乙女フラッグ!

月芝

文字の大きさ
32 / 72

031 はじまりの鐘が鳴る

しおりを挟む
 
 いざ、清掃ボランティア開始。
 一同散開、各グループごとに割り振られた場所へ向かっては、ゴミ拾いに掃き掃除、あとは雑草をひたすらブチブチ抜く。
 墓地という場所柄もあって粛々と作業を続けること三十分ほど、早くも持参したゴミ袋がパンパンになってしまった。
 すると麻衣子が「あっ、だったら私が新しいのを先生にいって貰ってくるよ」と率先して動く。
 美少年にデレている麻衣子は、ここで気の利くいいお姉さんぶりをアピール。
 そんな友人に千里はちょっと呆れ顔である。
 が、当の美少年――悠人は、麻衣子がいなくなって千里とふたりきりになったとたんに、豹変した。

「あー、かったりい。オレ、こういうの大っ嫌いなんだよねえ。ボランティア? はんっ、そんなのていのいい労力と時間の搾取だっつーの。センリもそうおもわねえ?」

 言葉遣いはラフ、態度はやさぐれ雰囲気もガラリと変わる。挙句の果てには、出会ってすぐの年上の異性をファーストネームで呼び捨て!
 なんとなくネコをかぶっているような気はしていたが、よもやここまでとは……
 千里は面喰らう。

「……にしても万丈さんから話は聞いてたけど、ずいぶんとトロそうな姉ちゃんだなぁ。こんなんで本当に旗役なんて務まるのかねえ」

 ズケズケと遠慮のない悠人、あまりの言い草にさすがの千里もムカっとする。

「ちょっとアンタ! いくらなんでも態度が変わり過ぎ……って、あれ? いまたしか旗役って言ったよね。えっ、ウソ、それってまさか……」
「おっ、ようやく気がついたかマヌケめ、そのまさかだよ。あらためましてだな、夕凪組の伊吹悠人だ。まぁ、あんまりオレの好みじゃねえがしょうがねえから、よろしくしてやんよ、せいぜい感謝しな」

 超上から目線! とんでも自己紹介に千里はあんぐり。
 ぶっきらぼうな粟田一期、トロピカルなおっさんの平万丈、イケメンなオネエの瑞希蓮。
 続く四人目のチームメイトは、俺様なガキンチョ!
 みんなビジュアルはいいのに、中身が微妙に残念にて。
 あとひとりいるはずだが、このぶんでは期待はできないかもしれない。
 比べて相手チームは猛者揃いときたもんだ。
 自分の平穏な学生生活と街の平和がかかっている旗合戦、このままではマズイかもしれない。
 千里が煩悶していると、麻衣子が新しいゴミ袋を手に戻ってきた。
 とたんに悠人はコロリと手の平を返す。

「すみません瀬尾さん。本来なら年下のボクが行かなくちゃいけなかったのに」

 ウルウル上目遣いにて殊勝なことを言う悠人に、麻衣子は「いいの、いいの、気にしないで」とすっかりダマされている。
 なんたるネコかぶり、悠人の変わり身の速さに千里はジト目だ。
 そんな千里に麻衣子が新情報をもたらす。

「チリちゃん、チリちゃん、ビックニュースよ。さっき向こうで小耳に挟んだんだけど、なんと! あの星華嬢が今日来ているんだってさ。
 にしても珍しいよねえ。特進組からの参加なんて、ここしばらくなかったんじゃないかな。やっぱり学院の広報活動の一環かしら」

 チリとは千里の渾名だ。親しい友人らは皆そう呼ぶ。
 センリと呼ぶのは、家族か一期たちぐらいだ。
 それはさておき、星華が清掃ボランティアに参加していると聞いて、千里の心はさざめく。

(あの忙しい彼女がここに来ているっていうの? あ、怪しい)

 星華が用もないのに来るはずがない。
 ということは……
 訝しむ千里、その時ふと悠人と目が合った。
 にゅうと口角をあがったひょうしに八重歯がちらり、美少年の頬にエクボが浮かぶ。
 その顔で千里は遅ればせながら悟る。
 偶然なんかじゃない、すべてがきっと折り込み済み。

 麻衣子の手前もあり、悠人にこっそり確認しようとした千里だが、その時のことであった。

 カランカラン、カランカラン、カランカラン……
  ゴォオォォン、ゴォオォォン、ゴォオォォン……
   カ~ン、カ~ン、カ~ン、カ~ン……
    リーン、リーン、リーン、リーン……
     シャ~ン、シャ~ン、シャ~ン、シャ~ン、シャ~ン……

 静謐を破り一斉に鳴り出したのは、様々な弔鐘ちょうしょうたち。
 いろんな宗教の鐘による合奏が山間部の霊園内に木霊する。

「えっ、な、なんなの?」

 驚きキョロキョロしている千里に悠人が「いちいち狼狽えてんじゃねえよ。ほら、アレが始まるぞ」

 言い終わるなり、空の色がサッと青から茜色へ変わった。
 視界の中で陰の部分が増えて、地面にのびる影が長くなり、急に吹く風が肌寒くなった。
 アッとおもった時には、お墓参りに訪れていた人たちや、麻衣子や他の生徒らの姿が周囲から消えており、残っていたのは千里と悠人だけ。
 千里の左腕にはお馴染みの銀の腕輪が装着されている。

 はじまりの鐘が鳴る。
 大禍刻――旗合戦・第三幕が始まった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治

月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。 なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。 そんな長屋の差配の孫娘お七。 なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。 徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、 「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。 ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。 ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。

古道具屋・伯天堂、千花の細腕繁盛記

月芝
キャラ文芸
明治は文明開化の頃より代を重ねている、由緒正しき古道具屋『伯天堂』 でも店を切り盛りしているのは、女子高生!? 九坂家の末っ子・千花であった。 なにせ家族がちっとも頼りにならない! 祖父、父、母、姉、兄、みんながみんな放浪癖の持ち主にて。 あっちをフラフラ、こっちをフラフラ、風の向くまま気の向くまま。 ようやく帰ってきたとおもったら、じきにまたいなくなっている。 そんな家族を見て育った千花は「こいつらダメだ。私がしっかりしなくちゃ」と 店と家を守る決意をした。 けれどもこの店が……、というか扱っている商材の中に、ときおり珍妙な品が混じっているのが困り物。 類が友を呼ぶのか、はたまた千花の運が悪いのか。 ちょいちょちトラブルに見舞われる伯天堂。 そのたびに奔走する千花だが、じつは彼女と九坂の家にも秘密があって…… 祖先の因果が子孫に祟る? あるいは天恵か? 千花の細腕繁盛記。 いらっしゃいませ、珍品奇品、逸品から掘り出し物まで選り取りみどり。 伯天堂へようこそ。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

ただいまクマの着ぐるみ警報、発令中!

月芝
キャラ文芸
とある地方に、ちょっぴり個性豊かな住人たちが暮らす町があった。 でも近頃、そんな町をにぎわしている変態……もとい怪人がいる。 夜ごと、クマの着ぐるみ姿にて町を徘徊しては、女性に襲いかかり、あろうことか履物の片方だけを奪っていくのだ。 なんたる暴挙! 警戒を強める警察を嘲笑うかのように繰り返される犯行。 その影響はやがて夜の経済にも波及し、ひいては昼の経済にも…… 一見すると無関係のようにみえて、じつは世の中のすべては繋がっているのである。 商店街からは客足が遠のき、夜のお店は閑古鳥が鳴き、関係者の嘆きもひとしお。 なのに役所や警察はちっとも頼りにならない。 このままでは商店街が危うい。 事態を憂い、立ち上がったのは商店街の未来を背負う三人の看板娘たち。 精肉店のマキ、電器屋のシデン、古本屋のヨーコ。 幼馴染み女子高生トリオが、商店街の景気と町の平和の守るために立ち上がった。 怪人に天誅を下すべく夜の巷へと飛び出す乙女たち。 三人娘VS怪人が夜の街でバトルを繰り広げる、ぶっ飛び青春コメディ作品。

処理中です...