乙女フラッグ!

月芝

文字の大きさ
上 下
31 / 72

030 清掃ボランティアの日

しおりを挟む
 
 晴れて欲しい日にかぎって雨が降る。
 降って欲しい日にかぎって、やたらといい天気になる。
 学校行事あるあるだ。
 でもって、本日は残念ながら晴れてしまった。

「あーダルい、雨なら中止だったのに」
「いやはやなんとも、ムカつくぐらいの、どピーカンだねえ」
「本当に……。何が悲しくって、こんないい天気のときに赤の他人のお墓掃除なんてしなくちゃいけないのよ? しかも子守りのオマケつき!」
「だよねえ~、うちの学校もこの手の行事さえなければなぁ」

 千里と麻衣子がブツブツぼやいていたのは、清掃ボランティアについて。
 彼女たちが通う淡墨桜花女学院のある市内には、七曲霊園(ななまがりれいえん)という墓所がある。斎場や火葬場が併設されているのだが、これがまぁ、なんともバカでかい霊園なのであった。
 なにせ総敷地面積が二十六万平方メートルほどもある。十万平方メートルでドーム球場二個分相当なので、いかに巨大なのかがわかるだろう。
 学院といい、伊白塚公園といい、どうやら先人たちはなんでもかんでも「大は小をかねる」と思い込んでいたようなふしがあるのはさておき。
 七曲霊園の真に凄いところは、広大さにあらず。
 いかなる宗教、宗派、埋葬方法などを問わずに、ドンと来い!
 来る者拒まず、すべてを受け入れるふところの深さである。
 火葬、土葬、樹木葬なんぞは当たり前、戦前までは鳥葬やら即身仏まで受け入れていたというのだから驚きだ。ペットも可。
 古今東西のあらゆる宗教が混在するカオス空間、多種多様な墓石に霊廟などが集う墓地のテーマパーク、その筋のマニアによれは「ここは人類の夢、奇跡を実現している尊い場所!」とのことらしいのだけれども……

 では、どうしてそんな七曲霊園にて、うら若き女子高生たちが清掃活動に従事せねばならないのかというと、ここに学院の創始者が眠っている縁であった。
 なにせこの霊園は広い。管理するのもたいへん、見回るだけでもひと苦労だ。
 山間部の土地を利用して造成された墓所は自然に囲まれており、秋の落ち葉の季節ともなればいくら掃いてきりがない。新緑の季節には雑草がぼうぼうになる。サルやイノシシもこんにちわ。
 人手がいくらあっても足りない。けれども予算は限られている。かといって油断すると、あっというまに荒れてしまう。
 それを見かねた何代か前の学院長が「でしたら、うちの生徒たちに手伝いをさせましょう」などと言い出したのが、清掃ボランティアの始まり。
 まったくもって余計なことをしてくれたものである。
 なお、一二年生はがっつり学校行事に組み込まれており強制参加、ただし特進組に所属する生徒は参加自由となっている。
 えっ、そんなに面倒ならば、サボったらいいのでは?
 はははは、甘い。
 しっかり補習として週末にやらされる。
 サボり対策は万全なのだ。

 そんな清掃ボランティアをさらにややこしくするのが、パートナー制度である。
 市内の小学校からの参加者の面倒を、年上のお姉さんたちがみなくてはならないのだ。
 信じられないことに、この活動に協賛している地元の小学校が少なからずいる。
 この制度は首輪であり枷でもある。
 子どもの手前、女子高生たちは本性を隠し、よきお姉さんを演じなければならない。
 また子どもたちも年上の目があることにより、モジモジ従順な良い子になるのだ。
 不思議な相互作用、なぜなのか理由はわからないが、そういうお年頃なのだろう。
 とはいえ、何ごとにも例外はある。
 たまにはねっ返りのきかんぼうも混じっており、うっかりそんな子と組まされたら最悪だ。
 だがしかし……

「ボク、伊吹悠人(いぶきゆうと)といいます。芝生小学校の六年生です。本日はよろしくお願いします、お姉さま方」

 千里と麻衣子のグループに合流した男の子は礼儀正しかった。
 やや照れながらもきちんと挨拶をし、ペコリと頭を下げる仕草がキュンとくる。
 シンプルなマッシュショート、サラサラ茶髪に浮かぶエンジェルリンクが艶々。
 くりくりした愛嬌のある目が、人懐っこいネコを連想させる。ちょっと小柄だけれども、背はこれからだろう。全体の均整がとれており、将来が楽しみな美少年であった。
 そんな美少年から「お姉さま」と呼ばれて、麻衣子はデレデレだ。
 けれども千里は「はい、こちらこそよろしくね」と応じつつも、内心で「おや?」と首を傾げている。
 上目遣いで、こちらを見つめてくる悠人に小さな違和感を覚えたからだ。
 どこがどうというわけではない。けれども妙にあざといというか、打算が薄っすら透けてみえるというか。

(あっ! 誰かに雰囲気が似てるとおもったら、暁闇組のルイユ・クロイスだ)

 物腰柔らかく礼儀正しいが、言動がどこか芝居がかっており、それでいて本心を見せない。一期がもっとも警戒しており、けっして気を許すなと言っている敵チームの男。
 そんな男と目の前の少年の姿がかぶり、千里は「でも、なんで?」と首をひねる。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

無価値な私はいらないでしょう?

火野村志紀
恋愛
いっそのこと、手放してくださった方が楽でした。 だから、私から離れようと思うのです。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

処理中です...