中は暗くて何も見えなかった。
手持ちのマッチを使って確認するかを悩むも、ヤメた。
マッチはあれで独特の異臭を放つ。あの影法師にニオイがわかるかどうかは怪しいところだが、危険は賭けに出るにはまだ早いとボクは判断した。
それから最悪なことが他にも判明している。
廊下の突き当り、どちらに進んでも大扉となっており、そこにもしっかり鍵がかかっていたのである。
つまり、ボクがこの廊下から抜け出すには、どうにかしてあの影法師をだし抜く必要があるということ。
「ならば戦って勝てばいい?」
「どうやって? 武器も何もないというのに」
ボクはぶつぶつ自問自答をくり返す。
だがずっとこんな調子で堂々巡り。
自分の身体には何か格闘技や運動をやっていた形跡はない。
中肉中背の、ごく普通の男。いや、つまらない見栄を張った。せいぜい贔屓目にみて、中の下といったところだろう。
よしんば武器と体力があったところで、あんなバケモノを相手にして勝てるとはとても思えない。
金棒の一発でぐしゃぐしゃにされて終わりだ。
「いっそのこと、あいつの前に飛び出して死んだら楽になれるのかな。ひょっとしたら、ここから解放されるのかも……」
ときおり涙がにじんでは、そんなことをつぶやいているときがある。
でも、そんな考えは影法師が金棒をひきずる音を耳にしたら、すぐにどこぞへと消し飛んでしまう。
ごちゃごちゃと余計なことを考えていられない。
たちまち頭が恐怖一色に染められてしまうからだ。
◇
ボクは棚から手に入れた黒革の手帳に、ガラスペンにてわかったことをつぶさに記録する。
インクはないので、かわりに自分の血を使う。
ガラスペンの切っ先を腕に刺すと、ねじられた形状のペンの表面にある細かい溝が血を吸いあげるので、文字が書ける。もっとも気をつけないと血はすぐに凝固してしまうので、注意が必要だけれども。
書くことで頭の中が整理され、気持ちもずいぶんと落ちつく。
冷静になったところでボクがひっかかったのは、あの白い腕のこと。
「あれは何なんだろう? 見た目は完全に腕のようだったけど。そもそも本当に人の腕なのか?」
この近辺で動いているのは、ボクと影法師と白い腕のみ。
その関係性は、見まわる者と潜む者。
見まわっているのは影法師。あんな物騒な金棒を持って徘徊していることからして、発見されたら、きっとただではすまないだろう。
問題は白い腕だ。
あれもまた部屋に閉じ込められた状態だと言えなくもない。
つまりは、ボクと同じような立場であるということ……。
◇
ボクはいま右二軒隣りの部屋の前へと来ている。
鉄の扉はかわらず閉じられたまま。
あの白い腕についてずっと考えていた。
はじめて見たときみたいに、ドンドン騒いでいたら、ボクの耳に届かないわけがない。そして影法師にも。
そのことから推察されるのは、あの白い腕もふだんは静かにしているということ。
たんに動かないだけか、それともボクと同じで影法師から隠れ潜んでいるのか。
ボクはこの場所にきて、はじめて賭けにでる。
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