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100 お父さん

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 突如、始まった一方的な暴力劇に静まり返る式典会場。
 ちょっとヤリ過ぎちゃったかなーと思っていたら、出来る女に生まれ変わった新女王が、機転を利かせてくれました。
 みっともなく倒れている山本大樹くんに駆け寄り、優しく抱きしめ、周囲に聞こえるかのように滔々と語ります。

 彼は世界を脅かす大敵を倒すために、一人ダンジョンへと赴いた異世界の勇者。なんとか敵は倒すも、哀れ、その身に呪いを受けて狂戦士化。手にしていた魔剣により操られることに。しかし正義の人たる彼は、強い精神にて昂り猛る心を抑えて、なんとかここまで帰ってきた。そして、いま女神さまの慈悲により、その魂が穢れより解放されたのです。
 ああ、おかえりなさい、勇者さま。そしてご苦労様でした。
 いまは、ただ静かに私の胸でお眠りなさい。

 ヨヨヨと泣き真似をしながら、のびている勇者くんを抱きしめる新女王。
 まさかの即興一人芝居にて山本くんを小道具扱いにして、事態の打開を図りましたよ。なんとなくソレっぽいお話ですが、いくらなんでも適当が過ぎるのでは……、なんて思っていたら、あちらこちらからすすり泣く声が聞こえてきます。もしかして結構な数の人が、あんな与太話を信じちゃったんでしょうか、これは驚愕です。

 そんな私をよそに新女王は部下に命じて、委員長の身柄を幕下へと引きずり込んでしまいました。

「……えーと、アレで良かったのでしょうか?」
「いいんです。ソレに強い勇者ってのは、国のいいシンボルになりますから。しばらく様子見ですが、イケそうなら婿にしてもよろしいかと」

 思わず訊ねた私に、しれっとそう答えた新女王。
 彼女の中では、大冒険を終えて身も心もズタボロになった勇者さまを、献身的に支える慈愛の女王、やがて二人の間には愛が芽生えてハッピーエンド、という筋書きがすでに出来ているそうです。国民受け間違いなしと、自信満々です。スゲーな新女王さま。

「では山本大樹くんの身柄は、そちらにお任せするので、せいぜいこき使ってあげて下さい」

 そう言って私と新女王は固い握手を交わしました。
 すると何を勘違いしたのか、周囲から盛大な拍手が巻き起こりました。
 ちょびっとトラブルが起きましたが、こうしてなんとか大連合の樹立は成りました。
 これより、世界は新たな時代を迎えることでしょう。
 どうか、みなさま頑張って下さい。
 私は再び、塔の上のぐうたら生活に戻ります。



 アルティナの姉御のドラゴンの背に揺られながら、魔族領に帰還している途中に、居眠りをしていたら夢の中に女神さまが現れました。

「ありがとう。これで彼も救われることでしょう」
「……だといいのですが」

 働き蟻の女王の婿が、果たして無事で済むのでしょうか。魂をガリガリ削られるほど働かされ、血尿を垂れ流す彼の絶望色の未来が、ほら、すぐそこに。

「コホン……、それは夫婦の問題なので、私の管轄外です。それよりも花蓮、約束通りに褒美を上げましょう。何が欲しいですか? 必死の魔眼なんてどうでしょう? 魔王もイチコロですよ」

 ゴリマッチョなオジ神様もそうでしたが、どうしてやたらと私にそんな物騒な魔眼を押し付けたがる。何かあるのでしょうか。

「いや、それは遠慮しておきます。能力は充分ですので……、でしたら、ちょっと教えて欲しいことがあるのです」
「能力ではなくて、知識を欲しますか。いいですよ、何が知りたいのですか? 世界の理、魔道の極致、豊胸の秘技、さすがに転移については教えられませんが、転生のやり方とかならいいですよ」
「豊胸の秘技というのにも心惹かれるのですが、とりあえず甲斐性なしという、私の父について、ちょっと知りたいかなぁ、って思っただけです」
「花蓮のお父さんですか、ちょっと待って下さいね。えーと、えーと、おっ! ありました。こちらに資料が……って、嘘!」

 その言葉を最後に女神さまとの通信がプツンと急遽途絶、コレはちょっと酷いと思うのです。
 怒りのあまり目が覚めたら、懐にメモ書きが一枚しのばされてありました。
 そこには走り書きにて、こんな文言が書かれておりました。

『貧乏神、えらい人』

 小首をコテンと傾げます。
 ……これはアレですかね。トイレの神様的な意味での、えらい人とか。ほら、アレって誰もやりたがらない汚れ仕事を率先して引き受けた、偉い神様だって習った記憶があります。貧乏神も、まぁ、嫌われ者ですし、同じようなモノでしょうか。
 なるほど、なるほど、確かにこれはお母さんの言っていた通りで「甲斐性なしだけど、いい人」という表現がピッタリです。あと魔王剣が以前に言っていた、私に神気が云々っていう話もこれで合点がいきます。

 はははは、いやー、私って貧乏神の娘だったのですね。

 お母さん、底抜けに面倒見がいいにもほどがあるでしょうに……、さすがです。

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