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101 とりあえず逃げる女
しおりを挟むこんにちわ。
私こと沢良宜花蓮(さわらぎかれん)は現在、逃亡中です。
大連合の樹立に立ち会った後に、魔王城へと帰還を果たした私を待っていたのは、血も涙もない酷い仕打ちでした。
報告のために執務室にひょっこり顔を出したら、「おぅ、お疲れ、これから大変だろうが、しっかり励めよ。連合総統閣下どの」なんて言うんですよ。
いやいやいや、おかしいですよね。
私はあ・く・ま・で、魔族側の代表として参列しただけのはず……、そう文句を言ったら「会合をするにも議長が必要、そしてソレはお前だ!」ですって。
どうやら私だけが知らなかっただけで、水面下では各国合意にて、そのように話が進行していたようです。
すかさず回れ右をして逃げました。
宰相のブラストさまの制止を振り切り、襟首を掴もうとしたガラシャさまの手を掻い潜り、執務室を飛び出した私。
逃げる途中で工房長に宮原さんへの出産祝いに贈る子守りゴーレムを特注し、食堂にて相も変わらずラブラブなお二人に声をかけ、売店にてカレーパンを大量購入した後に城外へと。
ちょうどそのタイミングで館内放送が流れ、「花蓮を捕まえろ」との指示が飛んでおりましたが、すでに私の身は表に飛び出したところにて、なんとか難を逃れました。
城下町にて人混みに紛れ込んで、追跡してくる魔王様の手の者を撒き、馴染みの商人さんのところで一服しながら愚痴を零し、通りでばったり会ったブルタス先生と魔族の可能性についてカフェで熱く語り合い、更に激しさを増す追跡の手をかわしつつ、逃げ込んだ先の鐘つき塔の天辺から、賑わう街の様子を眺めつつ、ちょっと黄昏ています。
そこへリースさんが顔を出されました。その脇には尻尾を丸めたボスワンの姿が……、彼のその姿が二人の力関係を如実に現していますね。まぁ、蛇神と犬っころでは端から勝負になりませんが。
てっきり魔王様の命により私の身柄を拘束に来られたのかと、警戒したのですがそうではありませんでした。
「私を置いて行くだなんて許しませんよ」だなんて嬉しい言葉を仰るじゃありませんか。もちろんどこまでもご一緒しましょうとも。
とりあえずしばらく雲隠れしたいので、今度はゆっくりと魔族領でも徘徊しようかと相談すると、「だったらウチの実家にご招待します」と誘われました。
蛇神の里ですか、なんだか凄そうですね。これは是非ともお邪魔せねば。そしたら影からにょろんと出てきたセラーさんが「自分のところにも招待します」と言ってくれました。影に潜み闇に生きる女の故郷、なんだか危険な香りがして心躍ります。
助かりました。これで逃亡先がとりあえず二か所、確保です。
え? うちにも来いですって? それは遠慮しておきます。だってフェンリルのところは獣臭が強いでしょうから。百一体も集まるとけっこう凄いんですよ。雨の日とか地獄です。
へこむボスワンを尻目に今後について話し合っていると、いつの間にやら鐘つき塔の周囲を魔王様の手先に囲まれていました。騒ぎを聞きつけて野次馬どもも多数集結中。
「抵抗はやめて大人しく投降しなさい。そしてキリキリ働けー」
そんな心無い説得に動かされるような私ではありません。
鐘をリンゴンと鳴らした後に、盛大にカレーパン祭りを布告して、周囲の野次馬どもに向かって先ほど大量購入したパンを、塔の上からばら撒いてやりました。餌に群がる猛獣どものおかげで現場は大パニックです。その隙に包囲網から華麗に逃げ出してやりました。
シュタタタっと屋根から屋根へと駆ける市松人形。
すぐ後ろからフェンリルに跨ったリースさんがついてきます。
セラーさんは早々に私の影に潜り込みました。彼女ってば何気に楽してますよね。
なおもしつこい追っ手には閃光弾をお見舞いし、逃げるついで設置した地雷原で吹き飛ばします。ですが魔族は頑強なので、へっちゃらで追いかけてきます。
どこまでも逃げる女、掴まって社畜として生きるのか、それとも自由を謳歌するのか、果たして彼女の命運やいかに?
とりあえず逃げる、たまに頑張る、そんな少女のファンタジー。
ひとまずこれまで。
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